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第二章

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 「───────はあっ!!」

 迅鵺は、寝室のベッドの上で飛び上がるようにして上体を起こした。

 「はあっはあっ・・」

 酷く汗をかいていて、全身で呼吸をしているかのように荒い息で吐いたり吸ったりしている。
   カーテンの隙間からは陽の光が射し込んでいる。あのまま暫く眠いっていたのだろう。
 迅鵺は、寝室内をそのままの体勢でぐるりと見回して、カラカラになった声でボソッと呟いた。

 「──────夢・・か?」

 けれど、そう言ったのも虚しく夢ではなかったのだと嫌でも思い知らされる。

 迅鵺の腹部から胸にかけて、白いドロリとした液体が勢い付いたように付着していて、着ていた筈のスウェットとTシャツ、ボクサーパンツは雑にベッドや床に散らかされていた。

 「─────嘘・・だろっ──・・嘘だあっ!!」

 迅鵺は、脳に纏わり付くようにしっかりと記憶されている、あの男の事を拒絶するように両手で頭を抱えた。

 嘘だ、俺があんな事を言うなんて・・信じられないっ!



*****

 意識が途切れる前、朦朧とした意識の中で迅鵺は強烈な快楽を感じていた。

 何度も何度も男の肉棒で突かれながら、迅鵺を弄ぶように首を締めたり、手離したりと繰り返され、迅鵺の精神と体力は酷く消耗されていった。

 今すぐ楽になりたい──・・

 そう思っても、意識が薄れそうになるのを強烈な快楽がそれを許さなかったのだ。


 『ハアッ──あ"っ・・くぅ、ふっ・・』

 苦しい──・・死んでしまう・・

 それなのに迅鵺の肉棒は、はち切れそうに充血させていて、今にも吐き出したそうに主張する。

 “気持ちイイ”

 男がもたらす快楽が、どんどん迅鵺の身体を支配していく。

 けれど、何度も吐精しそうになるのを男は突き上げる腰を止めたり、肉棒を強く握り締めたり、首元や肩など噛み付いたりして阻止した。

 “イキたい──・・イカせてくれっ”

 流れる涙も悔しさにも気に止めず、迅鵺は自ら腰を動かした。
 きっと、これが迅鵺にとって精一杯の求めるカタチだったのだ。
 男はそれを見透かしたように笑みを浮かべると、そんな迅鵺を宥めるように叱る。

 『駄目だろう?勝手にイこうとしちゃ・・さあ、おねだりしてごらん?』

 腹が立つ、腹が立ってしょうがない。力なく男を睨み付けても、なんの意味もない。

 迅鵺は、イキたくてイキたくて仕方がないのだから。

 『────イ、イカせろっ・・』

 これ程までに屈辱的な事はない。迅鵺は悔しそうに潤ませた瞳で男を睨み、消えてしまいそうな小さな声で渇望を漏らした。

 その一言を聞いた瞬間、男は今までで一番強く首を締め付けて、迅鵺が一番イイ反応を示す場所一点だけを、ガチガチに硬くした男の肉棒で攻め立てた。

 あ"あああっ!気持ちイイっ!
 イクっ・・イク、イク───っ!!


*****

 ─────あれは俺じゃねぇっ!俺は認めねぇっ!!

 男なんかに組み敷かれるだけでも、腸が煮え繰り返る程に腹が立つというのに、自分から求めてしまった事実が恥ずかしい。
 あの男を殺してやりたい程の怒りと同時に、何も抵抗出来ずに、いいようにされてしまった自分自身にも怒りが湧いてくる。

 迅鵺は乱暴にベッドから立ち上がって、シャワーを浴びようとバスルームへ行こうとした。
 けれど、初めてだった上にあんなにも激しすぎる行為のせいで、迅鵺の体は悲鳴をあげているようだった。

 怒りのせいで急に勢い良く動いたものだから、迅鵺は力の入らない膝から震えるように崩れて、固いフローリングの床に膝と手を着いてしまう。
 悔しさと虚しさを呑み込んで立ち上がると、今度は壁に手を付きながら、ヨロヨロと心許ない足取りでバスルームまで歩いていった。

