星導の魔術士

かもしか

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第一章 魔術学校編

第5話 望みと憧れと非難と【2】

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「ふぅ、こんなところかな?」


 レントとガルダは2人協力して魔物を捕獲している。
 小型の獣みたいなものから、人など簡単に握り潰せそうな程の巨体と力を持ったものまで様々な魔物が蔓延っていた。

2…3にじゅう  さん匹目っと」
「オ ナカナカヤル オレ 20ヒキ」
「元からそれなりに捕獲してたからね。とりあえずこんなもんでもういいかな?」

 腕輪を見るとカウントが23になっており加点としては十分だろう。
 それに、大きな奴がしこたまいるしね。

「そういえば制限時間を言われなかったな。いつ終わるんだろう」

 彼らがこの試験を始めて早6時間が経っていた。
 蒼かった空は夕焼けに飲み込まれ徐々に明るさを失っていく、時は既に夕刻を指していた。

「オレタチ ハ トリノコサレタ カ?」
「そんな馬鹿な」

 笑い飛ばそうとしたが、実際周りには人っ子一人どころかあの目立ちそうな校長先生すら見当たらない。
 もしかしからと思い、魔法を使って少し調べて見た。

影通かげとおし」

『影通し』とは、レントが編み出したひとつの影魔法である。
 その伸びた影は細く長くなり地面の中に潜った。
 本来は殺傷能力のある攻撃技として使うが、こういう時はこの魔法の鋭敏さを期待できる。

「ン ナニカカラダニアタッタ」

 ある程度の力のあるものはこの魔法には気づいてしまうが、それによりレントにはそこにあるものが把握できる魔法だ。

「うーんっと…。少なくとも半径1kmには誰も…ん?」

 はるか遠くの方で何やら動きがある。
 人が1人走っている。
 ただひたすらに走り続けているようだ。
 どこに向かっていくのだろう…。

「ってこっち!?」

 次第にその方向から人が全力で走って来るのが見えた。

「うぉぉぉぉい!レント!ガルド!大丈夫か!?」

 まだ遠いだろうに大きな声でこちらに声が届く。
 レント達の間にはまだ1km弱はある。

「うぉ、どんな音量してんだ…」

 そしてだんだん姿が見えてきて、概ね予想通りだったと答えを出した。
 校長先生だ。なにしろあんな声を出せる人を他に知らない。

「お前らどこにいた?姿が見えなくてずっと探してたんだが」
「そこの山にある坑道にいました」

 レントが指を指した方向を、校長先生とそれに着いてきたのか他の受験者は目をやった。

「山?」
「あるのは森と丘だな」
「草木なら生い茂ってるな」

「え?」

 方向を間違えたかとレント自身も指を指した方向、つまり辿ってきた方向を向く。

「ない…山も…坑道も…」

 見あたす限りの森、右左前どこを向いても森しかない。
 あとは今いる丘くらいなもんだ。

「ン オカシイ オレタチ サッキソコニイタ」

 ちょっと待て校長先生、せめてあなただけは首を傾げて頭上にハテナを浮かべないであげないか。
 他の受験者はやはり最初のレントの如く、困惑と戸惑いを感じる顔をしていた。

「僕達は今までそこにあった山にいて、その山にあった坑道で魔物を捕獲してたんだ」
「ソウ ソノアト オレタチ ソトデテホカクシタ 
 ソレガイマ 」

 ありがとう、ガルド。補足してくれて非常に助かるんだが、如何せん伝わりにくいのだ。

(やはりこの問題は急務かもしれないな…)

「うーん、ここに山なんてあったかぁ?まぁいい、試験時間はもうすぐで終わる。だいたいあと5分もねぇだろ」
「それでは追加してくるのは難しそうですね。僕も校長先生について行こうか」
「ワカッタ」

 そうして少しの間待ってることにし、他の受験者と話すことができた。
 簡単な自己紹介だが、同じ試験をしてきた者達だ。妙な仲間意識を感じる。

「俺はライゴウ。雷魔法と徒手空拳の使い手だ。よろしく頼む」
「ふふっ。私は水魔法が得意よ。あっ、レミナって言うの」
「はぁ、君たちもうすし細かく説明したらどうだい?私の名前はジュウガ。主に天魔法を得意としている。天魔法とはその名の通…」

 ───
 ガガガ…ピピィーーーー!!
 えぇ、これにて試験を終了する。
 繰り返す。
 これにて試験を終了する。
 受験者はそのまま動かずに待機してくれ、順番に控え室へと返そう。
 ───

 校長先生の声がなにか機械を通したのか、よく聞こえる。というかなんか直接聞こえる。

「まだ、まだ私の自己紹介だったでしょう!!!」

 ジュウガと名乗った青年は遮られたのがそんなに悔しかったのか、膝から崩れ落ちていた。

 そうこうしてる内に各々体を光が包み始めた。
 移動する魔法だろう。
 影魔法を使えるレントも使えるが今いる場所と向かう場所の2点を知らないと使えない。今回出番は無さそうだ。

「天魔法とは、天魔法とはぁぁぁぁぁ!」

 まだ言っている。

「お互い合格したらまた聞くよ。ジュウガ…だったっけ?」
「は、はい!ぜひお聞きください!」

 最後にはいい笑顔で消えていった。

「うーん、何か忘れてるような?」

 横にはガルドが1人。
 既にほかの人は移動を終えたようで次はレントの番だろう。
 その次はガルド。

「まぁ、忘れるって事はそんな重要じゃ無いのかもな」

 そう思って光を待っていると気づいた時には部屋にいた。

「あっという間なんだな。僕の魔法って速さが出ないからなぁ…」

 とりあえず夕飯にでもしようと部屋を出ると人の集まりができていた。


 ワイワイワイガヤガヤガヤ
 あーだのこーだの
 でさー、あれがさー
 大丈夫大丈夫!
 いえーーい!
 ────

 はしゃぎすぎではないだろうか…。
 先程の試験で仲が良くなったのだろう。
 とはいえ限度はあるだろうが…。

 それらを横目に通り過ぎるとガルドが近づいてくるのが見えた。

「レント タスケテ ライゴウ ツライ」

 ライゴウ?あぁ、雷の魔法を使う道着を纏った男か。
 最後の方に自己紹介されたのを覚えている。

「あれは強そうだったな。一筋縄ではいかなさそうだ、で、何を助けろって?」
「助ける必要は無いぞ、レントとやら」

 ライゴウがガルドの首根っこをつかみひっぱると連れてかれていった。

「では失礼する」  
「イヤ タスケテ」

 …気にしないことにしよう。

「さて、夕飯にでも行くか」

 食堂に向かうため再び足を進めた。

 ────────────────────

 食堂ではバイキング形式となっていて様々な料理が並べられていた。
 レントは列に並ぶと、トレイを受け取り好きな物だけを取っていった。

「おや、なんですかそのメニューは。バランスはどうなってるんですか?」

 箸を取り食べようとしたら話しかけられたので声の主を見ると、そこにはレミナとジュウガがいた。

「ん?僕の好きなメニューの盛り合わせさ」

 美味そうだろう?と見せびらかすと、ジュウガが自分のものだろうトレイを置いて話し始めた。

「食事というのはバランスが大事なのですよ。好きな物だけというにはいかないのです。いいですか、私みたいな食事が理そ…」

 ────バチコンッ

 レミナがジュウガの頭を叩いて話を止めた。

「ごめんなさいね、レントさん。いつもこいつがうるさくて…」

 オホホ…と言わんばかりの笑顔に仕草をしている彼女はジュウガを止めてくれたようだ。

「ぼ、僕はですね!彼の健康を!」
「食事は楽しむものですよ。ジュウガ」

 健康も大事ですが何より楽しむものです。
 とレミナはいうが、まさにその通りだろうなとレントは思う。

「楽しくない食事は、食べた気にならないよね」

 パクパクと食べていき、ふと校庭と思しき場所を見てみると先程連れてかれたガルドとライゴウが戦っていた。
 ライゴウは無傷で戦い、方やガルドは満身創痍という状況だ。
 あんなに戦力差があったのか…。
 確かにガルドの戦闘経験値は低そうだ、それに比べてライゴウは高そうだ。

