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番外編【SランクDomと執行部】

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 第二の性であるダイナミクスを持つ人々は、少数派と言われているが、意外と世の中には多い。100人いれば10人以上はいるとされているのだから、クラスに二人以上はいると言うことになる。
しかし、そのほとんどが低ランクであり、高ランクと言われるAランク以上は数が少ない。
Dom、Sub共にランクはDからSまであり、検査でわかる元々のランクはAランクまでとされ、Sランクは素質をもつ者が経験を重ね手に入れるものとされている。
その為、普通に出会えるのはAランクまでが一般的で、Sランクはめったに見ない。噂で聞いた事しかない幻の存在と言われることもある。

 世の中の人々のSランクはとにかく力が強く、ダイナミクスの欲が強い者というイメージを持たれている。
 SランクのDomはSubにとって高値の花と言えた。因みにSランクのSubは珍しすぎて実在することさえ疑われている。
 存在さえ疑われているSランクのSubと違い、SランクのDomは色々な噂が流れている。
SランクのDomはSubでなくとも自由に操る事ができるだの、グレアだけで人の命を奪うことができるだの、歩くだけでそのオーラで人ごみが二つに割れるだの。
 目を合わせれば気を失うだの、例え50M離れていてもわかる。猛獣とも対抗できる、縄張りをもちSのDom同士出会うと血の雨が降るなど、本人が聞けば顔をしかめる内容ばかりだ。

 そんなSランクのDom達が、つながり一つの組織のようになっている事は一部の人々にしか知られていない。
 Subの為、世の中を良くしようと動く彼らは、ダイナミクス持ちばかりを集めた王華学校の関係者だけで構成されている。
 組織と言えども、縛られ従う事を苦手とするDom達は基本単独行動を行っている。その任務は、主にSubに危害を与えSub達の害にしかならないDomを排除することだ。
 問題となるDomを見つけた際は執行部と言われるAランクのDom達で構成される一陣が動き、次にSランクが動く。
 執行部だけでも低ランクであれば十分、Domとしての力を奪い罰を与えることが可能だが、高ランクやUsualが含まれる場合Sランクが動く。
 Sub以外には利きにくい、洗脳の力を使い、記憶から行動まで全てを操りDomとしての力も奪うことができるのがSランクのDomだ。
 うまく操れば、DomとパートナーになっているSubさえも正気のまま奪うこともできるとされている。
 
 Sランクはその力を使い、法律では裁ききれない者や、法律だけでは罰が軽すぎると思った者などへ、彼らの視点からSubを守っていく上で都合がいいように片をつける。
 王華学校のDom達にとって、優先すべきは法律ではなく、可愛いSubが幸せに暮らせるかだ。
かと言って、彼らは表だって動くこともしない。表だって動けばその分愛しいSubにかける時間が減り、余計な事を考えなくてはいけなくなる。
 彼らはそれを嫌がり、自己判断の下、自己中心的に動く。
 彼らは間違っても正義の味方などではない。

「終わりました。これで、後は女王様コンビにお任せですね」
「ああ、被害者のSubとその子供には保護施設を用意してあるから、とりあえずそっちへ送る。その後移動予定だ」
「自白させても、数年ででてくるとか納得できないっすよ。被害者はずっと苦しむのに」
「Domの力を潰したから苦しむ事にはなるが、そんなもの関係ないからな」

 高ランクのグレアを使い、相手のDomの力を奪いたたき落としても、それで犯した罪がなくなるわけでも、傷ついたSubが救われる訳でもない。
 ただ次の被害者が出にくくなり、加害者がそれなりに苦しむだけだ。

「長く入れて置いても金がもったいねぇし」
「せっかくSub達が払ってる税金をそんな物に使われるのは納得できないよな」
「納得できるわけないっすよ」
「でも、こればかりはな」

