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最終章

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 「────くそおっ・・けっきょくっ!こう・・なんの、かよっ!!」

 悠叶は倒れたっきり起きる事はなく、いつかのようにタクシーで迅鵺のマンションに帰って来た迅鵺と悠叶は、前と同じように玄関で一緒になって倒れ込む。

 意識のないデカイ図体はかなり重く、酔っ払っている迅鵺にとっては、前以上の重労働だ。

 迅鵺は、ゼエゼエと大きく肩で息をしながら悪態吐く。

 「もおおっ!ぶっ倒れる癖にカッコつけてんじゃねぇよっ!俺が大変なんだよっ!」

 眠っている悠叶の顔をキッと睨むけれど、あどけない悠叶の寝顔に短いため息を吐いて、再び悠叶を支えてヨロヨロと歩くと、やっとの思いで寝室のベッドに悠叶を寝かせた。

 「ほんっと、人の気も知らねぇでスヤスヤ寝やがって・・・」

 自分のベッドの上に悠叶が居る・・・
 たったそれだけの事でドキドキしてしまう迅鵺は、帰り際タクシーに乗り込む時の事を思い出していた。

 『迅鵺、今日は残念だったな。でもSMグッズが当たって楽しみが増えただろ?酔っ払い相手に悪戯すんなよ?』

 含みのあるニヤニヤ顔で声を掛けてくる響弥に、思わず迅鵺は声を荒げた。

 『そ、そんなことする訳ないじゃないっすか!キス以外なんもしてくんねぇのにっ!』

 言い終えて、ハッと気付くが言ってしまったものは、もう遅い。
 ゆでダコ状態の真っ赤な顔につられて、響弥まで狼狽えてしまう始末。

 『お、お前、恥ずかしいヤツだな・・そんな、抱いて欲しいだなんて大声で言うなよ。』

 『ち、ちがっ・・抱いて欲しくなんかねぇっ!』

 響弥相手に、ついタメ口になってしまう程に動揺しまくりの迅鵺。
 思い出すだけでも、顔から火を吹きそうな程に恥ずかしくなって、自分の寝室で顔を真っ赤にさせる。

 「あ、あんたのせいだかんなっ!」

 迅鵺は、何も知らずに寝ている悠叶に八つ当たりをするように、ビンゴゲームで当たった手錠を左手首に掛けて、もう片方の輪っかはヘッドボードに繋げる。
 アイマスクと首輪も付けると、迅鵺は眠っている悠叶を見詰めた。

 「こうなったら、開き直ってやるっ・・」

 そう言って、悠叶の唇に自分の唇を重ねるとリップ音を鳴らしながら、何度も何度もキスをした。

 「ん・・ふっ・・・」

 唇は合わせたまま、悠叶のシャツを捲し上げた。悠叶の肌が露になった上半身に顔を埋めて頬をり寄せる。

 「悠叶さん・・好き・・・」

 ポツリと言葉を溢して、悠叶の胸からキスを落としていく。

 胸、脇腹、首・・・

 迅鵺の寝室に、沢山の水っぽいリップ音を小さく響かせる。
 酔っているせいか気分が昂ってきたせいか、熱を感じさせる熟れた瞳で悠叶の顔を見詰めてから、もう一度唇にキスをすると悠叶のジーパンを脱がした。

 悠叶の露になったボクサーパンツに手を伸ばし、中央の膨らんでいる場所にボクサーパンツの上から、そっと触れた。

 「やっぱり、まだふにゃちんっすね・・」

 迅鵺はそう呟くと、ボクサーパンツの上からゆっくり優しく手のひらで撫でるように触れながら、唇でも触れる。

 温かくて柔らかい悠叶の股間は、寝ている筈なのに少しずつ迅鵺に反応していくように弾力が増していくのを感じて、迅鵺は熱くなってしまった吐息を、ほうっと吐き出した。

 「────寝てんのに、勃つのな・・・」

 迅鵺は、ボクサーパンツを脱がして直接悠叶の剥き出しにされた肉棒を握ると、そっと舌先で舐め上げる。

 まだ、半勃ちの悠叶の肉棒は、直接触れた舌にも反応して、ピクリと動く。
 それが迅鵺は堪らなく愛しく思えて、悠叶の肉棒をジュプリと口の中へ含ませた。

 「────んっ、んっ・・」

 ジュルジュルと水音を立てながら、口の中で膨らんでいく悠叶の肉棒。
 ついに硬く反り立った悠叶の肉棒に、迅鵺は甘い吐息を溢した。
 目もとろんと蕩けるように熟れていて、頬もほんのり赤く染まっている。

 色っぽい瞳で悠叶の顔をそのままの体制で見上げるが、アイマスクをしていて表情は良く分からない。身動きしないという事は、まだ眠っているのだろう。
 けれど、薄く開かれた唇からは、時々熱く隠った吐息を漏らしていた。