 「─────っ!?」

 脱衣場にある洗面鏡の前に立った迅鵺は、鏡に映る自分の姿に絶句している。

 肩や二の腕、首元や乳首にまでくっきりとした歯形が付いていて、迅鵺の透き通るような白い肌には所々、赤い痣が浮かんでいる。

 そして、首にはあの男の締め付けた手の痕が赤紫色になって付いていたのだ。

 「────これ、ヤベェだろ・・」

 迅鵺は自分の首元に手を当てて震える声で呟いた。

 それにしても、アイツは幽霊なんだろ?それなのに、なんでこんなに痕跡残せるんだよっ・・そもそも、なんで触れんだ?それどころか・・

 その後の事は、考えたくもない。そう言いたげに首を振ってあることをハッと思い出す。

 「そういえばアイツ、唇から血を垂らしたよなっ!?」

 シャワーを浴びにきたのに慌てて引き返すと、ベッドの上を確認する。

 けれど、血の痕は何処にも見当たらなかった。

 それに、不可解な事は他にも沢山ある。
迅鵺の名前を知っていたし、あのストーカーの事も結局は何も分かっていない。

 迅鵺は、改めて自分の身に起こった事を整理すると、心身共に震わせて恐怖の色をその顔に表した。

 「俺が──・・何したってんだよっ・・」

 ベッドを背凭れにして地べたに座り込んだ迅鵺は、溜め息を吐きながら項垂れた。



*****

 「おっ、迅鵺、おはよ。」

 「────はよっす。」

 いつも通り髪の毛をセットして、黒のスーツの下はラメが微かに入った黒いTシャツで少しラフに決めて、ストールとアクセサリーでコーディネートされた姿で出勤する迅鵺。

 声をかけてきたのは響弥だった。

 「お前がストールしてんの珍しいな。」

 迅鵺はいつもはしないけれど、首に付いた痕を隠す為にストールを巻いていた。
 軽く相槌を打ち、少し遠慮がちに口を開く。

 「響弥さん、ちょっと話いいっすか?」

 いつもと少し違った迅鵺の様子にすぐに気付いた響弥は、回りを見て他に出勤してきているホスト達が居ないスペースを見付けると歩き出した。

 「ここでいいか?」

 響弥は、煙草を加えたまま誰もいないテーブル席で立ち止まって迅鵺の返答を伺う。
 迅鵺は頷いて向かい合うようにして二人は座った。

   「───こんなこと話すの、ちょっと恥ずかしいんですけど、実は最近ストーカーされてるっぽいんすよ・・」

 ホストクラブで働いていれば、ストーカーの一つや二つくらい珍しくもない話だ。
 現に迅鵺も、今までに何度か経験がある。だが相談なんてした事はなかった。

 そんな事は響弥だって分かっているし、迅鵺の負けず嫌いで気が強い性格も知っている。

 そんな迅鵺から、珍しくもない普通の女の客にストーカーされたくらいで相談されるとは思わないのだろう。
 響弥は煙草を灰皿に押し付けると、真剣な目線を迅鵺に向けた。

 「────何された?お前のことだ、些細なことで相談なんてしねぇだろ。」

 やっぱり響弥さんは頼りなる。
迅鵺は内心そう思いながら少しだけホッと安心した気持ちで頷くと詳細を話した。

 あの男の事だけは伏せて。

 「────なるほどな。まあ・・客の仕業だとは思うが、少しも手掛かりが出てこねぇってのは気になるな。」

 響弥の言う通り、過去のストーカーをしてきた客はすぐにボロが出た。
 寮のマンションで待ち伏せされていて、部屋に入ろうとした所に現れたり、接客中での会話の節々から分かったり。

 とにかく、何かしら犯人を特定できる事があって大事には至らずに解決していた。

 ただ、今回に関しては本当に客の仕業なんだろうか?

 迅鵺は、あの男の事が気掛かりでしょうがない。
 響弥はその事を知らないから当然のように客の仕業だと思っている。

 だが、迅鵺はあの男の事だけは話せなかった。

 あんなっ──・・あんな事、恥ずかしくて言える訳ねぇだろ!?

