23 / 56
23、
しおりを挟む
「よく二人で近所の公園まで行ったわね。途中の自販機でさーちゃんはいつもリンゴジュースを買っていたわ。向かいのコンビニのお兄さんが素敵だって、いつも見とれていたでしょう?」
「なっ!?」
「散歩から帰った後は膝の上にのせてブラッシングしてくれたわね。さーちゃんの手つき、とっても気持ちよかったわ。それからさーちゃんは乙女ゲームが大好きで、特にあの学園ものの、爽やか王子様系のキャラが大好きだって、発売日には徹夜でプレイして。翌日は見事に寝坊」
「あああっ! モモ、また会えて嬉しい!」
「さーちゃん……あたしがモモだって、信じてくれるの?」
「あなたはモモです。間違いないわ!」
早口でまくしたて、言葉に合わせて何度も頷いた。
「嬉しい! 信じてくれるのね、さーちゃん!」
「だって全部、モモしか知らない情報だし……」
異世界転生についてはそういうものかと諦め半分。理解するよりもそういうものだと思うしかないようだ。人間が転生するのなら犬バージョンもあるに違いない。
するとモモはさらにとんでもないことを言い出した。
「突然こんなことになって、さーちゃんも混乱していると思うけど。あたし、さーちゃんには話さなければいけないことがたくさんあるの。実は私、女神なのよ」
突然の、それも想像を軽く超える告白に、私は混乱していた。
「私はかつて運命を管理する立場にある女神だった」
放っておけば始まりそうな回想に、慌てて待ったをかける。
「えっと、なんて?」
「もう何年も昔の話よ。あたしは地上の調査のため、地上の生物に転生することにしたの。そうして選んだ転生先が、さーちゃん家のモモだったわ」
「そう、なんだ……」
他に何が言えただろう。私にはわからない。
「あたし、さーちゃんに謝らないといけないことがあるの。さーちゃんが死んだのは手違いなのよ! すべては愚かな妹の過ち!」
「どういうこと?」
「あたしが地上に降りている間、運命を守っていたのは妹の女神。運命っていうのはね、些細なことで狂い始めるの。それは次第に大きな歪みになっていく。あたしたちは歪みを正さなければならないでもあの妹は! 最後までさーちゃんの歪みに気付かなかった!」
モモの話では普通は途中で気付くものらしい。
「その結果、さーちゃんは事故に遭ってしまったの。あの日は何かおかしいとは思わなかった?」
「やけについてないな、とは思ったけど……」
「それよそれ!」
息巻いていたモモは肩を落とす。
「あたしたちも起こってしまった運命を変えることは出来ない。けど誠意をみせることは出来るってものでしょ!? それなのにっ! 誤って命を落としたさーちゃんを、なんの補助もなくこの世界に転生させたですってあの愚妹!」
私にはいまひとつ実感がわかないけれど、モモにとっては信じられないことらしかった。
「あの愚妹ときたらっ! あたしたちの仕事は狂った運命の後始末なのに、それなのに!」
モモは小さいからだでぷりぷりと怒っている。きっと自分のために怒ってくれているのだろう。
「あたしがさーちゃんの死を知ったのは、何時間も経ってから。その頃にはさーちゃんがとっくに転生させられいたの。普通はね、運命の間違いで死んでしまった人間には手厚い待遇があるのよ。あたしは慌ててさーちゃんの魂を確認しに行ったけど、手遅れだった。すでに転生して、生まれてしまった個体にはチートを授けられないのよ!」
「チート?」
「せめて生きるに困らないように魔力値無限大とかにしてあげたかったの!」
モモはそう言うけれど、この世界には魔法は存在していないような……
「でもそれは出来なかった……だってこの世界は魔法が存在しないから!」
「あ、やっぱり」
「だからせめてもって、人間が生まれながらに持っている力を最大限に引き出せるようにしたわ。後付けだから、あんまり華やかな特典にならなくてごめんねえ!」
モモには申し訳ないけれど、さすがに理解の限界を超えている。そんな私のために、モモは言葉を選んで端的に伝えてくれた。
「つまり、さーちゃんは望めばなんにだってなれるのよ!」