 「悠叶さん───・・」

 迅鵺は、悠叶の名前を切なく呟いた。
 自分も服を脱ぎ捨てると、熱く脈打つ自分の肉棒にそっと触れる。

    「────はあっ・・やべぇ・・あんたが欲しいよ・・・」

 迅鵺の肉棒は、既に我慢の限界というように先端からトロトロに蜜を垂れ流していて、ピクピクと震えている。

 迅鵺は、まだ何もしていないというのに、腹の奥底からキュンキュンとした、痛みとも似てる切ない疼きに顔を歪ませた。

 そのトロトロの肉棒を悠叶の硬くなった肉棒に擦り寄せる。

 ヌルリと簡単に滑った迅鵺の肉棒は、悠叶に触れた瞬間、ドクンと脈打つ感覚に思わず声を漏らした。

 「────あぁっ・・」

 厭らしく腰を揺らして、悠叶の肉棒に自分の肉棒をこすり付ける。
 自ら溢れさせたトロトロの蜜で、ネチャネチャとなんとも卑猥な音を静かな寝室に響かせている。

 「────はあっ、はあっ、あっ、もっと・・」

 久しぶりの快楽に迅鵺の瞳は涙で潤ませていて、更なる快楽を求めて悠叶と自分の肉棒を両手でしっかりと握ると、腰を早く動かした。

 「あっ、あっ・・やべぇっ、きもちっ・・」

 触れてもいない迅鵺の乳首はピンと勃っていて、肉棒は今にもはち切れそうな程に腫らして止めどなく蜜が溢れてくる。

 悠叶の肉棒と激しくこすり合わせたせいで、迅鵺の蜜は白く粘って厭らしい。

 ついに、迅鵺は絶頂を迎えそうになって、もうイキそうだという時、悠叶の身体が動いた。

 手錠で繋がれた左腕を動かして、ガチャッと音を立てる。
 異変に気付いた悠叶は、少し脅えた様子だ。

 「なっ、何っ!?何も見えないっ・・誰っ?」

 気が付いたら何も見えなくて、手錠を掛けられ自由に動けないとなったら、誰でも恐怖して慌てるだろう。

 そんな様子の悠叶に、迅鵺はニヤリと笑みを溢した。

 「あっ・・やっ・・何っ!?」

 迅鵺は無言で腰を揺らして、悠叶は自分の股間に違和感がある事に気付くが、既に硬く勃ってしまっている肉棒は抑える事が出来ない。

 視界を奪われたまま自由に見動きがとれない悠叶は、それでも身体は快楽に敏感に反応してしまう。

 「────うぅっ・・」

 悠叶は、訳も分からず与えられる快楽に思わず声を漏らした。
 そんな様子の悠叶に迅鵺は興奮して、更に腰を早く動かす。

 「あっ・・はあっ、ああっ・・悠叶さんっ・・」

 迅鵺の声に悠叶はピクリと反応して、困惑したような声を上げる。

 「と、迅鵺さんっ!?な、なんで、こんなことっ・・」

 「はあっ、あっ・・う、うるさっ・・あっ、あんたがっ、悪いんだっ・・はあっ、俺を、あっ・・放っとく、からっ・・」

 迅鵺は、そのまま動きを止めずに戸惑っている悠叶に反論する。
 厭らしく音を立てながら行為に没頭していると、再び絶頂を迎えそうになる。

 「迅鵺さんっ・・こ、これ外して下さいっ───っ・・」

 悠叶の声も無視して、そのまま絶頂に向かって腰を動かした。

 「あっ、あっ・・もっ、だめっ・・イクッ───・・」

  腰を痙攣させて自らの蜜でドロドロになった肉棒から、白い液体を勢い良く飛び散らせた。

 それは、パタパタっと悠叶の腹から胸に掛けて落ちて、勢い余った液体の少しが、悠叶の頬に付着した。

 「──────っ!」

 視界は見えないが、そのせいか余計に迅鵺の淫らな姿が脳内に浮かんできて、ドキドキしてしまう悠叶。

 自分の頬に飛んできたモノが何なのか、見えなくても分かってしまい、顔を赤らめた。

 「と、迅鵺さん・・とにかく、外してくれませんか?」

 迅鵺は、まだ荒い息を整えながら悠叶のアイマスクだけを外した。

 「────迅鵺さん・・手錠も外して下さい。」

 達したばかりの火照った身体、汗ばんだ肌、麗らかな瞳、荒い呼吸をする胸。そして、トロトロに濡れた淫らな肉棒。
 迅鵺の全てに釘付けになり、目が離せない悠叶は、思わず生唾を呑み込んだ。

 「悠叶さんは、そこで見てて下さい・・」

 迅鵺は、悠叶の言う事は聞かずに悠叶の反り立つ肉棒を口の中に含んだ。

 「────あっ、と、迅鵺さん・・そんなっ、ダメです、これ外して・・・」

 ダメだなんて言いながらも、しっかりと反応している悠叶は、自分の肉棒を口で愛撫する迅鵺の表情に興奮して、沸き上がってくる欲情を抑えようと理性を働かせる。

    “ぐちゃぐちゃにしてやりたい”
 “痛みを刻み込んでやりたい”
 “その顔を苦痛と快楽で歪ませてやりたい”

 悠叶の歪な欲望は、色濃く瞳に表れる。
 ギラギラとした深く吸い込まれそうな悠叶の瞳。

 けれど、悠叶の僅かな理性が否定しようとする。

 “迅鵺さんを傷付けたくない”

 それなのに、どうしようもなく滾る想いが迅鵺を自分の好きにしたいと訴えてくるのに、酷く葛藤した。

 「─────はあっ、はあっ、と、迅鵺さんっ・・くぅっ!」

 容赦ない迅鵺の愛撫に、身体は正直に追い詰められていって、ついに悠叶は絶頂を迎えた。

 「はあっはあっ・・す、すいません。口の中に出しちゃいました・・・」

 申し訳なさそうに言う悠叶だが、そんな悠叶を見詰めながら、迅鵺は口の中のドロリとした液体を呑み込んだ。

 「と、迅鵺さんっ・・!?」

 「この間、俺のもこうしたじゃないですか。」

 迅鵺のまさかの行動に悠叶が狼狽えるのに対し、迅鵺はサラリと言って退けた。

 そして、悠叶を縛り付けている手錠を外そうと、悠叶に近付いた迅鵺は、ハッと気付く。

 「────悠叶さん、泣いてんの?」

 「────えっ?あ・・すいません。 なんでもないです。」

 悠叶は、自分が涙を流している事に言われて気付いたのか、少し驚いた様子で、心配させまいと振る舞う。

 けれど、既に見られてしまった涙は無かった事には出来ない。
 迅鵺は、悠叶の言葉にムッと不機嫌な顔付きで手錠を外した。

 「悠叶さんは、なんもないのに涙が出るんすか?それとも、俺には話したくない?」

 「そっ、そんな事はないですっ!────ただ、迅鵺さんには、心配掛けたくなくて・・・」

 ようやく自由の身になった悠叶は、体を起こすと迅鵺の言葉に慌てて反論した。
 迅鵺を苦しめ傷付けてしまった事を、今でも忘れられず負い目を感じていたのだ。

 そんな悠叶の気持ちを察したのだろう。迅鵺は悲しそうに眉を下げて、それでも悠叶を真っ直ぐに見詰めた。

 「あのさ、悠叶さん。俺には悠叶さんの事を心配する資格がないってことっすか?俺は、心配したいし、心配して欲しい。それが自然なことなんじゃないの?」

 「で、でも───・・俺、迅鵺さんに嫌われたくないんですっ・・すいません。心配掛けたくないなんて言って、結局は自分のことばっかりなんです・・・」

 「でもじゃねぇっ!」

 いつの間にかベッドの上で正座をしている悠叶の膝の上には
、キュッと左手で拳が握られている。
    正直な気持ちを迅鵺に話したけれど、直ぐ様迅鵺は悠叶の頭上にビシッとチョップを喰らわした。

