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第一章 魔術学校編
第32話 裏ギルドの思惑
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「ここか」
目の前には程々に華美な扉がある。
レントは次の試合も気になるがそれよりも確かめなくてはならない事がある為、救護室へと来ていた。
ガゼル……もとい「裏ギルド」についてだ。
目的を知るべきだと判断したのだ。
コンコンッ
レントは扉をノックすると中から「どうぞ」という声を待った。
しかしいつまで経ってもその声が返ってくることは無い。
何回繰り返してもそれは同じだった。
致し方なくレントは扉を開き中へとはいる。
「失礼しま────
何の変哲もない救護室だ。
しかし人っ子一人気配が無い。
話では救護室に運ばれたと言っていたが……。
「ん?」
辺りを見回すと布団の周りに焼け焦げたような後がいくつかあった。
それはガゼルが使ったものとみて間違いないだろう。
では、その本人はどこにいるのだろうか?
「うーん、バレるのを防ぐために逃げたかな?」
ここにいても仕方ないのでレントは救護室を出ていこうとするとどこかでか細い声が聞こえた。
「……こ……す。だ……いるん……?」
「ん?」
何とも途切れ途切れなその声は救護室からで間違いは無さそうだ。
「誰かいるんですか?」
「ふ……の……。……くの……下」
辛うじて「下」と聞こえた。
何かの下にいるということだろう。
救護室に下に人が入れる場所と言えば机と布団位しかない。
そして、机の下ならすぐに分かるはずだ。
「布団の下かな」
レントはそう判断すると1枚1枚布団を捲っていった。
そうして3つ目をめくったあたりで中から女性が出てきた。
口と手首と足を縄で締められ声を出そうにも出せない状態だ。
「うお!? びっくりした……。今助けます」
縄を1本ずつ解いていきその女性を解放する。
彼女は、身体にできた縄の痣を気にしながら立ち上がるとレントに頭を下げる。
「ありがとう。ここに来た人にやられてしまったのよ」
「それってガゼルって男です?」
「えぇと、少し待ってね」
そう言うと彼女は机の上にある書類に目を通した。
彼女が救護室の担当魔術士ということだろう。
怪我をしたら彼女の魔術で治してもらうのだ。
「そうね、あの男はガゼルで間違いないわ。最初は気絶してたから布団に寝かせてたんだけどね……」
そう言いながら経緯を話していく。
どうやら目が覚めるといきなり暴れて魔術で抵抗、そして出て行ったとのことだった。
彼女は救護担当、回復する術《すべ》はあっても攻撃する魔術は管轄外らしい。
「……とすると、逃げたかな」
「逃げた?」
「あぁ、こっちの話ですよ。どこに行ったとかは……分からないですよね」
「ごめんなさいね。カルテには名前と外傷しか書かれてないのよ。詳細は話して貰うつもりだったから」
それもそうだろう。「裏ギルド」なんて書かれているわけが無い、しかもそれがどこに行くかなんて尚更書かれていないだろう。
「いいえ、逃げてしまったものはどうしようも無いので」
そうレントは言うと救護室に用はもう無いので出ていこうとした。
「あっそうだ。ちょっと待って、あなたレントくんね?」
「? はい、そうですけれど」
レントは肯定した。別に名前を言うのに躊躇う必要は無いだろう。
「ギルドマスターにレントがここに来たらこの紙を渡してやれ言われてたんだわ。はい、どうぞ」
「なんだろう? ありがとうございます。それでは」
「はい、怪我したらまたいらっしゃい。すぐ治してあげるわ」
「ははは……怪我は出来るだけしたくないですね、痛いですし」
「間違いないわね」
そう会話を交わすとレントは救護室を出ていき、その道中で貰った紙を開いてみる。
その紙にはこう書かれていた。
『奴は間違いなく逃げるだろう。だが、行き先はある程度わかっている。お前にはそこに向かって欲しい』
それのみが書かれていてどこに迎えばいいかなんて何一つ書かれていなかった。
ギルドマスター……レイスターのミスかな? とレントは思っていると、レントの魔力が紙に吸われている感覚を感じた。
「おぉ!? なんだこれ」
その紙はみるみるうちに折りたたまれていき、あっという間に鳥型になると空を飛びどこかへ行ってしまった。
「あれを追えということだろうか?」
