283 / 331
番外編【放し飼い中】前
しおりを挟む友人は多い力也だが、休日に一緒に出かけたり旅行に一緒に出かけたりは、あまりしたことがない。行きたいところがあれば勝手にでかけるタイプなので、わざわざ誰かを誘ってということがない。
しかしそもそも力也だけでなく、Subの多くがパートナー以外の友人とでかけることが少ない。これは引っ込み思案とかではなく、ただパートナーからの独占欲と過保護が影響しているだけだ。
王華学校の関係者をパートナーに持つSubの中には自由に友人と仲良くしている人もいるが、それでもパートナーの事は気になるらしく多くが羽を伸ばしすぎてはいない。
結局のところSubにとってはご主人様であるパートナーが一番で、他は二の次になってしまうのだ。
その日冬真は泊まりがけの撮影だった。芸能活動をしているからには、夜の撮影で朝帰りになることも珍しくなく同棲していても一人の夜も多い。
だから互いに気にしたことはないが、その日は二泊三日で力也が泊まりがけの撮影をしてきた翌日だった。力也が帰ってきてすぐに冬真が今度は泊まりがけの撮影に向かうことになり、せっかく帰ってきたのにイチャイチャすることもできなかった。
「じゃあ、俺いくから。明日の夜には帰ってこれると思うからいいこにしてろよ」
「了解、いってらっしゃい」
名残惜しそうに出かけていった冬真を力也は見送り、一息ついた。丁度今日と明日は仕事が入っていない。特に用事はないが、ちょっとでかけようかと支度を調える。
「ついでだし、母さんとこ寄るか」
冬真と交流ができるようになり、保護施設に入っている母の具合はだいぶ落ち着いてきていた。食事も自分で食べるようになり、目にも生気が蘇り、力也がくると反応を示すようになってきていた。
まだ話すことはできていないが、コミュニケーションがとれるようになってきた事が嬉しい。
「今日は冬真のDVD持っててみるか」
昔お世話になっていたダイナミクスPlayビデオ【DPV】の中から、アダルト向けではない物を選ぶ。選んだのは軽いコマンドだけがいくつか入った短い物で、ダイナミクス雑誌のおまけとしてついていた物だ。
ビデオをみただけで動くことはないと思うが、動いてしまってもこれならばなんとかなるだろう。
コレクションの中にはもっと長い本格的な物や、特に考えずに選んでいた所為で、女性のSub向けのアダルトものもあるがさすがにそれを持って行くのは躊躇われる。
母の反応も気になるがそれ以上に、それをみた職員がどう思うかが気になる。
「この辺なら大丈夫だよな」
ちょっとしたお試しのような、DVDを袋にしまう。こんなことしなくとも冬真に言えば、母用に撮ってくれるだろうが、この頃の冬真も母に知ってもらいたい。【DPV】を鞄に入れ、部屋を出た。
とくに目的もなく、道を歩きいつも行っているスポーツ洋品店へ立ち寄る。とりあえず店内を一周して、シューズコーナーで足を止めた。
そろそろ新しいのを買ってもいいかと、思いながら良さそうな靴を探す。
「丈夫で壊れにくいっていうとこの辺か。丈夫さだけなら作業靴でもいいんだけど・・・・・・」
スポーツ用とスタントで使う靴では、少々用途が違い選ぶとなると悩む。スポーツでは動きやすさや軽さが重視される。無論、スタントも動きやすさが大事ではあるが、内容に寄って怪我をする可能性が高く、なるべくなら頑丈な靴がいい。
時に火の中に突っ込み、時にがれきの山を歩く、丈夫な靴でなければ足を守ることができない。
「どっちにするか」
「あ、力也」
聞き覚えのある声に、顔を上げればそこに同じ事務所でダンサーをしている男性がいた。
「白亜」
「今日は一人?」
「ああ、白亜も一人か?」
「そうそう」
彼、白亜は力也と同じSubだったが、パートナーになっていたDomにある日突然置いて行かれたことでDom不振に陥っていた。その所為で新たなDomを得ることもできずに薬に頼りながら日々を生きていた。
そんな彼だが、同じ事務所の力也と仲良くなり、ある日Subだけで結成された地下アイドルのライブにダンサーとして誘われた。
最初は気が進まなかったが、力也にパートナーを見つけるチャンスだと言われ、薬からもむなしい日々からも脱却したいと思っていた白亜はその誘いに乗った。
そして見事独り占めできるパートナーを手に入れた。
「それで、どう? うまくいってる?」
買い物を適当に切り上げ、力也と白亜は近くのハンバーガーショップに入っていた。昼食を摘まみながら、きっかけを作った者として力也は世間話のように聞いた。
「まぁ、ぼちぼちってとこか」
出会ってから数ヶ月しかたっていないのだから、そんな物かも知れないと力也が思っていると白亜は飲み物を飲みながら補足のように続けた。
「Playはうまいし、無理強いもしない。俺の事もよくみてるし、Dom不信も許容してくれる。お前が俺をあの場に連れて行ったのがよくわかったよ」
「あの場にいたのはSubの味方の王華学校の関係者ばかりだから、丁度いいと思ったんだ」
普通ならDom不信などDomから拒絶される物だが、元々DomでありながらDomにいい印象など持っていない王華学校の関係者達はそれを好意的に受け取る。
いつか信じてくれればいい、何なら利用してくれてもいいと思い、そばにいてくれる。
