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有利✕港【疫病神】後

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「有利、金よこせ!」
「・・・・・・」

 店のドアを開けて開口一番そう言った港を驚いた目で見ていたのは、有利と男二人組の客だった。
 しまったと思った時には既に遅く、一目でSubだと見分けた客二人は港と有利をみて吹き出した。

「えっと、有利じゃあ俺たち帰るよ」
「おまけしてくれてありがとう」
「う、うん。・・・・・・またね葵、泉」

 肩を震わせながら二人の客は港の横をすり抜けていった。声をだして笑われた訳ではないが、明らかに変な空気になってしまったことに顔が羞恥心に染まる。

「新手の強盗かと思った」
「帰る」
「なんで? お金欲しいんでしょ」

 必死で笑いを抑えながら、有利は帰ろうとする港を手招きした。帰ろうとした港だが、ここで帰っては金が手に入らないと思ったのだろうゆっくり傍に寄ってきた。

「とりあえず座って」

 有利の目の前の椅子を示され、港はそこに座った。居心地悪そうに目線をそらしたままの様子に有利は苦笑する。

「お金っていきなりどうしたの?」
「あんだけ好き勝手したんだから慰謝料よこせ。金がなければピアスでもいい」
「あげるのは構わないよ。でも理由は聞かせてくれないの?」

 そう言われ、港は仕方なさそうに今までの経緯と何故金が欲しいのかを語った。

「・・・・・・事実は小説より奇なりだね」
「どういう意味だよ」
「よく、ミステリードラマとかで犯人だってわかってるのに、無防備にでかけて脅して返り討ちにあう人いるじゃん。あんな人いないと思ってたけど、本当にいるんだね」
「はぁ?」

 意味がわからなかったらしい港に聞き返され、有利は何でもないと言うように微笑んだ。

「俺の事忘れないでいてくれて嬉しいよ。でも、お金渡すとしてその後はどうするの?」
「ああ?」
「シェアハウス出たいんでしょ? 次に行くとこ決まってるの? Subって明かしてDomについて配慮して貰わないとシェアハウスは難しいと思うよ?」

 今まではSubを気にせずに暮らしていたが、これからはDomを警戒して生きていかなければならなくなる。当然新しくシェアハウスを探すにしても、Domがいない場所や配慮してくれる場所を探さなくてはならない。それでも今回のように引っ越してくる場合もある。

「そもそもいくらランクが高くてもSubがDomを断っていないシェアハウスに入るのが無謀だと思うよ? 入るならDomのNGのところを選ばなきゃ」
「そんなとこあるのかよ」
「あるよ。開いているかわからないけど、ちゃんとあるよ。それでも結局オーナーがDomだけどね」
「なんだよ。それじゃ結局ソイツに囲われるだけじゃねぇか」
「そういうわけじゃないんだけど」

 そう言うと有利は少し考えた。先ほど上げたDomお断りのシェアハウスは有利の母校王華学校の卒業生がやっている物だ。Subを大事にするように教え込まれた王華学校の生徒達は、学校を卒業してからもSubが少しでも幸せに暮らせるように心を配る。
 Domの所為で色々と影響を受けるSub達の為に、仕事面で融通が利くようにしたり、生活面でも楽になれるように色々手を回している。
 港のようにDomの影響を受けずに暮らしたいが、金がないSubの為に用意されたシェアハウスもその一つだ。
 Subの為のシェアハウスのオーナーはDomだが、囲うと言う考え方は違う。なにかあった場合対処ができるようにしているだけで、住人には手を出さない。見守るだけで満足感を得るタイプのDomがやっているのだ。

(紹介してあげるのはいいけど、せっかく来てくれたんだから離したくないな)
「せっかくだからバイト先と住むところ両方手に入れない?」
「そんなことできるのかよ」
「うん。住み込み可のバイトで家賃もタダ、賄い付きどう? 興味ない?」
「ある」

