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 部屋を飛び出した私はどこへ行くことも出来ず、城の裏の隅で膝を抱えていた。
 どれくらいそうしていただろう。私にとってはとても長い時間のように感じた。

「おい。いつまでそうやってへこんでるつもりだ」

 呆れた声が頭上から降ってくる。
 声の主は顔を上げなくてもわかった。その正体は、私が今もっとも憎む相手だ。

「へえ、ふうん……ジオンがそれを言いますか。誰かさんはいいですねえ。ちゃっかり主様と余生を過ごせる権利を手に入れたんですから。どうせ私はこのザマですよ。自分だけ幸せになるつもりですかコノヤロウ!」

 膝を抱えながら低く唸る。やはり恨み言しか出てこなかった。

「お前は本当、俺には口が悪いよな。昔っからよく突っかかってくるしよお」

「うるさいです」

 全部、全部ジオンが悪い。
 主様からはいつも一番に頼られて。私よりも長くお仕えしていて。私よりも主様のことを知っている。だから私はジオンのことが嫌いだ。
 名前だってそう。私は軽々しく主様の名前を呼ぶことが出来ないのに、ジオンは簡単に呼んでみせるから!
 要するにただの嫉妬だ。自分が酷く小さい人間のように思えて嫌になる。

「ルイス様、心配してたぞ」

 ここで主様の名前を出すジオンは狡い。主様の名前を出せば私が無下に出来ないと知っているからだ。

「お前は俺の顔なんてみたくないだろうけど、お前のことを気に掛けてやってくれって俺に頼んだのはルイス様だぜ。つまり今俺がここにいるのはルイス様の意志だ」

 呆れたジオンの言葉を切っ掛けに、ついに私の涙腺は崩壊した。

「うわあーん! ジオンの馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿ぁー!」

「止めとけ。いくら俺を罵ったところで現実は変わんねーぞ」

「そうですね。かくなる上は私の力を駆使してセオドア殿下の弱みを握るしか!」

「それこそ止めとけ。お前だってわかってんだろ。俺らの主がそれを望まないことくらい」

 反論出来ない私は押し黙る。

「ならジオンは私に諦めろって言うんですか!? 主様のように、今更私に、普通の女の子みたいに生きろと!?」

 前世でも。生まれ変わっても。私は仕事一筋だった。

「んじゃ、真面目な話な。職場の同僚として、人生の先輩として、アドバイスしてやる」

「同僚だと思っていたら実は敵だった人にアドバイスとかされたくないんですけど」

「上司の有り難い言葉として聞いとけ」

 職場の同僚とはいえ、どちらが上かといえばジオンが上、すなわち上司と呼べなくもない。悔しいことに上司命令には逆らえないらしいのだ。

「俺は、まあその、抜け駆けみたいな真似をしたのは悪かったと思ってる。悪かった。謝るよ」

「謝るくらいなら私にその地位を明け渡しなさい」

「だから悪かったって! 俺も焦ってたんだよ。このままじゃお役御免だってな」

「はあ!? 私はお役御免になりましたけど!」

「だから! 俺はてっきり最初からルイス様はお前を連れていくつもりだと思ってたんだ。置いて行かれるのは俺だけだってな!」

「あの、さっきからなんですか。私への当てつけですか? 喧嘩なら買いますけど」

「いいから聞け! そしてナイフは下ろせ!」

 普段は温和な私だけれど、主様が関わると一転、好戦的にもなってしまう。
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