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35、王子の旅立ち(ルイス視点)
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後悔に苛まれていた俺を現実に引き戻したのは不思議な音だった。
俺たちが乗る馬車の天井は手を伸ばせば届く高さだが、そこに何か固いものが当たったような音がする。
同じように異変に気付いたジオンが御者んだ。
「おい、何かあったのか?」
訊ねると、御者は困ったような声で判断を仰ぐ。
「それが、屋根に鳥が……。先ほどから追い払っているのですが、頑なに動こうとしないんです」
「鳥?」
俺はジオンを押しのけて身を乗り出していた。屋根を見上げたところで白い鳥と目が合う。
「君は、まさかサリアの?」
この鳥がいつもサリアを見守っていたことには気付いていた。何故知っているのかといえば、サリアを見ていたのは俺もだからね。同じ目的の相手とは必然的に目が合うに決まっているだろう。
鳥は俺の言葉に答えるように翼を上げる。まるで人間が「やあ!」とでも言っているようだ。
「サリアはいいのかい?」
鳥は仕方ないとでも言うように身を竦める。
「今日は俺のことを見守ってくれるのかな?」
鳥は頷いた。まるで意思疎通が出来ているようだ。
「ルイス様、いかがなさいますか」
「このままで構わないよ。頼もしい護衛のようだからね」
「ああ、白い鳥は神の使いといいますからね」
御者は肯定的に捉えるが、俺はどうにも複雑だ。
見守っているというよりも、監視されているような感覚に近い。鳥相手に何をいっているのか、自分でも不思議でならないけどね。
席へ戻りながら、一人残していく彼女を想う。
サリアがやると言ったのなら、あの子は必ず成し遂げる。なら自分がすべきことは彼女を待ち続けることだ。
ジオンは料理の腕が不安だと話していたが、たとえ時間がかかったとしても、サリアが俺の信頼を裏切ったことはない。今回のことも長期の任務と思えばいいだろう。
また会える日を楽しみにしているよ。その時には今度こそ、きちんと名前を呼んでほしいと思う。
離れゆく故郷に未練があるとしたら、それはサリアのことだろう。不安には感じていないが、心配はするさ。
「サリアの奴、大丈夫ですかね」
ジオンも同じことを考えていたらしい。もっともジオンの場合は料理に対する不安が大きいだろうけどね。
「俺はサリアを信じているからね。でも、そうだね。少し心配もしているかな」
「ルイス様?」
「サリアは可愛いからね。兄上に見つかったら大変だ」
サリアは自身の容姿に無頓着だが、小さかった女の子は見違えるように美しく成長した。兄でなくとも余計な虫が寄ってこないか心配だ。
そしてもしも、自分のことを快く思っていない兄に見つかってしまったら。嫌がらせをされてしまうのではないか。可愛いサリアが心配でたまらない。
「ルイス様は心配性ですね。大丈夫でしょう。サリアは厨房勤務、間違っても王子殿下との接点はありませんよ!」
ジオンが豪快に笑う。はたして自分のこれも杞憂なのだろうか。
「そうだね。心配し過ぎ、かな」
ジオンの言う通りかもしれないな。考えすぎかと、俺は嫌な想像を消し去ることにした。
「待っているよ。サリア」
不安を消し去る呪文のように、最愛の少女の名を呼んだ。
俺たちが乗る馬車の天井は手を伸ばせば届く高さだが、そこに何か固いものが当たったような音がする。
同じように異変に気付いたジオンが御者んだ。
「おい、何かあったのか?」
訊ねると、御者は困ったような声で判断を仰ぐ。
「それが、屋根に鳥が……。先ほどから追い払っているのですが、頑なに動こうとしないんです」
「鳥?」
俺はジオンを押しのけて身を乗り出していた。屋根を見上げたところで白い鳥と目が合う。
「君は、まさかサリアの?」
この鳥がいつもサリアを見守っていたことには気付いていた。何故知っているのかといえば、サリアを見ていたのは俺もだからね。同じ目的の相手とは必然的に目が合うに決まっているだろう。
鳥は俺の言葉に答えるように翼を上げる。まるで人間が「やあ!」とでも言っているようだ。
「サリアはいいのかい?」
鳥は仕方ないとでも言うように身を竦める。
「今日は俺のことを見守ってくれるのかな?」
鳥は頷いた。まるで意思疎通が出来ているようだ。
「ルイス様、いかがなさいますか」
「このままで構わないよ。頼もしい護衛のようだからね」
「ああ、白い鳥は神の使いといいますからね」
御者は肯定的に捉えるが、俺はどうにも複雑だ。
見守っているというよりも、監視されているような感覚に近い。鳥相手に何をいっているのか、自分でも不思議でならないけどね。
席へ戻りながら、一人残していく彼女を想う。
サリアがやると言ったのなら、あの子は必ず成し遂げる。なら自分がすべきことは彼女を待ち続けることだ。
ジオンは料理の腕が不安だと話していたが、たとえ時間がかかったとしても、サリアが俺の信頼を裏切ったことはない。今回のことも長期の任務と思えばいいだろう。
また会える日を楽しみにしているよ。その時には今度こそ、きちんと名前を呼んでほしいと思う。
離れゆく故郷に未練があるとしたら、それはサリアのことだろう。不安には感じていないが、心配はするさ。
「サリアの奴、大丈夫ですかね」
ジオンも同じことを考えていたらしい。もっともジオンの場合は料理に対する不安が大きいだろうけどね。
「俺はサリアを信じているからね。でも、そうだね。少し心配もしているかな」
「ルイス様?」
「サリアは可愛いからね。兄上に見つかったら大変だ」
サリアは自身の容姿に無頓着だが、小さかった女の子は見違えるように美しく成長した。兄でなくとも余計な虫が寄ってこないか心配だ。
そしてもしも、自分のことを快く思っていない兄に見つかってしまったら。嫌がらせをされてしまうのではないか。可愛いサリアが心配でたまらない。
「ルイス様は心配性ですね。大丈夫でしょう。サリアは厨房勤務、間違っても王子殿下との接点はありませんよ!」
ジオンが豪快に笑う。はたして自分のこれも杞憂なのだろうか。
「そうだね。心配し過ぎ、かな」
ジオンの言う通りかもしれないな。考えすぎかと、俺は嫌な想像を消し去ることにした。
「待っているよ。サリア」
不安を消し去る呪文のように、最愛の少女の名を呼んだ。
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