最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

奏白いずも

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19、第二の勝負

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「それじゃ、二戦目の提案といこうか」

「早くなさい」

 冷静に告げながらも心はちっとも穏やかではない。たとえどんなおかしな勝負を持ちかけられても毅然と対応してみせよう。

「実は明後日、我が家でパーティーを催すことになっている。白薔薇祭りの開催で各地から貴族が集まっているんでね。メレディアナ、お前も招待させてほしい。ただしもてなされる側ではなく、もてなす側としてだ」

 前言撤回。

「わたくしに何をさせたいの?」

「簡単なこと、パーティーで余興を披露してもらおう。俺とお前、どちらが多くの称賛を得られるか、勝負だ」

「つまり芸を披露しろと? 相変わらずおかしなことを言いだすのね」

「どんな勝負なら出しぬけるか悩み抜いた結果だ」

 そしてまんまと出し抜かれてしまったわけで……悔しさに歯を食いしばる。彼はわかっているのだろうか、そう言われてはプライドが刺激されることを。今度こそ相手の土俵できっちり負かしてくれる。

「勝敗は招待客の反応に委ねるというわけね」

「目の肥えた奴らが多い。半端な余興じゃ満足しないぜ。どうだ?」

 この説明だけでは不明点が残る。いくつか確認してから判断すべきだろう。

「……出席者の名簿はいただけるかしら? 貴方が知る範囲で構わないけれど、情報開示を要求するわ。主催者ばかりが客層を把握しているのはフェアじゃないもの」

 顧客の好みを把握するのは重要なことである。商売対決をするわけではないが商売同様、客層を把握しておくのは必要なことだろう。

「手配しよう。ラーシェル、すぐに頼む」

 命令が下るなり主に礼をして控えていたラーシェルは姿を消していた。
 取り残されたメレはさらに詳しい詳細を求めた。

「余興にルールは?」

「観客を楽しませられるのなら、なんなりと。せいぜい得意な芸でも披露することだな」

 オルフェにはよほど得意な芸があるのか自信に満ち溢れていた。しかしメレとて負けてはいない。

「その挑戦受けてあげる。魔女なんて引き籠っていそうな相手に遅れはとらないと思った? 特技は魔法薬調合とでも考えたのかしらね、わたくし得意だけれど! とにかく後悔すればいいわ。完膚なきまでに叩きのめして敗北の味を教えてさしあげる」

 言い切ったメレは厨房の扉に手をかけた。

「おい、今日は門から帰るのか?」

 てっきり鏡から帰ると思っていたオルフェが引き止める。

「外にフィリア様がいらっしゃるでしょう? 帰る時に声をかけると約束しているの」

 イヴァン家を訪問すれば庭園を歩くフィリアに遭遇し、時間が迫っていると告げれば酷く残念そうな顔をさせてしままった。だからつい、帰りにまた寄りますなどと口走ってしまったのだ。自業自得である。

「それは、母が迷惑をかけて悪いな」

 本当に申し訳なさそうな顔をしたオルフェに見間違いかと二度見した。自分のことでは不遜な態度しか見せないのに、家族が絡むと別人のようだ。それはきっと愛されて育った証、家族を大切にするのは良いことだとメレは思う。

「迷惑なんて、そんな……。フィリア様と話すのは嫌いではないから。というか、わたくしに一番迷惑をかけている張本人が何を言うの!」

「そうか、良かった」

「良くないわ。今すぐ改心なさい」

 どうせ都合よく聞き流すのだろう。意味のない会話は早急に切り上げフィリアの元へ向かうことを決めた。

 メレが拠点とするエイベラの出口、またの名をキース邸。
 本来別の住人が暮らしているのだが、名義はメレにあるので真の持ち主が自由にしても問題はない。その一室では明後日に向けての作戦会議が執り行われていた。

「いきなりパーティーに出席しろ、それも余興を、しかも明後日?」

 現状をまとめたところ、どう考えても普通は何日も前から綿密に計画すべきことである。さらに悩ましげな声が漏れるのはそれだけが原因ではない。

「なんなのこの量! わたくし出席者名簿を頼んだだけよ!? この図鑑のような分厚さ……疲弊させるためにわざと間違えてよこしたのかしら……」

 ちらりとページをめくれば間違いなく人の名が並んでいる名簿だった。
 その瞬間、どこからともなく「どうした読めないのか?」という声が妙にリアルに再生される。憎きオルフェが嘲笑っているような気がしてならない。

「へえ、ふうん……。全部読んで完璧に暗記してやるから、見ていなさい!」

 どこに何のヒントが紛れているかわからない。その一心でメレは読み進めた。
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