「とはいえ無傷ねぇ…」

 あの風の刃はなかなか視認するのが難しかった記憶がある。
 それをああも簡単に捉え、いなせるのは彼の実力あってのものだろう。

「またやってるのか、ライゴウは」
「ん?また?」

 ジュウガが呟いた言葉に引っ掛かりを覚えた。

「ん?あぁ、ライゴウは何を思ったかやつと戦いたがるんだ。光るところでも見えたかね」

 それを聞いたレントは戦ってる2人を観察してみる。
 (戦い?いや、これは一方的だ。戦いにすらなってない。僕とガルドの時は彼が負けて降りてくれたからこうしているのだけど…。)

 どうにもガルドが、というよりライゴウが仕掛けているようにしか見えない。が、何故だろう?

「あぁ、多分あれ同族だからね」
 
 同族?
 ガルドは鳥のような服を着ている。
 鳥の羽をあしらった派手なものだ。
 ライゴウは?

「茶色の腰巻き?スカート?か?」
「えぇ、あれも鳥の羽をあしらった物ね」

 レミナのおかげであれも鳥の服だということが理解できた。

「彼らハーティア族の挨拶みたいなものね。あぁやって己の力を見せつけ合うのよ」

 ハーティア族。
 そういえば本で見た事がある。
 鳥の衣服を身にまとい、それらに使った鳥とおなじくして生きる種族だと。
 そして、強き者を見つけるために旅に出て見つけては戦い、見つけては戦いをするのが種族の特性だというのだ。

 大変だな、
 彼らには彼らの生き方ってのがあるようだ。

「レント タス ケ」
「頑張れ!」

 話を聞いたレントは邪魔しては悪いと食事に集中した。

「いいの?レントさん」
「ん?何が?」

 レミナが可哀想な目をしている。

「止めなくていいの?」
「だってあれが彼らの彼らとしての行動なんでしょ?邪魔しちゃ悪いしね」 
「普通ならね。でもあそこまで実力差が開いてると話は変わるわ。あのレベル差では弱い方はどうなっても仕方ないわね、良くて怪我。最悪は…そういうことよ」

 最後まで聞く前にレントは席を立ち2人の元へと走っていた。

(僕って思ったより友達を大切にするんだな。)

「何をしている、レント」
「ちょっとやりすぎかなって、ね」

 レントはガルドを見ると、遠くでは分からないほど傷だらけだった。
 これでは満足に戦えすらしないだろう。

「我らに口を挟まないで貰いたいが…」
「いや、挟ませてもらうよ。僕のの危機だからね」

 友達という言葉にライゴウはぴくりと反応した。

「なるほど、友…か。ガルドよ、今は預けよう。レントよ、またいつの日でもいい手合わせに来るといい」

「レント タスカッタ オカエシ マタコンドスル」

 ガルドを片手にライゴウを見えなくなるまで見つめるレント。

「…手合わせ…ねぇ」
(とりあえず今はご飯だご飯)

 無事何とか席に戻り、既に冷えてしまった夕飯を口に運ぶ。

「うん。冷えても美味いのは流石だなぁ」

 レントは満足な一方ひとつの不安を覚えていた。


 ───────────────────

 余談だがガルドに言葉の教育をした所メキメキと上達をしていたが、どうも話しづらいみたいで少しマシになった程度に落ち着いた。
 とだけ言っておこう。
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