その言葉は私を新たな職場へと送り出してくれた主様のものと重なっていた。
「なっ!?」
「散歩から帰った後は膝の上にのせてブラッシングしてくれたわね。さーちゃんの手つき、とっても気持ちよかったわ。それからさーちゃんは乙女ゲームが大好きで、特にあの学園ものの、爽やか王子様系のキャラが大好きだって、発売日には徹夜でプレイして。翌日は見事に寝坊」
「あああっ! モモ、また会えて嬉しい!」
「さーちゃん……あたしがモモだって、信じてくれるの?」
「あなたはモモです。間違いないわ!」
早口でまくしたて、言葉に合わせて何度も頷いた。
「嬉しい! 信じてくれるのね、さーちゃん!」
「だって全部、モモしか知らない情報だし……」
異世界転生についてはそういうものかと諦め半分。理解するよりもそういうものだと思うしかないようだ。人間が転生するのなら犬バージョンもあるに違いない。
するとモモはさらにとんでもないことを言い出した。
「突然こんなことになって、さーちゃんも混乱していると思うけど。あたし、さーちゃんには話さなければいけないことがたくさんあるの。実は私、女神なのよ」
突然の、それも想像を軽く超える告白に、私は混乱していた。
「私はかつて運命を管理する立場にある女神だった」
放っておけば始まりそうな回想に、慌てて待ったをかける。
「えっと、なんて?」
「もう何年も昔の話よ。あたしは地上の調査のため、地上の生物に転生することにしたの。そうして選んだ転生先が、さーちゃん家のモモだったわ」
「そう、なんだ……」
他に何が言えただろう。私にはわからない。
「あたし、さーちゃんに謝らないといけないことがあるの。さーちゃんが死んだのは手違いなのよ! すべては愚かな妹の過ち!」
「どういうこと?」
「あたしが地上に降りている間、運命を守っていたのは妹の女神。運命っていうのはね、些細なことで狂い始めるの。それは次第に大きな歪みになっていく。あたしたちは歪みを正さなければならないでもあの妹は! 最後までさーちゃんの歪みに気付かなかった!」
モモの話では普通は途中で気付くものらしい。
「その結果、さーちゃんは事故に遭ってしまったの。あの日は何かおかしいとは思わなかった?」
「やけについてないな、とは思ったけど……」
「それよそれ!」
息巻いていたモモは肩を落とす。
「あたしたちも起こってしまった運命を変えることは出来ない。けど誠意をみせることは出来るってものでしょ!? それなのにっ! 誤って命を落としたさーちゃんを、なんの補助もなくこの世界に転生させたですってあの愚妹!」
私にはいまひとつ実感がわかないけれど、モモにとっては信じられないことらしかった。
「あの愚妹ときたらっ! あたしたちの仕事は狂った運命の後始末なのに、それなのに!」
モモは小さいからだでぷりぷりと怒っている。きっと自分のために怒ってくれているのだろう。
「あたしがさーちゃんの死を知ったのは、何時間も経ってから。その頃にはさーちゃんがとっくに転生させられいたの。普通はね、運命の間違いで死んでしまった人間には手厚い待遇があるのよ。あたしは慌ててさーちゃんの魂を確認しに行ったけど、手遅れだった。すでに転生して、生まれてしまった個体にはチートを授けられないのよ!」
「チート?」
「せめて生きるに困らないように魔力値無限大とかにしてあげたかったの!」
モモはそう言うけれど、この世界には魔法は存在していないような……
「でもそれは出来なかった……だってこの世界は魔法が存在しないから!」
「あ、やっぱり」
「だからせめてもって、人間が生まれながらに持っている力を最大限に引き出せるようにしたわ。後付けだから、あんまり華やかな特典にならなくてごめんねえ!」
モモには申し訳ないけれど、さすがに理解の限界を超えている。そんな私のために、モモは言葉を選んで端的に伝えてくれた。
「つまり、さーちゃんは望めばなんにだってなれるのよ!」
その言葉は私を新たな職場へと送り出してくれた主様のものと重なっていた。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる