かっぱかっぱらった

川獺右端

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第七話 爆発する夜

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「発射は明日じゃなかったのかよっ!」
「姫さん、きまぐれだからなー」
「結はなんで留守番?」
「いやあ、もしかしたらムラサメに昔の友だち居るかもーと思ったらおっくうで。気がすすまんと姫さまに言ったら掃除してろーと言われた」

 ああ、結も俺と同じなんだな。

 俺はムラサメが居る方向を見た。
 今から原潜に追いつく事が出来るだろうか。
 そして、センサーに落書きは可能だろうか。

 もの凄い量の光の束が水平線の向こうに発生した。

 ……無理みたいだ。

「うお、破裂した」

 真昼のような光が辺りを覆った。
 ビルの看板がジュウジュウ音をたてて変色していった。
 俺と結の居る場所は原子の光からちょうど影になっていたが、眩しくて目を開けていられなかった。
 空気が熱くなったので、急いで海に飛び込んだ。

「あれー? なんか威力がでかくねえ?」

 人魚姫は十キロほど距離を置いて見物しろと魔法使いさんに言っていた。

 ……。

 ここからムラサメは十キロどころの距離では無いはずなのだが……。
 水平線に超巨大なキノコ雲がむくむくとふくれあがりはじめた。
 ひゅうと風が吹き始めた。
 空がごろごろと唸りを上げ、雲が狂った馬のように走っていた。
 思ったよりメガトン数が大きかったのか……。
 それとも……。
 いや、まさか……。

「なあ、核魚雷に積んであったのは、原爆? 水爆?」
「えっ、どうちがうの?」
「主に威力かな。水爆は原爆の何百倍……」
「げげげ原爆だって言ってたよ、人魚姫は」

 水平線に壁が出来た。
 水で出来た高い壁。
 津波だ。

「科学者はいたのかい?」
「居たよ! 電気の専門家と化学の専門家が居た」
「かがく……。ばけがく?」
「ばけがく、ゆうきばけがく」

 有機化学……。

「核爆弾に必要な学問は、物理学だ……」
「あら!」

 水の壁は見上げるばかりになって、俺たちに押し寄せてきた。

 水が竜巻みたいな勢いで俺たちを飲み込み、めちゃくちゃにシェイクした。
 体がバラバラになりそうな水圧にぐるんぐるん振り回されて目も開けられない。
 どこかにぶつかって死ぬか、何かに当たって体がちぎれるかするのだろうと思った。
 上も下も解らず、暴力的な水流に、ただ流された。
 こういうときは力んではいけない。俺は胎児のように体を丸めた。
 背中には防水リュックがあり、その下には甲羅がある。
 水の中で呼吸も出来るから人間よりは随分生存率が高い。
 結も近くを流されているのだろうが、水が濁って一寸先も見えないし、目にゴミが入って痛いので、じっと目を閉じ流されるままにしていた。

 しばらくすると水の圧力が消えた。
 浮上してみると、海上は大波がぐわんぐわん蠢いていた。
 空はかき曇り、稲妻が走っていた。

「そろそろ死の灰が降りますよー! あぶないから上がってきなさいー!」

 声の方に向くと、ひんまがった東京タワーがあって、展望台に魔法使いさんが立っていた。
 なんと、水道橋から芝公園まで流されたのか!
 結がちょっと先の海面でうつぶせになって気絶していた。
 人魚も河童も頑丈だなあと俺は思った。

 展望台にあがる縄ばしごを結を背負って上がった。
 結は粘液でぬらぬらしていて背負いにくい。
 俺が大汗をかいているというのに、奴はふにゃふにゃと寝言を言っていた。

 縄ばしごの終わりで魔法使いさんが待っていた。

「いやあ、人魚姫はやることが違いますね。原爆のつもりで水爆を打ち込むとは、普通の人にはできません」

 普通の人は核魚雷持ってないしな。

「やっぱり水爆?」
「実験用のものだったのでしょう。アメリカ海軍も馬鹿な兵器を開発するものです」

 展望台の窓にぽつりぽつりと真っ黒な雨があたりはじめた。

「死の灰は24時間でだいたい降り終わるそうです。今日はここに泊まっていきなさい」

 魔法使いさんの住居は雑多な電子機器で埋め尽くされていた。魔法使いというよりも、ハッカーだなあと俺は思った。

「ムラサメは消滅してますね。ただ、人魚姫さんたちもただではすんで居ないでしょう」

 液晶ディスプレイに、衛星からの画像が映っていた。
 何もない暗い海面が平たく映っていた。
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