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神月家編【暴露はほどほどに】後
しおりを挟む「そうそう、店長はいい人だったし、パートナーと一緒にどうかなって」
「その店長ってAランク?」
「Aじゃないっすよ。多分Bぐらい」
「うーん、呼んでもいいけど、凄い緊張すると思うよ。皆A以上だし」
AランクどころかSランクも多く参加する。王華学校の生徒でもないBランクでは圧倒され緊張してしまうだろう。
「じゃあ、やめた方がいいか」
「傑から、連絡したら断れなさそうだしね」
誘うとなれば、間違いなく傑が声をかけることになるだろう。Sランクで、店の経営にも口を出している傑の言葉に店長が逆らえるわけがない。
「Dom同士の力関係って結構、凄いっすよね」
「Sub同士には関係ないんだけどね」
Domと違い、Sub同士はランクの差があろうとも垣根などなく仲良くなる事が多い。力也のように、低ランクを助ける高ランクもいるが、ランクをひけらかし上に立とうとする者はいない。その点Domはマウントと言われる力の探り合いや、駆け引きをすることがある。
「Sランクパーティであったメンバーとかも来るんすか?」
「何人か来ると思うよ。結衣にデレデレしてて注目されてたみたいだから」
「デレデレですか?」
「傑さんパーティで落ち着いてるように見えたけどな~」
会場を含め全ての手配を傑が担当しパーティは滞りなく進んだ。パーティの間も傑は結衣を見ながらも先をよみ行動していた。
会場の手配だけでなく、初めて参加する冬真と力也、それに結衣のことも見なくてはならなかったのだから傑の頭の中はめまぐるしく動いていただろうにそんな様子はなかった。
「そりゃ、とうくんの前で腑抜けたとこ見せられないでしょ。傑、とうくんの指導担当みたいなものだし」
実際、パーティの手配をしているときは忙しそうにあちらこちらに連絡を取り、先ほど言っていた通りミントのつまみ食いも多かった。
「最初俺たちがいるから、安心してたみたいだったけど俺たちは置いてかれたからね。結衣を不安にさせたくないって大分気合い入れてたと思うよ」
「そう、だったんですね」
「初めての事で不安になるSubを支えられないなんてご主人様として情けないからね。他のSランクにもそんなとこみせられないし。だから帰ってきてからの傑スキンシップ過多だったでしょ?」
「あれはご褒美だと思ってました」
「ご褒美もあるけど、傑が癒やされたかったのもあるんだよ。とうくんもそういうとこあるでしょ?」
冬真もそうだが、Dom達は精神的に疲れるとSubとのスキンシップが増える傾向にある。動物好きが動物とふれあい癒やされるように、Dom達にとってはSubの存在こそが最大の癒やしになる。
「ありますね。ずーっと頭撫でてたり、くっついて離れなかったり、わかりやすく甘えたりしますよ」
「Dom達の間ではサブセラピーって言うらしいよ。結衣の作ったミント食べてるのもそれが関係してると思う」
「そう言えば、Subのセラピストって結構多いっすよね」
「うん、Playの店じゃなくてそういうので癒やされるパターンも結構多いみたいだよ。結衣がいた店も、最近そっちのプランも教えてるみたい」
「そうなんですね」
Dom向けのサービスをすると言っても、SMや性的な物が主体な物ばかりではない。マコが言ったように、マッサージや軽いPlayなどをする場合や、クラブのように話し相手になる場合、中にはお散歩などに出かけられる場合もある。
「どこまですれば癒やされるかはDomによって様々だし、色々対応できるならその方がいいよね。Sub側の負担も少なくて済むし」
「レンタルSubやった事あるって奴知り合いにいます」
「あー、レンタルSubね。俺も学生時代に学園祭でやったよ。お散歩したり、一緒に食事したりするやつ。費用は客持ちだし、プレゼントもくれたりするから結構稼げるんだよね」
「その代わり長続きしないって」
「切り替え大変だからね。フリーならすぐに物にされちゃうって」
所謂デートをするような物なのだが、それが仕事と言われてもDomが納得できるわけがなく、一度気に入ってしまえば絶対に手に入れようと動く。
「長続きするのは、AランクのSubぐらいじゃないの? それでもA以上のDom来たら無理だけど」
「通用するのは自分よりDomが下の場合だけっすよね」
SubのランクがDomよりも上の場合は十分に満足させることも支配することもできない。その場合はパートナーとして適合しないため、それ以上に執着されることもほとんどない。
多くのDomの場合それでは物足りないらしいが、ちょっと遊ぶぐらいならそれでも構わないと思うDomも中にはいる。
「まぁ、それはそれとして。話戻すけど、クレイム式はSランク多いと思うよ。パーティの結衣可愛かったって言ってたし、傑に圧かける気満々なんじゃないかな」
「それって結衣にも飛び火しないっすか?」
「その辺はしっかりコントロールすると思うけど・・・・・・」
「緊張します。私でできるでしょうか・・・・・・」
「Subはお任せでいいんだって、りっくんもそうだったでしょ?」
高ランクのDomばかりと聞き、不安そうな結衣の様子に、心配しなくて大丈夫だとマコは笑った。AやSランクが多くとも、今回参加するDomは全員が王華学校のDom達の為、Subはなんら気にすることはない。
Subは幸せそうにしているだけで良く、圧をかけられるのはひたすらDomだ。
「結衣はひたすら傑を信じて受け入れてればいいんだよ」
「はい」
不安ながらも傑を信じ全てを委ねる事には躊躇いがない結衣はその言葉に頷いた。
「大丈夫、俺の時みたいなのはやめるようにいってあるし」
「水責めでしたっけ? どんな内容だったんすか?」
「凄かったよ。なんであんなことやりたがったのか俺は今でもわからないもん」
そう言いながらも、マコはその時の事を思い出しつつ語った。
マコが王華学校を卒業した後、傑の海外出張も落ち着き二人はクレイム式をあげることになった。今思えば、一人目のSubで傑も若かったこともありテンションが上がっていたのかも知れない。
水責めをやると言われ、よくわからず首を傾げたマコに傑はSubは何もする必要はないからと詳しい事を言わずにいた。聞き返せば教えてくれたかもしれないが、学校を卒業したばかりだったマコは、素直に受け入れてしまった。
「水責めってなんか言葉は不穏だったんだけど、俺は何も警戒しなくていいって言うし、仲間内でやる余興でビールかけみたいな物だって言うから安心してたんだけど・・・・・・」
「だけど?」
「王華学校のDomのノリを甘く見てたよ」
傑とマコのクレイム式は学校から近くクレイム式に一番使われる場所だった。おかげで学校のノリが有効だったのもあるだろう、支度を終えたマコが傑のところにたどりつけば何故か傑は意外とシンプルな服装だった。Domの服装は大事ではないとは言え、シンプル過ぎる服装だったが、マコはそのことにも気づかなかった。
その理由を知るのは誓いの言葉になる前に傑と離された後だった。
美しい庭が見えるガラスの外に出た傑に、友人達が立ち上がり何かを構えた。よく見ればそれは本格的な水鉄砲で、それに氷が浮かぶ水を入れ友人達は傑に向かい構えた。
何をするのだろうと思っていたマコの目の前で、一枚服を脱いだ傑に向けてあろうことか友人達から容赦のない攻撃が開始された。
「こっちの方が血の気引いたよ。お笑い番組みたいな勢いで攻撃するんだよ?」
「それってマコさん傍に行けなかったんすか?」
「それがね、参列者のSubと式場のスタッフで近づけないように邪魔するんだよ」
ガラスの向こうにいる傑を心配して近づこうとしても、Subや水責めに参加していないDom達が行く手を防ぎ近づくことが出来ない。
もどかしく、やめて欲しいと頼んでもやめず、傑を呼んでも戻ってこない。そんな状況で泣き出しそうなマコの前で最後のシメとばかりにバケツに残った水を全部かけられた傑は、その場で叫ぶようにマコに永遠の愛を誓った。
ただし、歯は寒さの所為でカチカチと音を立て、体全体も震えていたため、常のような張りのある声ではなく少々聞き取りにくい内容だった。
「うれしかったんだけど、それどころじゃなかったんだよ。そしたら、やっと邪魔してた人達がどいてくれたんだ」
行く手を防いでいた人々がいなくなった瞬間、マコは傑に駆け寄り抱きついた。震え続ける傑の体を温めようと必死に体をさする。傑はそんなマコに誓いの言葉を返してくれないのか聞いた。
「とっさに、俺怒ったんだよ。それどころじゃないって、でも言わないと中に戻らないって言うし、言うしかないでしょ」
用意していた内容など言える訳がなく、感動とは違う涙をこぼしつつ怒鳴るように誓った。その時の心底幸せそうな傑の笑みはまだ覚えている。
抱きしめ返され、キスを受け入れた瞬間の割れるような拍手も忘れることはないだろう。しかし、祝いの言葉もキスもマコにはどうでもよく、とにかく早く中に入ろうと傑を引っ張り中にはいった。
「どっから突っ込んでいいのか・・・・・・」
「あの時は本当に何を考えてるのかわからないって思ったよ」
中に入った傑はマコを席に座らせると大人しく服を着替えに行った。すぐに戻ってきたが、体はまだ冷たいままだった為マコは式の間ずっと抱きつき温め続けた。
(それが目的だったとかないよな)
マコはそれどころではなかっただろうが、体調を心配しずっと離れず寄り添う姿は仲睦まじく、懐いているSubの姿を見せるという点では効果的だろう。
傑も、恥ずかしがることなくマコがくっついてくるのはうれしかっただろう。その時の傑の気持ちがわかるわけではないが、例えば冬真ならばそう思うだろう。
「やらなくて良かった」
「うん、止めたりっくんは正解だよ」
確かに自分が同じ立場なら暴れて、無理矢理冬真の傍に駆け寄ろうとするだろう。冬真が軽くでも説明してくれて助かったと力也は思った。
「私の時はしませんよね?」
内容を聞いているだけで不安げな顔を浮べる結衣にマコは頷いた。
「大丈夫、止めといたから」
「ありがとうございます」
止めたと言うことはやる可能性もあったのだろうか、そう思った力也だが口には出さなかった。
「傑さんも若い時には色々あったんですね」
「あったんだよ」
しみじみ頷くマコに、長い付き合いというのはこういうことなのかと力也はから笑いを返した。
わかりやすい愛情表現はうれしいが、こっちが心配になるようなことはやめて欲しいと、冬真が聞けばお前に言われたくないと返しそうな事を力也は思った。
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