 「自分のことばっかり?いいじゃないっすか。俺なんか、悠叶さんがなんもしてくんねぇから、ベッドに括り付けて目隠しまでして、」

 迅鵺はそこまで言うと、悠叶の首に嵌めてる首輪の鎖を、グイッと自分の方へ引っ張った。
 いきなり前に引っ張られて、悠叶は驚きの声を上げる。

 「───こんなもんまで付けて、悠叶さんが酔っ払って寝こけてんのをいいことに、俺の好きなようにしたんすから。」

 迅鵺は勢いで言ったけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。真っ赤な顔で悠叶をキッと睨む。
 響弥の言った通り、迅鵺は悠叶に抱かれたかったのだ。

 そんな迅鵺に言葉を失う悠叶だが、迅鵺につられて悠叶まで顔を真っ赤にしてしまう。

 「あっ、あのっ・・」

 明らかにドキドキして動揺している悠叶に、迅鵺は余計に恥ずかしくなって、少し荒めの口調でもう一度聞いた。

 「な、何赤くなってんすか!それより、いい加減話して下さい。悠叶さんは、なんで泣いてたんすか?」

 悠叶は迅鵺には敵わないといったように、しゅんと眉を下げて、肩を丸めると自信のなさそうにゆっくりと話し始めた。

 「俺、どうしても迅鵺さんを滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られるんです・・・」

 突拍子もない悠叶の言葉に、ただでも赤い顔を更にボッと赤くして、あたふためく迅鵺。

 「なっ、なんて恥ずかしいことっ・・・」

 けれど、悠叶にとっては深刻といっていい程、真面目な話しで、迅鵺の反応には気にせず話を続けた。

 「迅鵺さんは、俺の性癖を知ってますよね?迅鵺さんを好きになればなる程、傷付けたくないのに酷いことをしたくなるんです。普通の人でいう性欲と同じなんです。」

 悠叶は、迅鵺とちゃんと付き合い始めてから、自分の欲望がどんどん膨らんでいく感覚に脅えていた。
 幼馴染の奏太と迅鵺を同じだとは思わないけれど、どうしてもトラウマから重ねてしまって、迅鵺が自分を否定して離れていってしまうかもしれないと思うと、迅鵺に触れる事が出来なかったのだと話した。

 「迅鵺さんに触れたら、もう抑えられる自信が無かったんです・・・さっき、迅鵺さんにあんなことをされて酷く興奮した・・もし、手錠で繋がれてなかったら、きっと酷いことをしたに違いないっ・・・」

 悠叶は、抑えられない涙をボタボタとベッドに落とし、まるで恐怖に耐えるているかのように不自然に体に力が入る。

 「────うわあっ!」

 迅鵺は、悠叶に繋いでいる首輪の鎖を引っ張って自分に引き寄せた。
 悠叶が驚いて声を上げたのにも気に止めず、次の瞬間、迅鵺は自分の唇を悠叶の唇に押し付ける。

 触れるだけのキスから、何度も角度を変えて次第に激しく、熱く、熱を絡めていく───・・

 「チュッ・・んっ、ふっ・・クチッ、んふっ・・」

 迅鵺の色っぽい吐息に、悠叶はどんどん興奮していくのを感じて、迅鵺を引き離そうとするけど、鎖をしっかりと握って離さない迅鵺からは逃れられなかった。

 迅鵺は更に鎖を引っ張って寝転ぶと、悠叶も引っ張られて迅鵺に覆い被さる形で倒れ込む。

 「─────と、迅鵺さんっ!だ、ダメですっ・・俺の話し聞いてくれてました!?」

 慌てた悠叶は、なんとか唇を離して言うけれど、迅鵺はしれっと言って退けた。

 「聞いてましたよ?だけど、俺は悠叶さんとキスしたいし、触れ合いたい。悠叶さんこそ俺の話し聞いてました?」

 逆に聞き返されてしまい、悠叶はなんの事を言われているのか分からず、首を傾げる。
 そんな悠叶の様子に、迅鵺はため息を吐くと口を開いた。

 「俺がこんな事をしたのは、悠叶さんが何もしてくれなかったからだって言いましたよね?」

 迅鵺は鎖を手離し、悠叶の首に自分の腕を回す。

 「悠叶さんは一生、俺としてくんないつもりだったんすか?」

 甘えるように悠叶を見詰める迅鵺に、ドキドキして目が離せない悠叶は、どう言ったらいいのか分からないといった様子。

 「え、えっと・・それはっ・・・」

 そんな悠叶の頭をギュッと抱き締めて、自分の顔を見せない事で恥ずかしさを紛らわし、迅鵺は自分の想いが伝わるように更に抱き締める腕に力を入れた。

 「悠叶さん───・・ひとつ、いいことを教えてあげます。悠叶さんの幼馴染と俺の大きな違い。既に俺は、あんたに滅茶苦茶にされてます。しかも殺されそうにもなりました。」

 迅鵺の言葉にビクッと体に力を入れたのが迅鵺の腕から伝わり、悠叶が不安になっている事が分かる。
 迅鵺は、悠叶を宥めるように頭に添えてる手で、悠叶の頭を撫でた。

 「そんな目に合ってても、俺は、あんたを否定も拒絶もしない。それどころか、そんなあんたを好きだって言ってるんです。」

 「───と、迅鵺さん・・・」

 今にも泣きそうな震えた声で、迅鵺の名前を呟いた悠叶を引き離すと、今度はしっかりと悠叶の目を見て言葉を紡いだ。

 「あんたの性癖の事なんて、こっちは最初から知ってて言ってんですよ。そもそも俺をそこら辺の野郎と一緒にしないで下さい。あんたに首絞められたくらいじゃ、俺は傷付かねえし死なねぇ。なんせ生き霊に襲われたって息してんですから。悠叶さんが思ってる程、俺はやわじゃないっすよ。」

 「つか、なんすかそれ。傷付けたくないから抱かねぇとか・・・こっちは、あんたと付き合うかどうか悩んでた時点で、抱かれること前提で悩んでたっつうのに・・・」

 迅鵺は愚痴を溢すように呟くと、ボタボタと自分の顔に生暖かい液体が落っこちてくるのに気付いて、目の前の悠叶の瞳から溢れ落ちる涙を指で拭った。

 「───うぅっ・・迅鵺さんっ・・好きっ・・好きですっ・・俺、幸せ過ぎて、どうしたらいいか分かんなっ・・」

 拭っても拭っても落っこちてくる涙に、迅鵺は拭うのを諦めると、ぐしゃぐしゃに歪ませた悠叶の顔を見詰めた。

 「じゃあ、来いよ。悠叶さんの好きなように抱いて。もう、あんた一人で我慢も苦しまなくてもいい。あんたはもう一人じゃないんだ。俺の恋人なんだろ?」

 挑発するような物言いとは裏腹に、これまでにない程の優しい笑顔だったと思う。
 迅鵺は無意識なのか、とても自然な笑みを浮かべていて、触れるだけの柔らかいキスで悠叶に想いを伝えた。