 いま現在も多くのDomの犯罪者が、刑務所にはいてSub達が納めている税金を使っているのが現状だ。Subに限らず、被害者でありながら加害者の生活の為に税金を使われている場合もある。
 本人達が稼げない以上そうする他ないのだが、これを仕方ないことだと考える者は王華学校にはいない。
 彼らの心は狭く、常にSubが第一であり、他のDomによって自分のSubが損害を受ける事をよしとしない。
 
「再犯だけは防げるがな。ところで、保護施設に送った後だが、力也に見極め頼めるか?」

今回の被害者は、Subだけでなく、その子供であるダイナミクスが目覚める前の子供も含まれている。
 無論、その場合でも保護施設に親子で入ることはできるが、周りの環境もありダイナミクスが急に目覚めたりすることもある。
 あくまでも可能性だが、そうなったとき先にダイナミクス持ちかわかっていると対処がしやすい。

「はい、わかりました。後で言っときます」
「頼んだ。本当に、アイツが見極めできるなんてな」
「俺も、初めてわかったときびっくりしました。力也は正確じゃないからって言いますけど」

 通常、ダイナミクスを持っているかどうかは中学に上がる時点、要は体の成熟と同時にわかるようになる。
 女性で言う生理や、男性ならば精通によってダイナミクスが活発になり、検査によってわかるようになるとされている。
 検査ではなくとも、元々の性格や行動でそれとなくわかる場合などもある。しかし、それはあくまでも“っぽい”だけであり、偏見や思い込みや周囲の影響が関わる。
 つまり通常、ダイナミクスが目覚める前の子供のダイナミクスを見極めることなど不可能なのだ。

「って言ってもかなりの高確率だろ。アイツいつの間にあんな能力身につけたんだ? 弥生の時はわからなかったんだろ?」
「力也が言うには最近だそうです。Domはまだわからないみたいですけど、Subはなんとなくってわかるって言ってました」
「さすが、王のSubだな。このまま経験重ねればDomもわかるようになるのかもな」
「マジでそうなりそうなりそうっすよ。そしたらまた俺置いてかれそうなんですけど」
「はははっ、頑張れ」

 年齢で言えば確かに、力也の方が上でその分経験の差もあるのだろうが、冬真と言うご主人様を得た事で安定したのか更に成長している。

「成長期じゃあるまいし」
「成長期か、言いたとえだ。せいぜい、足を引っ張らないようにしろよ?」
「はい、頑張ります」

 今ならば冬真が足を止めろと言えば、力也は止めるだろう。歩調を合わせろと言えば、その通りにするだろう。
 しかし、そういう訳にはいかない。主人としてせっかく成長している力也の邪魔をするようなことはしたくない。
 Domとして従わせ思い通りするのは好きだが、それとは別の話だ。

 そんな話をしているときに、神月のスマホが鳴った。神月は冬真に少し待つように手で示しながら、電話に出た。

「どうした? ああ、それで・・・・・・そうか流したか。ご苦労」

 電話の相手とそう話すと神月は、通話を切った。

「流しって島っすか?」
「ああ、余地がなかったから流したんだ」
「へぇ」

 冬真は興味のなさそうな返事を返した。
流しというのは所謂島流しだ。
冬真もSランクになり知ったことだが、無人島を個人で所有している者がSランクにはいるらしい。それも一人ではなく数人。
古くからある島流しの刑の為に、彼らはその無人島をつかっている。島流しを行うときは、様々な場合があるが、今回は強制売春の末のSubの破壊という、王華学校のDomたちが許すはずのない物だった。

「俺いまだにその島がどの辺か知らないんすよね」
「俺もはっきりとした場所はしらないな」
「いくつかあるんすよね」
「ああ、助け合わせるつもりもないからな」

 同時に複数流す場合、同じ島にしてしまうと手を組み長く生き残る可能性がある。それでは甘いのだ。孤独と絶望を味わあせなければ意味がない。

「今まで流した奴の、名簿とかってあるんすか?」
「一応王華学校に残ってる筈だが、探してる奴でもいるのか?」
「いえ、ちょっと聞いてみただけです」

 少し引っかかるものがあり、聞いてみたものの、冬真はそれをすぐに頭から追いやった。引っかかったものがあるからと言って、調べていたら力也との時間が減ってしまうし、余分なものを頭に入れたくない。
 価値がないものにさく時間も手間ももったいない。それに、それを知って力也に隠すのも嫌だ。

(これ以上くそ野郎の所為で煩わされる何て冗談じゃねぇし)

 そんなことよりも、早く帰り力也を甘やかし癒やされたい。
ごみ掃除をした所為で、相手のグレアも臭いもつき、最悪な気分なのだから。

「あ、そんなことより、Sランクの服とか靴とか本当に定期的に支給ないんすか?」
「ないと言っただろ。大体壊れた訳でもないだろ」
「そうですけど、今日もべったりグレアついたし持って帰りたくないんすよ」

 始末する時についたグレアも臭いも愛しい力也に感じさせたくない。正直マンション内に持ってはいることもいやだ。

「力也なら余裕で跳ね返せるだろ」
「跳ね返せますけど、アイツ、敏感なんすよ。傑さんは服どうしてるんですか?」
「俺の場合は何着か用意してそのままクリーニングに出してるな。クリーニングから戻ってきたらすぐに結衣やマコが手を出さないところに仕舞いこんでいる」
「家が広いとそれができていいっすね」

 神月の家ならSubが手を出さない場所も普通に用意できる。とはいえ、結局そうやって隠すと言うことはやはり神月も冬真と同じような考え方ではあるのだろう。

「力也にも開けるなと言い聞かせればなんとかなるだろ」
「なんとかなりますけど、理由聞かれたら俺ごまかせないんで」
「正直に言うしかないだろ」
「絶対呆れられるじゃないっすか」

 そもそも冬真が気にするほど、Subであっても力也は気にしていないのだ。一時期は確かに冬真のグレアを浴びすぎて、そのほかのグレアに過敏になり体調を崩したこともあったが、今はそれもない。
 それどころかSランクになっているため、冬真が始末できるDom達のグレアならば直接あてられても顔をしかめるぐらいだろう。その為、わざわざ感じさせないためにそんな手間をかけていると言ったら呆れられる。

「諦めて呆れられろ」
「呆れられるだけならいいっすけど、アイツ普通に触って洗濯しそうなんですよ」

 冬真は黒いシャツの為さすがにクリーニングには出していないが、いつもはコインランドリーを使用している。作業着というだけあって、Sランクの服装はスーツではない。無論寒ければ防寒をする人もいる。

「アイツはそういうとこありそうだよな」
「俺は近寄らせたくも触らせたくもないんです」

 力也に言えば、そんなことどうでもいいからそのまま早く帰ってくるように言われてしまうだろう。抵抗力のある力也にとって冬真の言い分は気遣いではなく、意味のないこだわりのようなものだ。

「ご主人様なのに弱いな」

 結衣やマコならば、神月がだめだと言えばそれで納得するだろうが、力也では笑い飛ばされた上に気づけば普通に手を出していそうだった。
 そもそも、冬真は力也が触るものも使う物も制限していない。

「尻に引かれてるんで」

 神月の台詞にDomに似合わない言葉を冬真は笑い返した。人を支配し従わせたいという欲を持ったDomだが、冬真にとって力也に振り回されるのは楽しく心地よい。
 甘えられ、振り回される度に信頼され全てを預けられていると感じるからだ。冬真に限らず王華学校のDom達は皆そう思っている。
この心地よさを理解できないものがいるなど信じられない。Subを傷つけ利用するだけのDomがいることも理解できないし許せない。
甘えて、自由に笑い、振り回すその姿がなによりも可愛いのに・・・・・・。

「あー、力也に会いたい」

 考えれば考えるだけその想いが強くなる。
冬真の心からの呟きに、同意するように神月は声をたて笑った。

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