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第一章 魔術学校編
第7話 望みと憧れと非難と【4】
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『夕食後に校長室へ来なさい』
机の上の手紙にはその1文のみ書かれており、他に変わったものは無い。
「この書き方的に自分以外は居ないか、いても数人ってとこだろうなぁ」
レントは自分と他の受験者の違いを考えた。
(自分との差…)
『星痕』を宿すこの左目の事なのか、はたまた魔術士としては高い身体能力だろうか。
「あぁ、影魔術のことかもしれないな…」
カラットと相対した時にバレていたとしても何もおかしくない。
未知の星痕に特異魔術、身体能力は…父との鍛錬の賜物なのでこれに関しては何もおかしな点はない。
「とりあえず夕飯だな」
考えてても埒はあかないので、夕飯にするため部屋を出て食堂へと赴く。
食堂には既に何人かが夕飯を食べており、オリティアをみかけたので相席させてもらう事にした。
「ふふっ、レントさんも無事合格おめでとうございます」
「ありがとう、そっちもね」
その身に違わず、細かくわけて食べる様は実に絵になる。
女性経験があまり多くないレントは図らずもドキッとしてしまう。
「オリティアは手紙読んだ?」
単刀直入ではあるが今1番気になるので質問してみるが、実の所そんな期待していない。
見ず知らずの人では無いとはいえそうお構いなく話すこともないだろう。
「えぇ、その後の予定とか必要なものを揃えろとか色々ありましたよ。後、あれは…」
そう言うと少し言葉が濁るといきなり顔を近づけてきた。
近い近い近い。
ただでさえドキドキしているのに近づかれたら心音がバレそうだ。
「他の方にも聞いたのですが、それぞれ他の人に話してはいけない内容もあったみたいです」
私にもあったと言わんばかりの話し方ではあるが何か気になる。
「オリティアも?」
「えぇ」
どうやら各々に秘密にする必要のある内容が書かれているみたいだ。
レントはより緊張を高めた。
(僕のも恐らくそれだろう。予定とかは何も無かったけど…)
「レントさんも?」
「あ…あぁ。だいたい同じだよ」
だいたい、という言葉回しはミスな気がした。
その証拠にオリティアは少しピクっと反応したのだ。
「…まぁ、その手紙通りにしておけば何ももんないないでしょ」
「そうね」
そうして2人は取り留めもない話をしながら夕飯を楽しんだ。
───夕飯後
コンコンッ
校長室の扉を叩き来たことを伝える。
「レントです」
「お、来たか。入れ」
ドアノブに手をかけ言われたように入ると、そこには華美な置物やら絵画やらが飾られた書斎のような部屋が目前に広がった。
「あの手が…」
「おっと、少しその話は待ってくれ」
そう言って校長先生は1つの魔術をかけた。
「乖離空間」
ヴゥンと重い音と共に部屋全体に魔術が行き渡る感覚がした。
「この話はあまり人に聞かれたくないものでな、部屋の座標を変えさせてもらった。要は異空間みたいなものだ」
(これは…時空間系統の魔術か?)
部屋をそのまま異空間化するなんて波の魔術士には無理だ。
ようやって数人囲えるくらいが限度だろう。
(それを単体で、かつ余裕に扱える…か)
やはり魔術学校の校長先生となるとそれほどの力があるようだ。
「よし、では話に移ろう」
「はい、お願いします」
「まず第一に君の『星痕』だ。これはあまり人に言いふらさない方がいい。…おっと、なんで知ってるかって?見くびってもらっては困る。これでもこの学校の校長をしてるんだ、受験者の詳細は細かく入ってくる。」
それでだ、と話を続ける。
「お前の『星痕』はあまりにも規格外すぎる。力の詳細もあまり分からない上、その力も強大だ。とはいえな、ここは学校だ。力を抑えて学びを得れるなどと思ってもらっては困る。やれ試験だの、やれ使える力の計測だのと使わないといけない場面なんてのはそこらじゅうに点在する」
「そうですね…。僕も全く使わずにやりくりできるとは思ってないです」
「うむ、そういうことなんでな、この学校の敷地内においての抑制はしなくてもいい。なに、心配するなどれだけ力が強かろうと我が校自慢の結界魔術士は何とかしてくれるさ…ははは」
乾いた笑いをしてる所を見るとあまり全力で、とはいかなさそうだ。
「そして2つ目。その魔術系統だ。」
やはりこれもか…
「影魔術。これ自体は属性魔術と違い数こそ少ないが、それでも扱う人はいる。この学校にも知る限りでは数人はおるよ。ただ、その…なんというか、だな。君ほど扱いに長けたものはおらんのだよ。」
本で見た限りだと影魔術とは力は強いものの速さにおいて全魔術に遅れを取る魔術とあった。
速度の面で不利を背負っている地属性の魔術でさえ速度で負けるほどだ。
「そこでだ。君の影魔術は我が校にとっても君にとっても利の多いものだ。ぜひ大いに力を奮ってくれたまえ」
「えっ、いいんですか?」
これにはレントも驚いた。
過ぎた力は学びこそ生まれるが、その多くは危険視や人との壁を作るもの。
おいそれと多用していいはずがなかった。
「あぁ。今言ったが君ほどの使い手がおらんのだ。ぜひ我が校の学びに力を使ってくれ」
「…分かりました」
抑えることなく使っていいと言うなら『星痕』のカモフラージュになりそうだ。
この学校ではこちらをメインに使っていくことにする。
「そして、最後だ。」
一息ついた後、1番肝心だとばかりに空気が重たくなる。
「お前。リダンの子か?」
唐突に親の名前を出されて驚かない人がいるだろうか。少なくともなんの脈絡も感じない話題に出てくる親の名前に驚かない人を知らない。
「えぇと、はい。リダンは僕の父ですが」
「…そうか」
険悪な空気の中、この数分だけでも数時間経ったのかと思ってしまうほどの張り詰めた空気。
息が止まりそうだ。
──俺は、無名ではあるがお国のために戦った兵士のひとりだ。今では見ての通り『星痕』もないただの一般人だがな。これでもかなり貢献した方なんだ。
──世界はどうやら俺の子供にも迷惑をかけやがるらしい。
先日父から聞いた話がフラッシュバックしてきた。
無名…本当に無名だったのか?
無名と思いたかったのか、はたまた無名だと思っているだけなのか。
「リダンはな、かの星魔大戦にて最大の貢献をした我が星最大の英雄なのだ」
「えっ、ええっ!?」
なにが無名だ。
むしろ知らない人がいないレベルではないか。
(…いや、それはおかしい。いくら力を失い戦えなくなったとはいえ、そんな人物が何もなくただの街で普通の人をやれるはずがない)
普通ならそんな英雄なんてものは国をあげて囲おうとするし、それを拒否して1回の街人として過ごすにしてもそれなりの名は聞くはずだ。
レントはこの十数年の間に1回も聞いたことは無かった。
「細かくは時間がかかるからさわりだけ少し話そう」
その後1時間ほどだろうか、父のやった事や何が起きて今こうなっているのか。
父の顛末について少し知ることが出来た。
「…整理が必要なようだな。話はこれくらいにしておこう。部屋に戻ってくれ」
「…はい。ありがとうございました」
そうして後ろを振り返ると扉に向けて歩いていく。
「いいか、お前は何も考えずにただ学生をしていればいいんだ。父のやった事はとても凄いことで国や星は彼に助けられた。奴の代わりに…なんてのは考えてはダメだぞ」
背後から聞こえたそのセリフは、レントにはあまりにも重く、そして、耐え難いものであった。
───レントの控え室
「…それが本当なら、父さんは」
父は昔、国のために魔物と戦ったそうだ。
力なき人には過ぎた力を持つ魔物と戦うべく、ひたすらに戦場にたった。
そして、『星魔大戦』と呼ばれるこの星の民なら誰しもが知っている戦い、これにリダンは参加して一時は健闘していた。
しかし、戦えたのはそこまでだった。
目の前に現れた魔物…
とてつもなく大きく、強く、そして何よりも魔神の加護…『魔痕』と呼ばれる力を宿していたそうだ。
それは我々の持つ『星痕』と対となるもので、魔の神が強大な力を得た魔物にのみ与えるものらしい。
リダンはその魔物と戦い、それは数週間に及んだ。
終わる頃には彼の『星痕』は無くなっていたそうだ。
『星痕』が無くなる。
それは、普通に生き、普通に戦い、普通に扱ってるだけでは起こりえない異常事態。
国は大きく乱れたそうだ。
なにしろこの星における最大戦力を失ったのだから。
リダンの話では件の魔物と戦っている時、魔の神と精神世界で対話したそうだ。
『我々は…お前たちで言うところの魔物は、はるか昔から住み着く元よりこの星の民。我らにとってはお前たちこそが魔物であり、排除するべきものだ』
『俺たちだって好き好んでこの星に、この世界に生まれ落ちたわけじゃねぇ!神様だかなんだか知らんが、攻撃されたら抵抗するしかねぇんだ』
そうしたお互いに引かぬ話し合いは数週間に及ぶ。
それがこの星魔大戦の長さの全貌だ。
そして、リダンと魔の神はひとつの契約を交わした。
それは
【絶対不可侵契約】
過ぎた力は己も敵も滅ぼすと結論を出したふたりは、この契約をもって終戦となった。
時折姿を見せる魔物は人々にとっても魔物にとっても必要なものらしく、人にとって大事な資源のひとつ。
魔物にとっては生まれつきの破壊衝動の捌け口として。
これを除き、このような不毛な戦いは未来永劫無くそうと。
そういった契約だ。
何はともあれ、リダンは人と魔物の戦いに決着をつけた。
この話を報告すると、魔物は時折姿を見せるとはいえこれから魔物に怯え続けることはなくなるだろうと、リダンを英雄として担ぎあげて国をもって称えた。
その契約をする時に、魔物の『魔痕』とリダンの『星痕』は力を失ったのだという。
(父さんはそんな戦いに身を置いてたから…)
力を失ってただの人となったリダンだが、レントが星導者になると聞いて内心焦ったはずだろう。
そしてその『星痕』を聞いて、いてもたってもいられなかっただろう。
レントがリダンの立場なら、何がなんでも止めたはずだ。
誰が好んで我が子をそんな所に送り込めるのか、という話だ。
しかし、
この歴史的に重要な出来事は、ハッピーエンドで終わるはずもなく
───人はこんなにも醜いものだと、リダンは失望することになる。
机の上の手紙にはその1文のみ書かれており、他に変わったものは無い。
「この書き方的に自分以外は居ないか、いても数人ってとこだろうなぁ」
レントは自分と他の受験者の違いを考えた。
(自分との差…)
『星痕』を宿すこの左目の事なのか、はたまた魔術士としては高い身体能力だろうか。
「あぁ、影魔術のことかもしれないな…」
カラットと相対した時にバレていたとしても何もおかしくない。
未知の星痕に特異魔術、身体能力は…父との鍛錬の賜物なのでこれに関しては何もおかしな点はない。
「とりあえず夕飯だな」
考えてても埒はあかないので、夕飯にするため部屋を出て食堂へと赴く。
食堂には既に何人かが夕飯を食べており、オリティアをみかけたので相席させてもらう事にした。
「ふふっ、レントさんも無事合格おめでとうございます」
「ありがとう、そっちもね」
その身に違わず、細かくわけて食べる様は実に絵になる。
女性経験があまり多くないレントは図らずもドキッとしてしまう。
「オリティアは手紙読んだ?」
単刀直入ではあるが今1番気になるので質問してみるが、実の所そんな期待していない。
見ず知らずの人では無いとはいえそうお構いなく話すこともないだろう。
「えぇ、その後の予定とか必要なものを揃えろとか色々ありましたよ。後、あれは…」
そう言うと少し言葉が濁るといきなり顔を近づけてきた。
近い近い近い。
ただでさえドキドキしているのに近づかれたら心音がバレそうだ。
「他の方にも聞いたのですが、それぞれ他の人に話してはいけない内容もあったみたいです」
私にもあったと言わんばかりの話し方ではあるが何か気になる。
「オリティアも?」
「えぇ」
どうやら各々に秘密にする必要のある内容が書かれているみたいだ。
レントはより緊張を高めた。
(僕のも恐らくそれだろう。予定とかは何も無かったけど…)
「レントさんも?」
「あ…あぁ。だいたい同じだよ」
だいたい、という言葉回しはミスな気がした。
その証拠にオリティアは少しピクっと反応したのだ。
「…まぁ、その手紙通りにしておけば何ももんないないでしょ」
「そうね」
そうして2人は取り留めもない話をしながら夕飯を楽しんだ。
───夕飯後
コンコンッ
校長室の扉を叩き来たことを伝える。
「レントです」
「お、来たか。入れ」
ドアノブに手をかけ言われたように入ると、そこには華美な置物やら絵画やらが飾られた書斎のような部屋が目前に広がった。
「あの手が…」
「おっと、少しその話は待ってくれ」
そう言って校長先生は1つの魔術をかけた。
「乖離空間」
ヴゥンと重い音と共に部屋全体に魔術が行き渡る感覚がした。
「この話はあまり人に聞かれたくないものでな、部屋の座標を変えさせてもらった。要は異空間みたいなものだ」
(これは…時空間系統の魔術か?)
