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「さあ、行きましょう!」
蹴破るような勢いで自室から飛び出す。その後ろではノネットが律義に鍵をかけてkら追いかけてくれた。
真っ先に異変を察したのは廊下に控えていたメイドである。
「お、お嬢様、どうされましたか?」
「急用なの、すぐに出るわ。二、三日で戻れると思うけれど、あとはよろしく伝えてちょうだい」
「で、ですが、馬車の用意もまだ」
「心配ないわ。徒歩で行くから」
「徒歩――って歩くんですか!? 伯爵令嬢ともあろうお方がそんな、まさか徒歩なんて、そもそも街まで何キロあると……あ、ああっ、待ちくださいお嬢様!」
なおも食い下がるメイドを振り切って進めば、見かねた別のメイドが声高に宣言してくれた。
「皆、お嬢様のお出かけよ!」
お嬢様を連呼される中、お嬢様らしからぬ速度で玄関ホールを突っ切ると、見計らったように重厚な扉が開かれた。気の効く執事に感謝して、お嬢様は馬車も待たずに屋敷を後にする。これで演出は完璧だ。
馬車に乗って街まで行き、汽車に乗って悠長に目的地を目指す?
そんなまどろっこしい真似をするつもりはない。ブラン領からエイベラまで、陸路を使えば丸一日はかかってしまう。そのうちに魔法のランプがあれやこれやに利用されてしまったら……
「ああっ、考えただけで怖ろしい!」
思わず叫んでしまった口元を押さえた。何しろ派手な演出で外出しておきながら、こっそり自室に戻っている最中だ。
気の利くメイドが人目につかない通路を手配してくれたとはいえ、屋敷の人間全てがメレの正体を知るわけではない。外出するにしても遠出するにしても、それなりの格好をとっておく必要がある。
部屋に戻ったメレは先ほどと同じようにカガミを呼びだす。今回は手加減も忘れてはいない。そのつもりで叩いたはずだ。
「鏡よ鏡。鏡さん」
カガミに命じ、魔法で道を繋げば一瞬で遠い地へ移動することが叶う。エイベラにはメレを魔女と知る友人がいるため、出口工作も完璧だ。
「エイベラのキースまで繋いで。断りなら不要よ。彼が寝ていようが起きていようが入浴中だろうが関係ないわ。一刻を争うの、すぐにやりなさい」
「仰せのままに」
人の姿が消えた鏡の向こうは真っ暗闇が広がっている。出口は人目に付かない部屋の奥に置いておけと言いつけてあるので上出来だ。
「ところでメレ様。ご当主様に挨拶はいいんですか?」
出掛けるのなら挨拶を。それは当たり前のことで、ノネットに悪気がないことは誰よりもメレが知っている。だから――急いでいると前置きをしてなんでもない振りをした。
「……時間がないもの。それに、わたくしの顔なんて見たくないはずよ」
顔を合わせることなく一日を終える。もう何年もその繰り返しだった。
それなのに、自分の放った言葉で傷を負うなんて情けない。未練がましい自分を笑い、そんな場合ではないと考えを改める。複雑な心情を汲んでくれたのか、ノネットが追求することはなかった。
あれこれ余計な事を考えてしまうのなら、忘れるほど強くランプを想えばいい。
「さあ、待っていて魔法のランプ!」
決意を胸に拳を握る。口にすれば暗い感情が紛れていくのを感じた。今は出立の時、世界の命運を取り戻す時だと自身に言いきかせる。
「……でもなんだか、魔法のランプなんて神秘性の欠片もない呼び名よね。製作者の名を取ってメレ、メレディアナ――、ディアナのランプなんてどうかしら!」
「メレ様、それ取り戻してからゆっくり考えましょう!」
半ば後ろから押されるような形で鏡に飛び込んだ。
目指すはエイベラ。
魔法のランプ奪還を目指して、いざ旅立ちの時である。
蹴破るような勢いで自室から飛び出す。その後ろではノネットが律義に鍵をかけてkら追いかけてくれた。
真っ先に異変を察したのは廊下に控えていたメイドである。
「お、お嬢様、どうされましたか?」
「急用なの、すぐに出るわ。二、三日で戻れると思うけれど、あとはよろしく伝えてちょうだい」
「で、ですが、馬車の用意もまだ」
「心配ないわ。徒歩で行くから」
「徒歩――って歩くんですか!? 伯爵令嬢ともあろうお方がそんな、まさか徒歩なんて、そもそも街まで何キロあると……あ、ああっ、待ちくださいお嬢様!」
なおも食い下がるメイドを振り切って進めば、見かねた別のメイドが声高に宣言してくれた。
「皆、お嬢様のお出かけよ!」
お嬢様を連呼される中、お嬢様らしからぬ速度で玄関ホールを突っ切ると、見計らったように重厚な扉が開かれた。気の効く執事に感謝して、お嬢様は馬車も待たずに屋敷を後にする。これで演出は完璧だ。
馬車に乗って街まで行き、汽車に乗って悠長に目的地を目指す?
そんなまどろっこしい真似をするつもりはない。ブラン領からエイベラまで、陸路を使えば丸一日はかかってしまう。そのうちに魔法のランプがあれやこれやに利用されてしまったら……
「ああっ、考えただけで怖ろしい!」
思わず叫んでしまった口元を押さえた。何しろ派手な演出で外出しておきながら、こっそり自室に戻っている最中だ。
気の利くメイドが人目につかない通路を手配してくれたとはいえ、屋敷の人間全てがメレの正体を知るわけではない。外出するにしても遠出するにしても、それなりの格好をとっておく必要がある。
部屋に戻ったメレは先ほどと同じようにカガミを呼びだす。今回は手加減も忘れてはいない。そのつもりで叩いたはずだ。
「鏡よ鏡。鏡さん」
カガミに命じ、魔法で道を繋げば一瞬で遠い地へ移動することが叶う。エイベラにはメレを魔女と知る友人がいるため、出口工作も完璧だ。
「エイベラのキースまで繋いで。断りなら不要よ。彼が寝ていようが起きていようが入浴中だろうが関係ないわ。一刻を争うの、すぐにやりなさい」
「仰せのままに」
人の姿が消えた鏡の向こうは真っ暗闇が広がっている。出口は人目に付かない部屋の奥に置いておけと言いつけてあるので上出来だ。
「ところでメレ様。ご当主様に挨拶はいいんですか?」
出掛けるのなら挨拶を。それは当たり前のことで、ノネットに悪気がないことは誰よりもメレが知っている。だから――急いでいると前置きをしてなんでもない振りをした。
「……時間がないもの。それに、わたくしの顔なんて見たくないはずよ」
顔を合わせることなく一日を終える。もう何年もその繰り返しだった。
それなのに、自分の放った言葉で傷を負うなんて情けない。未練がましい自分を笑い、そんな場合ではないと考えを改める。複雑な心情を汲んでくれたのか、ノネットが追求することはなかった。
あれこれ余計な事を考えてしまうのなら、忘れるほど強くランプを想えばいい。
「さあ、待っていて魔法のランプ!」
決意を胸に拳を握る。口にすれば暗い感情が紛れていくのを感じた。今は出立の時、世界の命運を取り戻す時だと自身に言いきかせる。
「……でもなんだか、魔法のランプなんて神秘性の欠片もない呼び名よね。製作者の名を取ってメレ、メレディアナ――、ディアナのランプなんてどうかしら!」
「メレ様、それ取り戻してからゆっくり考えましょう!」
半ば後ろから押されるような形で鏡に飛び込んだ。
目指すはエイベラ。
魔法のランプ奪還を目指して、いざ旅立ちの時である。
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