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第六話 路地裏にレースクイーンが居た
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レビアタンと別れて僕は家路についた。
右翼かあ。悪魔を泊めようという人はなかなかいないのだろうなあ。
それを考えると、天使であるガルガリンの方が恵まれている感じだな、シスターさんは優しそうだ。
などと考えながら歩いていると、マイクを持った雅谷マサオが僕の前に立ちふさがった。
「やあ、君は浜崎第四中学校生徒だよね、今日は天使と悪魔が転入した初日だったけど、どうだった?」
ワイドショーレポーターの雅谷マサオは、テレビで見るよりもほっそりしていた。彼の後ろにカメラマンが居て、僕にレンズを向けていた。
「いや、あのその……」
「お茶の間の皆さんは、レビアタンちゃんとガルガリンちゃんが、どんなふうに学校で過ごしているか、すごく興味があるんだ。どうだったの? 学校で騒ぎになった?」
「い、いえ別に」
「さっきまでレビアタンちゃんと一緒だったよね、仲良くなったの? どうなの君?」
「い、急いでますので」
「まってまって、お礼はするからさ、ちょっとだけ、インタビューさせてよ」
無視していこうとする僕の肩をぐいっと掴んで、雅谷マサオはカメラの前に引き寄せた。
「行くことないじゃんかよ、坊や、国民のみんなの関心なんだぜ。君には話す義務がある」
マイクを外し、小声で脅すように雅谷マサオは言った。
「そんなのありません」
「大人なめんなよ、ガキッ……」
ぎゅうぎゅうと雅谷マサオは僕の肩を握りしめた。
すごく痛い。
バアアンと凄い音がして、雅谷マサオがひっくり返った。カメラマンが唖然とした顔でこちらを見ていた。
水着? いや、なんかピカピカ光る青いレオタードの女の人が、でかいパラソルで雅谷マサオをどついたのだ。
「なんだっ! 貴様っ!!」
「魔女」
レースクイーンみたいな格好をした、その綺麗なお姉さんはぼそりと言った。
「ま、魔女?」
「魔女は予言する。今すぐテレビ局に帰らないと、雅谷マサオは後悔する。なぜなら、ここで撮ったビデオはまったく報道に使われず、リポーターの仕事も明日から無くなる、テレビ業界に君の居場所はまったくなくなる」
「貴様っ! せ、政府関係者だなっ!! 横暴だっ!! われわれには報道の自由があるっ!!」
「私は魔女と言ったはずだ。政府関係者がこんな格好で街をうろついている訳があるか」
雅谷マサオはカメラマンを見た。そして歯ぎしりをした。
「どうした、レースクイーンの私ごと撮って、報道したらどうだ? それがまともな報道と見なされると思っているならな」
「き、きたねえぞっ!」
「魔女は汚い手をつかうものだ」
「お、おぼえてろよっ!!」
雅谷マサオは吐き捨てるように言うと、カメラマンを連れて走って逃げた。
「……あ、ありがとうございます」
「礼にはおよばん、魔女の仕事のうちだ」
「は、はあ、そうですか」
何だかレースクイーンのような格好をした、綺麗なお姉さんにじっと見つめられるとどぎまぎした。
お姉さんはパラソルを開いた。
「少し、ヨブに話がある。いいだろうか」
「ヨブって呼ぶのはやめてください」
魔女のお姉さんはきゅっと笑った。
「わかった、吉田文平君。来たまえ」
うっかり流したけど、この人は学校であったことを知ってるんだ。と僕は気がついた。
自称魔女さんに連れて行かれたのは、児童公園だった。
喫茶店のテラスに置かれているような丸いテーブルが置いてあって、魔女さんはそこにパラソルを差し込んで開いた。
「座りたまえ、コーヒーで良いな」
「は、はあ……」
メイドさんがお盆にコーヒーをのせてやって来て、僕たちの前に置いた。
「な、なんでコスプレなんですか」
「魔女だから」
ぺこりと一礼して、メイドさんは木立の奥に消えた。
なんだか大きくて黒いバンが、公園の隣の道にのっそりと停まっていた。
「どうして、教室であったことを知ってるんですか?」
「魔法で知った。映像が四元、音声が十二元で中継される」
「隠しカメラとマイクですか」
「魔法にしておけば、いろいろ角がたたなくて良い」
なんだか、すっとぼけた人だな。
僕はコーヒーをすすった。地獄のように熱くて苦い。
「魔女は希望する。少年は、あのまま二人を引きつけておいてくれ」
「ガルガリンとレビアタンですか?」
「うむ、なるべく長くだ」
「どうして僕がそんなことを」
「あくまで希望だ、嫌ならばしかたがない、他の手段をこころみる」
「嫌ではないですけど……」
「少し教えておく。あの二人は子供ではない」
「そ、それは解ってます」
「君は解っていない」
魔女さんはレオタードの胸から二枚の写真を出した。
金髪で映画スターのように格好いい男と、黒髪のすごく綺麗でセクシーな女がそれぞれ写っていた。
「これは、誰で……」
金髪はガルガリンに似ていた、兄妹だと言っても僕は信じた。
女の人はレビアタンに似ていた、お姉さんでも不思議ではない。
「この学校に来る前の二人だ、旅行中のな」
「で、でも、ガルガは性別が、レビィは年齢がっ!」
「姿形は擬態なのだと言われている。なんとも魅力的な二人でね、天使についた二人の案内役は敬虔なクリスチャンに回心した。、悪魔についた案内役二人は……。大人っぽく堕落したよ」
僕の汗がぽたりと、大人レビアタンの写真の上に落ちた。
「あの姿に変じたのは、くじ引きで浜崎第四中学校へ編入が決まってからだ、精神的メンタリティも以前とはずいぶん違う」
「偽物、なんですね」
「さあ、どうだろうか、何が本物で何が偽物なんだい? 巨大な海の怪獣がレビアタンの本当なのか? 主を運ぶ炎熱の車輪の姿がガルガリンの本当なのか? とりあえず、解っているのは、彼女らは我々とは違う存在だという事だけだ」
手がぶるぶる震えていた。
可愛い二人の女の子だと思っていた。
確かに天使と悪魔と言われてるけど、しゃべってみるとちょっと頭が悪いけど、良い子たちにしか思えなかった。
でも、ぜんぜん違うんだと今、解った。
昔の写真を見て解った。
あの姿は、すごい悪意のある嘘。人に警戒されないように、人が油断するように、人に愛させるように作られた「嘘」なんだと、解った。理解した。
そしてなんだか、すごく悲しかった。
「時間を稼ぎたい」
「ど、どうして」
「ふふ、知れたことを聞くな、少年。弱点を見つけて、天使も悪魔も人間界から叩き出してやるのだ」
「これまでに何か弱点とかがわかったんですか」
「いや何にも」
「二年間、何やってたんですかっ!」
「彼女たちが本当に天使と悪魔なのかもわからない。聖書の天使と悪魔なのか、中世の悪魔学の天使と悪魔なのかさえもわかっていない」
「ち、ちがうものなんですか? 聖書と中世では」
「まるっきりの別物だ」
「時間を稼げば成算はあるんですか」
魔女さんはにっこり笑った。
「人は無駄なあがきをするものなんだ」
「何の成算もないんですね」
「人というものは、天使にもなれず、悪魔にもなれない中途半端な道を蛇行しながらうろうろする生き物だ」
そう言って魔女さんはコーヒーをすすった。
僕はまた、げんなりした。
「半年後、来年の一月一日に別の次元で、天使と悪魔の大決戦があるそうだ。それまでどちらつかずの態度で時間を稼いで欲しい」
「どうして、僕がそんな」
「きまっているだろう、吉田文平は漢だからだ」
くそ。
ヨブだからと言われるよりは良いけど、結局僕が大変なのはなにも変わらないじゃないか。
「男の子というものは、時に無意味に頑張るものだ。困った事があったら黒いバンを探せ。この名刺を見せれば大抵の願いは叶うだろう」
そう言うと、魔女さんは、僕に名刺を渡した。
”魔女株式会社 魔女”
と可愛い書体で、書かれていた。
「では、さらばだ」
