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「よーく思い出してみて? 随分と記憶力がいいと思ったことはない?」

 一度目にすればたいていのことは覚えられる。

「女の子にしては身体能力も高いでしょう?」

 よくジオンにも褒められていた。

「さーちゃんはずばり、ハイスペックな人間なのよ!」

「それは……凄いの?」
 
 いまいち分かりづらいのだが……。
 思い返してみれば、密偵の修業期間にも優秀だと褒められたことは多い。もしかすると密偵になれたのは、モモの言う特典のおかげ、なのだろうか。

「私が密偵になれたのはモモのおかげなの?」

 しかしモモは首を振る。

「それは違うわ。さーちゃんが密偵になれたのは、さーちゃんが頑張ったからよ。ずっと見守っていたって言ったでしょう? あたしはさーちゃんが修行に励む姿を見てた。確かにさーちゃんは無自覚ならがも自身のハイスペックを発揮していたわ。でもね、全部さーちゃん自身の頑張りなのよ。だってそうでしょう? 力を持っていても努力をするのは本人の意志なんだから」

「モモ……。ありがとう」

 モモは嬉しそうに飛び上がる。けど私にはまだ疑問が残っていた。

「でもあの、今の話が本当だとして、モモは? どうしてここにいるの? モモも転生したの?」

「あたしはさーちゃんを追いかけてこの世界に転生したのよ」

「私を追いかけて?」

「特典はつけさせたけど、それだけじゃ心配だもの。あたし、さーちゃんのこと大好きだし!」

「モモっ……!」

「言葉が届くって、嬉しいものね。女神だった頃には当たり前のように意思疎通が出来ていたけど、しゃべれないのは歯がゆかったわ。犬としての生活も悪いものじゃなかったけど、さーちゃんとお話し出来ないのは寂しいじゃない?」

「なら、どうして今は話せているの?」

「あたしの声はさーちゃんにしか届かないわよ。さーちゃんが前世を思い出してくれたおかげで心が通じ合ったみたい。前世からの縁もあるしね」

「それじゃあモモは、私のために? 私のそばにいるために、鳥になってまで追いかけてきてくれたの?」

「あら、お礼はよして。あたしがしたくてやったことよ。それに、そもそもの原因は妹の過失。あたしはさーちゃんに何もしてあげられなかったわ。今のさーちゃんがあるのは、あの王子様のおかげでしょ」

 モモはしっかり主様のことも知っていた。当たり前のように告げるモモは本当にずっと見守っていてくれたんだ……。
 私はモモに手を伸ばしていた。

「もちろん私は主様のために生きてきた。けど、そのための力をくれたのはモモなんだよね? だから、やっぱりありがとうだよ。モモ」

「さーちゃんっ! 昔からおばあちゃん子の良い子だなって思ってたけど、本当にさーちゃんは素直で良い子に育って! 弥生さんの教育のたまものね!」

「褒めても何も出ないよ?」

「いいのよ。あたしは心からそう思っているんだから。ね、さーちゃん。これからはまた一緒ね!」

 一緒にいてくれるのかと、私はモモの顔を見つめ返していた。

「やっと話せるようになったのよ。今までは影から見守ることしか出来なかったけど、これからは堂々と、友達として話せるわ。嫌って言っても、勝手にさーちゃん家の前に巣を作ってやりますからね!」

「外!? 家の中に入っていいのよ!?」

「何かあった時に外の方がさーちゃんの役に立てるでしょ。今までもそうしてきたしね」

 いつも危険が近づいていると教えてくれたのは、偶然でも気のせいでもなかったらしい。

「あたしはさーちゃんの役に立ちたいの。さーちゃんがあの人に抱いている気持ちと一緒よ。さあさあ、これからもたーくさんモモねえさんをたよりなさい!」

「モモ……」

 私は自分を孤独だと思っていた。けど私は、ずっと一人じゃやなかった。気付くまでに随分と時間がかかってしまったけれど、こんなにも頼もしい友人がそばにいてくれた。
 やっと気付けた優しさに、私はもう一度感謝を告げていた。
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