レントには行き先に思い当たるところは無いのでついて行くことにした。
人混みを掻き分けながらその飛行機を追い、時には狭い路地裏だったり風俗街だったりを抜けていく。
そうすると次第に人気《ひとけ》は無くなっていき、いかにも怪しいですよと言わんばかりの建物へとたどり着いた。
「あっ」
その建物の前に着くと鳥型の紙は崩れていき、跡形もなく消えてしまった。
「あの人も只者じゃないな……」
紙製のゴーレムと言ったところだろうか。
しかも魔力によりレントを判断して展開するようにもなっていたように見える。
ただゴーレムを作るより圧倒的に難しいものだった。
「おっと、それはともかくこの建物だな」
見れば見るほどその建物は今にも崩れそうなほどに所々ボロくなっており、裏の人間が根城にするには丁度よさそうに見えた。
しかし、この場所は日が当たらず影になってる場所が多くレントが動くにはすごくやりやすくはあった。
「僕の魔術って裏の人間寄りだよな……」
そう言うとレントは念の為魔術を展開する。
『影化《フェイク・シャドー》』
この魔術によりレントは影に入り込むことができる。
これなら人に見られる心配は少ないだろう。
そして一応裏口にも回ってみる。
「うーん、湿気というか環境がすこぶる悪い……。あまり長居はしたくないな」
どうにもカビ臭かったり湿気が高かったりして、居るだけでも不快だった。
こんなものはさっさと済ませるに限ると思ったレントは、都合よく空いている窓を見つけるとそこから入ることにした。
「3階の窓か……高いけどこの魔術にとっては関係ないか」
『影化』は影のある場所へ移動するのにも使える便利な魔術だ。
たとえ途中に深い谷があろうと棘の山だろうと関係ない。影さえ続いていれば支障は何一つない。
そのまま垂直に壁を登ると窓からの侵入に成功する。
(ここから先は慎重に行くべきだろう。『影化』は解かずに潜りながら見ていこう)
この建物は外から見ると4階建てに見えていたが実際もその通りのようだ。
とりあえず4階へと登る階段を見つけるため進んでいく。
(4階から見てきたけど今のところ怪しいところは何一つないな……。ハズレかな……)
どの部屋ももぬけの殻でボロい部屋がいくつかある階ばかりだったのだ。
前まで宿屋だったのかその部屋ごとにベッドが置かれている以外何も無かった。
(次は2階だな)
3階から2階に行く階段を使って下りると、あからさまに人の気配を感じるようになった。
間違いなくどこかに人がいるだろう。
(ガゼルだったら当たりなんだけど……とりあえず虱潰しに見ていこう)
扉の下の隙間を通って一つ一つ確認していく。
しかし、やはりこの階にも何も怪しいものはなかった。
(勘が鈍ったかな? いや、1階かもしれないし……)
そして下に降りていくレント。
階段を下りるといきなり人に出くわした。
(うお!? びっくりした……『影化』してて影に潜ってるから当たるはずもバレるはずもないのについついビックリするなこれ……)
そいつはスキンヘッドで顔に大きな傷がある、いかにも悪党のような風貌の男だった。
恐らく「裏ギルド」の人間かそれに近しい人間なのは間違いないだろう。
(あいつに着いてってみるか)
その男の影に潜みついて行く。
そうすると1階の部屋のひとつに入ろうとしていた。
「俺だ」
「グレイか。入れよ」
グレイと呼ばれたスキンヘッドの男は扉を開けると部屋に入っていく。
レントもすかさず部屋に侵入を果たすと、中にはガゼルがいた。
(ここにいたのか)
目的の人物を発見するが、今出ていって目的を素直に話すか怪しいのでそのまま様子を見ることにした。
「ガゼルよぉ、お前しくじったな」
「チッ、仕方ねぇだろ。相手は龍神族だぜ? あそこまでやれたことを褒めて欲しいくらいだな」
「関係ないな。そもそもこの作戦はお前主導だろ、そのお前がしくじったらどうにかなるもんも怪しいもんだ」
「んなこたぁわかってんだ。んだよ? その目はよ」
「ふんっ、どうだかな」
グレイとガゼルはどうやらその作戦の元に動いていて、ガゼルが主犯で間違いなさそうだった。
「ったく、俺が奴を連れてこりゃ問題ねぇだろ」
「それが出来れば苦労はしねぇだろう?」
「いや、自分のミスくらいは自分でケツ持ってやる。あのガキくらい俺一人でもどうにでもならァ。ヒヒッ」
「ふんっ、好きにしろ」
「へいへい」とガゼルが生返事をすると部屋を出ていった。
「いるんだろ?」