「そうなんだよな。アイツもどこまで行ってもSubの味方で、俺の事大事に思ってるのはわかんだけど、正直頭のネジ何本か吹っ飛んでないかって思ってんだよ」
その言葉に力也は乾いた笑いを返した、数ヶ月しか付き合っていないはずなのに、しっかりと王華学校のDom達を理解している。
「この前もなんかこっちみないでしばらくスマホとパソコンに張り付いてるなと思ってたら、いきなり叫びだしたんだよ。なにかと思ったら俺が気になってたミュージカルのチケットがとれなかったって言うんだ」
「チケットとるために頑張ってたってことか」
「らしいんだけど、俺別に欲しいとか言ってねぇし、アイツ勝手に動いてたんだよ。そんなのいいからこっちみろって」
放置されたのが不満だったのだろう、白亜はすねたように言った。実際その所為で二人は喧嘩していた。
「どうしても欲しかったら自分でとるのに、ずっとパソコンとスマホに張り付いて馬鹿だろ。この前も人気の食べ物買うために、何時間も並んで・・・・・・その間連絡もないし、完全に暴走してるだろ」
あまりにも想像できる内容に、力也は苦笑した。どうにも人ごととは思えない。基本的に王華学校のDom達はSubの事を考えて動くが、Domらしく自己解釈の上の自己満足に走ることが良くある。わかりやすくいうとSubを喜ばすことだけを考えすぎて空回りするのだ。
「おかげで昨日も大げんかだ」
「喧嘩にまで発展したんだ」
「したくてしたんじゃねぇよ! アイツが言ってわからねぇから!」
未だに機嫌を直していないらしい白亜の様子に、力也は適当に頷きながらハンバーガーを食べる。
「力也は喧嘩とかしねぇ?」
「うーん、喧嘩っぽい喧嘩はないかな。どっちかが折れるし。冬真もよく暴走するけど」、ストップとかセーフワード言えば止まるし」
「ストップってそれ、コマンドだろ。そんなのきくのかよ」
「そうそう、コマンドだけどちゃんと聞くし、結構喜ぶんだよ。なんか可愛いとか言って」
「ふーん」
あまり信じていないようだったが、試す気はあるらしく、白亜はどのコマンドを使ったらいいのか考えるように頷いた。とはいえ、一時期Dom不信になり、グレアも嫌がりPlayもうまくできていなかった時を考えれば、喧嘩も出来てわがままも言えるならいい傾向だろう。
「そういえば、他の人達はうまく行ってんのかな」
「ああ? なんだよ力也知らねぇの? 利佳の事」
「利佳がどうかした?」
「アイツ、双子のDom選んだだろ? 普通Domって独占したがるのに。向こうもそれは問題なかったからOKしたらしいけど」
利佳も、白亜と同じくライブの時に連れて行ったDom不信に陥っていたSubの一人だ。フリーをアピールしていたため、白亜と同じく多くから声をかけられ、悩んだ末に双子のDomを選んでいた。
「けど?」
「この前、久しぶりに会ったんだけど・・・・・・アイツその双子の所為で結構変わってて・・・・・・俺に泣きついてきたんだよ」
「え!?」
その不穏な内容に、力也は声を上げ聞き返した。自分と連絡していたときは順調に思えたのに問題があったのだろうか。
「どういうこと?」
「アイツ・・・・・・元々小柄で痩せてただろ? それが双子と付き合うようになってから6kg太ったって」
何があったのかと身構えていた力也はその言葉に、肩の力を抜いた。確かに、本人にとって問題と言えば問題かも知れない。
「それって、食わせられてるってことだろ?」
「アイツが言うには、左右から来るから逃げ場がなくてつい食べちゃってるって。しかもタチが悪いことに、コマンドはないけどグレアは来るって」
「あー、それは逆らえない」
左右で挟み込みグレアを発しながら、食べ物を食べさせるなどコマンドがなくとも強制に近い。
「利佳は双子にそれ言ってるって?」
「言ってるらしいけど、夜に運動もしてるから大丈夫だって聞かないって」
「夜の運動って・・・・・・」
「二人がかりだしな」
力也はその言葉に軽く頭を抱えた。夜の運動がなにを示しているかはわかったが、それを運動に数えていいのかはかなり悩む。と言うか、結局のところ体重が増加しているならば、運動にはなっていないのだろう。
「そもそも、利佳あんま体力ないのに」
「力也の基準は標準じゃないだろ」
「白亜も同じだろ」
二人とも体力勝負な仕事のため、普通の人より持久力がある。利佳は文系で小柄で痩せ型、そもそも比べることなどできない。
「まぁ、幸せ太りってとこか」
「利佳はフォアグラって言ってた。二人いるから身の回りの事も全部先回りされるって」
「・・・・・・奉仕型か、飼育型かな」
「二人いるんだし、両方じゃねぇ?」
「厄介だな」
「だよな」
力也と白亜は二人してその状況を想像しため息をついた。随分甲斐甲斐しく可愛がって貰っているようだが、Subに目覚めた当初散々な目に会い、その見た目もありいいように利用されたあげくにDom不信に陥った利佳からすればあまりに違いすぎて混乱するだろう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
495
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる