上 下
4 / 16

第四話 阿弥陀様という概念

しおりを挟む
 そう、阿弥陀仏あみだぶつ阿弥陀仏あみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつだ。

 浄土真宗は鎌倉時代初期、法然の弟子親鸞さまが設立した、わりと新しい仏教で、他力本願、南無阿弥陀仏と唱えれば悪人だって極楽往生間違い無しの、ありがたい宗派だ。
 なお、真宗の一派は一向宗と呼ばれ、戦国時代には織田信長を大いに苦しめた本願寺勢として大活躍した。
 そんな素晴らしい宗派を両親が信心しているのを、危うい所で僕は思い出したのだった。

 僕が阿弥陀様を信仰してると言っても、まあ、法事にお坊さんのお経聞いて、両足を痺れさせて困る程度なんだけど。
 信仰の厚い義人に不幸をばらまいたりするような西洋の神様よりは百倍ましである。
 僕は突然回心し、阿弥陀に帰依し、一心不乱に心の中で南無阿弥陀仏を唱えたのであった。

「なんだよー、異教徒なのかー」
「じゃあ、賭けにはならないわね~。吉田君のご両親をぶっ殺そうと思ったのに~」

 ぶっそうな事言うな。常識のない悪魔っ子め。

「ああ、そうだ」
「なになに~?」
「こいつら犬にも劣る異教徒なんだからさ。絶滅させちゃおう」
「ああ、それいいかも~」

 クラス全員の顔色が真っ白に変化した。

「ふざけんなてめえらっ!! 神を信じる奴らだけがエライのかよっ!!」
「神を信じるのは、人間の義務だよ?」

 ガルガリンが、不思議そうな顔で僕を見た。

「神様信じてない人はだめだよう~」
「なんで、レビィは悪魔の癖に神様の肩もつんだよ、異教徒は味方だろっ!」
「えー、ちがうよう、悪魔の本当の仕事は、神への信仰が厚い人を堕落させる事なんだよー。異教徒はまあ、居てもいいかなってくらい」
「天使は異教徒を許さないっ!! 殲滅だっ!!」

 ガルガリンの車輪が回転数を上げ、唸りを上げた。
 まずい、まずい、天使様に日本国民が殲滅されちゃうっ!

「人間界の32.9%がキリスト教徒。19.9%がイスラム教徒。13.3%がヒンズー教徒。儒教・道教・中国民間信仰が6.4%。仏教は5.9%ですよ。キリスト教系とイスラム系を合わせても53%、異教徒を殲滅すると、世界の人口が半分になりますよ」

 芳城がナイスつっこみをしてくれた。

「そ、そんなに神を信仰していない異教徒が居るのかっ!」

 ガルガリンが天を仰ぎ、遠い目をして言った。

「キリスト教とイスラム教は混ぜていいのか?」
「ええ、一応根っこが同じ宗教で、信仰してる神様一緒だし、旧約聖書も読むのよ」

 アラー様とエホバ様は同一人物だったのか!
 あと、仏教は結構マイナーな宗教なんだなあ。

「あ、良いこと思いつきました~」

 レビアタンが手をぱたぱた打ち合わせて嬉しそうに言った。

「異教徒なのはしょうがないので、吉田君が、私とガルガちゃんのどっちが好きかで決めるの」
「それは……、簡単でいいや。勝手に人間を殲滅するとラファエル教官が怒りそうだし」

 なんだそれは……。

「女性として……ですか?」

 芳城が確認した。

「うん、ガルガちゃんと私と、どっちが女性として好きかで決めるの」
「ふん、女性としても、このガルガリンの美しさ、心根の綺麗さで、勝負は解っているさ」
「えー、吉田くんは、私の事好きだよ。さっきキスしたいとか言ったし」

 なんだか、クラス中の白い目が僕に集中している。
 天使と悪魔はニマニマしながら、僕の前で立っていた。
 僕はなんだかすごくゲンナリした気分で肩を落とした。

 僕はすたすたと歩き、車輪の上のガルガリンの手を掴んで引っぱり下ろした。

「うっ」
「僕はガルガリンが好きだ!」

 うおおおと、クラス中が動揺し、ガルガリンの頬がぱあっと赤くなり、レビアタンの目が泣きそうに潤んだ。

「や、やっぱりね、う、うれしくなんかないぞ、ほんとに……」

 僕はすたすたと、レビアタンの前へ歩いていき、なんかラブリーな爪がついた手を取った。

「僕はレビアタンが好きだ!」

 ふにゃっとレビアタンの顔がほころび、満面の笑顔になって、赤面した。

「うわわー、うれしい……。って、どっちがどうすきなの~~!」
「どっちも好きだ、以上!」
「どっちか一人だっ!!」
「この、浮気者~~!」

 ガルガリンに胸ぐらをつかまれ、レビアタンが僕の腕を引っぱった。

「そんなものは、僕は決めないっ!!」

 わあわあ揉めているとチャイムがなって、五時間目の品川先生がやってきて、騒ぎはお開きとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...