75 / 76
75
しおりを挟む
魔人化した魔王は僕に猛攻を仕掛ける。
速く、力強い斬撃の前に防戦一方の僕。
どちらも魔人化をすれば、元々強い魔王に分があるのは当然だろう。
「フフフ、魔人化した私の攻撃を防げるとは大したものだ!」
「くっ!」
技を繰り出せるのはあと一発が限界だ。
焦るな! 僕はチャンスを待つ。
押されながらも、しばらく剣の応酬が続く。
しぶとく粘る僕にイラつき始めた魔王の攻撃が荒くなってくる。
「くそ! しぶといな……死ね!」
魔王の大振りの攻撃を繰り出す。
やっと来たチャンス。
今だ!
僕はガラ空きの魔王の顔の前に手を開く。
「む!?」
光魔法
「ぐわぁっ!」
強烈な光が魔王の視界を奪う。
「く、くそぉ!」
今しかない。
閃光にたじろき、距離をとる魔王に詰め寄る。
剣を握る拳に力を込める。
この一撃で決めるしかない。
「うおぉぉ!」
僕は魔王に斬りかかる。
「くそっ! 魔王をなめるなよ!」
視界が回復しないまま、魔王は全身から黒い炎を放出させる。
「うっ!」
熱風に怯み、一瞬剣を振るうのが遅れた。
そのスキを魔王は見逃さなかった。
『ガッ!』
魔王は僕の剣を掴む。
「なに!?」
魔王の魔法だろうか。掴まれた剣はみるみる紫色に変色していく。そして……
『バキッ!』
「そ、そんな……」
「フフフ、残念だったな」
僕の勇者の剣は粉々に砕けていった。
「け、剣が……」
ここまで共に戦ってきた相棒を失い、絶望する僕に魔王は剣を振り下ろす。
「キモオタ! 今度こそ終わりだぁ!」
「くっ」
僕にはもう身を守る剣はない。
しかし、諦めるわけにはいかない。
僕は魔王の剣を避けようと後ろに下がるが……ダメだ。避けきれない……
「くっ……!」
「木本君!」
「え? アスカさん!?」
その瞬間、僕と魔王の間にアスカさんが割って入る。
『グサッ』
「あ、あぁ……」
「うぅ……木本君、大丈夫……か?」
「アスカさん……」
「よかった。無事……だな……」
僕を庇うようにのしかかるアスカさん。
その背中には魔王の剣が刺さり、地面には血溜まりができている。
「アスカさん!」
「ふふ……泣くんじゃない。まだ終わってない……ぞ……」
力なく微笑むアスカさん、僕は涙を流していた。
「まったく……人がプレゼントした剣を……あんなにされて……これを……使え……」
アスカさんは自分の剣をぼくに手渡す。
「頼んだぞ……」
「うう……」
アスカさんの声は弱々しくなっていく。
「お姉ちゃーんッ!」
サクラちゃんの泣き叫ぶ声。
「うぅ……いつまで倒れてるの! キモオタ! いけー!」
「サクラちゃん……」
強いな……サクラちゃんは。泣いてる場合じゃない!
僕は立ち上がる。アスカさんが身を挺して作ってくれた最後のチャンスだ。
「アスカさん、ちょっと待っててくださいね……」
返事はなかった。早く治療をしなければ……
「フフフ、命拾いしたな。何度やっても同じだ。もうお前に魔力は残っていない」
再び、空中の黒い光から剣を創り出す魔王。
全部コイツのせいか。今まで感じたことのないような静かな強い怒りに満ちていた。
僕はアスカさんの剣を握りしめる。
「だまれ、貴様だけは許さない!」
僕は魔王に飛びかかる。
「うおおお!」
「ぐっ、どこにそんな力が!?」
「許さないぞ!」
限界が近い体のはずだが、怒りのせいでパワーアップしているのか僕の攻撃は魔王を圧倒した。
魔王は離れて、黒い弾丸を放つ。
今の僕には全てがスローモーションに見える。
僕は弾丸全てを斬り落とす。
「こんなもんか?」
「くそぉ!」
魔王は剣を両手で握りしめる。魔王にも焦りが見える。
かつてないピンチなのは魔王も同じなのだろう。
次の攻撃が最後だ。
全ての力を放出する僕の体は金色に輝いている。
「はぁはぁ、人間なんかに……負けるわけにはいかないんだ!」
魔王も最後だと感じているのだろう。全力を込めて剣を振る。
「うおおおお!」
憧れの最強冒険者、アスカさんの剣に力を込める。
アスカさん、見ててください。
キモオタ・ストラッシュ!
「ぐあぁぁ……」
魔王のうめき声がこだまする。
僕の攻撃が……アスカさんの剣が、魔王の体を貫く。
「う、うぅ……こんなはずでは……」
崩れ落ちる魔王。
「キモオタ、キサマ……ぐ……」
命を失った魔王の体は砂のように粉々になっていった。
全力を使い果たした僕もその場に倒れる。
「キモオタ君!」
心配そうに駆け寄るガイド。よかった、これでガイドの世界も守られた。
「ガイド……やったよ……」
「は、はい……」
しかし、ガイドはあまり嬉しそうではない。
「……うぅ……アスカさんは!?」
「……」
うつむくガイド。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんッ!」
倒れるアスカさんに呼びかけるサクラちゃん。
「アスカさん……魔王に勝ちましたよ……ハハ……いつまで寝てるんですか……?」
「お姉ちゃん……」
「……アスカさん?」
こうして、魔王は滅び、この世界に平和が訪れた。
しかし、その世界にはアスカさんはいなかった。
速く、力強い斬撃の前に防戦一方の僕。
どちらも魔人化をすれば、元々強い魔王に分があるのは当然だろう。
「フフフ、魔人化した私の攻撃を防げるとは大したものだ!」
「くっ!」
技を繰り出せるのはあと一発が限界だ。
焦るな! 僕はチャンスを待つ。
押されながらも、しばらく剣の応酬が続く。
しぶとく粘る僕にイラつき始めた魔王の攻撃が荒くなってくる。
「くそ! しぶといな……死ね!」
魔王の大振りの攻撃を繰り出す。
やっと来たチャンス。
今だ!