部屋をそのまま異空間化するなんて波の魔術士には無理だ。
ようやって数人囲えるくらいが限度だろう。
(それを単体で、かつ余裕に扱える…か)
やはり魔術学校の校長先生となるとそれほどの力があるようだ。
「よし、では話に移ろう」
「はい、お願いします」
「まず第一に君の『星痕』だ。これはあまり人に言いふらさない方がいい。…おっと、なんで知ってるかって?見くびってもらっては困る。これでもこの学校の校長をしてるんだ、受験者の詳細は細かく入ってくる。」
それでだ、と話を続ける。
「お前の『星痕』はあまりにも規格外すぎる。力の詳細もあまり分からない上、その力も強大だ。とはいえな、ここは学校だ。力を抑えて学びを得れるなどと思ってもらっては困る。やれ試験だの、やれ使える力の計測だのと使わないといけない場面なんてのはそこらじゅうに点在する」
「そうですね…。僕も全く使わずにやりくりできるとは思ってないです」
「うむ、そういうことなんでな、この学校の敷地内においての抑制はしなくてもいい。なに、心配するなどれだけ力が強かろうと我が校自慢の結界魔術士は何とかしてくれるさ…ははは」
乾いた笑いをしてる所を見るとあまり全力で、とはいかなさそうだ。
「そして2つ目。その魔術系統だ。」
やはりこれもか…
「影魔術。これ自体は属性魔術と違い数こそ少ないが、それでも扱う人はいる。この学校にも知る限りでは数人はおるよ。ただ、その…なんというか、だな。君ほど扱いに長けたものはおらんのだよ。」
本で見た限りだと影魔術とは力は強いものの速さにおいて全魔術に遅れを取る魔術とあった。
速度の面で不利を背負っている地属性の魔術でさえ速度で負けるほどだ。
「そこでだ。君の影魔術は我が校にとっても君にとっても利の多いものだ。ぜひ大いに力を奮ってくれたまえ」
「えっ、いいんですか?」
これにはレントも驚いた。
過ぎた力は学びこそ生まれるが、その多くは危険視や人との壁を作るもの。
おいそれと多用していいはずがなかった。
「あぁ。今言ったが君ほどの使い手がおらんのだ。ぜひ我が校の学びに力を使ってくれ」
「…分かりました」
抑えることなく使っていいと言うなら『星痕』のカモフラージュになりそうだ。
この学校ではこちらをメインに使っていくことにする。
「そして、最後だ。」
一息ついた後、1番肝心だとばかりに空気が重たくなる。
「お前。リダンの子か?」
唐突に親の名前を出されて驚かない人がいるだろうか。少なくともなんの脈絡も感じない話題に出てくる親の名前に驚かない人を知らない。
「えぇと、はい。リダンは僕の父ですが」
「…そうか」
険悪な空気の中、この数分だけでも数時間経ったのかと思ってしまうほどの張り詰めた空気。
息が止まりそうだ。
──俺は、無名ではあるがお国のために戦った兵士のひとりだ。今では見ての通り『星痕』もないただの一般人だがな。これでもかなり貢献した方なんだ。
──世界はどうやら俺の子供にも迷惑をかけやがるらしい。
先日父から聞いた話がフラッシュバックしてきた。
無名…本当に無名だったのか?
