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番外編【ダイナミクスコミュニケーション略してダイコン】前

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 世界的にダイナミクスを持つ者は10人に一人はいると言われている。その一人がDomであってもSubであっても、それはけして少ない数字ではなく、むしろかなり多い。
 しかし、それは国によって偏りがあるとも言われている。例えば日本にはSubが多くDomは少ないとか、アメリカにはDomが多くSubが少ないとか。
 あくまでも噂だが、実際に活躍しているダイナミクスにはその傾向がある。とかく、職業面ではDom Subともに向き不向きがあり、かなり偏りがあるのも事実だ。
 例えば接客業やサービス業などはSubが多く、警備やスポーツなどはDomが多い。
 しかし、向いているはずの仕事でも敬遠される可能性があるのはパートナーがいないDomだ。欲望にかられなにかおこされては敵わないと警戒されてしまうのだ。
 とかくトップに高ランクのDomがいない場合にはそれが多い。トップに高ランクのDomがいれば抑えられるが、それ以外は手の打ちようがなくなってしまう。

「ってことで地味に大変なんだよ。フリーのDomの就職って」
「そうなんだ。むしろ重宝されるかと思った」
「ないない。よく言うだろ? 船頭が多いと船が沈むって」
「あー。なんとなくわかる」

ただしくは“船頭多くして舟山に登る”ということわざではあるが、力也にも言いたいことはわかり頷いた。

「よく就職の時“この会社を変えたい”って言う例があるだろ。あれ、やる気満々に見えて裏を返せば不満があるってことだからな。現状に満足してれば、避けられるんだよ。普通に頑張ります! とか言う方がよかったりするんだよな」
「あー、リスク考えるとそうなるか」

 高ランクになると余計慎重になるのか、フリーの所為で就職に苦労しているという話しを冬真は友人からきいた覚えが何度もある。

「まぁ俺は、就職してからのほうが大変だったけど」
「SubとPlayできたのに? ってか、Subの役者さんとパートナーになるって事なかったんだ」
「AVって以外とフリーじゃない事も多いんだよ。でも、そのパターンはセンリさん、ピアス店の店長だな」
「そうなんだ。じゃあ、センリさんのパートナーさんと冬真もPlayしたことあるってこと?」
「あるな。もしかしたら力也も見たことあるかもな、蓮華さんっていう綺麗な女性」

 そう言われ考えてみるが、Sub向けの物はSubの顔があまり映っていないため力也には思い出せなかった。

「冬真はAV男優楽しくなかったんだっけ?」
「好きなことできなかったからな。力也は俺が甘やかしPlay好きだって知ってるだろ? なのにAVだとそれができないんだよ」
「まぁ、そうだよな」

 確かに冬真がわかりやすく好む、甘やかしはAVの映像的に向いているとは言えない内容だろう。あれはグレアと冬真の存在が感じられるから満たされるのであって、画面越しでは満たされる物ではない。

「あれ? でもPlayの時はわりと意地悪だよな」
「あれは力也が可愛いからだって、お前も好きだろ?」
「好きだけど・・・・・・」

 Playの時の意地悪な冬真はDomらしく、Sub心をくすぐる物がある。次は何をされるのか、させられるのかいつもドキドキする。冬真が望むことは戸惑うことも多いが、力也にとってはどれも嬉しい内容ばかりで、自分の奥深くにあった欲を引き出されるかのように感じる。

「意地悪するのも嫌いじゃないけど、相手に合わせた内容をやれないのが嫌なんだよ。AVって言っても脚本みたいなのがあるし、その通りに進まなきゃならないだろ? それだと相手の反応見て変えれないんだよ。それがストレスなんだよな。ケアはどうしても後回しになるし、時にはパートナーがいるからってケアもさせて貰えなかったりするし」
「なるほど」
「ってか見ればわからないか? お前相手の時とAVの時のテンション違うって」
「あー」