僕はガラ空きの魔王の顔の前に手を開く。
「む!?」
光魔法
「ぐわぁっ!」
強烈な光が魔王の視界を奪う。
「く、くそぉ!」
今しかない。
閃光にたじろき、距離をとる魔王に詰め寄る。
剣を握る拳に力を込める。
この一撃で決めるしかない。
「うおぉぉ!」
僕は魔王に斬りかかる。
「くそっ! 魔王をなめるなよ!」
視界が回復しないまま、魔王は全身から黒い炎を放出させる。
「うっ!」
熱風に怯み、一瞬剣を振るうのが遅れた。
そのスキを魔王は見逃さなかった。
『ガッ!』
魔王は僕の剣を掴む。
「なに!?」
魔王の魔法だろうか。掴まれた剣はみるみる紫色に変色していく。そして……
『バキッ!』
「そ、そんな……」
「フフフ、残念だったな」
僕の勇者の剣は粉々に砕けていった。
「け、剣が……」
ここまで共に戦ってきた相棒を失い、絶望する僕に魔王は剣を振り下ろす。
「キモオタ! 今度こそ終わりだぁ!」
「くっ」
僕にはもう身を守る剣はない。
しかし、諦めるわけにはいかない。
僕は魔王の剣を避けようと後ろに下がるが……ダメだ。避けきれない……
「くっ……!」
「木本君!」
「え? アスカさん!?」
その瞬間、僕と魔王の間にアスカさんが割って入る。
『グサッ』
「あ、あぁ……」
「うぅ……木本君、大丈夫……か?」
「アスカさん……」
「よかった。無事……だな……」
僕を庇うようにのしかかるアスカさん。
その背中には魔王の剣が刺さり、地面には血溜まりができている。
「アスカさん!」
「ふふ……泣くんじゃない。まだ終わってない……ぞ……」
力なく微笑むアスカさん、僕は涙を流していた。
「まったく……人がプレゼントした剣を……あんなにされて……これを……使え……」
アスカさんは自分の剣をぼくに手渡す。
「頼んだぞ……」
「うう……」
アスカさんの声は弱々しくなっていく。
「お姉ちゃーんッ!」
サクラちゃんの泣き叫ぶ声。
「うぅ……いつまで倒れてるの! キモオタ! いけー!」
「サクラちゃん……」
強いな……サクラちゃんは。泣いてる場合じゃない!
僕は立ち上がる。アスカさんが身を挺して作ってくれた最後のチャンスだ。
「アスカさん、ちょっと待っててくださいね……」
返事はなかった。早く治療をしなければ……
「フフフ、命拾いしたな。何度やっても同じだ。もうお前に魔力は残っていない」
再び、空中の黒い光から剣を創り出す魔王。
全部コイツのせいか。今まで感じたことのないような静かな強い怒りに満ちていた。
僕はアスカさんの剣を握りしめる。
「だまれ、貴様だけは許さない!」
僕は魔王に飛びかかる。
「うおおお!」
「ぐっ、どこにそんな力が!?」
「許さないぞ!」
限界が近い体のはずだが、怒りのせいでパワーアップしているのか僕の攻撃は魔王を圧倒した。
魔王は離れて、黒い弾丸を放つ。
今の僕には全てがスローモーションに見える。
僕は弾丸全てを斬り落とす。
「こんなもんか?」
「くそぉ!」
魔王は剣を両手で握りしめる。魔王にも焦りが見える。
かつてないピンチなのは魔王も同じなのだろう。
次の攻撃が最後だ。
全ての力を放出する僕の体は金色に輝いている。
「はぁはぁ、人間なんかに……負けるわけにはいかないんだ!」
魔王も最後だと感じているのだろう。全力を込めて剣を振る。
「うおおおお!」
憧れの最強冒険者、アスカさんの剣に力を込める。
アスカさん、見ててください。
キモオタ・ストラッシュ!
「ぐあぁぁ……」
魔王のうめき声がこだまする。
僕の攻撃が……アスカさんの剣が、魔王の体を貫く。
「う、うぅ……こんなはずでは……」
崩れ落ちる魔王。
「キモオタ、キサマ……ぐ……」
命を失った魔王の体は砂のように粉々になっていった。
全力を使い果たした僕もその場に倒れる。
「キモオタ君!」
心配そうに駆け寄るガイド。よかった、これでガイドの世界も守られた。
「ガイド……やったよ……」
「は、はい……」
しかし、ガイドはあまり嬉しそうではない。
「……うぅ……アスカさんは!?」
「……」
うつむくガイド。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんッ!」
倒れるアスカさんに呼びかけるサクラちゃん。
「アスカさん……魔王に勝ちましたよ……ハハ……いつまで寝てるんですか……?」
「お姉ちゃん……」
「……アスカさん?」
こうして、魔王は滅び、この世界に平和が訪れた。
しかし、その世界にはアスカさんはいなかった。
1
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる