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第一章 魔術学校編
第9話 vsライゴウ
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校庭には既にライゴウが待ち構えていた。
「この日をどれだけ待っていたか……。ようやく戦うことが出来るな」
「あぁ、やっぱ冗談じゃ無かったんだな」
「当然だろう。俺は嘘なんてくだらないものはつかん」
ハーティア族としてなのか、ライゴウ自身の性格なのか嘘をつかないと言うよりはつけないと言ったように見えた。
「しかし、なんでまた僕と?」
「半分は俺たちハーティア族の習性とも言えるものだが、もう半分はただの好奇心に他ならない」
「習性?」
話によるとハーティア族は成人になると集落を離れ旅に出るそうだ。
その先で自分より強い者を探し、その者に仕えるのだそうだ。
「それでどうやって集落を維持してるんだ?」
問題はそこだ。
成人が離れていくなら集落なんてものは存在できない。
大人がおらずして子供が出来るはずもなく、その集団になることも無いのだ。
「それはある時を境に主の元を離れるからだ。その間、俺たちは仕え続けるのだ」
「ほぉん……。主からしたらいきなり現れて仕えられたと思ったら、いきなり居なくなるなんて困った奴にしか思えないな」
「確かにそうかもな。しかし、ハーティア族が仕えた主という看板はとても大きいと聞く。そして、基本的には去った者の子孫は主の元に戻る事になるのだ」
どうやらお眼鏡にかなう主を見つけたら一子相伝で使えるのそうだ。
確かに慣れ親しんだ者との別れこそあるが、そこで彼らとの因果が途切れることも無いわけか。
「で、なんでその親の元主の元に行ってないんだ?」
「俺は少々特殊だ。集落の暮らしに嫌気がさし成人する前に離れている。故に親の主の顔もどんな奴なのかも知らない」
尤も、親からの話である程度の情報は分かるらしいが。
「もう半分は、好奇心とか言ってたね」
「あぁ。俺自身仕えてもいいだろうと思える人がいればそうなろうと思っていた。そこでお前に白羽の矢が降りたのだ」
「うーん。身勝手な話だ……」
認められる力を持っていれば勝手に戦わされて勝手に仕えられる。
あまりにもハーティア族の習性とは我儘なものだった。
「話はこの辺でいいか? 俺は早くお前と戦いたい」
「この話を聞いて余計に戦いたく無くなったし、なんなら負けてもいいと思えてきたよ……」
「負けられてもわかる。手加減してるようなら、俺に手加減できるレベルという事だ」
本当に厄介な種族だ。
気づかせないように戦うなんて同等の戦力かよっぽどかけ離れて強くないと無理な話というもの。
「はぁ、仕方ない……。やるかぁ」
「うむ、ではいかせてもらう!」
先日聞いた話では雷魔術と徒手空拳とか言っていたっけな。
それは眉唾ではないようで、ライゴウは魔術士にあるまじき構えを取った。
「徒手空拳……か。初めてみるよ」
「……そちらも構えるといい」
構えると言ってもレントは魔術主体だ。
それっぽいポーズはとってはいるがそれになんの意味もない。
『影の支配』
とりあえず物理主体という事で、コウの時と同じように物理無効の魔術はかけておく。
先程雷魔術と体術を使うコウと戦えたのは助かった。
しかし、ライゴウに見せてはいないものの使ったことのある魔術という物は、どこからか聞いて知っている可能性は十分にある。
十分に警戒をしておく。
「ふんっ」
ライゴウはその掛け声と共に、まだレントと10m程距離があるにもかかわらずその場で拳を突き出した。
正拳突きというものだろうか。
「あがっ」
その瞬間、肩に鈍い痛みが走った。
なんだ?ライゴウの拳は空を切った。
レントは物理無効状態だ、ただの物理攻撃ではダメージにならない。
ということは、
「……魔術で殴った……か?」
「その通りだ。纏わせた魔術はそのまま飛ばせる。遠近一体の技よ」
コウの時の飛ぶ蹴撃と似たものだろう。
(狂演をしてもいいが……)
チラッと周りを見てみるといつの間にかギャラリーが出来ていた。
(『星痕』の力を使ってもいいとは聞いているがどうしたものか)
「こんなもんか?もっとやれると思ったんだが」
「うーん、もしかしてそのまま倒れてたらそれで終わったのかな」
「その未来もあったかもな」
だったらミスだったか?
