星導の魔術士

かもしか

文字の大きさ
上 下
6 / 36
第一章 魔術学校編

第6話 望みと憧れと非難と【3】

しおりを挟む
 その日は合格発表は無く、そのまま寝床に着く流れとなった。

 部屋には鍵が掛けられるようになっており、貴重品の管理含め安心を覚える。

「と言っても貴重品なんてものは、お金の入ったこの財布しか無いわけだけどね」

 手に取った財布は10歳の誕生日の時に母親、キリヤから貰った物。
 泥蛇マッド・サーペントの皮から出来ており、泥を取り除いたその皮は丈夫に出来ており、僕の親達一般の街人にとっては豪華なものだ。

「合格発表はいつだろう?明日にでも来ると思うんだが…」

 我ながら悪くない結果だったと思うので合否はすごく楽しみだ。自己評価では合格だ。

 しかし、1人になる空間とはいえ部屋の中で魔法の練習は出来ないので少し筋トレでもする事にした。

「父が言うには魔法の使う者の弱点のひとつに魔法を使う前に接近される、らしい。僕の魔法は接近戦にもそれなりに使えるとはいえ、まだまだ練度と共に経験が足りないな」

 明日もあるので程々にしておこうと、寝るまでの間筋トレに勤しんだ。

 ───────────────────

 カチャ
 ガサゴソ…

 皆の寝静まった深夜未明、レントの部屋にて物音がしはじめた。

「…うぅん」

 レントは音が気になり目覚めかけるが、鍵が着いていた安心からか油断していた。
 音が静かになり、レントが再び寝息を立てると今度は体の上に重さを感じた。
 流石のレントも目が覚めてしまった。

「…んん…!?誰だ」

 鍵がかかってるとはいえ、防音の機能はないようで隣の音が比較的良く聞こえるのを寝る前に確かめた。
 その上で小さな声で尋ねるが反応は返ってこない。

(僕の魔法に光で照らすようなものは無いし…、明かりを付けようにも身動きが取りづらい)

 体の上にある人影が口を塞ぎに手を翳したのが見えたレントは、これはまずいと何とか力で押し返した。

「あいたたたた、お前なかなかやるにゃ」

 まだあかりも無いので暗いままだがようやく相手の声が聞こえた。

「お前、ケットシー族か」

 受験者の中に猫耳と猫しっぽを生やした者はいなかった記憶がある。
 かの種族は魔術があまり得意じゃない代わりに体術に長けていると聞いたことがある。
 が、しかしここは明かりもない闇の中。
 むしろこちらのフィールドそのものであった。

「…」
「変な気を起こすなよ。僕はこの中でも戦える」

 お互い牽制をしあっていると、ケットシー族斗思われる人影は諦めたように両手をあげる身振りをしてるのが見えた。

「降参にゃ。お前には勝てそうにない」

 まだ、言葉だけでは信用してはダメだ。
 構えはまだ解かずにその方向をただひたすら見つめるレント。

「あぁぁあ、明かりにゃ。明かりをつけるにゃ。灯火サーチライト

 魔術により周囲が照らされ、ようやく全貌が掴めてきたので相手を確認する。
 よく見ると猫耳を生やした女の子であるのが確認できた。

「ほら、堪忍にゃ」

 腹を上にして寝転んでいる猫耳の女の子。
 状況が状況じゃなければ怪しい現場そのものだな、とレントは思っていると

「むむ、ならこれでどうにゃよ」

 土下座を始めた。

「何もそこまでしろとは言ってないよ。僕が聞きたいのは何をしに来たのかってこと」

 正直、こんな時間に鍵をかけたにも関わらず、寝込みを襲いに来たなんて怪しいにも程がある。
 十中八九なんかしらの理由があるはずだ。

「あたしの名前はカラット。ここの学校の教師にゃ」

 レントはかなり驚かされ、こんなタイミングでなければそれなりにリアクションをしてただろう。

「それを信じるとして、教師がこんな夜中に鍵をかけた受験者の部屋に何の用だ」

 怪しさしか感じない。
 それと眠い。機嫌があんまり良くないのだ。

「これは最後の試験にゃ。第二試験を突破した受験者にのみこうして寝込みを襲い、油断した所に反応できるのか。というものにゃよ」
「試験…だと?こんな夜中に?」
「戦場では寝てる暇でさえも敵は待ってはくれないにゃ。それは人同士だとしても…魔物相手だとしても、にゃ」

 それは一理ある、とレントは思った。

「はぁ。で、僕はどうなんだ?」
「へ?」

 なんとも情けない声を出しながら分からないといったような顔をこちらに向ける。

「僕はこの試験に合格できたのか?」
「…あぁ!そうにゃ!…そうにゃねぇ…」

 頭から足までひたすら眺められて少しむず痒い気持ちになったが、その間の時間をひたすらに待った。

「まだまだ甘いけど…十分合格に値するにゃよ」
「おぉ…」

 喜びたいが如何せん眠い。
 テンションが上がらない。

「ん?合格が嬉しくないにゃ?」
「あ、いや。そんなことは無いよ。ただ、こんな時間に起こされて眠いだけ…だよ」

 もう瞼が閉じようとしている。
 思ってたより疲労が溜まってたようだ。

「うーん、まぁ。最終結果は明日発表するにゃ。今は、寝てるといいにゃ」

 そう言っておでこをつつかれると、レントは倒れるように布団へと突っ込んだ。

「まだまだ、甘いにゃあ…」

 カラットはレントを一瞥すると部屋を出ていった。

 ───────────────────

 翌朝、話があると第二試験を行った皆が体育館へと招かれた。

「なぁ、昨日のってさ」
「あぁ、俺んとこにも来たぜ」
「どうだった?」
「無理だって…寝てる時に魔術も使えずどうしろって言うんだよ…」

 何やら気になる言葉が聞こえた。

「ねぇ」
「ん?なんだお前。あぁ、レントとか言うやつか。なんだ?俺にようか?」
「あの時魔術が使えなかったって本当か?」

 少なくともレントの時はそんなことは無かった。あかりが付けれなかったのはそれができる魔術もなく、身動きが厳しかったからだ。
 だが、その後牽制してる時にレントは影魔術を展開していた。

「あぁ、その話か。その通りだよ。反応はできたんだけど魔法が使えなくて雁字搦めにされたんだわ」
「あぁ、俺のとこもだ。なぁ!お前らは昨日のアレのとき魔術使えたか?」

 魔術が使えなかったと言う2人組は、周囲に大きな声で聞いている。
 その返しの通りならレント以外は魔術が使えずにあの暗闇の中、適役の教師と相対していたことになる。

「いやぁ、さすがに魔術が封じらちゃなすすべがねぇや」
「ほんとな」
「ん?その話をしたってことはお前んとこは違うのか?」

 やはり、そこには気づくよなとレントは正直に話すべきかどうか悩んでいた時

「えぇえぇ、静粛に。皆が集まったのは他でもない。合格発表だ」

 会話の途中に遮られたが校長先生の声が聞こえ少し間を開けて、うおおおお!と受験者が再び騒ぎ始めた。
 レントとしては扱いに困ったので助かった、と話をしている人へと目線を向けると目が合ったように感じた。

(気のせい…だよな。いや、まさかなぁ)

「深夜頃の出来事についてはまず謝ろう。いきなりなんの説明もなく始めてしまって申し訳なかった。」
 
 だが、と続けて昨日カラットとの会話と同じ内容を聞かされ、あれは本当の事だったんだなと確信に変わった。

「しかし、ただ1人だけ内容が少し違ったものがいるはずだ。だな?レントくん?」

 みんなの視線がレントへと向かれた。
 これは言うしかないだろうな。

「はい。僕のところには魔術を封じるものは何一つありませんでした。あと少しのところまで追い詰められましたが、それでも魔術の展開は出来てましたんで」

 はぁ?と体育館中から訝しい声が聞こえてくる。
 魔術が使えたらあのくらい、だとかなんであいつだけ、だとかのヤジが飛んでくる。

「まぁ、待て。仮に彼以外がその状況になったとして誰かは対応できるか?フェリット」

 フェリットと呼ばれた人物が前に立って考え始めた。
 見てくれは人族の魔術使いだろう。

「あぁ!あんたは昨日の!」

 受験者の中の一人が声を上げた。

「あら、あんたは私の相手だった奴だね?うーん、あんたには無理だろうな。相手がカラットでは」

「カラット?」

 受験者の大半がはてなマークを頭上に浮べているくらいには意味がわかっていなかった。

「レントと言ったね。カラットとの詳細をみんなに伝えな」
「はい」

 レントは詳細を事細かに声に出した。それが続くにつれ他のの受験者は血の気が冷めたような顔になる。

「そうだ、カラットはケットシー族。あれは魔術こそ苦手ではあるが体術ならばこの学校で右に出る者はいないレベルだ」

 あれ、と共に指を指した先には昨日の猫耳女の子が居た。

「にゃはは、紹介に預かったにゃ。カラットだにゃ」
「奴は魔術が苦手だ。だからそれにも対応出来るような鍛え方をしている。可愛らしい見た目に騙されるなよ。男ども諸君」

 フェリットも大概だと思うが、それは口にしない方がいいだろうと脳内で警鐘がけたたましく鳴り響いた。

「という訳だ、彼は魔術こそ使える環境ではあるが使えるような状況じゃなかっただろ?」
「えぇ、そうですね。あれでは魔術所ではなかったと思います」
 
 実際、明るくは出来ないが何かしらの魔術を使って抵抗しようとはした。
 しかし、その尽くにおいて出鼻をくじかれて不発になっていたのだ。

「とまぁ、そういうわけだ。試験の不公平感は少しはあるが、決して生温いものでは無い。まぁ、生温いのはどちらかと言われたら…」

「まぁ、即答で他の受験者だろうな」
 
 そこで校長先生が声を上げた。

「説明はこの辺でいいか?」
「はい」

 フェリットは下がると校長先生のみが残り、いよいよ発表ということだろう。

「では、合格発表をする!今回の試験、合格した者は…」

 …

 合格発表され浮かれるもの、落ち込むものがいる中話は続く。

「それでは、合格した者してない者関わらず部屋に戻るといい。そこに手紙を置いてもらった。そこに書いてあるように動くように」

 受験者は一時解散という形で部屋へと戻った。

「やりましたね!レント!」

 このいつまでも話したがる鬱陶しめの声は…

「ジュウガ、君もね。よく魔術が使えない所で合格を掴めたものだよ」
「何を言ってるんだ、レント。魔術は使えなくても『星痕』の力なら使えただろ」 
「!?」

 …確かに魔術では無い『星痕』がもたらす力なら使えたかもしれない。
 甘いってそういう事なのかもしれない。

「多分他の合格者はそれで合格出来たんだろう」
「なるほどなぁ、それで思ったより合格者が多かったのか」

 体感では8割くらいは合格していた。
 では、残りの2割は…そういうことだろう。

「とはいえ、合格してよかったな!」
「あぁ。っと、レミナとライゴウ。そしてガルドもおめでとう!」

 通りがかりに見つけた3人にも声をかける。

「ふん、あの程度」
「まぁ、苦戦はしたわよねぇ」
「俺 風以外も 強い」

 ガルドが成長している…!
 間違いなく聞きやすくなっている!?

「そうか…頑張ったんだな…」

 ガルドへの教育を半ば断念したレントは感動していた。

「?」

 ガルドはそんなことお構い無しだったが、これで知ってる人みんな合格ということになる。

(オリティアは見つからなかったが、呼ばれていたので合格したんだろう)


 …
 そうこうしてる内に部屋にたどり着くと、机の上に一通の手紙が置いてあった。





『夕飯後に校長室へ来なさい』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...