 これまでに感じた事もない暖かな愛情に、心まで迅鵺の熱を感じて、今この一瞬だけでは抱えきれない程の幸福感で胸が狂おしい程にいっぱいいっぱいになってしまう悠叶。

 「────はいっ・・」

 たったこれだけ。たった一言口にするだけでも、今の悠叶にとっては、大変な事だった。

 そうして、悠叶は迅鵺の甘い誘惑に深く誘われていった。

 「────んっ・・んふっ・・」

 悠叶は迅鵺の唇を貪るように口付けると、シャツを脱ぎ捨てた。
 悠叶の逞しい上半身が露になって、獣を感じさせる程の男臭さに、迅鵺は胸をトキメかせる。

 「迅鵺さんっ・・すいませんっ、俺、余裕ないですっ・・・」

 悠叶はそう言うと、たがが外れたように迅鵺の身体を求めた。
 自分では抑えきれない程の欲情に、恐怖が無い訳ではない。

 迅鵺が許してくれたとはいえ、心とはそう簡単なものではないのだ。
 それでも、我を忘れてしまいそうなくらいの滾る興奮を悠叶は迅鵺にぶつけた。

 「──────あ"っ・・!」

 迅鵺は、自分の首の痛みに思わず声を上げる。悠叶が噛み付いたからだ。

 「────すみ"ません"っ・・ごめんなさいっ・・」

 悠叶は、泣きながら謝る。それなのに、痛みで顔をしかめる迅鵺の表情に興奮を抑えきれない。

 悠叶は、どんどん気持ちを昂らせ呼吸も苦しそうに荒くなっていく。

 「────だからっ・・いいって言ってんだろっ・・ほらっ、俺を滅茶苦茶にしたいんだろっ?」

 迅鵺は挑発するように言うと、悠叶の左手を自分の首へと当てがった。

 「────う"っ・・ぐっ・・」

 悠叶は荒い呼吸を繰り返しながら、徐々に迅鵺の首に当てがわれた左手に力を込めていくと、苦しそうな迅鵺の表情が、まるで媚薬の効果でもあるかのように下半身が疼き、背徳的な悦楽を隠しきれないといったように上唇を舐めた。

 「はあっ・・はあっ・・迅鵺さんっ・・」

 迅鵺の首を締め付けたまま、苦しそうに開かれた迅鵺の唇から舌を滑り込ませ、容赦のない愛撫をする。
 迅鵺の寝室には、苦しそうに漏らす迅鵺の呻き声と、迅鵺の口内を犯す厭らしく鳴らす舌と舌が交わる音。そして、悠叶の熱い呼吸音。

 「────う"ぅっ・・うぐっ・・」

 首を絞められて上手く呼吸が出来ない上に、口内まで犯されて、迅鵺の口からはだらしなく涎が垂れ流しになっている。

 限界を迎えた迅鵺は、口内に侵入している悠叶の舌になんとか噛み付いた。

 突然の舌の痛みに慌てて顔を上げた悠叶は、迅鵺の首にあった手も離す。
 迅鵺は、沢山の酸素を求めて一気に空気を吸おうとするけれど、あまりの苦しさに噎せてしまい涙目になりながら、何度も咳き込んだ。

 「と、迅鵺さんっ、だ、大丈夫ですか!?」

 無我夢中になって、加減を忘れてしまっていた悠叶は、早くも後悔の念に駆られて、慌てて迅鵺に声を掛けるけれど、言葉の代わりに蹴りが飛んでくる。

 「────うわっ!」

 「───ゲホッ、こんくらいでっ・・狼狽えんじゃねぇっ・・ゲホッ・・」

 迅鵺は咳き込みながら訴えるけれど、悠叶は狼狽えたまま。

 「で、でも・・」

 「でもじゃねぇっ・・ヤバかったら今みたいに反撃してやるっ・・だから、あんたも無傷で済むと思うなよっ・・そんなこと言って、本当は今だって興奮してんだろっ・・?」

    「────っ」

 迅鵺の言葉に、悠叶は冷や汗をタラリと流し、生唾を呑み込んだ。
    苦しそうなのを落ち着かせようと一生懸命に呼吸を繰り返し、涙目になりながらも呼吸を整えようとしている迅鵺の姿を凝視する。
 そして、無言のまま迅鵺の太腿を持つと、迅鵺のピンク色の小さなモノが丸見えになるように広げて、既にびちゃびちゃになってる入り口に中指をゆっくりと挿入した。

 「────あぁっ・・」

 苦痛とは違う、疼くような快楽に甘い声を漏らす迅鵺。

 「迅鵺さん・・ここ、なんでこんなに、ぐちゃぐちゃなんですか?───ああ・・そういえばさっき、勝手に俺のにこすり付けてイッちゃったんでしたっけ?」

 自分を見下す悠叶の目に、ゾクリと背中が痺れる感覚に、ドキドキと高鳴る胸が苦しくて顔をしかめる。

 「迅鵺さんが、こんなにエッチで俺は嬉しいです・・」

 ああ・・“スイッチが入ったな”と、この時、迅鵺は思った。

 「あっ・・あんっ・・そこっ、変・・」

 迅鵺の中で、ゴリッとする場所を引っ掛かれると、迅鵺は身悶える程に感じてしまう。
 そんな姿を愉しむように、悠叶は指を二本に増やした。

 「ほらっ・・ここ、変じゃなくて気持ちいいんじゃないんですか?」

 クスリと笑いながら、わざと迅鵺に聞こえるように、グチグチと厭らしい音を立てる悠叶。

 「ああっ・・やっ、だめっ・・」

 迅鵺の反応に、悠叶は指を引き抜いて焦らすように入り口を撫で回した。

 「だめ?こんなに、ひくつかせてるのに?嘘つきにはお仕置きが必要ですよね?」

 悠叶の低い声に、迅鵺は首を振って否定するけれど、悠叶は熱を孕んだ吐息を溢して迅鵺を見下ろした。

 「────良く見えるように、お尻をこっちに突き出して下さい。」

 「──────っ!?」

 命令とも取れる悠叶の口振りに、迅鵺は耳まで顔を真っ赤にさせると、恥ずかしさでどうにかなりそうになりながらも、震える腕で自分の身体を支えるように四つん這いになり、遠慮がちに尻を突き上げた。

 ──────バチンッ!!!