(バレたか? いや、大丈夫なはずだ)
レントの『影化』がバレることはほとんどない。
なんの対策もなしにバレるほど生半可な隠れ方はしてないのだ。
「お前だよお前」
そう言うとグレイは机にあったナイフを床に向かって投げた。
そこは先程までレントの居た場所に他ならない。
(バレたのか……てことは)
「まだ出てこねぇか、仕方ねぇ」
そう言うと手に魔力を溜め始めた。
これ以上は建物が壊れるかもしれないとレントは諦めて『影化』を解除してグレイの目の前に現れた。
「お前がレントだな?」
「……」
レントは無言で頷くだけにしておいた。
奴と話すことは極力少なくしておきたい。
「ハッ、運は俺に回ってきたようだな」
「僕を連れてきたかったようだけど?」
「あぁ、そうだよ。ひとつ聞きてぇことがあんだがよ」
「なんだい?」
数秒の沈黙が2人を包む。
レントは何時でも対応できるように影魔術を展開しておく。
「お前、アビスって聞いて心当たりはあるか?」
「だと言うならどうするんだ?」
「はぁ……やっぱりか」
グレイは諦めたようにその部屋にある椅子に腰をかけた。
「って事は俺がお前をどうにかする予定は無くなったな」
「どういう事だ?」
「お前にひとついいことを教えてやろう」
そういうとグレンは作戦と計画、そしてその目的を話し始めた。
レントは最初こそ怪しいと思ったが、アビスを知っているという事は少なくとも関係はあるだろうととりあえず聞くことにした。
「俺たちは所謂「裏ギルド」と呼ばれる半分悪党みてぇな奴だ。最近トップが入れ替わってよ、貴族の坊ちゃんになったんだよ。そしたらどうだ、中々怪しい依頼が多くなってきたんだわ。そのひとつが今回の依頼『レント、及びアビスの捕獲』だ」
「僕……の捕獲?」
「あぁ、どうやらお偉いさん達はお前さんとお前さんの中にいるアビスとやらに用があるようでな。しかし、どうにもきなくせぇ。聞いてみりゃその存在と力の解析だなんだ言いやがってよ」
「裏ギルド」はアビスを調べてどうしたいんだろう。
確かアビスは来たる星魔大戦に備えて力を受け渡す奴という認識しかないレントは些か疑問が浮かびまくる。
「とはいえ、そんなんただの表向きに決まってる。俺たちへの依頼は汚れ仕事が大半だからな。それでガゼルが主導と聞いてひとつピンと来たことがあった。それは……」
グレイはポケットをまさぐり1つの折りたたまれた紙を取り出すと、開いてレントに見せてきた。
「アビスの降臨と……星魔大戦の人為的な発生?」
「そうだ。奴らは、というかガゼルは元からこれが目的だったらしい。おっと、勘違いするなよ。「裏ギルド」は悪党ではあるが何も犯罪者じゃねぇんだ。正式な国の依頼を取り扱って法で裁けない奴らを始末する組織だ。俺達には俺たちの矜恃がある。ガゼルにもあったはずだが……」
その目は遠くを見ているようで悲しみを帯びていた。
元々ガゼルは真面目だったとレイスターから聞いていた。何かあってああなったのは間違いないのだろう。
「話がズレたな。と言う訳でな、俺は俺の矜恃に従ってお前を守ることにしたんだわ。いくら俺でも、星魔大戦をわざと発生させて国を破滅に導こうなんて思うほど悪党じゃねぇ」
「ふぅん?」
レントは話を受け取るが、全てを鵜呑みにするのは良くないと少しの疑問を持って質問する。
「で、グレイ? はどうしてくれるんだ?」
「なに、簡単な話だ。お前の腕を見込んで俺と組んでくれればいい」
「組む……だって? お前と?」
「あぁ、嫌かもしれんが我慢してくれ。全ては「裏ギルド」を正すためなんだ」
このグレイと言う男は言うほど悪い奴ではないのかもしれない。
確かに人を殺して飯を食ってる人間ではあるが、その心には悪ではない別の物を宿しているように思えた。
「わかった。で、僕は何をすればいいんだ?」
「そうだな、これから多分ガゼルがお前んとこに行くだろ」
「まぁ、そのつもりだろうね」
「倒してくれ」
「えっ!? 倒す?」
「あぁ。いや、殺せって訳じゃない。そこからは俺が何とかしてやる。戦闘不能にしてくれればいい」
それだけなら出来ないことは無いかもしれないが……。
とはいえ、元々ガゼルとは戦わなくちゃならないと思っていたので渡りに船というものだろう。
ここらで一気に精算するのも悪くないと思えた。
「わかった。それだけ?」
「とりあえず、な。あとは追って連絡する」
そう言うとグレイは立ち上がると扉に向かって出ていこうとしていた。