いや、でも影の支配自体はありふれた影魔術だ。
そして、軽々と魔術学校に入ろうかという年齢の者が使えるものでは無いのもみんなは知っている。
当然、ライゴウもだろう。
「どうだかなぁ。じゃあこれにするか」
『鈍化』
対象の速度を遅くさせる魔術だ。
身体機能の速度であろうとも魔術スピードであろうとも対象の全てを遅くする。
基本的には手に纏わせて対象に触れるか、手から放って対象にぶつける事で発動される。
それ故に影魔術とは相性があまり良くなく、ほとんどは速度に優れた魔術でよく使われる汎用魔術だ。
「!? お前何をしている」
「何って……自分自身に鈍化をかけたのさ」
そう、レントはレント自身のに鈍化をかけ、ただでさえ遅い影魔術をさらに遅くさせたのだ。
本来なら相手にかけるはずのものを自分にかける。
その意味はわからずとも、異変を察したのはさすがライゴウと言ったところか。
「何をしようとしてるんだ?」
「すぐにわかるよ」
『影反鏡』
その魔術を唱えた瞬間、ライゴウの速度は見るからに遅くなった。
そして、
「うぉっ。なんだ!?肩が痛い」
「影反鏡は影の支配を使用してる時にのみ発動できるものだよ。その効果は、自分自身と同じ状況にする」
もちろん、支配している領域に自分が存在していて相手もその領域にいることが前提ではある。
「現状、影の支配にて伸ばした領域は校庭全てを包み込んでいる。ライゴウ、君に逃れる場所はないんだよ」
「なるほどな、この地を踏んでいる限りお前と同じ状態になってしまうということか。これだは殴れば殴るだけ俺にもダメージが来てしまう。でもな、俺はハーティア族なんだ」
レントも懸念していたこと。
ガルドは見てわかるくらいに鳥のような見た目をしており、もちろん羽があるのもわかる。
しかしライゴウは羽らしきものは見えず、背中にもそれの名残すら見つからない。
「ふぬぁぁぁぁぁぁ!」
気合を入れ、背中に意識を集中させるライゴウ。
その様はいかにも今から羽を生やしますと言わんばかりのものだ。
『雷嵐の両翼!!』
いきなり背中から雷で出来た翼が生え、その周囲の風は彼を中心に乱れていた。
「なんだそれ……。かっこよ」
レントは無意識に本音が漏れてしまった。
雷を纏って飛ぶ姿はとてもかっこよかったのだ。
「これで、影響下におらずに済むな」
「流石だよ。ライゴウ」
心から賞賛した。
領域から離れ雷の力で速度が上がったライゴウと、鈍化によって元から遅い影魔術をさらに遅くしたレント。
意図せず正反対の形となったのは偶然か。はたまた必然か。
「では、改めて行くぞ!」
「くっ、体が遅い……ッ! 間に合わない!」
雷の如く速度を乗せたライゴウは、その身を雷の槍と化しレントへと突撃する。
(あの姿から見るに、物理攻撃である突進は無効に出来ても感電はしそうだなぁ)
流石のレントも物理攻撃と魔術攻撃の両方を同時に無効にできはしなかった。
そう考えてるうちにライゴウは目の前まで既に迫っており、あと1秒もなくレントへと激突するだろう。
「なんてね。あっがっぐああああああ!」
「ぬ!? ふぐぅぁぁ!」
その楽観的な声とは裏腹にライゴウの電撃はレントの身を貫いた。
それと同時にライゴウも悲鳴をあげた。
「何故だ。何故、地を踏んでいないにも関わらずお前に与えたダメージが俺に返ってくる?」
「ハァハァ……痛いなぁこれ。僕は最初から『領域』としか言ってないよ。この黒い地面だけが領域じゃないってこと」
ライゴウに言っていなかったものの一つに、『影の支配』の効果の詳細がある。
影の支配とは正確には伸ばした影と一体化する魔術の事だ。
いくら影に物理的な攻撃を仕掛けても何も気にとめないように、一体化しているレントにもダメージが無いだけなのだ。
「つまり、僕自身も『領域』のひとつなのさ。まぁ、このようにダメージは食らうんだけどね。」
痛いなぁ、と半ば痺れた右腕を庇いながらライゴウへと近づく。
雷魔術の適応という事で普段から電気への耐性が高く、感電というものになったことが無いライゴウ。
しかし、この場合は電気による感電ではない。
あくまでも、レントに起きたこと全く同じ事を相手にも与えるということだ。
「つまり、電気関係なく電気のように痺れているってことだよ」
「つぅ、感電とはこのようなものだったのだな……。これではまともに戦えない」
徒手空拳を扱うものにとって利きというものはとても大事だ。
利き腕が使えなくなったライゴウは格闘家としては、この試合において使い物にならなくなったのだ。
「だが、まだ魔術がある!」
近づいていたレントは油断をしていたか不意を使える形となった。
雷嵐の両翼によって生まれた右翼は形を変え右腕の代わりとして腕を形作った。
「これがおそらく最後になるだろう。せめて一矢報いてやろうぞ!」
『大電嵐気流』
ライゴウの周囲に吹きすさぶ風はライゴウの右腕に収まり、雷と嵐の力を宿した拳は前へと突き出される。
その拳の延長線上に電気と風の暴力とも言える力が猛威を振るう。
「おいおい、こんなん躱せないぞ」
どうしたものかと悩んでいるが、思っていたより速度がない。
何故だろうと思っていたら、
「あぁ!鈍化か!今地面についてるね。なら話は別だ」
『退魔の拒影』
その瞬間、ライゴウの放った大電嵐気流が消え去り、レントの使っている影の支配と鈍化も消去された。
どうやら周囲に結界が貼ってあったようだが、それも消えてしまったようで申し訳ないことをした。
「『退魔の拒影』は、周りの自分の影響範囲全てにおける魔術を全て打ち消す魔術だ。相手の魔術を消すのは助かるが、自分のも消えてしまうのはいただけないなぁ」
周りを見ていると結界を施してくれていた教師がいたようで、申し訳なさそうに会釈をしておいた。
「ふん、これでは俺に出来ることが何一つないな……。お前の勝ちだ、レント。いや、我が主よ」
「げっ、忘れてた」
しかし、認められてしまったものはどうしようもない。
素直に諦めるしか無かった。
こうしてレントは、図らずしてか戦力を得ることになる。
「明日の買い物や入学式は平和に済めばいいなぁ」
力をほとんど使い果たしてくたびれたレントは、半ば希望のような目で空を見上げていた。
「この日をどれだけ待っていたか……。ようやく戦うことが出来るな」
「あぁ、やっぱ冗談じゃ無かったんだな」
「当然だろう。俺は嘘なんてくだらないものはつかん」
ハーティア族としてなのか、ライゴウ自身の性格なのか嘘をつかないと言うよりはつけないと言ったように見えた。
「しかし、なんでまた僕と?」
「半分は俺たちハーティア族の習性とも言えるものだが、もう半分はただの好奇心に他ならない」
「習性?」
話によるとハーティア族は成人になると集落を離れ旅に出るそうだ。
その先で自分より強い者を探し、その者に仕えるのだそうだ。
「それでどうやって集落を維持してるんだ?」
問題はそこだ。
成人が離れていくなら集落なんてものは存在できない。
大人がおらずして子供が出来るはずもなく、その集団になることも無いのだ。
「それはある時を境に主の元を離れるからだ。その間、俺たちは仕え続けるのだ」
「ほぉん……。主からしたらいきなり現れて仕えられたと思ったら、いきなり居なくなるなんて困った奴にしか思えないな」
「確かにそうかもな。しかし、ハーティア族が仕えた主という看板はとても大きいと聞く。そして、基本的には去った者の子孫は主の元に戻る事になるのだ」
どうやらお眼鏡にかなう主を見つけたら一子相伝で使えるのそうだ。
確かに慣れ親しんだ者との別れこそあるが、そこで彼らとの因果が途切れることも無いわけか。
「で、なんでその親の元主の元に行ってないんだ?」
「俺は少々特殊だ。集落の暮らしに嫌気がさし成人する前に離れている。故に親の主の顔もどんな奴なのかも知らない」
尤も、親からの話である程度の情報は分かるらしいが。
「もう半分は、好奇心とか言ってたね」
「あぁ。俺自身仕えてもいいだろうと思える人がいればそうなろうと思っていた。そこでお前に白羽の矢が降りたのだ」
「うーん。身勝手な話だ……」
認められる力を持っていれば勝手に戦わされて勝手に仕えられる。
あまりにもハーティア族の習性とは我儘なものだった。
「話はこの辺でいいか? 俺は早くお前と戦いたい」
「この話を聞いて余計に戦いたく無くなったし、なんなら負けてもいいと思えてきたよ……」
「負けられてもわかる。手加減してるようなら、俺に手加減できるレベルという事だ」
本当に厄介な種族だ。
気づかせないように戦うなんて同等の戦力かよっぽどかけ離れて強くないと無理な話というもの。
「はぁ、仕方ない……。やるかぁ」
「うむ、ではいかせてもらう!」
先日聞いた話では雷魔術と徒手空拳とか言っていたっけな。
それは眉唾ではないようで、ライゴウは魔術士にあるまじき構えを取った。
「徒手空拳……か。初めてみるよ」
「……そちらも構えるといい」
構えると言ってもレントは魔術主体だ。
それっぽいポーズはとってはいるがそれになんの意味もない。
『影の支配』
とりあえず物理主体という事で、コウの時と同じように物理無効の魔術はかけておく。
先程雷魔術と体術を使うコウと戦えたのは助かった。
しかし、ライゴウに見せてはいないものの使ったことのある魔術という物は、どこからか聞いて知っている可能性は十分にある。
十分に警戒をしておく。
「ふんっ」
ライゴウはその掛け声と共に、まだレントと10m程距離があるにもかかわらずその場で拳を突き出した。
正拳突きというものだろうか。
「あがっ」
その瞬間、肩に鈍い痛みが走った。
なんだ?ライゴウの拳は空を切った。
レントは物理無効状態だ、ただの物理攻撃ではダメージにならない。
ということは、
「……魔術で殴った……か?」
「その通りだ。纏わせた魔術はそのまま飛ばせる。遠近一体の技よ」
コウの時の飛ぶ蹴撃と似たものだろう。
(狂演をしてもいいが……)
チラッと周りを見てみるといつの間にかギャラリーが出来ていた。
(『星痕』の力を使ってもいいとは聞いているがどうしたものか)
「こんなもんか?もっとやれると思ったんだが」
「うーん、もしかしてそのまま倒れてたらそれで終わったのかな」
「その未来もあったかもな」
だったらミスだったか?
いや、でも影の支配自体はありふれた影魔術だ。
そして、軽々と魔術学校に入ろうかという年齢の者が使えるものでは無いのもみんなは知っている。
当然、ライゴウもだろう。
「どうだかなぁ。じゃあこれにするか」
『鈍化』
対象の速度を遅くさせる魔術だ。
身体機能の速度であろうとも魔術スピードであろうとも対象の全てを遅くする。
基本的には手に纏わせて対象に触れるか、手から放って対象にぶつける事で発動される。
それ故に影魔術とは相性があまり良くなく、ほとんどは速度に優れた魔術でよく使われる汎用魔術だ。
「!? お前何をしている」
「何って……自分自身に鈍化をかけたのさ」
そう、レントはレント自身のに鈍化をかけ、ただでさえ遅い影魔術をさらに遅くさせたのだ。
本来なら相手にかけるはずのものを自分にかける。
その意味はわからずとも、異変を察したのはさすがライゴウと言ったところか。
「何をしようとしてるんだ?」
「すぐにわかるよ」
『影反鏡』
その魔術を唱えた瞬間、ライゴウの速度は見るからに遅くなった。
そして、
「うぉっ。なんだ!?肩が痛い」
「影反鏡は影の支配を使用してる時にのみ発動できるものだよ。その効果は、自分自身と同じ状況にする」
もちろん、支配している領域に自分が存在していて相手もその領域にいることが前提ではある。
「現状、影の支配にて伸ばした領域は校庭全てを包み込んでいる。ライゴウ、君に逃れる場所はないんだよ」
「なるほどな、この地を踏んでいる限りお前と同じ状態になってしまうということか。これだは殴れば殴るだけ俺にもダメージが来てしまう。でもな、俺はハーティア族なんだ」
レントも懸念していたこと。
ガルドは見てわかるくらいに鳥のような見た目をしており、もちろん羽があるのもわかる。
しかしライゴウは羽らしきものは見えず、背中にもそれの名残すら見つからない。
「ふぬぁぁぁぁぁぁ!」
気合を入れ、背中に意識を集中させるライゴウ。
その様はいかにも今から羽を生やしますと言わんばかりのものだ。
『雷嵐の両翼!!』
いきなり背中から雷で出来た翼が生え、その周囲の風は彼を中心に乱れていた。
「なんだそれ……。かっこよ」
