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41、宿敵現る
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仕事を終え、城の廊下を歩いていると、メイド服を着た見知らぬ女性の姿が目に止まる。何が気になったのかと言えば、それはもうカンとしか言いようがない。
しかし顔を見れば記憶にはない人物だ。私は城で働くすべての人間を記憶している。
客人のメイドという可能性もあるけれど、だとしたらこの城のメイド服を着ているのはおかしい。
こっそり後をつければ、彼女が進もうとしているのは立ち入り禁止区域だ。これ以上は見過ごせない。
声をかけると女性は何気ない顔で答えてみせる。
「この先は立ち入り禁止ですよ。もしかして迷ってしまいましたか?」
「そうみたいですね。すみません、新しく入ったもので」
「どちらにご用ですか?」
「厨房の方へ」
よりによって私の前で厨房を指定するとは運が悪い。厨房は私の庭だ。
「案内しますよ」
「いえそんな! 教えて頂ければ十分です!」
「私も入ったばかりの頃はよく迷っていたので、一人でたどり着くのは大変ですよ。遠慮しないで下さい」
メイドはしぶしぶありがとうございますと言った。心の中はとても感謝しているとは思えない顔で。
おそらくはどこかの密偵か、あるいは裏家業の人間か。いずれにしろ、私の目が黒いうちはこの城で好き勝手をさせるわけにはいかない。
厨房へ案内すれば、女性はいよいよ口を閉ざしてしまった。
「着きましたよ」
もう言い逃れは出来ない。となると次の行動は……!
予測した通り、女性は服の下に隠したナイフで攻撃を繰り出す。想定内であれば身をかわすのは容易だ。
「あんた何者!?」
攻撃をかわされたことでただ者ではないと判断されてしまった。でも攻撃されたら誰だって避けますよね?
「見てわかりませんか?」
私は軽くスカートの裾を持ち上げる。どうみてもこの城で働く人間でしょう。
「見てわかんないから聞いてんのよ!」
「ただの厨房勤務者ですが」
「嘘でしょう!」
嘘だと言い切る女性は攻撃の手を休めずに怒りもぶつけてくる。
私は攻撃をかわしながら冷静に分析をしていた。
戦闘能力はそれほど高くない。ということは、情報収集の密偵の可能性が高いか……彼女には悪いけれど、なおさらこの城の機密をくれてやるつもりはない。
「その身のこなし、ただの城仕えなわけないでしょう!?」
「雇い主に確認でもとりますか? もちろん貴女の素性と一緒に」
出来ないと分かった上で相手を挑発する。
相手が冷静さを欠くほど私にとっては都合が良い。相手の行動を記憶したり、癖を見抜くのは得意だ。
この人は左からの攻撃に弱くて、不意打ちをくらうと後退する癖がある。
「私の言葉が嘘ではないことは、すぐにわかると思いますよ」
私は攻撃をよけながら、女性をある場所へと誘導していく。
そして思い切り、左側から攻撃を繰り出した。
「っ!?」
とっさに後退した女性は棚に背をぶつける。
その拍子に棚からボールや鍋といった料理器具が溢れ、洪水のように彼女を押しつぶした。
「あ、んた……」
押しつぶされた女性はうめき声を上げて沈黙する。
「厨房で働いていると言いましたよね。ここは私の庭も同然、棚の内部に至るまで詳細に把握しています」
片付け下手な先輩にもたまには感謝しておこう。
しかし顔を見れば記憶にはない人物だ。私は城で働くすべての人間を記憶している。
客人のメイドという可能性もあるけれど、だとしたらこの城のメイド服を着ているのはおかしい。
こっそり後をつければ、彼女が進もうとしているのは立ち入り禁止区域だ。これ以上は見過ごせない。
声をかけると女性は何気ない顔で答えてみせる。
「この先は立ち入り禁止ですよ。もしかして迷ってしまいましたか?」
「そうみたいですね。すみません、新しく入ったもので」
「どちらにご用ですか?」
「厨房の方へ」
よりによって私の前で厨房を指定するとは運が悪い。厨房は私の庭だ。
「案内しますよ」
「いえそんな! 教えて頂ければ十分です!」
「私も入ったばかりの頃はよく迷っていたので、一人でたどり着くのは大変ですよ。遠慮しないで下さい」
メイドはしぶしぶありがとうございますと言った。心の中はとても感謝しているとは思えない顔で。
おそらくはどこかの密偵か、あるいは裏家業の人間か。いずれにしろ、私の目が黒いうちはこの城で好き勝手をさせるわけにはいかない。
厨房へ案内すれば、女性はいよいよ口を閉ざしてしまった。
「着きましたよ」
もう言い逃れは出来ない。となると次の行動は……!
予測した通り、女性は服の下に隠したナイフで攻撃を繰り出す。想定内であれば身をかわすのは容易だ。
「あんた何者!?」
攻撃をかわされたことでただ者ではないと判断されてしまった。でも攻撃されたら誰だって避けますよね?
「見てわかりませんか?」
私は軽くスカートの裾を持ち上げる。どうみてもこの城で働く人間でしょう。
「見てわかんないから聞いてんのよ!」
「ただの厨房勤務者ですが」
「嘘でしょう!」
嘘だと言い切る女性は攻撃の手を休めずに怒りもぶつけてくる。
私は攻撃をかわしながら冷静に分析をしていた。
戦闘能力はそれほど高くない。ということは、情報収集の密偵の可能性が高いか……彼女には悪いけれど、なおさらこの城の機密をくれてやるつもりはない。
「その身のこなし、ただの城仕えなわけないでしょう!?」
「雇い主に確認でもとりますか? もちろん貴女の素性と一緒に」
出来ないと分かった上で相手を挑発する。
相手が冷静さを欠くほど私にとっては都合が良い。相手の行動を記憶したり、癖を見抜くのは得意だ。
この人は左からの攻撃に弱くて、不意打ちをくらうと後退する癖がある。
「私の言葉が嘘ではないことは、すぐにわかると思いますよ」
私は攻撃をよけながら、女性をある場所へと誘導していく。
そして思い切り、左側から攻撃を繰り出した。
「っ!?」
とっさに後退した女性は棚に背をぶつける。
その拍子に棚からボールや鍋といった料理器具が溢れ、洪水のように彼女を押しつぶした。
「あ、んた……」
押しつぶされた女性はうめき声を上げて沈黙する。
「厨房で働いていると言いましたよね。ここは私の庭も同然、棚の内部に至るまで詳細に把握しています」
片付け下手な先輩にもたまには感謝しておこう。
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