 言われてみれば確かに、違うとわかるが、それは役者として作っているのだと思っていた。まさか気分の差が影響しているとは思っていなかった。とはいえPlay中とAVの時の違いを見分けようとする余裕があるかと言われれば、そんなことはない。冬真とのPlayはいつもすぐに夢中になってしまう。

「正直、AVより時間は短くても王華学校のダイコンの授業のほうがたのしかったな」
「ダイコンの授業って冬真が得意だったって奴だろ? なにするんだ?」
「ダイナミクスに関係すること全般だ。Playの授業もあるし、ダイナミクスの歴史とか、Domとしての生き方とか、Subの性質とか、グレアのコントロールとか、色々」

 ダイナミクスコミュニケーションは王華学校の中で一番重要な授業として扱われている。無論、一般的な学校と同じ授業もあるが、他ができていてもダイナミクスコミュニケーションができていなければ留年が確定する。
 もっとも、留年の前に救済措置として地獄のたたき込みがあるのだが。

「そんなに、楽しかったんだ」
「つらい内容も見せられたけど、お前と一緒に生きるって考えたら覚えてよかったって思えるからな」

 そう言いながらも、冬真は隣に寝ている力也をぎゅっと抱きしめた。休みの前の日と言うことで一晩中盛り上がってしまったその体は、じっとりと汗ばみ力強い心臓音と燃えるような熱さを持っている。
 それでなくとも持ち前の筋肉で体温が高い力也は、自分の熱に耐えきれず上着を着ようとしない。その為、力也の流す汗は冬真の服が吸い込んでいく。

「それって俺が何にでも首突っ込むからってこと?」
「お、さすがに自覚したか」
「そりゃ、毎度怒られてるし一応」

 いままでは常に隣に誰かがいて把握されることがなかったから気づかなかったが、どうやら色々とトラブルに巻き込まれやすい体質のようだ。
 なまじ体力も、Domへの抵抗力もある所為でつい体が動いてしまう。その結果、後始末が冬真に回ってきているのはなんとなくわかっている。

「俺も王華学校でダイコンの授業受けてたら違ったのかな」
「どうだろうなお前の場合それでも巻き込まれそうな気もするけどな」
「俺だって巻き込まれたくて巻き込まれてるわけじゃねぇし」
「どうだか」

 不満そうな力也の頭をガシガシとかき混ぜるように撫でる。力也が巻き込まれたくて巻き込まれている訳ではなく、持ち前の行動力が全ての原因とわかっているからこそ冬真は諦め半分で見守っているのだ。

「まぁ、お前が王華学校にいたらモテモテで大変だろうけどな」
「Sub少ないなら誰でもモテるよな」
「そういう意味じゃないんだけどな」

 これだけ言われてもいまだ自覚していない力也に困ったように笑い返し、両手だけではなく両足まで力也に絡めた。

「お前が王華学校にいたら、俺はパートナーになれなかったかもな」
「なんで?」
「競争率が高いってこと」
「ふーん?」

 未だよくわかっていなさそうな力也をしっかりと抱き込むようにすると、額へとキスをする。

「もう寝ろ。明日ってか今日だけど、母さんとこ行くんだろ?」
「うん、おやすみ冬真」
「おやすみ」

 優しく暖かいグレアで包み込み言えば、力也は嬉しそう顔をこすりつけると眠りについた。



 誰かに呼ばれた気がして力也が振り返るとそこにいたのは孝仁だった。学生服のような茶色いチェックのズボンとベストを着た孝仁は、見覚えのある大きな白いリボンを首に巻いていた。

「孝仁さん?」
「どうしたのぼんやりしちゃって大丈夫?」
「えっと・・・・・・はい、大丈夫です」
「大丈夫ですって敬語になってるよ」

 クスクスと楽しそうに笑われ、違和感を感じながらも力也は自分の服装にも気づいた。見下ろし確認してみれば、孝仁と同じ服装をしていた。
 首に巻かれている大きなリボンが動く度に動くのが気になる。首を動かすと少しだけ見えるがはっきりと見えないそのリボンをなんとなく面白く思っていると、ザワザワとした人の声と共に冬真の声が聞こえた気がした。
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