魔女さんはパラソルを引き抜くと、モデル歩きで去っていった。
メイドさんがやって来てカップを回収し、黒い背広の人がテーブルと椅子を運んで行った。
……政府の人も大変だなあ。
右翼かあ。悪魔を泊めようという人はなかなかいないのだろうなあ。
それを考えると、天使であるガルガリンの方が恵まれている感じだな、シスターさんは優しそうだ。
などと考えながら歩いていると、マイクを持った雅谷マサオが僕の前に立ちふさがった。
「やあ、君は浜崎第四中学校生徒だよね、今日は天使と悪魔が転入した初日だったけど、どうだった?」
ワイドショーレポーターの雅谷マサオは、テレビで見るよりもほっそりしていた。彼の後ろにカメラマンが居て、僕にレンズを向けていた。
「いや、あのその……」
「お茶の間の皆さんは、レビアタンちゃんとガルガリンちゃんが、どんなふうに学校で過ごしているか、すごく興味があるんだ。どうだったの? 学校で騒ぎになった?」
「い、いえ別に」
「さっきまでレビアタンちゃんと一緒だったよね、仲良くなったの? どうなの君?」
「い、急いでますので」
「まってまって、お礼はするからさ、ちょっとだけ、インタビューさせてよ」
無視していこうとする僕の肩をぐいっと掴んで、雅谷マサオはカメラの前に引き寄せた。
「行くことないじゃんかよ、坊や、国民のみんなの関心なんだぜ。君には話す義務がある」
マイクを外し、小声で脅すように雅谷マサオは言った。
「そんなのありません」
「大人なめんなよ、ガキッ……」
ぎゅうぎゅうと雅谷マサオは僕の肩を握りしめた。
すごく痛い。
バアアンと凄い音がして、雅谷マサオがひっくり返った。カメラマンが唖然とした顔でこちらを見ていた。
水着? いや、なんかピカピカ光る青いレオタードの女の人が、でかいパラソルで雅谷マサオをどついたのだ。
「なんだっ! 貴様っ!!」
「魔女」
レースクイーンみたいな格好をした、その綺麗なお姉さんはぼそりと言った。
「ま、魔女?」
「魔女は予言する。今すぐテレビ局に帰らないと、雅谷マサオは後悔する。なぜなら、ここで撮ったビデオはまったく報道に使われず、リポーターの仕事も明日から無くなる、テレビ業界に君の居場所はまったくなくなる」
「貴様っ! せ、政府関係者だなっ!! 横暴だっ!! われわれには報道の自由があるっ!!」
「私は魔女と言ったはずだ。政府関係者がこんな格好で街をうろついている訳があるか」
雅谷マサオはカメラマンを見た。そして歯ぎしりをした。
「どうした、レースクイーンの私ごと撮って、報道したらどうだ? それがまともな報道と見なされると思っているならな」
「き、きたねえぞっ!」
「魔女は汚い手をつかうものだ」
「お、おぼえてろよっ!!」
雅谷マサオは吐き捨てるように言うと、カメラマンを連れて走って逃げた。
「……あ、ありがとうございます」
「礼にはおよばん、魔女の仕事のうちだ」
「は、はあ、そうですか」
何だかレースクイーンのような格好をした、綺麗なお姉さんにじっと見つめられるとどぎまぎした。
お姉さんはパラソルを開いた。
「少し、ヨブに話がある。いいだろうか」
「ヨブって呼ぶのはやめてください」
魔女のお姉さんはきゅっと笑った。
「わかった、吉田文平君。来たまえ」
うっかり流したけど、この人は学校であったことを知ってるんだ。と僕は気がついた。
自称魔女さんに連れて行かれたのは、児童公園だった。
喫茶店のテラスに置かれているような丸いテーブルが置いてあって、魔女さんはそこにパラソルを差し込んで開いた。
「座りたまえ、コーヒーで良いな」
「は、はあ……」
メイドさんがお盆にコーヒーをのせてやって来て、僕たちの前に置いた。
「な、なんでコスプレなんですか」
「魔女だから」
ぺこりと一礼して、メイドさんは木立の奥に消えた。
なんだか大きくて黒いバンが、公園の隣の道にのっそりと停まっていた。
「どうして、教室であったことを知ってるんですか?」
「魔法で知った。映像が四元、音声が十二元で中継される」
「隠しカメラとマイクですか」
「魔法にしておけば、いろいろ角がたたなくて良い」
なんだか、すっとぼけた人だな。
僕はコーヒーをすすった。地獄のように熱くて苦い。
「魔女は希望する。少年は、あのまま二人を引きつけておいてくれ」
「ガルガリンとレビアタンですか?」
「うむ、なるべく長くだ」
「どうして僕がそんなことを」
「あくまで希望だ、嫌ならばしかたがない、他の手段をこころみる」
「嫌ではないですけど……」
「少し教えておく。あの二人は子供ではない」
「そ、それは解ってます」
「君は解っていない」
魔女さんはレオタードの胸から二枚の写真を出した。
金髪で映画スターのように格好いい男と、黒髪のすごく綺麗でセクシーな女がそれぞれ写っていた。
「これは、誰で……」
金髪はガルガリンに似ていた、兄妹だと言っても僕は信じた。
女の人はレビアタンに似ていた、お姉さんでも不思議ではない。
「この学校に来る前の二人だ、旅行中のな」
「で、でも、ガルガは性別が、レビィは年齢がっ!」
「姿形は擬態なのだと言われている。なんとも魅力的な二人でね、天使についた二人の案内役は敬虔なクリスチャンに回心した。、悪魔についた案内役二人は……。大人っぽく堕落したよ」
僕の汗がぽたりと、大人レビアタンの写真の上に落ちた。
「あの姿に変じたのは、くじ引きで浜崎第四中学校へ編入が決まってからだ、精神的メンタリティも以前とはずいぶん違う」
「偽物、なんですね」
「さあ、どうだろうか、何が本物で何が偽物なんだい? 巨大な海の怪獣がレビアタンの本当なのか? 主を運ぶ炎熱の車輪の姿がガルガリンの本当なのか? とりあえず、解っているのは、彼女らは我々とは違う存在だという事だけだ」
手がぶるぶる震えていた。
可愛い二人の女の子だと思っていた。
確かに天使と悪魔と言われてるけど、しゃべってみるとちょっと頭が悪いけど、良い子たちにしか思えなかった。
でも、ぜんぜん違うんだと今、解った。
昔の写真を見て解った。
あの姿は、すごい悪意のある嘘。人に警戒されないように、人が油断するように、人に愛させるように作られた「嘘」なんだと、解った。理解した。
そしてなんだか、すごく悲しかった。
「時間を稼ぎたい」
「ど、どうして」
「ふふ、知れたことを聞くな、少年。弱点を見つけて、天使も悪魔も人間界から叩き出してやるのだ」
「これまでに何か弱点とかがわかったんですか」
「いや何にも」
「二年間、何やってたんですかっ!」
「彼女たちが本当に天使と悪魔なのかもわからない。聖書の天使と悪魔なのか、中世の悪魔学の天使と悪魔なのかさえもわかっていない」
「ち、ちがうものなんですか? 聖書と中世では」
「まるっきりの別物だ」
「時間を稼げば成算はあるんですか」
魔女さんはにっこり笑った。
「人は無駄なあがきをするものなんだ」
「何の成算もないんですね」
「人というものは、天使にもなれず、悪魔にもなれない中途半端な道を蛇行しながらうろうろする生き物だ」
そう言って魔女さんはコーヒーをすすった。
僕はまた、げんなりした。
「半年後、来年の一月一日に別の次元で、天使と悪魔の大決戦があるそうだ。それまでどちらつかずの態度で時間を稼いで欲しい」
「どうして、僕がそんな」
「きまっているだろう、吉田文平は漢だからだ」
くそ。
ヨブだからと言われるよりは良いけど、結局僕が大変なのはなにも変わらないじゃないか。
「男の子というものは、時に無意味に頑張るものだ。困った事があったら黒いバンを探せ。この名刺を見せれば大抵の願いは叶うだろう」
そう言うと、魔女さんは、僕に名刺を渡した。
”魔女株式会社 魔女”
と可愛い書体で、書かれていた。
「では、さらばだ」
魔女さんはパラソルを引き抜くと、モデル歩きで去っていった。
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