 「う"あ"ぁっ!」

 いきなり尻を思いっきり叩かれて大声を上げてしまった迅鵺。
 ジンジンと痺れるような痛みが、徐々に熱に変わり、迅鵺の白く綺麗な尻は真っ赤に腫れてしまう。

 「────??な、なんでっ・・」

 迅鵺は何事かと、四つん這いのまま首を後ろに回すと涙を滲ませた瞳で悠叶を見詰めた。

 「俺は、良く見えるようにと言ったんです。」

 悠叶の冷たい口振りに、キュッと目を瞑った迅鵺は、瞳に滲ませていた涙をポロリとひとつ溢す。

 恥ずかしさに耐えるように唇を固く結ぶと、尻をもっと高く突き上げた。

 「─────フッ・・」

 「ひやぁっ!」

 丸見えになった霰もない迅鵺のひくつくソレに、いきなり息を吹き掛けられて、すっとんきょうな声を上げる迅鵺。

 「やれば出来るじゃないですか──・・」

 悠叶は自分のガチガチになった、熱く脈打つ肉棒を迅鵺の入り口に当てると、中には入れずに擦り付けた。

 「ああっ・・はあっ・・それっ、やだっ・・」

 悠叶の先走りと迅鵺が自分で汚したモノでヌルヌルと滑る悠叶の肉棒が欲しくて、迅鵺も無意識に腰を揺らしてしまう。

 「何が嫌なんですか?はっきり言って下さい・・」

 意地悪な悠叶の言葉に、迅鵺はつい悠叶を睨み付ける。
 けれど、ずっと悠叶を求めていた迅鵺の身体は、脳までも甘く犯し、熱を帯びた唇、赤く染まった頬、期待で潤ませた瞳。

 そんな姿では、威嚇にもならない。

 悠叶は、クスリと笑みを溢した。

 「しょうがない人ですね・・じゃあ、俺のコレが欲しいなら、自分で尻の穴を指で広げて下さい。そこにぶち込んであげますから。」

 マジで人格変わりすぎだろっ・・

 迅鵺はそう思いながらも、やっと悠叶と繋がれるという期待から羞恥心を呑み込み、恐る恐る自分の尻に手を持っていくと、悠叶に言われた通りに指先に力を入れて広げて見せた。

 「はあっ・・はあっ・・は、はやくっ──・・」

 迅鵺は、待ちきれないというように悠叶を急かす。

 「ああ・・凄くいいよ、迅鵺・・・」

 迅鵺の破廉恥な姿に、つい呼び捨ててしまうほど興奮した悠叶は、広げられて自分を待ち構えてひくついている迅鵺の中に、自分の熱く硬い肉棒を一気に押し込んだ。

 「んあああっ・・」

 迅鵺は、いきなり奥まで入ってくる感覚に、脳まで突き抜けるような衝撃を受けて、大きく身体を仰け反らす。

 悠叶は、迅鵺の中をしっかりと感じられるように目を瞑った。
    迅鵺が受け入れてくれた事を実感する。
 迅鵺を後ろから抱き締めるように、床に左手を付きまだ完治しきっていない右腕で迅鵺をギュッと抱き締めた。

 「はっ・・悠叶さん、くるしっ・・」

 背中から胸に回された悠叶の腕が締め付けてくる圧迫感に、迅鵺は窮屈に思いながらも密着する肌が気持ち良くて、窮屈ささえも気持ち良く感じてしまう。

 “悠叶に求められている安心感”

 「あっ・・あっ、き、きもちぃっっ・・」

 迅鵺をキツく抱き締めながら、押し込むように腰を振る悠叶。
 迅鵺は、悠叶の熱く滾る存在感を自分の中で感じて、甘く、でも激しく、腰から痺れるような快楽に夢中になって“もっと、もっと、”と、素直に悠叶を求めた。

 「────はあっ、はあっ・・あ"あっ・・」

 激しく迅鵺を攻め立てる悠叶。
 迅鵺の肩や背中には、噛み跡がくっきりと何ヵ所にもある。

 痛みに顔をしかめる迅鵺だが、それでも迅鵺は恍惚とした表情で、肉棒は今にも蕩けそうに震えている。

 紛れもなく、悠叶の激しさで快楽に溺れていた。

 「あぁっ・・はるっ、とさんっ・・もっ、おれっ・・ヒィっっ!」

 迅鵺が達しそうになったのを知ってか知らずか、悠叶は迅鵺の左乳首を、思いっきりギュッと摘まんだ。

 快楽で全身が敏感になってる時に、乳首から伝わる痛みで咄嗟に身体が仰け反る。
 仰け反った拍子に、迅鵺の口からは厭らしく唾液が飛び散った。

 「あ"あっ・・あっ・・ち、乳首は・・いやっ・・」

 迅鵺の言葉に反して、悠叶は摘まんで引っ張っている乳首を捻り上げる。

 「ん"あ"ああっっ──・・」

 迅鵺の悲鳴にも似た声に、悠叶は酷く興奮して迅鵺の耳元で、うっとりと囁いた。

 「痛い?───でも、ほら、迅鵺のコレは萎えることなく、こんなに涎を垂らして蕩けそうだ・・イキたい?」

 興奮している悠叶の囁きは、言葉に熱い吐息が混じって迅鵺の耳から全身に、甘く痺れるような快感が浸食していった。

 「───ああっ・・はっ・・イ、イキたいっ・・イカせてっ・・はあっ・・」

 迅鵺の求める言葉を聞いて、悠叶は満足気な笑みを浮かべる。
 悠叶は乳首を離し、迅鵺を仰向けにひっくり返した。

 「俺のだっ───・・迅鵺っ・・好きっ、好きだっ・・」

 悠叶は、迅鵺の唇を食べてしまうのではないかという程に自分の唇を重ねて、迅鵺の口内で熱く蕩けるような愛撫をした。

    こんなにも激しく求められたことはない。
    迅鵺は、悠叶の全身全霊から流れ込んでくる激しい愛情に、何も考えられないほどで、ただただ全身で受け止めるだけで精一杯だ。

    そんな迅鵺に挿入部分を見せ付けるように、グッと腰を持ち上げた。
    迅鵺の肉棒の先端から、トロォ~っと透明の液体が腹に垂れてくる。

 「今から思いっきり突いてやるから、ちゃんと見てるんだよ?」

 悠叶のキスに、とろんとした表情で荒い呼吸を繰り返す迅鵺だが、悠叶の宣言にドキリと胸を鳴らす。
    なんとも厭らしい自分の姿に、言葉も出ない程の羞恥心でおかしくなりそうだ。

 さっき、捻られた乳首が熱を持ってジンジンしている。
 悠叶は、その乳首を舌先で転がすように舐めた。

 「ひやぁっ・・あっ・・」

 そして、次の瞬間、悠叶は宣言通り思いっきり腰を突き上げる。まるで、叩き付けるように激しく音を弾かせて、迅鵺の一番いいトコロだけを攻めた。

 「あっあっ・・イッ・・イクッ、イッちゃっ──・・」

 迅鵺は迫り来る激しい快感に身を震わせて、ベッドのシーツを両手でギュッと握る。
 もう出る・・という時、悠叶は左手で迅鵺の首を締め付けた。

 「かはッ──・・あ"あっ・・あ"っ・・」

 苦しさに目を見開き、悠叶の締め付ける手を掴もうと自分の手を持っていくが、上手く掴めず悠叶の手に傷を作っていく。

 そんな苦痛の中、迅鵺の肉棒からは、白い液体が勢い良く飛び出していて両足は爪先立ちになり腰を浮かせて迅鵺の身体は仰け反り震えている。

 苦痛と絶頂が、迅鵺を襲う。

 「ああ・・迅鵺っ、苦しそうだね・・その顔、いいっ・・イクと同時に首を絞められて、どんな感じ?」

 悠叶もまた、興奮を抑えきれないというように目を見開いて、荒い息を吐きながら迅鵺を見詰めている。

 「はあっ・・あ"っ・・あ"あっ・・」

 達した筈なのに、苦痛と快楽に揺さぶられた迅鵺の肉棒は未だ萎えずに震えていた。

 「ハハッ・・凄い、まだ萎えてない・・かなりMっ気あるんじゃない?」

 悠叶はニヤリと笑みを浮かべて、迅鵺の首を締め付けたまま、再び激しく腰を動かす。

 「はあ"っ・・あ"っ・・そん、な訳、ねぇっ・・あああ"っ・・」

 途切れ途切れに否定する迅鵺だが、激しく揺さぶっても、苦痛を与えても、痛みを刻んでも、分かりやすく反応してくれる迅鵺の身体。

    首を絞められているせいで、酸素が回らない首から上は熱を集め赤くさせ、瞳には涙が溜まっている。

 そんな迅鵺の瞼に、悠叶はキスを落とした。

 「ありがとうっ・・」

 悠叶の声が震えている事に気付いた迅鵺は、不思議に思って悠叶の顔を見ると、悠叶の瞳に涙を見た気がした。

 “泣いてんのか?”
 ついさっきまで、ノリノリだった癖に───・・

 迅鵺はそう言おうとしたけれど、悠叶が更に激しく腰を突き上げてきて言葉にする事が出来なかった。

 恐ろしい程の快楽の中、迅鵺は意識を手離していった。


*****


 「───んっ・・うぅっ、いってぇ・・・」

 呻き声を上げて徐々に瞼を開いていく迅鵺の瞳には、悠叶の顔が映り込んでいく。
 悠叶は迅鵺の気配に気付いて迅鵺の顔を覗き込んだ。

 「あっ、迅鵺さん気付きました?そのっ・・体は大丈夫ですか?」

 悠叶は、ばつの悪そうに言うと迅鵺は機嫌が悪そうに頭を押さえて口を開く。

 「────痛ぇよ。体中あちこち痛ぇ。しかも、頭痛もひでぇ・・・」

 「すっ、すいませんっ・・俺、セーブ出来なくて・・それに迅鵺さん、お酒もいっぱい飲みましたもんね・・・今、頭痛薬買って来ますね。」

 迅鵺の機嫌の悪さに、悠叶はオドオドしながら薬を買いに行こうとベッドの上で上体を起こした。

 けれど、そんな悠叶の左腕を掴む迅鵺。

 「と、迅鵺さん?どうしたんです?」

 悠叶の問い掛けに、そっぽを向きながらポソッと何かを呟く迅鵺に、悠叶は堪らず表情をだらしなく緩めてしまう。

 “薬より悠叶さんの腕枕の方がいい”

 悠叶は自分が達した時、気を失ってしまった迅鵺に腕枕をして、ベッドの上で眠っていたのだ。

 「と、迅鵺さん可愛いですっ!」

 「可愛いって言うなっ!そもそも、俺の体をこんなボロボロにしておいて、俺を一人にするなっ!」

 顔を真っ赤にして言う迅鵺だが、体へのダメージが相当らしく、痛い痛いと言いながら顔をしかめる迅鵺。

 そんな迅鵺を宥めるように腕枕をして、二人一緒に寝転んだ。

 「─────なあ・・なんで、あの時泣いてたんすか?」

 迅鵺は、自分を抱きながら泣いていたような気がして、気掛かりだった。
    そんな迅鵺に悠叶は優しく微笑む。

 「───あれは、嬉しかったんです。あんな暴力的に抱く俺を受け入れてくれた事が、あの時無性に嬉しくなって・・それで気付いたら・・」

 悠叶は、その時の事を思い出しながらしみじみと言うけれど、自分の左隣から盛大なため息が聞こえてくる。
 迅鵺の顔を見ると迅鵺も悠叶を見ていて、悠叶はドキンッと胸を鳴らした。

 「あのさ、悠叶さん。まさか毎回泣くとかないっすよね?言っとくけど、俺エッチすんの好きだからいっぱいしますよ。」

 まさかの大胆発言に、悠叶は顔を真っ赤にしてしまう。

 「と、迅鵺さんって、結構積極的っていうか大胆ですよね・・・」

 狼狽えてる悠叶に、迅鵺は面白がってニヤリと不適な笑みを浮かべると、悠叶の腹の上に跨がった。

 「この悠叶さんのあと見て下さいよ。」

 迅鵺は、傷だらけの自分の体を悠叶に見せ付けるように、胸にある噛み跡を自分の指で撫でて見せる。

 「こんな事されても、俺は悠叶さんを求めますよ。だって好きだからエッチしてぇし。これが悠叶さんの性癖だったら受け入れるしかないっしょ?それに、痛いのも苦しいのにも俺って案外強いかもよ?」