「連絡? どうやって?」
「お、そうだったな。傭兵ギルドにこれ見せてやれ、ほれ」
「おおっと」
グレイが投げ渡したそれは金色に輝くプレートだった。
「そういや、お前はまだ傭兵ギルドに所属できてねぇんだったな。それはギルドカード。要は個人情報だ。それ持って傭兵ギルドの受付に渡せばわかる」
それだけを言い残してグレイは扉から出ていってしまった。
レントはまだ聞きたいことが少しあるので呼び止めようと扉を開けて外に出た。
「……いない」
しかしグレイの姿はどこにもなく、いた形跡すら感じられなかった。
「……とりあえずガゼルか」
独り言のように漏らすと建物から出るために、不必要かとは思うが『影化』することにした。
「金色のカードか」
建物から出て表通りに出ることが出来たレントはグレイから貰ったプレートを取り出して確認してみる。
『グレイ 男 IVランク 異名:絶界』
そのカードには事細かに個人の事が書かれていた。
そしてそれを見ていくうちにひとつの疑問が晴れることになる。
「属性魔術……影……」
あのグレイと言う男はレントと同じ属性の使用者であった。
『影化』は潜入にはすごく重宝し便利な魔術だが、その反面デメリットも存在する。
ひとつは対魔の魔導具を使っていること、そして2つ目は影がないところは使用ができないこと。
最後のひとつは、
「それじゃ、直ぐにバレても仕方ないじゃないか……」
────同じ属性魔術の適正者には丸見えだということ。
目の前には程々に華美な扉がある。
レントは次の試合も気になるがそれよりも確かめなくてはならない事がある為、救護室へと来ていた。
ガゼル……もとい「裏ギルド」についてだ。
目的を知るべきだと判断したのだ。
コンコンッ
レントは扉をノックすると中から「どうぞ」という声を待った。
しかしいつまで経ってもその声が返ってくることは無い。
何回繰り返してもそれは同じだった。
致し方なくレントは扉を開き中へとはいる。
「失礼しま────
何の変哲もない救護室だ。
しかし人っ子一人気配が無い。
話では救護室に運ばれたと言っていたが……。
「ん?」
辺りを見回すと布団の周りに焼け焦げたような後がいくつかあった。
それはガゼルが使ったものとみて間違いないだろう。
では、その本人はどこにいるのだろうか?
「うーん、バレるのを防ぐために逃げたかな?」
ここにいても仕方ないのでレントは救護室を出ていこうとするとどこかでか細い声が聞こえた。
「……こ……す。だ……いるん……?」
「ん?」
何とも途切れ途切れなその声は救護室からで間違いは無さそうだ。
「誰かいるんですか?」
「ふ……の……。……くの……下」
辛うじて「下」と聞こえた。
何かの下にいるということだろう。
救護室に下に人が入れる場所と言えば机と布団位しかない。
そして、机の下ならすぐに分かるはずだ。
「布団の下かな」
レントはそう判断すると1枚1枚布団を捲っていった。
そうして3つ目をめくったあたりで中から女性が出てきた。
口と手首と足を縄で締められ声を出そうにも出せない状態だ。
「うお!? びっくりした……。今助けます」
縄を1本ずつ解いていきその女性を解放する。
彼女は、身体にできた縄の痣を気にしながら立ち上がるとレントに頭を下げる。
「ありがとう。ここに来た人にやられてしまったのよ」
「それってガゼルって男です?」
「えぇと、少し待ってね」
そう言うと彼女は机の上にある書類に目を通した。
彼女が救護室の担当魔術士ということだろう。
怪我をしたら彼女の魔術で治してもらうのだ。
「そうね、あの男はガゼルで間違いないわ。最初は気絶してたから布団に寝かせてたんだけどね……」
そう言いながら経緯を話していく。
どうやら目が覚めるといきなり暴れて魔術で抵抗、そして出て行ったとのことだった。
彼女は救護担当、回復する術《すべ》はあっても攻撃する魔術は管轄外らしい。
「……とすると、逃げたかな」
「逃げた?」
「あぁ、こっちの話ですよ。どこに行ったとかは……分からないですよね」
「ごめんなさいね。カルテには名前と外傷しか書かれてないのよ。詳細は話して貰うつもりだったから」
それもそうだろう。「裏ギルド」なんて書かれているわけが無い、しかもそれがどこに行くかなんて尚更書かれていないだろう。
「いいえ、逃げてしまったものはどうしようも無いので」
そうレントは言うと救護室に用はもう無いので出ていこうとした。
「あっそうだ。ちょっと待って、あなたレントくんね?」
「? はい、そうですけれど」
レントは肯定した。別に名前を言うのに躊躇う必要は無いだろう。
「ギルドマスターにレントがここに来たらこの紙を渡してやれ言われてたんだわ。はい、どうぞ」
「なんだろう? ありがとうございます。それでは」
「はい、怪我したらまたいらっしゃい。すぐ治してあげるわ」
「ははは……怪我は出来るだけしたくないですね、痛いですし」
「間違いないわね」
そう会話を交わすとレントは救護室を出ていき、その道中で貰った紙を開いてみる。
その紙にはこう書かれていた。
『奴は間違いなく逃げるだろう。だが、行き先はある程度わかっている。お前にはそこに向かって欲しい』
それのみが書かれていてどこに迎えばいいかなんて何一つ書かれていなかった。
ギルドマスター……レイスターのミスかな? とレントは思っていると、レントの魔力が紙に吸われている感覚を感じた。
「おぉ!? なんだこれ」
その紙はみるみるうちに折りたたまれていき、あっという間に鳥型になると空を飛びどこかへ行ってしまった。
「あれを追えということだろうか?」
レントには行き先に思い当たるところは無いのでついて行くことにした。
人混みを掻き分けながらその飛行機を追い、時には狭い路地裏だったり風俗街だったりを抜けていく。
そうすると次第に人気《ひとけ》は無くなっていき、いかにも怪しいですよと言わんばかりの建物へとたどり着いた。
「あっ」
その建物の前に着くと鳥型の紙は崩れていき、跡形もなく消えてしまった。
「あの人も只者じゃないな……」
紙製のゴーレムと言ったところだろうか。
しかも魔力によりレントを判断して展開するようにもなっていたように見える。
ただゴーレムを作るより圧倒的に難しいものだった。
「おっと、それはともかくこの建物だな」
見れば見るほどその建物は今にも崩れそうなほどに所々ボロくなっており、裏の人間が根城にするには丁度よさそうに見えた。
しかし、この場所は日が当たらず影になってる場所が多くレントが動くにはすごくやりやすくはあった。
「僕の魔術って裏の人間寄りだよな……」
そう言うとレントは念の為魔術を展開する。
『影化《フェイク・シャドー》』
この魔術によりレントは影に入り込むことができる。
これなら人に見られる心配は少ないだろう。
そして一応裏口にも回ってみる。
「うーん、湿気というか環境がすこぶる悪い……。あまり長居はしたくないな」
どうにもカビ臭かったり湿気が高かったりして、居るだけでも不快だった。
こんなものはさっさと済ませるに限ると思ったレントは、都合よく空いている窓を見つけるとそこから入ることにした。
「3階の窓か……高いけどこの魔術にとっては関係ないか」
『影化』は影のある場所へ移動するのにも使える便利な魔術だ。
たとえ途中に深い谷があろうと棘の山だろうと関係ない。影さえ続いていれば支障は何一つない。
そのまま垂直に壁を登ると窓からの侵入に成功する。
(ここから先は慎重に行くべきだろう。『影化』は解かずに潜りながら見ていこう)
この建物は外から見ると4階建てに見えていたが実際もその通りのようだ。
とりあえず4階へと登る階段を見つけるため進んでいく。
(4階から見てきたけど今のところ怪しいところは何一つないな……。ハズレかな……)
どの部屋ももぬけの殻でボロい部屋がいくつかある階ばかりだったのだ。
前まで宿屋だったのかその部屋ごとにベッドが置かれている以外何も無かった。
(次は2階だな)
3階から2階に行く階段を使って下りると、あからさまに人の気配を感じるようになった。
間違いなくどこかに人がいるだろう。
(ガゼルだったら当たりなんだけど……とりあえず虱潰しに見ていこう)
扉の下の隙間を通って一つ一つ確認していく。
しかし、やはりこの階にも何も怪しいものはなかった。
(勘が鈍ったかな? いや、1階かもしれないし……)
そして下に降りていくレント。
階段を下りるといきなり人に出くわした。
(うお!? びっくりした……『影化』してて影に潜ってるから当たるはずもバレるはずもないのについついビックリするなこれ……)
そいつはスキンヘッドで顔に大きな傷がある、いかにも悪党のような風貌の男だった。
恐らく「裏ギルド」の人間かそれに近しい人間なのは間違いないだろう。
(あいつに着いてってみるか)
その男の影に潜みついて行く。
そうすると1階の部屋のひとつに入ろうとしていた。
「俺だ」
「グレイか。入れよ」
グレイと呼ばれたスキンヘッドの男は扉を開けると部屋に入っていく。
レントもすかさず部屋に侵入を果たすと、中にはガゼルがいた。
(ここにいたのか)
目的の人物を発見するが、今出ていって目的を素直に話すか怪しいのでそのまま様子を見ることにした。
「ガゼルよぉ、お前しくじったな」
「チッ、仕方ねぇだろ。相手は龍神族だぜ? あそこまでやれたことを褒めて欲しいくらいだな」
「関係ないな。そもそもこの作戦はお前主導だろ、そのお前がしくじったらどうにかなるもんも怪しいもんだ」
「んなこたぁわかってんだ。んだよ? その目はよ」
「ふんっ、どうだかな」
グレイとガゼルはどうやらその作戦の元に動いていて、ガゼルが主犯で間違いなさそうだった。
「ったく、俺が奴を連れてこりゃ問題ねぇだろ」
「それが出来れば苦労はしねぇだろう?」
「いや、自分のミスくらいは自分でケツ持ってやる。あのガキくらい俺一人でもどうにでもならァ。ヒヒッ」
「ふんっ、好きにしろ」
「へいへい」とガゼルが生返事をすると部屋を出ていった。
「いるんだろ?」
(バレたか? いや、大丈夫なはずだ)
レントの『影化』がバレることはほとんどない。
なんの対策もなしにバレるほど生半可な隠れ方はしてないのだ。
「お前だよお前」
そう言うとグレイは机にあったナイフを床に向かって投げた。
そこは先程までレントの居た場所に他ならない。
(バレたのか……てことは)
「まだ出てこねぇか、仕方ねぇ」
そう言うと手に魔力を溜め始めた。
これ以上は建物が壊れるかもしれないとレントは諦めて『影化』を解除してグレイの目の前に現れた。
「お前がレントだな?」
「……」
レントは無言で頷くだけにしておいた。
奴と話すことは極力少なくしておきたい。
「ハッ、運は俺に回ってきたようだな」
「僕を連れてきたかったようだけど?」
「あぁ、そうだよ。ひとつ聞きてぇことがあんだがよ」
「なんだい?」
数秒の沈黙が2人を包む。
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「お前、アビスって聞いて心当たりはあるか?」
「だと言うならどうするんだ?」
「はぁ……やっぱりか」
グレイは諦めたようにその部屋にある椅子に腰をかけた。
「って事は俺がお前をどうにかする予定は無くなったな」
「どういう事だ?」
「お前にひとついいことを教えてやろう」
そういうとグレンは作戦と計画、そしてその目的を話し始めた。
レントは最初こそ怪しいと思ったが、アビスを知っているという事は少なくとも関係はあるだろうととりあえず聞くことにした。
「俺たちは所謂「裏ギルド」と呼ばれる半分悪党みてぇな奴だ。最近トップが入れ替わってよ、貴族の坊ちゃんになったんだよ。そしたらどうだ、中々怪しい依頼が多くなってきたんだわ。そのひとつが今回の依頼『レント、及びアビスの捕獲』だ」
「僕……の捕獲?」
「あぁ、どうやらお偉いさん達はお前さんとお前さんの中にいるアビスとやらに用があるようでな。しかし、どうにもきなくせぇ。聞いてみりゃその存在と力の解析だなんだ言いやがってよ」
「裏ギルド」はアビスを調べてどうしたいんだろう。
確かアビスは来たる星魔大戦に備えて力を受け渡す奴という認識しかないレントは些か疑問が浮かびまくる。
「とはいえ、そんなんただの表向きに決まってる。俺たちへの依頼は汚れ仕事が大半だからな。それでガゼルが主導と聞いてひとつピンと来たことがあった。それは……」
グレイはポケットをまさぐり1つの折りたたまれた紙を取り出すと、開いてレントに見せてきた。
「アビスの降臨と……星魔大戦の人為的な発生?」
「そうだ。奴らは、というかガゼルは元からこれが目的だったらしい。おっと、勘違いするなよ。「裏ギルド」は悪党ではあるが何も犯罪者じゃねぇんだ。正式な国の依頼を取り扱って法で裁けない奴らを始末する組織だ。俺達には俺たちの矜恃がある。ガゼルにもあったはずだが……」
その目は遠くを見ているようで悲しみを帯びていた。
元々ガゼルは真面目だったとレイスターから聞いていた。何かあってああなったのは間違いないのだろう。
「話がズレたな。と言う訳でな、俺は俺の矜恃に従ってお前を守ることにしたんだわ。いくら俺でも、星魔大戦をわざと発生させて国を破滅に導こうなんて思うほど悪党じゃねぇ」