レントは無意識に本音が漏れてしまった。
雷を纏って飛ぶ姿はとてもかっこよかったのだ。
「これで、影響下におらずに済むな」
「流石だよ。ライゴウ」
心から賞賛した。
領域から離れ雷の力で速度が上がったライゴウと、鈍化によって元から遅い影魔術をさらに遅くしたレント。
意図せず正反対の形となったのは偶然か。はたまた必然か。
「では、改めて行くぞ!」
「くっ、体が遅い……ッ! 間に合わない!」
雷の如く速度を乗せたライゴウは、その身を雷の槍と化しレントへと突撃する。
(あの姿から見るに、物理攻撃である突進は無効に出来ても感電はしそうだなぁ)
流石のレントも物理攻撃と魔術攻撃の両方を同時に無効にできはしなかった。
そう考えてるうちにライゴウは目の前まで既に迫っており、あと1秒もなくレントへと激突するだろう。
「なんてね。あっがっぐああああああ!」
「ぬ!? ふぐぅぁぁ!」
その楽観的な声とは裏腹にライゴウの電撃はレントの身を貫いた。
それと同時にライゴウも悲鳴をあげた。
「何故だ。何故、地を踏んでいないにも関わらずお前に与えたダメージが俺に返ってくる?」
「ハァハァ……痛いなぁこれ。僕は最初から『領域』としか言ってないよ。この黒い地面だけが領域じゃないってこと」
ライゴウに言っていなかったものの一つに、『影の支配』の効果の詳細がある。
影の支配とは正確には伸ばした影と一体化する魔術の事だ。
いくら影に物理的な攻撃を仕掛けても何も気にとめないように、一体化しているレントにもダメージが無いだけなのだ。
「つまり、僕自身も『領域』のひとつなのさ。まぁ、このようにダメージは食らうんだけどね。」
痛いなぁ、と半ば痺れた右腕を庇いながらライゴウへと近づく。
雷魔術の適応という事で普段から電気への耐性が高く、感電というものになったことが無いライゴウ。
しかし、この場合は電気による感電ではない。
あくまでも、レントに起きたこと全く同じ事を相手にも与えるということだ。
「つまり、電気関係なく電気のように痺れているってことだよ」
「つぅ、感電とはこのようなものだったのだな……。これではまともに戦えない」
徒手空拳を扱うものにとって利きというものはとても大事だ。
利き腕が使えなくなったライゴウは格闘家としては、この試合において使い物にならなくなったのだ。
「だが、まだ魔術がある!」
近づいていたレントは油断をしていたか不意を使える形となった。
雷嵐の両翼によって生まれた右翼は形を変え右腕の代わりとして腕を形作った。
「これがおそらく最後になるだろう。せめて一矢報いてやろうぞ!」
『大電嵐気流』
ライゴウの周囲に吹きすさぶ風はライゴウの右腕に収まり、雷と嵐の力を宿した拳は前へと突き出される。
その拳の延長線上に電気と風の暴力とも言える力が猛威を振るう。
「おいおい、こんなん躱せないぞ」
どうしたものかと悩んでいるが、思っていたより速度がない。
何故だろうと思っていたら、
「あぁ!鈍化か!今地面についてるね。なら話は別だ」
『退魔の拒影』
その瞬間、ライゴウの放った大電嵐気流が消え去り、レントの使っている影の支配と鈍化も消去された。
どうやら周囲に結界が貼ってあったようだが、それも消えてしまったようで申し訳ないことをした。
「『退魔の拒影』は、周りの自分の影響範囲全てにおける魔術を全て打ち消す魔術だ。相手の魔術を消すのは助かるが、自分のも消えてしまうのはいただけないなぁ」
周りを見ていると結界を施してくれていた教師がいたようで、申し訳なさそうに会釈をしておいた。
「ふん、これでは俺に出来ることが何一つないな……。お前の勝ちだ、レント。いや、我が主よ」
「げっ、忘れてた」
しかし、認められてしまったものはどうしようもない。
素直に諦めるしか無かった。
こうしてレントは、図らずしてか戦力を得ることになる。
「明日の買い物や入学式は平和に済めばいいなぁ」
力をほとんど使い果たしてくたびれたレントは、半ば希望のような目で空を見上げていた。
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