 そんな好条件なところがあるのか疑ってはいるのだろう、どこか探るようにみてくる様子に有利は警戒心を解かせるように優しく微笑んだ。

「ここで働けばいいんだよ。住むところは俺の部屋でどうかな?」
「はぁっ!? いい訳ねぇだろ!」
「心配しなくても部屋は余ってるから、寝室は別だよ」
「テメェと一緒ってのが冗談じゃねぇんだよ!」

 さすがの港でも、あんなことをされた相手と一緒に住むほど脳天気ではない。
一方の有利も無理だろうと思っていたが、せっかくのチャンスを逃したくはない。それにこう言ってはなんだが、有利からみれば港は隙だらけだった。
ダイナミクスにも詳しくなく、住む場所にも困っている。酒にも弱く、見た目だけに頼っている所為かガードも弱い。なによりPlayの快感に弱い。
ここで有利を拒否しようとも必ずどこかでタチの悪いのに捕まるだろう。

(もうちょっと押してみようかな)
「光熱費もいらないし、朝ご飯も夕飯もお昼もお弁当もつくってあげるよ」
「テメェの料理なんか信用できるかよ」
「俺の料理結構うまいと思うよ? 特技っていう程じゃないけど色々作るし」

 己の性癖はどうにもならないから、せめて少しでも好感度を上げるために料理を覚えたのがちょっとした気分転換になっていた。食べてくれるSubがいるならば更にやる気が出る。

「どうせ変な物いれるんだろ!」
「変な物って?」
「・・・・・・媚薬とか・・・・・・」

 港がそう言った瞬間に、有利は耐えきれずに吹き出した。

「ハハハッ、媚薬って、港は面白いこと言うね」
「笑うな!」
「ごめん、ごめん。もちろんそんな物いれないよ」

 そもそもDomならば媚薬を使わなくともその気にさせることはできる。事実、港はあれほど簡単に有利にいいようにされたというのに、あれほどの目に合ってもDomの怖さをわかっていない港に笑みが浮かぶ。

「信用できねぇよ!」
「困ったな。因みに部屋にはついてるし、気が変わったらいつでも同居をやめてもいいよ。なんなら新しいとこをみつけるまでの間って事でもいいし」
「また変な事するつもりだろ」
「変な事ってPlayの事だよね。そこは絶対やらないとは言えないかな」

 同じ屋根の下にDomとSubが住むのだ、さすがにそれを否定することはできない。どんなに制御しようとも、ついグレアが漏れることもあるだろうし、それでなくとも同じ屋根の下では欲求を抑えるのも大変だ。

「やっぱり!」
「でも、港が本当に嫌なことはしないし。どうしても嫌なときは部屋にこもればいいよ。
鍵かけてれば安心でしょ?」
「・・・・・・」
「バイトも毎日でなくていいし、朝も遅いからゆっくり寝てていいよ。外出も自由にしていいし」

 まだ怪しむようにみている港に、有利は指を立てた。

「一日一万でどうかな? 11時から夜7時まで、途中休憩あり」
「内容は?」
「接客、それと俺の手伝い」
「この店そんなに客来るのかよ」
「暇なときもあるよ。それでもバイト代は出すから大丈夫だよ」
「お前金持ちか」

 ピアス屋でそれほど稼げるようにみえない。こうして話している間も、前回も客が来る様子はなかった。先ほどのお客もおまけしたと言っていたのだから余裕があるのだろう。
 どこからそんな金がでるのかと疑り深そうに港はみた。

「そんなことはないけど、でも港を養うぐらいならできるよ」
「・・・・・・」
「他にもバイトしていいし、ここに来るのも週に一回でも二回でもいいよ」

 そう言えば港は視線をそらし、考えるようにしながら有利の顔色をうかがった。信用していいのかわからず、探るような視線に有利は微笑んだ。

「Playもするけど、港の意思を大事にするよ。とりあえず一週間試してみない?」
「・・・・・・一週間だな。嫌だったら出ていくらからな」
「うん、交渉成立だね」

 長く話していた所為か、港の警戒が薄れたのか、港はその提案を受け入れてしまった。
こうして港はまた疫病神の魅力的な罠にまたひっかかった。そしてこれが港の人生を全く違う物にしていく。

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