「ふぅん?」
レントは話を受け取るが、全てを鵜呑みにするのは良くないと少しの疑問を持って質問する。
「で、グレイ? はどうしてくれるんだ?」
「なに、簡単な話だ。お前の腕を見込んで俺と組んでくれればいい」
「組む……だって? お前と?」
「あぁ、嫌かもしれんが我慢してくれ。全ては「裏ギルド」を正すためなんだ」
このグレイと言う男は言うほど悪い奴ではないのかもしれない。
確かに人を殺して飯を食ってる人間ではあるが、その心には悪ではない別の物を宿しているように思えた。
「わかった。で、僕は何をすればいいんだ?」
「そうだな、これから多分ガゼルがお前んとこに行くだろ」
「まぁ、そのつもりだろうね」
「倒してくれ」
「えっ!? 倒す?」
「あぁ。いや、殺せって訳じゃない。そこからは俺が何とかしてやる。戦闘不能にしてくれればいい」
それだけなら出来ないことは無いかもしれないが……。
とはいえ、元々ガゼルとは戦わなくちゃならないと思っていたので渡りに船というものだろう。
ここらで一気に精算するのも悪くないと思えた。
「わかった。それだけ?」
「とりあえず、な。あとは追って連絡する」
そう言うとグレイは立ち上がると扉に向かって出ていこうとしていた。
「連絡? どうやって?」
「お、そうだったな。傭兵ギルドにこれ見せてやれ、ほれ」
「おおっと」
グレイが投げ渡したそれは金色に輝くプレートだった。
「そういや、お前はまだ傭兵ギルドに所属できてねぇんだったな。それはギルドカード。要は個人情報だ。それ持って傭兵ギルドの受付に渡せばわかる」
それだけを言い残してグレイは扉から出ていってしまった。
レントはまだ聞きたいことが少しあるので呼び止めようと扉を開けて外に出た。
「……いない」
しかしグレイの姿はどこにもなく、いた形跡すら感じられなかった。
「……とりあえずガゼルか」
独り言のように漏らすと建物から出るために、不必要かとは思うが『影化』することにした。
「金色のカードか」
建物から出て表通りに出ることが出来たレントはグレイから貰ったプレートを取り出して確認してみる。
『グレイ 男 IVランク 異名:絶界』
そのカードには事細かに個人の事が書かれていた。
そしてそれを見ていくうちにひとつの疑問が晴れることになる。
「属性魔術……影……」
あのグレイと言う男はレントと同じ属性の使用者であった。
『影化』は潜入にはすごく重宝し便利な魔術だが、その反面デメリットも存在する。
ひとつは対魔の魔導具を使っていること、そして2つ目は影がないところは使用ができないこと。
最後のひとつは、
「それじゃ、直ぐにバレても仕方ないじゃないか……」
────同じ属性魔術の適正者には丸見えだということ。
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5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
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婚約破棄?一体何のお話ですか?
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なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
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※エブリスタさんでも投稿しています

魅了が解けた貴男から私へ
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貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
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とある元令嬢の選択
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アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
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