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第九章
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「──────で、なんで来てるんすか?」
クリスマスイベント二日目。
そして、響弥に着ろと言われて雪の女王も二日目。
きらびやかで美しい水色のドレスを纏う佇まいは、美しいとは言えない腕組みをしている仁王立ち姿の迅鵺。
その迅鵺の目の前には、もうお店には来ないよう伝えたばかりの悠叶が、TOP SECRETの客席に慣れ親しんだ雰囲気を醸し出し座っていた。
来るなと言われていたのにも関わらず、来てしまって悠叶本人も少しばかり気まずいのか、そわそわとしながら下を向いていると、迅鵺の声に気付いて悠叶は顔を上げる。
「勝手に来てすいま・・せ───・・迅鵺さん可愛いですっ!!!」
きっと、迅鵺が来たら第一声で謝ろうと思っていたのだろう、迅鵺の姿を目に捉えるより早く謝罪の言葉を口にした悠叶だったが、迅鵺の格好に気付くと謝罪の言葉そっちのけでその場に勢いよく立ち上がった。
「────悠叶さん・・俺は段々分かってきましたよ。あなたは、気が弱そうでかなりちゃっかりしている。現に俺の言う事を訊かない悪い子みたいですからね。」
迅鵺の笑顔には、何故か迫力みたいなものが感じられ、悠叶は口を噤むとストンと腰を下ろした。
「────え、えっと、なんでその格好なんですか?」
悠叶の隣に迅鵺が座り、いつも通り薄い水割りを作る迅鵺に恐る恐る訊ねる悠叶。
カラカラとマドラーでかき混ぜる心地良い音が止んで、悠叶の前にグラスが置かれた。
「それって、今関係ある話っすかね?」
悠叶の背後に“ヒィィイ”という文字が見えそうなくらい、迅鵺の機嫌は悪そうだ。
「すっ、すいません・・・で、でも、なんでお店に来ちゃいけないんですか?あの時、恥ずかしそうではありましたけど、怒ってはなかったと思ったのむぃっ」
丁度言い終わる時、迅鵺に両頬を摘まむように片手でギュッと挟まれて、悠叶の唇はひよこのくちばしみたいに突き出て情けない声が漏れる。
「は、恥ずかしいとかそんなんじゃねえっ!──・・ねぇっす・・」
つい、荒い口調でタメ口が飛び出てしまったのを遠慮がちに言い直す迅鵺に、悠叶は眉を下げて愛おしそうに微笑みながら迅鵺の手を頬から退かし、そのままその手を握った。
「迅鵺さん、わざわざ言い直さなくてもいいですよ。それに、その方が俺は嬉しいです。あと、迅鵺さんは来て欲しくないのかもしれないけど、俺は仕事してる迅鵺さんも好きだから、たまにでも来たいです・・駄目ですか?」
悠叶の控え目な態度に、迅鵺はなんとなく落ちつかなくて目を逸らす。
「─────やっぱり、あんたはちゃっかりしてるよ・・・でも、馬鹿だ。」
「へっ?」
馬鹿だと言われて、どう反応すればいいのか分からず変な声を出す悠叶。
けれど、悠叶は迅鵺の言葉に簡単に翻弄されてしまう。
「俺はただ、わざわざ店なんかで会う必要はないって言ったんだ。」
そっぽを向いてる迅鵺の横顔は、薄暗い店内では分かりづらいが、きっと頬を赤らめているに違いない。
悠叶は、今すぐに抱き締めてしまいそうな衝動をなんとか抑える。
「と、迅鵺さん・・・それは、いつでも会ってくれるって事ですか?」
「────は、悠叶さんて、ちゃっかりしてる上に、図々しいっすね・・・いつでもとは言ってない・・・」
精一杯の迅鵺の照れ隠しに気付いた悠叶は、狂おしい程に湧き上がってくる熱情を、ついに抑えられなくなる。
