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過去編【王華学校の日常】前
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第二の性と言われるダイナミクスを持つ者だけが通う学校がある。
全寮制のその学校の目的は少数派と言われるダイナミクスを持つ彼らが、自分の力を制御し普通に生きていけるようにすることだ。
ダイナミクスを持つからと言って特別なわけではないと言われてはいるが、ダイナミクスの欲を制御できない場合、Domは犯罪者にSubは被害者になることが多い。
特にランクが高いDomの欲求不満はタチが悪く、Subどころかダイナミクスを持たない人々にまで影響を及ぼす。
その為、グレアと呼ばれる力を含め、自分で自分の力と欲を制御できなくてはならない。
ダイナミクスを集めた王華学校はそれを教える為の学校だ。
学生はDomが多くSubが少ない。Domの男性と女性はそれぞれクラスや校舎が分かれており、Subは少数のため同じ校舎を使用している。
学生達は寮に住み、そこから学校に通っている。Domの更生を目的としたこの学校の特徴は軍隊学校と生徒が言うほど、教師達はDomの生徒達に容赦が無い。
学生寮は4~5人で一つの部屋を使い、その部屋の管理は生徒達に委ねられる。しかし、けしてだらけているのは許されない。
寮の管理は生徒達が行っている。生徒達は朝起きると、部屋を掃除し、洗濯物を自分で出す。生徒達で分担し一通りの掃除を済ませると、朝食が用意され、生徒達は全員で食堂に集まり朝食を食べる。
寮の食堂では寮母さんにより、朝食と夕食が用意される。因みに学校が休みの日でも昼食は出ない。昼食は個々で用意することに決まっている。
「いただきます!」
厳しいと聞くと規則が多いと思われがちだが、この学校の厳しさはダイナミクスに関係することに重点を置き、上下関係が厳しく、規則は少ない。
その為、食事中や掃除中も私語の禁止などはない。とはいえ、年頃のSubに飢えているDomの生徒達が話すことと言えばSubの話題ばかりだ。
そんな彼らの目線を奪っているのは食堂にあるテレビだ。食欲旺盛な年頃の生徒達が食事の手を止め、熱心に見つめているのはあるドラマの宣伝だった。
ニヤニヤと笑みを浮かべ見つめる先にいるのは、主演の青年がヒロインと愛を育む新しいドラマだ。仲が良さそうに話す二人にだらしないが暖かい目線が向けられている。
「孝仁さん、可愛い」
「由美ちゃんも可愛いよな」
「SwitchとSubのカップルとか最高だよな」
彼らが生徒達の目を奪っているのはそれが原因だった。SubのヒロインとSubとDomのどちらの特性も持つ主演の青年の恋愛ドラマは、生徒達にはおままごとのように見えているのか暖かく応援するように見つめた。
Switchは正確にはSubではないが、それでもこの学校に通っている生徒からすれば、支配の対象であるSubに近い対象として見られている。どんなにDomの性を出していても、頑張っているようにしか見えない。
その穏やかながらも独特な空気は、ドラマの宣伝が終わりニュースに変わった途端なくなった。ニュースには何も興味がないかのように、生徒達は食事を再開した。
「今日のPlay練習ってSub来るよね」
「多分そろそろ来ると思うんだけど、先生達次第だよな」
「俺もう限界近いんだけど」
「お前だけじゃねぇよ」
「冬真はこの前、お手本だって長くPlayできただろ」
Subと仲良くなりたい生徒たちが楽しみにしているのは、Playができるダイナミクスコミュニケーションの授業だ。普段授業が別々のSubたちと関わり、軽いPlayをすることができるPlay授業だが、毎回Subとできるかと言えばそうではない。
あるときは同じ教室のDomの生徒同士で練習し、あるときはDomの先輩達相手にSub役をし、あるときは先生相手に練習をする。
Subが参加する時も、Subの人数が少ないこともありゆっくり楽しむ事はできない。ほとんどの時間をDomの生徒同士で練習するか、Sub相手に指示を出すクラスメートを見ているしかない。
