【不藤さんは不憫すぎる】

ガネード

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【不藤さんは不憫すぎる】

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【不藤さんは不憫すぎる】

 とある夜。ジムのマシンを使って、黙々と走っていた。わたしの名前は、不藤桃子(ふとう ももこ)。昨日、幼馴染みの雨読正二郎(うどく しょうじろう)君から恋の相談を受けた。わたしは、そこで、正二郎の事が好きかもしれないと、22歳になって気付いた。

 次の日。太腿が痛かった。痛みに耐え、携帯を確認すると、お酒のお誘いがあった。相手は、正二郎の好きな人である。

 その日の夕方。わたしは、元バイト先の居酒屋で、越中羽衣音(えっちゅう はいね)ちゃんを待った。
「お待たせー」
「遅い。って、いつもの事か」
「店員さん、いつもの、ハイネチューハイで!」
ハイネチューハイ、それは、ハイネちゃんが店で披露した美味しいレモン酎ハイが起源である。彼女は、ジムといい、バイトといい、目的を果たせば、直ぐに辞めてしまう強者だ。そして、本題に切り込んで来るハイネちゃん。
「実は、わたし、雨読君の事、好きになってしまったみたいで」
「はぁ?」
能天気に言うハイネちゃんに対して、前のめりな態度のわたし。つまり、二人は、両想いって事?
「もちろん、雨読君は、不藤さんの幼馴染みだし、もしかして、好きなのかなとは思ってるんだけど」
「好きじゃない!とは、思う……」
売り言葉に買い言葉。本心が一番分かっていないのは、わたしだ。
「どうして、正二郎の事が好きになったの?その辺は聞きたい」
「本をね、貸してくれたの。エッセンシャルとか、エフォートレスとか」
「出た!正二郎の好きなビジネス本!」
わたしも、読んだ事はある。正二郎に勧められて。
「でも一番は、カラマーゾフが衝撃的だった」
「あー、悪い方の読書まで勧めたのね。で、コロッとイッちゃった訳ね」
「うん」
気持ちは分かる。正二郎のマジで勧める本は、どれも刺激が最大級だ。人は、それを毒書と呼ぶ。
「分かったわ。正二郎も満更でもない様子だし」
「ホントに?」
「うん。わたしは、二人を応援するよ」
わたしは、嘘を付いた。思う所はあるけれど、わたしは、争う事が嫌いだ。自分から恋の争いに挑むなんて、まっぴらごめんだ。それに、この子は、すぐに飽きる。すぐに飽きて別れる。それまでの辛抱だ。って、辛抱って何?あー、そういう所、悪い癖だよね、わたし自身の。
「やっぱり、なし!」
「え?」
「わたしも正二郎の事、大好きだから」
そう言って、ハイネチューハイを奪って、一気飲みしてやった。美味い、美味すぎる。

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