悠叶の心は迅鵺で独占されていて、余裕が無さそうに少し乱暴に迅鵺の手首を掴んだ。
「なっ、なんすかっいきなり!?」
驚く迅鵺を他所に、無言のまま手を引いて店内を歩いていく悠叶は、トイレに迅鵺を連れ込んでドアの鍵を閉めると、迅鵺をそのままドアに追い詰めて自分の腕の中に閉じ込めてしまう。
「悠叶さんっ、なんでトイレなんかにっ・・」
いきなり過ぎる悠叶の強引な行動に、困惑する迅鵺。
そんな迅鵺を真っ直ぐに見詰める悠叶は、切羽詰まったように熱の隠った吐息を交えて生唾を呑み込んだ。
「────嫌だったら、突き飛ばしてでも止めて下さいっ」
そう言うなり、迅鵺に返事をさせる隙間も与えずに我慢の限界だと言わんばかりの荒々しいキスをする。
「んっ──ふっ──・・」
迅鵺の上の唇を甘く挟み、下の唇に熱く吸い付く。何度も角度を変える悠叶のキスはどんどん加速していく。
───チュッ・・クチッ、チュッチュッ・・
狭い空間に、唾液が絡み合う水音が雨のように降り注ぐ。
息継ぎもままならない悠叶のキスに、迅鵺は鼻で息を吸うけれど、それでも苦しくて───・・
「─────んはあっ・・」
沢山の酸素を求めて、悠叶から逃れた。
けれど、息継ぎで開けた口の中に悠叶の舌が空かさず入ってくる。
ヌルッとした悠叶の熱い舌が、迅鵺の敏感な上顎の裏を愛撫した。
その瞬間、甘い痺れが迅鵺の脳内までも蕩けさせる。
「───んふっ・・あっ・・ふっ」
“ヤバい・・・気持ちいい”
キスなんかで、こんなになっちまうなんて・・・
迅鵺は、悠叶の熱く激しいキスに身体の芯から疼くように感じてしまう。
悠叶は迅鵺の唇を解放したかと思うと、迅鵺の口内でぐちゃぐちゃに交ざり合ったせいで余計に熱を持った舌先を迅鵺の右耳に這わせた。
「────あっ!」
予想していなかった場所からの快感に、つい甘い声を漏らす迅鵺。
グチャグチャと耳から直に聞こえる悠叶の舌の愛撫は、迅鵺の思考を犯していった。
「んっ───・・はあ、あっ・・」
耳から首筋、首筋から鎖骨と徐々に舌を移動させていく悠叶。迅鵺の甘い喘ぎ声に、理性を奪われていく。
どんどん膨れ上がってくる熱い高揚感が苦しくて、ついに、欲望のままに迅鵺の首筋にかぶりつこうとした。
けれど、快感に耐えて瞳を麗せている迅鵺と目が合って、すんでの所で止めた。
「────迅鵺さん・・・好きですっ」
悠叶は自分の欲望に無理やり蓋をして、代わりに自分の左足をドレスのスリットから迅鵺の股の間に滑り込ませると、グッと上へと押し上げた。
「─────ああっ!」
悠叶の膝が股間を刺激して、今までで一番大きな声を上げてしまう迅鵺。
「迅鵺さん・・硬くなってる」
悠叶の言葉に一気に熱を顔に集めて、赤みを帯びていく迅鵺の表情は、悠叶を一層興奮させた。
「────っ、可愛いっ・・」
ドレスの裾を乳首が見える所まで捲し上げると、露になった迅鵺のピンク色をした震える左乳首に吸い付いた。
「────んんっ・・だ、からっ・・可愛いって・・はあっ、言うなっ・・あっ」
迅鵺は身を捩らせながら、なんとか言い返すけれど、どんどん快感に溺れていく身体に没頭していってしまう。
左の乳首は悠叶の舌が、右の乳首は爪先で弾くように弄られる。
「────はあっ、はあっ、」
悠叶の唇や舌で、乳首、胸、腹と愛撫される度に甘い声を漏らし、身体を跳ねらせる迅鵺は、快楽でおかしくなってしまいそうだった。
トイレの狭い空間で、二人の熱い吐息や声で温度が上がったせいか、迅鵺の身体は汗でしっとりとしてきている。
硬くなった自分の肉棒が熱く脈を打っていて苦しい。先端から汁が滲み出ているのがボクサーパンツの上からでも分かるくらい切羽詰まっているのが分かる。
そんな迅鵺の様子に悠叶はクスリと笑うと、ボクサーパンツのシミをつくっている部分に左手の人差し指を、トンッと当てた。
ギンギンに滾っている一番感じる場所を、予告無しにいきなり触れられて身体を飛び上がらせる程に感じてしまう。
「─────ああっ!!」
自分の動き一つ一つに反応してくれる迅鵺に、悠叶は沸き上がる欲望を抑えるのに必死だ。
「迅鵺さん、下着は男性物なんですね。」
「あっ、当たり前だろっ!!」
顔を真っ赤にさせて反論する迅鵺だが、肉棒の先端に触れてる悠叶の人差し指が、くるくると円を描くように動いて、もどかしい快楽に腰を持ち上げてしまう。
「あっ───・・はあっ、」
「迅鵺さん、エロいです・・見て下さい。下着の上からなのに糸を引いてますよ?」
迅鵺の肉棒の先端を撫で回した人差し指を、ゆっくりと離すと下着の上からだというのに、つうぅっと透明の艶めく糸を引く。
指先でしか触れられていないのに、そんなになるまで感じてしまっていた事に、どうしようもなく恥ずかしくなり、言葉も出ない様子の迅鵺。
「────はあっ、はあっ、」
ただただ、熱い吐息が漏れる。
「辛そうですね───・・今、楽にしてあげます・・・」
悠叶は、そう言って迅鵺のボクサーパンツを下げた。
「────ああんっ!」
迅鵺の露になった肉棒の先端部分をいきなり加え込み、漏れている汁をジュルルッと音を立てて吸い付かれて、迅鵺は大きく身体を仰け反らせた。
「はあっ、はあっ──・・」
強い快感に仰け反らせた反動で、悠叶の口から迅鵺の肉棒は飛び出してしまい、悠叶の唾液が絡み付いた迅鵺の肉棒から飛沫が上がる。
「ああ──・・迅鵺さん、感じ過ぎっ・・・お陰で自分の唾液で顔が汚れちゃいました。」
悠叶の言葉に、羞恥でどうにかなってしまいそうな迅鵺だが、恐る恐る悠叶の顔を見ると確かに濡れていて、自分を見詰める悠叶の顔が凄くエロく見えてしまい、更なる羞恥心から逆上せそうなくらい顔を真っ赤にさせた。
迅鵺は、目を合わせられず悠叶から目線を外し、今にも消えて無くなりそうな震える小さな声を溢す。
「────わっ、悪い・・」
迅鵺の可愛らしい素振りに、悠叶の胸は大きく鼓動させた。
痛いくらいの強い鼓動に、顔をしかめる。
「ああっ・・迅鵺さん、その顔ゾクゾクする・・あんまり煽らないで下さいよっ」
そう言って下唇をペロリと舐める悠叶に、迅鵺は甘く胸の音を鳴らした。
なっ、なんでこんなこと言われてトキメいてんだよっ・・
本来なら、男にキスをされるだけでも嫌悪する筈なのに、この時の迅鵺は、はっきりと自覚するくらいには悠叶にドキドキしてしまっていた。
「迅鵺さん、衣装汚れちゃうので自分で裾を持ってて下さい。」
「─────えっ・・」
悠叶の言う事は最もなのだが、それでは自分から求めているように見える気がして、戸惑う迅鵺。
そんな様子の迅鵺に楽しむかのように、悠叶は口角を上げる。ドレスのスリット部分から迅鵺のモノが出るようにスリットの付け根を肉棒に引っ掛けて迅鵺を見上げた。
「いいんですよ?俺はこれでも、ちゃんと気持ちよくしてあげることが出来ますから。」
そう言って、迅鵺の肉棒に舌を這わせた。
「うっ───・・くそっ・・はあっ、あっ」
迅鵺は悔しそうに震える手でドレスの裾を持つと、そろりと捲し上げた。
自分が働くお店のトイレで、自分で服を捲し上げ男に口でさせている。この事実が恥ずかしい筈なのに、迅鵺を少しずつ大胆にさせる。
ジュルジュルと迅鵺の肉棒を愛撫する悠叶の口元からは、迅鵺の我慢汁と悠叶の唾液が交ざり合った汁が滴り落ちていて、気付くと迅鵺は自らの腰を前後に揺らし、悠叶の口の中で出し入れさせていくスピードを上げていく。
「はあっ、あっ、あっ、ふうっうっ・・」
あまりに気持ち良過ぎて、早くも迅鵺は限界を向かえようとしていた。
「ハアッハアッ、いっ、イキそっ──・・も、離しっ・・」
迅鵺は、そう言って悠叶の口から引き抜こうとしたが、悠叶はそれを阻止してしまう。
左手を迅鵺の尻に回し押さえ付けると、口の中に留まらせた。
「────あああっ・・!」
ついに、達した迅鵺は爪先立ちになってしまう程に身体を仰け反らせ、悠叶の口の中に全部出しきるまで身体を痙攣させた。
「────はあっ、はあっ、」
大きく肩で息をしている迅鵺の額には汗が滲んでいて、背中にあるドアにぐったりとした身体を預けるように寄り掛かると、力無く膝から崩れ落ちる。
すると丁度、悠叶の目線と交わる高さまで座り込んでしまった迅鵺の目の前で、悠叶は口の中のモノを喉を鳴らして呑み込んだ。
「ちょっ!?───何してんすかっ!?そんなモノ飲まないで下さいよっ」
迅鵺は慌てて言ったけれど、呑み込んでしまったものはしょうがない。
「そんなモノなんかじゃないです。俺、迅鵺さんのならなんでも飲めますよ。」
とんでもない事を言う悠叶に迅鵺は顔を真っ赤にさせて、それを誤魔化すように立ち上がろうと足に力を入れる。
「何バカなこと言ってんすかっ!───って、膝が笑って立てねぇ・・」
足に力が入らなくて、諦めたように溜め息を吐く。
「迅鵺さん、腰抜けちゃいました?迅鵺さんて、こんなにエッチだったんですね・・最後なんて自分で───」
「それを言ったら自分なんかキャラ変わりまくりっすよっ!?それになんすか、さっきの!お、俺のにドレス引っ掛けて・・オヤジかってのっ」
自分で裾を捲し上げたのが余程恥ずかしかったのか、思い出して赤面する迅鵺。
「ん──・・それは、迅鵺さんが悪いです。俺、興奮すると人が変わってしまうから・・」
悠叶の言った事に、迅鵺は身を持って思い知った気分だった。
「────つか、悠叶さんのそれっ・・苦しそうっすね・・・」
男とは経験無くても、女と経験豊富な迅鵺にとって、自分だけ達して終わり。ていうのも気分が良くないのだろう。
迅鵺は、悠叶の盛り上がった股間を指差して言うと、手を伸ばす。
「────へっ?と、迅鵺さんがしてくれるんですか?」
自分のベルトに掛けられた迅鵺の手に、期待を隠せない様子の悠叶。
だけど────・・
「おーいっ!迅鵺居るかっ!?」
ドアのノック音と共に響弥の声が聞こえてきて、迅鵺は体を強張らせた。
迅鵺は、この状況をどう説明するか脳をフル回転させるが、響弥には見抜かれそうな気がして動けないでいると再び声が聞こえてくる。
「迅鵺っ、居るんだろ!?」
焦っている迅鵺に追い打ちを掛ける。
そんな迅鵺の様子に悠叶は優しく微笑んで、頭をポンッと撫でると、手を引いて立ち上がらせ迅鵺の耳元にまだ熱が残る声で囁いた。
「とりあえず下着を履いて下さい。俺がなんとかしますから。」
ボッと赤面した迅鵺がドキドキを隠すように少し乱暴に下着を履いて乱れたドレスを直す。
迅鵺の身嗜みが整ったのを確認してから悠叶はトイレのドアを開けた。
「やっと、出て来た──か・・って、アンタかよ。」
悠叶の姿を見るなり、あからさまに嫌そうな顔を見せる響弥。けれど、それはお互い様。悠叶も敵意剥き出しな表情で口を開いた。
「長いこと迅鵺さんを一人占めしちゃって、すいません。ちょっと気分が悪くなったんで介抱してもらってたんです。」
悠叶に続いて迅鵺がトイレから出て来たのを見て、響弥は顔をしかめた。
迅鵺も話を合わせてはいるが、ずっと迅鵺を見てきた響弥は、迅鵺の様子がおかしい事に気付いたからだ。
「────まあ、それなら、しょうがねえな。迅鵺、客が待ってる。早く行け。」
響弥の言葉に返事をすると、迅鵺は悠叶に頭を下げて、待っているお客の元へと向かった。
トイレの前の通路に残された悠叶と響弥の間には、ピリピリとした空気が漂っている。
「────その格好、わざわざ迅鵺さんとお揃いにしたんですか?当て付けにしか見えないんですけど。」
ピリピリとした険悪な沈黙を破ったのは悠叶。
「んな訳ねぇだろ。───これは、迅鵺に無理やり着せられたんだ。」
機嫌がかなり悪そうな響弥の格好は、あの雪の女王の妹の衣装だった。雪の女王が綺麗系なら黒と緑色で合わされた妹の衣装は可愛い系。
迅鵺に仕返しをくらったという訳だ。
そういう事情があるにせよ、悠叶からすればお揃いに見えて面白くない。
悠叶の機嫌もかなり悪くなった。
「言っておきますけど、あなたに迅鵺さんは渡しませんから。」
そう言って、響弥の脇を通り“邪魔しないで下さい”と、一言ボソッと呟いていった。
「────どこが、気分悪いんだよ・・元気じゃねぇか・・・」
響弥は、悠叶の後ろ姿を見ながら舌打ちをする。
「─────クソッ・・覚悟はしてるつもりだけど、ツレぇもんだな・・よりによって相手がアイツとか勘弁しろよっ・・・」
響弥は、トイレ前の通路で暫く一人佇んでいた。
*****
「────じゃあ、また会ってくれますか?」
今日の営業もなんとか終わり、悠叶をお見送りする為にお店の外へ出た迅鵺。
悠叶は、迅鵺が言った“わざわざ店なんかで会う必要はない”という言葉が余程嬉しかったらしく、ほんのりと頬を赤らめ、少しの期待と照れているような表情だ。
そんな悠叶の様子に、迅鵺はチクリと胸を痛める。
「────はい、またアパートに行きます。」
この時、迅鵺の内心では色んな想いが複雑に交ざっていて、自分が自分でなくなっていくような感覚に戸惑っていた。
トイレの出来事では悠叶に胸をトキメかせ、触れられた所からは、悠叶の温もりと他の誰にも感じさせられた事のないような快感が広がっていって、気付いた時には悠叶が与える快感に身体が夢中になって溺れていたのだ。
周りが見えなくなっていた。
ただただ、悠叶が触れる度に怖いくらいに求めてしまった。
もしもあの時、響弥が来なかったら・・・きっと、迅鵺も悠叶に触れていただろう。
響弥が来た事で冷静になった迅鵺は、そんな自分が、とても浅ましい人間に思えてしまい“自分は違う”と否定したい気持ちになってしまったのだ。
以前、無理やり犯されたにも関わらず、未知の快楽に達せられた迅鵺の身体。知らず知らずに今でも燻っていたうねりが、悠叶に触れられる事で甦っていくような感覚に胸がザワついた。
“また、あんな風になるかもしれない”
苦痛と快楽は紙一重。
迅鵺は、自分が女のように乱れ狂わせられる姿を想像して、それを男としてのプライドがシャットアウトさせる。
男に抱かれる行為そのものを受け入れてしまう事に躊躇したのだ。
“俺は男なのに”
“何度も女を喜ばせてきた”
“俺が女にされちまうなんて・・・”
頭を抱えるような気持ちが交差する──・・
それでも、結して嫌では無かった。嫌では無かったのだ。
「────嫌じゃ無かったから、困ってんだよ・・怖ぇよ・・ちくしょう・・・」
笑顔で手を振る悠叶に、迅鵺は泣きたい気持ちを抑えて手を振り返す。
迅鵺は、酷く心が揺れていた───・・
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