自由に交流することもできない時間だが、それでもその授業が一番楽しいのだ。
そんな風に賑やかな会話に溢れていた食堂が、あるニュースが流れた瞬間空気が変わった。
『被害者には着衣の乱れがあり、暴行の上の殺害と警察は判断しました。この近所では今までも少年が襲われる事があり、警察は目撃情報から近くに住む●●を容疑者として逮捕しました』
暴行の上の殺害事件の被害者の写真が映し出された瞬間、食堂は攻撃的な怒りを含めたグレアに包まれた。生徒達の誰もが、痛みに耐えるような瞳を被害者の写真に向け、次に映った容疑者の男性に怒りの視線を向ける。
「クソやろう」
「クズ」
「死ね」
ニュースでは容疑者と被害者がどのような関係かなどは言わず、さらに第二の性別についてもなにも触れていない。それでも生徒達は写真をみただけで被害者がSubで、逮捕された容疑者がDomであることに気づいた。
欲求不満のDomによる恐怖と暴力による支配の末の、殺人事件だと生徒達は理解し、憎しみに満ちた目を容疑者に送る。
そのグレアは食堂には収まりきらず、食堂の外にまで溢れていた。もし、食堂の外を誰かが通りかかったとして、それがSubでなくとも、恐怖を感じるほどの攻撃力の強いグレアだった。
大事なSubを傷つけ、その命を奪った。その事が生徒達の怒りと恨みを買った。もし、容疑者であるDomがこの場にいれば一発で潰れ精神を壊すだろう、それほどの強い感情がこの食堂を覆っていた。
しかし、次に流れたニュースにその空気は霧散した。テレビに映ったのは最近できたばかりの猫カフェの話題だった。インタビューアーの質問に店のスタッフの男性が猫を抱き上げて答えた。
「可愛い!」
「和む」
「猫だけじゃなく、このスタッフさんもいるんでしょ? すげぇ、得じゃん」
「ここ行きてぇな」
ニコニコと猫達の説明をするスタッフに生徒達の視線は注がれていた。スタッフの首にはパートナーがいるSubの証であるCollarがはめられており、王華学校の関係者の中では一般的なドックタグもつけられていた。
幸せそうなSubの様子に、食堂全体が今度は穏やかな空気に包まれた。
そうしてSubに関係のある内容が流れる度に、極端すぎる反応を返しつつ、生徒達は朝食を食べる。
全寮制のその学校の目的は少数派と言われるダイナミクスを持つ彼らが、自分の力を制御し普通に生きていけるようにすることだ。
ダイナミクスを持つからと言って特別なわけではないと言われてはいるが、ダイナミクスの欲を制御できない場合、Domは犯罪者にSubは被害者になることが多い。
特にランクが高いDomの欲求不満はタチが悪く、Subどころかダイナミクスを持たない人々にまで影響を及ぼす。
その為、グレアと呼ばれる力を含め、自分で自分の力と欲を制御できなくてはならない。
ダイナミクスを集めた王華学校はそれを教える為の学校だ。
学生はDomが多くSubが少ない。Domの男性と女性はそれぞれクラスや校舎が分かれており、Subは少数のため同じ校舎を使用している。
学生達は寮に住み、そこから学校に通っている。Domの更生を目的としたこの学校の特徴は軍隊学校と生徒が言うほど、教師達はDomの生徒達に容赦が無い。
学生寮は4~5人で一つの部屋を使い、その部屋の管理は生徒達に委ねられる。しかし、けしてだらけているのは許されない。
寮の管理は生徒達が行っている。生徒達は朝起きると、部屋を掃除し、洗濯物を自分で出す。生徒達で分担し一通りの掃除を済ませると、朝食が用意され、生徒達は全員で食堂に集まり朝食を食べる。
寮の食堂では寮母さんにより、朝食と夕食が用意される。因みに学校が休みの日でも昼食は出ない。昼食は個々で用意することに決まっている。
「いただきます!」
厳しいと聞くと規則が多いと思われがちだが、この学校の厳しさはダイナミクスに関係することに重点を置き、上下関係が厳しく、規則は少ない。
その為、食事中や掃除中も私語の禁止などはない。とはいえ、年頃のSubに飢えているDomの生徒達が話すことと言えばSubの話題ばかりだ。
そんな彼らの目線を奪っているのは食堂にあるテレビだ。食欲旺盛な年頃の生徒達が食事の手を止め、熱心に見つめているのはあるドラマの宣伝だった。
ニヤニヤと笑みを浮かべ見つめる先にいるのは、主演の青年がヒロインと愛を育む新しいドラマだ。仲が良さそうに話す二人にだらしないが暖かい目線が向けられている。
「孝仁さん、可愛い」
「由美ちゃんも可愛いよな」
「SwitchとSubのカップルとか最高だよな」
彼らが生徒達の目を奪っているのはそれが原因だった。SubのヒロインとSubとDomのどちらの特性も持つ主演の青年の恋愛ドラマは、生徒達にはおままごとのように見えているのか暖かく応援するように見つめた。
Switchは正確にはSubではないが、それでもこの学校に通っている生徒からすれば、支配の対象であるSubに近い対象として見られている。どんなにDomの性を出していても、頑張っているようにしか見えない。
その穏やかながらも独特な空気は、ドラマの宣伝が終わりニュースに変わった途端なくなった。ニュースには何も興味がないかのように、生徒達は食事を再開した。
「今日のPlay練習ってSub来るよね」
「多分そろそろ来ると思うんだけど、先生達次第だよな」
「俺もう限界近いんだけど」
「お前だけじゃねぇよ」
「冬真はこの前、お手本だって長くPlayできただろ」
Subと仲良くなりたい生徒たちが楽しみにしているのは、Playができるダイナミクスコミュニケーションの授業だ。普段授業が別々のSubたちと関わり、軽いPlayをすることができるPlay授業だが、毎回Subとできるかと言えばそうではない。
あるときは同じ教室のDomの生徒同士で練習し、あるときはDomの先輩達相手にSub役をし、あるときは先生相手に練習をする。
Subが参加する時も、Subの人数が少ないこともありゆっくり楽しむ事はできない。ほとんどの時間をDomの生徒同士で練習するか、Sub相手に指示を出すクラスメートを見ているしかない。
自由に交流することもできない時間だが、それでもその授業が一番楽しいのだ。
そんな風に賑やかな会話に溢れていた食堂が、あるニュースが流れた瞬間空気が変わった。
『被害者には着衣の乱れがあり、暴行の上の殺害と警察は判断しました。この近所では今までも少年が襲われる事があり、警察は目撃情報から近くに住む●●を容疑者として逮捕しました』
暴行の上の殺害事件の被害者の写真が映し出された瞬間、食堂は攻撃的な怒りを含めたグレアに包まれた。生徒達の誰もが、痛みに耐えるような瞳を被害者の写真に向け、次に映った容疑者の男性に怒りの視線を向ける。
「クソやろう」
「クズ」
「死ね」
ニュースでは容疑者と被害者がどのような関係かなどは言わず、さらに第二の性別についてもなにも触れていない。それでも生徒達は写真をみただけで被害者がSubで、逮捕された容疑者がDomであることに気づいた。
欲求不満のDomによる恐怖と暴力による支配の末の、殺人事件だと生徒達は理解し、憎しみに満ちた目を容疑者に送る。
そのグレアは食堂には収まりきらず、食堂の外にまで溢れていた。もし、食堂の外を誰かが通りかかったとして、それがSubでなくとも、恐怖を感じるほどの攻撃力の強いグレアだった。
大事なSubを傷つけ、その命を奪った。その事が生徒達の怒りと恨みを買った。もし、容疑者であるDomがこの場にいれば一発で潰れ精神を壊すだろう、それほどの強い感情がこの食堂を覆っていた。
しかし、次に流れたニュースにその空気は霧散した。テレビに映ったのは最近できたばかりの猫カフェの話題だった。インタビューアーの質問に店のスタッフの男性が猫を抱き上げて答えた。
「可愛い!」
「和む」
「猫だけじゃなく、このスタッフさんもいるんでしょ? すげぇ、得じゃん」
「ここ行きてぇな」
ニコニコと猫達の説明をするスタッフに生徒達の視線は注がれていた。スタッフの首にはパートナーがいるSubの証であるCollarがはめられており、王華学校の関係者の中では一般的なドックタグもつけられていた。
幸せそうなSubの様子に、食堂全体が今度は穏やかな空気に包まれた。
そうしてSubに関係のある内容が流れる度に、極端すぎる反応を返しつつ、生徒達は朝食を食べる。
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