 男に組み敷かれたとはいえ、迅鵺にはプライドがある。
 況してや、ずっと憧れてきた今では一番慕ってる響弥に話せる訳がなかった。

 迅鵺は親身になって話を聞いてくれている響弥に少し後ろめたいような気持ちになる。

 けれど、この不可解な事だらけの気味の悪い状況に、一人ではもう耐えられなかったのだ。

 「んじゃあ今日、店閉めたら迅鵺のマンションに行くぞ。アフター入れんなよ。」

 響弥の言葉に迅鵺は安心して返事をすると開店の準備へと入る。
今の時刻は夜七時半頃。開店まであと三十分くらいだ。閉店時間は二十四時。

 大抵はアフターで帰るのは朝になるが、昨日は閉店してすぐに帰ったから今日も大体同じ時間帯にマンションに行く事になるだろう。

 もしも、またアイツが現れたら──・・

 迅鵺はストーカー行為の事よりも、あの男の事で頭をいっぱいにしていた。

 アイツは暗いうちにしか現れないのか、そうではないのか、そもそも本当に幽霊だったのか・・

 考えれば考える程分からなくなって、迅鵺は諦めたように考えるのを止める。

 「───仕事に集中しなきゃな・・」

 ぽつりと一人言を溢すと、お客に電話したりLINEをしたりして営業を始めた。


*****

 「としやぁ~っ、今日アフターしてよお~!」

 最後のお客をお見送りするのに、店の外へと出た迅鵺の隣に居るのは見た目は若いが今日一番の売上となったお客だ。

 そのお客に、甘ったれた声でアフターをねだられる迅鵺は、お客を自分の方へと肩を抱いて引き寄せ、お客の耳に唇をくっ付けて囁いた。

 「今日は駄目だって言ったろ?彩香はおりこうさんだもんな。今度ご褒美やるから聞き分けろ。」

 そう言ってすぐに、身を離した。

 客はというと、頬を赤らめうっとりとした熱い目で迅鵺を見詰めて、分かったよ・・と頷いている。

 お客が帰って行くのを確認して店内へ入ろうと振り返ると、すぐ目の前に響弥の顔があって迅鵺は小さな声を上げて驚く。

 「うわっ!きょ、響弥さんっ」

 そんな様子の迅鵺を見て、楽しそうに笑う響弥は悪戯な表情だ。

 「ははっ、お前ビビりすぎ。にしても流石は迅鵺だな。一発で黙らせてやんの。」

 今のお客の事を言う響弥はケラケラ笑っているが、迅鵺のお客の中でも金を使う分、面倒な方のお客だ。

 「響弥さんだって客宥めんの得意じゃないっすか。」

 そう言って響弥の肩にポンっと手を乗せると、店内へ入っていった。


*****


 ────店を閉めた迅鵺と響弥は、迅鵺のマンションへとやって来ていた。
 今の時刻は一時半過ぎ。

 まずはポストを確認すると、いつも通り写真とメッセージカードが一枚ずつ入ってる封筒が投函されている。
 中身を確認すると、カーテンを付けてからは室内で撮られる事は無くなったようで、今日の写真はマンションのエントランスから出てきた今日の迅鵺の姿だった。

 そして、メッセージカードには今までで一番気味悪い事が書かれていて、その内容に迅鵺は思わず冷や汗をかく。

 “今日は迅鵺さんの夢を見たよ。とても気持ち良かったなぁ・・直接、迅鵺さんに触れてみたいよ。”

 封筒を開けたのは響弥だったので、メッセージカードを持っているのは響弥。
 迅鵺は響弥の横から文面を読むと、咄嗟に響弥の手からメッセージカードを奪い握り潰した。

 “やっぱり、ストーカーもアイツなんじゃ・・”

 そんなあり得ない想像をしてしまう程に文面からはあの男特有の独特な嫌な雰囲気を感じてしまう。

 響弥は、そんな様子の迅鵺を落ち着かせようと肩を二度叩く。

 「確かにイカれてるな。どんな痴女なんだ?」

 冗談ぽく言うけれど、迅鵺には笑う余裕がなかった。


   「───邪魔するぞ」

   迅鵺の部屋に入るなりぐるりと周りを見渡す響弥。

 「お前、良い部屋に住んでんな。まあ外見からして分かるけどよ。」

 まじまじと言いながらも響弥の視線はバルコニーに向く。
そのままバルコニーの前まで来るとカーテンを雑に開けた。

 「写真撮られる部屋はリビングしかねぇって言ったよな?」

 迅鵺が響弥の言葉に頷くと、二人でバルコニーに出て辺りを見てみるが見えるのはいつもの新宿の風景。

 「やっぱ、なんもねえな・・あそこから撮ってたりしてな。」

 響弥が悪戯っぽく指差したのは、大体正面くらいの位置にある遠くの方にそびえ立つ携帯会社のビル。

 それを聞いた迅鵺は、ハッと思い出す。

 「響弥さんっ!そういえば、携帯会社で働いてるってゆう客、何人か居ます!」

 迅鵺は少しの可能性だろうが、すがり付く思いだったのかもしれない。

 一般的な常識では透けた“モノ”を人間とは呼ばず、また、人間ではない所謂、幽霊とやらが実際に居たとして、写真を撮ったりメッセージを書いたり、それをポストに入れたり・・出来る筈がないのだから。

 「お、おおう!じゃあ、その客が怪しいな。とりあえず刺激はするな。何するか分かんねぇからな。まずは、いつも通り店に呼べ。」

 迅鵺の迫力に気圧されそうになりながらも、響弥は的確な指示を出した。

 こうして念の為、犯人が分かるまでは響弥の部屋に寝泊まりする事になったのだ。


 ─────迅鵺のマンションからタクシーで十分程の場所にある響弥のマンションへやって来た二人は、ひとまず近くのコンビニで食べる物を買ってから部屋へと入る。

 楽な服に着替えようと迅鵺は体に付いた痣を隠すように、響弥に背を向けて、いつもはTシャツを着るが首の痣を隠す為にハイネックのタンクトップに着替えた。

 「響弥さんの部屋、久しぶりっすね。」

 迅鵺はリビングのソファーに胡座をかいて好物の唐揚げを頬張ると、ガラス貼りのテーブルに手を伸ばしミネラルウォーターを手に取る。

 「そういえば、いつぶりだ?二ヶ月くらい経つかもな。」

 響弥は案外甘党らしく菓子パンを食べていた。

 ストーカーの件は怪しいお客を店に来させ一人ずつ確認していくという事で治まったようで、場所も変わったからか二人共すっかり寛いでいる様子。

 弁当を食べ終わっても暫くくだらない事で駄弁っていたが、スマホを見るとそろそろ四時になろうとしている事に響弥が気付いた。

 「お前、風呂はどうする?俺は起きたら入るけど。」

 「あ~俺もそれでいいっすよ。ちょっと疲れたんで。」

 ストレス続きの迅鵺にとっては、こんなに落ち着く時間は久しぶりで、安心したからかドッと疲れを感じていた。

 そんな迅鵺を気遣ってかベッドは迅鵺に譲ると言って、響弥の布団は来客用のをベッドの隣へ敷き、電気を消そうと寝室のドアの前に立った響弥はスイッチに手を伸ばす。

 「迅鵺、電気消す──・・ぞ・・」

 ベッドの上に居る迅鵺を伺った響弥は、異様な光景に息を呑んだ。

 「お前──・・何してんだよ・・」


*****


 この時、迅鵺はあの男に捕らわれていた。

 響弥がベッドの横に布団を敷いて寝室の入り口の方へ向いた瞬間、ベッドに足を下ろして座っていた迅鵺の背後に、あの透けた姿で男は現れたのだ。
   迅鵺を後ろから抱き締めるように腕を前に回し迅鵺の耳元に唇を寄せる。

 「なんで逃げるの?酷いじゃないか──・・あんなに愛し合ったのに。」

 ゾッとする男の言葉に、今にも叫びたい衝動に駆られるが恐怖で震えて声が出ない。

 男は左手で迅鵺の左膝を抱えてベッドの上に脚を乗せると思いっきり足を開かせた。
反対の右手はスウェットのズボンから下着の中へ入れて、まだ軟らかい迅鵺のモノを直に触り出す。

 やっ、やめろっ───!!

 目の前には、電気を消そうとしてドアの前に立った響弥さんが──・・

 「迅鵺、電気消す──・・ぞ・・」

 ああっ・・男にこんな事をされているだなんて見られたくなかった。知られたくなかった!

 「お前、何してんだよ・・」

 軽蔑されたに違いない。
 ずっと憧れ、慕ってきた響弥さんに・・

 迅鵺は瞳に滲ませた涙を溢さないよう必死に堪えるが、そんな迅鵺にお構い無しに男は行為を続けた。

 「今から、彼に見せてあげなきゃね・・君の身体は俺のモノだって。」

 い、いやだっ!やめろ・・俺に触るなっっ!

 「さあ、まずは自分でズボンを脱いで?それから自分のを触るんだ。ああ・・まだパンツは脱いじゃ駄目だよ。パンツの上から厭らしく触るんだ。」

 そっ、そんなこと出来る訳ねぇだろっ!!

 迅鵺を弄ぶような笑みを含んだ声が耳元で聞こえて、迅鵺は震えて力の入らない体で拒絶するが、いとも簡単に押さえ付けられる。

 ふざけんなっ!なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだっ!

 けれど、次の男の言葉に迅鵺は怒りで震えながらも言うことを聞かざるをえない状況になる。

 迅鵺の腹にあった左手が、タンクトップの上から身体を這うように上へと動いていき、首をねっとりと絡めとられる。

 「気が強いのもいいけど、いいのかな?この熱くなった俺のモノを今すぐ君の中に突っ込むことも、俺には簡単に出来るんだよ?」

 ───────っ!?

 ずっと憧れていた響弥が迅鵺のすぐ目の前に居る。

 けれど、今この場で犯されるくらいなら・・

 怒りでどうにかなりそうな思いと同時に、羞恥心と軽蔑されるんじゃないかという気持ちで頭も身体もぐちゃぐちゃだ。
   暴れる心音を自分の中から感じながらベッドから立ち上がった迅鵺は、男の貼り付くような強い視線を背後に感じつつ、ゆっくりとスウェットのズボンに指を掛けて、そのまま下へと下げた。

 迅鵺は立ったまま震える手でボクサーパンツの上から撫でるように触れる。

 くっ、くそぉ──・・響弥さん、見ないでくれっ・・

 「おいっ!迅鵺てめぇ、いくら溜まってるからって俺の部屋ですんじゃねえっ!」

 響弥の言葉に違和感を感じた迅鵺は、ある可能性が頭に浮かぶ。

 「きょ、響弥さん・・コイツが見えないんすか?」

 「はあっ!?何意味わかんねぇこと言ってやがるっ!」

 響弥には男の姿が見えていなかったのだ。

 という事は、響弥には迅鵺がいきなり自慰を始めたように見えているということ。

 男は最初から気付いていて迅鵺に自慰を強要した。

 その事に気付いた迅鵺は更に怒りが湧いてきて、あまりの羞恥心に顔を真っ赤にする。
 迅鵺は一発殴ってやろうと身を捩らせようとしたけれど、ビクとも体が動かなかった。

 男の思いひとつで迅鵺の自由を奪う事が出来るのだろうか?

 昨日もここぞという時、身動きが取れなかった事を思い出すと、迅鵺は悔しさと情けなさが溢れてきて必死に堪えていた涙をついに溢してしまう。

 「────ほら、続けて?」

 この男は、なんて最低な野郎なんだ──・・

 どんなに抵抗したって、この男の前では全てが無力化となってしまう。
 迅鵺は半ば諦めたように自慰行為を続けた。

 「やめろって言ってんだろっ!」

 迅鵺の気持ちは響弥には伝わらない。
   ボクサーパンツの上からだとはいえ、他人の男の自慰行為を見ていられなくて声を荒げる。
 いつもと様子がおかしいと気付いてはいても、響弥の目に映るのは自慰をする迅鵺の姿。

 人間というモノは自分の目で実際に見たものを信じやすく、目に見えないモノは否定しやすいもの。
 響弥も例外ではなかった。

 初めて見る迅鵺の涙に戸惑いつつも、迅鵺の股間がパンツ越しに膨らんできているのに気付き、ついに見るに耐えられなくなった響弥は部屋を出て行こうとした。

 「────てめぇが辞めねぇんなら、俺が出ていく!後で覚えてろよっ!」

 響弥の言葉に、迅鵺はこれ以上見られなくて済む・・そう思って晏如する。

 けれど──・・

 「────はあっ!?なんだ・・これっ・・体が動かねえ・・」

 部屋を出て行こうと振り返ろうとした響弥は、身動きが取れない事に冷や汗をかいて混乱している様子だ。

 目の前には、泣きながら自慰をする迅鵺。
 “コイツが見えないんすか?”という意味不明な言葉。
 金縛りにでも遭ったように動かない体。

 普通の人間なら恐怖して当然な状況だろう。
 こんな異様な光景の中、この男だけは笑っていた。

 「さあ、迅鵺。下着を脱ぐんだ。」

 「ふぅっ・・うっ──・・」

 恥辱に負けそうになりながらもボクサーパンツを自らの手で下へ下げると、上半身だけ黒いタンクトップを着ているという不恰好だけれど、迅鵺の色白な肌と反り立つ肉棒が強調され、なんとも厭らしく見える。

 その強調された部分を直接手で握ると遠慮がちにゆっくりと上下させた。

 「迅鵺君・・そんなんじゃもどかしいだろう?もっと、しっかりと動かすんだ。」

 男は背後から右手を伸ばすと迅鵺の先端に溜まった透明の汁を先端に塗り手繰るように握ってグリグリと動かした。

 その瞬間、迅鵺の身体は大きく反らしてしまい急な強い刺激に声まで大きくさせる。

 「ああっ!──・・はあっ・・あっ・・」

 恥ずかしいっ・・でも、気持ちイイ・・ちくしょおっ──・・

 歯を食い縛り、目を固く瞑る姿から悔しい気持ちが手に取るように分かる。

 そんな迅鵺の姿に響弥は目が離せなくなっていた。
 金縛りになっている事を忘れてしまっているくらいに──・・

 その証拠に響弥の目は見開かれ頬は赤く高揚していて、生唾を呑み込んでいる。

 何よりも響弥の下半身は、熱く反応していた。

 迅鵺を見て興奮している響弥に気付いた男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて迅鵺のタンクトップを捲った。

 すると、響弥は驚きの表情を見せた。
 迅鵺は触っていない筈の服が勝手に捲れたのだから。

 腹、胸と徐々に露になっていく汗でしっとりとした迅鵺の身体。
 男は迅鵺に耳打ちをするとタンクトップを脱ぐように促した。

 迅鵺は火照った視線を響弥に送ると躊躇せずタンクトップを脱ぎ捨てる。

 “どうせ恥ずかしい姿を既に見せてるんだ”

 そう諦めているのだろう。

 完全に裸となった迅鵺の身体には、昨晩付けられた痣があちこちに付いている事に響弥は気付いて目を見張った。

 「お前っ・・それ──・・」

 こんな状況でも心配してくれる響弥に胸を痛める。
 迅鵺は、事実を響弥に伏せていたのだから。

 そんな気持ちからか迅鵺が響弥から目を逸らした時、男は迅鵺の背後から左手で乳首に触れると、ギュッときつく摘まむ。

 痛みに顔をしかめる迅鵺に興奮しながら男は続けた。

 摘まんだ乳首を指で捏ねて、弾き、また強く摘まむ。
 右手は迅鵺のパンパンに腫らした肉棒を握って、そのまま上下させると床へ滴り落ちる程、先端から溢れさせていた汁がぐちゅぐちゅと厭らしい音を室内へ響かせた。

 「あっ・・あっ・・はぁ、あっ・・」

 響弥の目に映るのは、勝手に動く迅鵺のツンと勃った乳首と汁を飛び散らせる肉棒。

 迅鵺自身は汗ばんだ厭らしい身体を仰け反らせ、弛んだ唇からは艶めく涎を垂らし瞳を潤ませている。

 こんなあり得ない普通ではない光景だというのに、響弥は迅鵺の綺麗な身体と顔を厭らしく歪ませ悶え喘いでいる姿に、熱を孕んだ高鳴る鼓動を鎮ませる事が出来ないでいた。

 ついに響弥自身の欲望を抑える事が出来なくなり、迅鵺に反応し苦しくなった自らの肉棒に手を伸ばそうとした時、響弥は辛うじて理性を取り戻した。

 迅鵺の肩から血が流れ落ちるのを目にしたからだ。

 「─────っ!?迅鵺っ!お前っ、血が・・」

 迅鵺は男に噛み付かれ、あまりの痛みに顔を歪めるけれど、同時に与えられる快楽に身を震わせ周りが見えなくなっていた。

 「ああ"っ!!───・・ふぅ、うっあっ」

 そんな迅鵺を愛しそうに眺めながら男は肩から口を離し、迅鵺の頬へ口付けた。

 「可愛いよ。俺の迅鵺・・さあ、アイツに見せ付けてあげるんだ。俺の手でイカされるところを。」

 男はそう言った瞬間、迅鵺の肉棒をより強く握り速く動かした。

 「ひあっ!あっ・・あ、いっ・・イクっ──・・」

 迅鵺は白い液体を自分の顔にかかるくらい高く噴射させ、パタパタっと床に落とす。

 迅鵺は、ついに絶頂を迎えてしまった────












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