無名と思いたかったのか、はたまた無名だと思っているだけなのか。
「リダンはな、かの星魔大戦にて最大の貢献をした我が星最大の英雄なのだ」
「えっ、ええっ!?」
なにが無名だ。
むしろ知らない人がいないレベルではないか。
(…いや、それはおかしい。いくら力を失い戦えなくなったとはいえ、そんな人物が何もなくただの街で普通の人をやれるはずがない)
普通ならそんな英雄なんてものは国をあげて囲おうとするし、それを拒否して1回の街人として過ごすにしてもそれなりの名は聞くはずだ。
レントはこの十数年の間に1回も聞いたことは無かった。
「細かくは時間がかかるからさわりだけ少し話そう」
その後1時間ほどだろうか、父のやった事や何が起きて今こうなっているのか。
父の顛末について少し知ることが出来た。
「…整理が必要なようだな。話はこれくらいにしておこう。部屋に戻ってくれ」
「…はい。ありがとうございました」
そうして後ろを振り返ると扉に向けて歩いていく。
「いいか、お前は何も考えずにただ学生をしていればいいんだ。父のやった事はとても凄いことで国や星は彼に助けられた。奴の代わりに…なんてのは考えてはダメだぞ」
背後から聞こえたそのセリフは、レントにはあまりにも重く、そして、耐え難いものであった。
───レントの控え室
「…それが本当なら、父さんは」
父は昔、国のために魔物と戦ったそうだ。
力なき人には過ぎた力を持つ魔物と戦うべく、ひたすらに戦場にたった。
そして、『星魔大戦』と呼ばれるこの星の民なら誰しもが知っている戦い、これにリダンは参加して一時は健闘していた。
しかし、戦えたのはそこまでだった。
目の前に現れた魔物…
とてつもなく大きく、強く、そして何よりも魔神の加護…『魔痕』と呼ばれる力を宿していたそうだ。
それは我々の持つ『星痕』と対となるもので、魔の神が強大な力を得た魔物にのみ与えるものらしい。
リダンはその魔物と戦い、それは数週間に及んだ。
終わる頃には彼の『星痕』は無くなっていたそうだ。
『星痕』が無くなる。
それは、普通に生き、普通に戦い、普通に扱ってるだけでは起こりえない異常事態。
国は大きく乱れたそうだ。
なにしろこの星における最大戦力を失ったのだから。
リダンの話では件の魔物と戦っている時、魔の神と精神世界で対話したそうだ。
『我々は…お前たちで言うところの魔物は、はるか昔から住み着く元よりこの星の民。我らにとってはお前たちこそが魔物であり、排除するべきものだ』
『俺たちだって好き好んでこの星に、この世界に生まれ落ちたわけじゃねぇ!神様だかなんだか知らんが、攻撃されたら抵抗するしかねぇんだ』
そうしたお互いに引かぬ話し合いは数週間に及ぶ。
それがこの星魔大戦の長さの全貌だ。
そして、リダンと魔の神はひとつの契約を交わした。
それは
【絶対不可侵契約】
過ぎた力は己も敵も滅ぼすと結論を出したふたりは、この契約をもって終戦となった。
時折姿を見せる魔物は人々にとっても魔物にとっても必要なものらしく、人にとって大事な資源のひとつ。
魔物にとっては生まれつきの破壊衝動の捌け口として。
これを除き、このような不毛な戦いは未来永劫無くそうと。
そういった契約だ。
何はともあれ、リダンは人と魔物の戦いに決着をつけた。
この話を報告すると、魔物は時折姿を見せるとはいえこれから魔物に怯え続けることはなくなるだろうと、リダンを英雄として担ぎあげて国をもって称えた。
その契約をする時に、魔物の『魔痕』とリダンの『星痕』は力を失ったのだという。
(父さんはそんな戦いに身を置いてたから…)
力を失ってただの人となったリダンだが、レントが星導者になると聞いて内心焦ったはずだろう。
そしてその『星痕』を聞いて、いてもたってもいられなかっただろう。
レントがリダンの立場なら、何がなんでも止めたはずだ。
誰が好んで我が子をそんな所に送り込めるのか、という話だ。
しかし、
この歴史的に重要な出来事は、ハッピーエンドで終わるはずもなく
───人はこんなにも醜いものだと、リダンは失望することになる。
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