 そう言った迅鵺に対し、悠叶は驚いて目を見開いていた。

 「────迅鵺さん・・そんなこと言われたら俺、また興奮しちゃいます・・・」

 呆然と言う悠叶に、ギクリと顔をひきつらせた迅鵺は、慌てて悠叶の上から退く。

 「さっ、流石に今は無理っすよ!?マジ体ボロボロなんすからっ・・」

 自分から離れていく迅鵺の手首を掴んだ悠叶は、グイッと自分の方へと抱き寄せ、左腕でしっかりと迅鵺を納めると迅鵺の目を見詰めて、そのまま触れるだけのキスした。

 「今はしませんよ。安心して下さい。でも、迅鵺さん痛いの好きなんじゃないですか?」

 クスリと笑いながら言う悠叶に赤面した迅鵺は、必死に否定するけれど、悠叶はずっとニコニコしていた。

 いつの間にか後ろからすっぽりと抱き締められている迅鵺。
 こんな風に誰かに抱き締められるなんて、今までにない事だからか、照れくさくてなんとなく体育座りなんてして、体を固くさせてしまう。

 「────チュッ・・」

 そんな様子の迅鵺に、クスッと柔らかく微笑んで迅鵺の頬にキスをした。
 迅鵺は、この体勢が恥ずかしいせいなのか、既に顔を赤くしていたが、今のキスでもっと赤くさせたのを見て、悠叶は思わず迅鵺の顔を後ろへ向けさせると今度は唇にキスをする。

 そのまま、迅鵺の口内へ舌を滑り込ませて、絡み合う水音が鳴り響く。

 「───んっ、ふっ・・はあっ・・だ、から・・ダメだって・・」

 迅鵺は、角度を変える時や舌を動かす時の隙に、なんとか言葉にする。
 悠叶に解放された迅鵺の表情は、キスされただけでも蕩けそうだった。

 「迅鵺さん・・そんなエッチな顔で言われても、説得力ないですよ・・」

 今はしないと言っておいて、迅鵺の表情に滾るものを感じた悠叶は、どうしたものかと少し後ろめたい気持ちになる。

 そんな悠叶に気付いたのか、真っ赤な顔のままキッと悠叶を睨むと悠叶の頭上目掛けてチョップをかます。

 「だからっ!ダメって言ってんでしょ!」

 悠叶はしゅんと眉を下げて、情けなく“はい”と返事をすると、再び迅鵺を後ろから抱き締めた。

 「あのっ・・俺からも質問してもいいですか?」

 「この体勢じゃなきゃダメなんすか?」

 「・・・ダメですっ」

 悠叶の質問に対し、全くもって関係ない質問返しをされるが、そこはしっかりと断る悠叶。

 「───あの時、どういう意味で言ったんですか?」

 悠叶は、クリスマスの時に迅鵺がケーキや食事、シャンパン等を買ってアパートまで来た時の事を話した。

 寝ている迅鵺にキスをしてしまった悠叶に、迅鵺が言った言葉が気になっていたようだった。

 「俺、なんか言いましたっけ?」

 けれど、迅鵺本人はよく覚えていないようで、悠叶は少し気を落としたみたいだが、具体的に出来事を話す。

 「俺、あの時が初めてしたキスだったと思うんですけど・・迅鵺さん、何を今更って・・・」

 そこまで聞いて思い出した迅鵺は、ギクリと体を固まらせた。
 腕の中に居る迅鵺の体が硬直したのに気付いた悠叶は、不思議に思い“迅鵺さん?”と口にしながら迅鵺の顔を覗き込む。

 「─────っ!?み、見んなっ・・」

 まさか、夢の中で毎日キスをされていただなんて恥ずかしくて言えないようで、眉を思いっきり下げて顔を赤らめている迅鵺の姿は、なんとも可愛らしく悠叶の瞳に映り込んだ。

 「な、なんで、そんな可愛い顔してるんですか?」

 つい悠叶までドキドキしてしまい、悠叶の腕の中から逃れようとした迅鵺を咄嗟に両腕で抱き止めてしまった。

 「────痛っ・・」

 まだ治っていない右腕を使ってしまい顔をしかめる悠叶に、慌てて迅鵺は振り返って悠叶の姿を確認する。

 「だ、大丈夫っすか!?」

 「大丈夫です・・それより、ちゃんと教えて下さいよ。」

 心配してくれる迅鵺に、痛い思いをしたのもラッキーかも、だなんて思いながら、甘えるような声で言う悠叶に、迅鵺はおずおずと悠叶の目を見詰める。

 「そんな風に聞くとか、随分と狡いことするんすね・・・」

 迅鵺の言葉に“あはは”と惚けたように振る舞う悠叶に諦めたのか、体の力を抜くと視線を反らしながら悠叶が入院していた時に見ていた夢の事を話した。

    「─────実を言うと、目を覚まさなかった間、なんとなく自分の中で意識みたいなものがあったんです・・正直、あの時はこのまま目が覚めなくてもいいって思ってたんです。」

 迅鵺の夢の話しを聞いて、そんな事を言う悠叶。
 つい反射的に、後ろに居る悠叶を確認する為に迅鵺は体を捻らせた。

 「あの時ね、何度も迅鵺さんの声が聞こえた気がしたんです。」

 「────俺の声?」

 目を覚まさなかった悠叶に、自分の声が聞こえるものなのかと不思議そうに首を傾げ、悠叶の目を見る迅鵺に、悠叶はフッと柔らかく微笑んで頷いた。

 「はい。俺、あんなに酷いことしたのに、迅鵺さんがずっと俺のことを呼ぶんです。だから俺、いい加減逃げないで、目を覚まさないとって・・・」

 悠叶は、迅鵺の頬を包み込むように手を添えて、迅鵺をとても清んだ瞳で見詰めた。

 悠叶の唇が“俺にはあなただけです”と動くと、悠叶の視線から逃れられずにいる迅鵺に、そっと口付けをした。

 「迅鵺さん、ありがとう。こんな俺を受け入れてくれて・・あなたに出逢ってから俺、初めて貰う幸せでいっぱいです。」

 改まって照れ臭い事を言われて赤面しながらも、迅鵺は、しっかりと悠叶の方を向いて悠叶の頭を抱えるようにギュッと抱き締めた。

 「お、俺だって、こんなに誰かを求めたのは初めてだ・・このむず痒い感じが幸せってことなら、俺も悠叶さんと同じ気持ちっすよ・・・」

 “だから、これからは独りで悩むの禁止”

 そう言って、今度は迅鵺から悠叶にキスをした。

 迅鵺の静かだった寝室は、今とても温かで柔らかい空気に包まれている。

 初めてこの寝室で襲われた時は、それこそ恐怖した迅鵺だったが、今では、きっとこれまでにした事もないような、愛しそうに悠叶を見詰める迅鵺の姿がある。

 悠叶も、トラウマ全てが綺麗に無くなった訳ではないけれど、迅鵺と出逢って初めて触れる人の温かさに、狂おしい程までに戸惑ってしまうくらい、愛しい気持ちが溢れてくる想いだった。

 お互いの温もりが、ちゃんと伝わってくる空間。
 二人の間には、何よりも強い絆が出来たように思う。

 「そういえば迅鵺さんっ!夢の中のキスに、ドキドキしたりしてたんですかっ!?」

 いきなり思い出したように、何故かムッとしたような物言いで聞いてくる悠叶に、迅鵺はギクリと惚けたような反応を示す。

 「ああ~っ!その顔!俺も段々と迅鵺さんのこと分かってきましたよ。ちょっとドキドキしちゃったんですね!?」

 どうやら、覚えのない夢の中での出来事に嫉妬をしているようだ。
 そんな悠叶に、迅鵺も思い出したように対抗する。

 「そういえば、悠叶さんだって片付けろって言ったのに、写真そのまんまっしょ!?」

 悠叶の部屋一面に、ズラリと貼られた迅鵺の写真の事を言う迅鵺だったが、悠叶は片付ける気はないようで、慌てて言い返す。

   「あっ、あれはダメですっ!俺の宝物なんですからっ!」

 「た、宝物っ!?はっ、恥ずかしいこと言うなっ!」

 「恥ずかしくなんかないです!俺は迅鵺さんが好きってことなんですからっ!むしろ、これからも沢山撮りますよ!」

 一度、言い合いを始めてしまった二人は、なかなか止まりそうになかったが、悠叶の言葉に迅鵺はピンと何か思い付いたような表情をすると、ある提案を持ち掛ける。

 「悠叶さんっ!写真撮って下さいよっ!」

 思いもよらない迅鵺の言葉に“撮らせて貰えるんですか?”と、拍子抜けしたように承諾した悠叶であった。

 そして、迅鵺の提案はすぐに実現する事となる。


*****


 約一ヶ月後、無事TOP SECRETの姉妹店がオープンして、響弥がTOPSECRETの代表となり、迅鵺は主任となった。

 TOP SECRETの入り口を飾る在籍ホストのパネルの写真は、新しい物に入れ替わっている。

 そう、迅鵺が提案したものは、店のパネルにする写真の正式な撮影依頼だった。

 撮影の時、悠叶と響弥が揉めた事は言うまでもない。
 また、迅鵺と悠叶にはある目標があった。

 「迅鵺さんっ!俺、前に出したコンクールの写真、大賞取りました!」

 「マ、マジで!?すげーっ!!」

 昨晩の営業終わり、悠叶の部屋で眠った迅鵺は、昼前に目を覚ますとキッチンで歯を磨いていた。

 そんな迅鵺の所に、慌ただしくスマホを手にした悠叶が、迅鵺と出会うより前に応募していたフォトコンテストの結果を報告した。

 「これで20万くらいは貯金出来ると思います!迅鵺さんからしたら、少ない金額ですけど・・・」

 二人は、一緒に住むマンションを買う為にお金を貯めていた。
 悠叶は、迅鵺のマンションでいいと言ったのだが・・・

 『悠叶さんと住むなら風呂も寝室ももっと拘りたい!』

 という迅鵺の意見に、新しいマンションにすることに決めた。
    迅鵺がマンションを買うと言ったのだが・・・

    『それはダメです!俺にも出させてください!』

    今度は、悠叶が納得いかないようで、 二人で協力して得たマンションに住むのも悪くないと二人とも納得し、時にはゆっくりしながらも、着々と目標の為に頑張っていた。

 「悠叶さんの想いが詰まった一枚が認められたんだ。そんなこと言う訳ないっしょ?むしろ、すげーって!俺、悠叶さんの写真好きっすよ。」

 「ありがとうございます。俺は、こっちの写真も迅鵺さんに認めて欲しいんですけどね。」

 そう言って取り出したのは、数冊のアルバム。

 「ああっ!いつの間にこんなん撮ってんてすか!」

 アルバムの中身は、どれもこれも迅鵺の写真ばかり。

 寝ている写真や、ご飯を食べている写真、迅鵺の日常が丸わかりと言ってもいい程の数々の写真達。

 中にはエッチの後、気を失っている火照った表情の迅鵺や、ドロドロに汚れた体の写真。

 迅鵺の知らない、厭らしい写真も沢山ある。

 迅鵺は、そんなアルバムを眺めながら、ワナワナと体を震わせると、悠叶を叱り始めた。

 「もおっ!やっぱあんた、ストーカー気質あり!殆んど隠し撮りじゃねぇかっ!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る迅鵺に、ヘラっと力のない表情で謝る悠叶だが、反省はしていない。

 「迅鵺さんが、エロくて可愛くて綺麗でカッコいいのが悪いんです!俺、カメラマンで良かった。」

 そう言いながらアルバムを元あった場所へ片付けると、後ろから迅鵺をギュッと抱き締めた。

 「そんなに怒らないで下さい。これも俺の愛情ってことで許して下さいよ。」

 迅鵺の唇に軽いキスをすると“今日も大好きです”と言う悠叶に、怒っていた迅鵺も大人しくなる。

 「あ、あんまり撮るなよっ・・」

 「─────はいっ」

 そして二人は、もう一度キスをするとベッドへ入っていった。

 「なあ、悠叶さん。」

 「なんですか?」

 「もう、独りだなんて思ってねぇよな?」

 「───そうですね。迅鵺さんが居ます。」

 「生き霊飛ばして来る奴なんて、この先誰もいねぇよ。」

 「───そうですね。それくらい迅鵺さんを愛せる人は、世界中で俺しか居ないです。」

 「そんな恐ろしい奴を愛せるのも世界中で俺しか居ないっすよ。」

 「そうですね。でも俺は、迅鵺さんさえ居てくれれば幸せです。」

 「この首の痣も噛み跡も、愛されてる証拠ってことにしておいてあげますよ。」

 「迅鵺さん・・・俺を救ってくれて、ありがとうございます。」

 「大袈裟っすよ。」

 「迅鵺さん・・・キスしてもいいですか?」

 「い、いちいち断らなくていいっ・・・」

 「────そうですね・・・」





 
   レンズ越しの愛に犯されて  End..















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