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有利✕港【【厄日】】前

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 自分がSubだとわかったのは高校に上がる時行われた検査だった。多くの場合小学校から中学校に上がる際に受ける健康診断で、ダイナミクスをもっているかわかるが、港はそれに引っかからなかった。
 あまりないことだが、全くないとは言い切れない。ダイナミクスが目覚めるのが遅い人は時々いる。
 よくあるのは周りにダイナミクス持ちがいなく、眠っているダイナミクスを刺激されなかった場合だ。港もそうだったのだろう、友人はもちろん親類にもダイナミクス持ちはいなかった。だから自分がSubだと知ったときは驚き、何かの間違いだと否定した。
 幸運なことにギリギリAランクに届くほどの力を持っていた港は、そのまま自分のSub性を否定して生きてきた。
 よくダイナミクスを否定して生きているとPlay不足により、体調不良や精神的に不安定になると言うが港はそんなときは適当にストレス発散して自分自身をごまかしていた。
 Play不足による不調がどのような状態で現れるかは個人に寄って違う、落ち込む人もいるし、逆にイライラする人もいる。
 港は周りから見ればわかりにくかった。港のPlay不足は落ち着きがなくなり、やけにテンションが高くなる。見ようによってはただの上機嫌または酔っている状態だ。
 おかげで気づかれることはなく、ごまかし続けられ港本人もそれでいいと思い込んでいた。
 それが全て狂ったのはあの日、出会った男の所為だった。

 昔から仲のよかった先輩に誘われて、成人祝いに酒をおごって貰える事になった日、実は港はまだ19歳だった。バレたら困る事になるが、先輩の知り合いの店に行くと言われそれなら大丈夫だろうと気楽に考えて出かけていった。
 今考えればPlay不足の症状が現れていたのに何故知らない場所に出かけたのか、何故あんな露出の多い格好をしていたのか自分の思考回路がわからない。
 確かあの日は、朝から寝坊してバイトの面接に行き、見事落ちた。見た目で落とされたのだろうとは思っているがせめてもう少し悩んでくれてもよかっただろう。
 そのまま自棄になり、部屋に帰って一応気合いを入れていた服を脱ぎ捨て適当な服に着替え先輩との待ち合わせに向かった。
 先輩の知り合いのバーに着き、進められるままビールを飲んだ。そこからの記憶はぼんやりした物しかない。
 初めて飲んだビールは意外においしく、一気飲みした俺は見事酔い、その結果気持ち悪くなった。

「うっ・・・・・・」
「おい、おい、大丈夫か? トイレ行くなら行ってこいよ」
「は、はい」

 よろよろとした状態でトイレに行ったのに、トイレにつけば誰かが入っているらしく、鍵がかかっていた。

「うぇっ・・・・・・」

 ギリギリだった俺は、ドンドンと強めにドアを叩いた。すると“今でます”という声と共に、ドアが勢いよく開いた。

「イッテ!」
「あ、ごめん」

 ドアの目の前にいた俺の顔に思い切りドアが当たった。普通外に人がいるのがわかっているのにあんなに勢いよく開けないだろう思うが、その時ドアを開けたそいつはそういうことを考えない奴だった。
 ともかく思い切り当たったことで、俺の目からは涙が出た。元々気持ち悪く、生理的な涙が出ていたのに追い打ちをかけられてしまった。

「だ、大丈夫? ごめん」

 慌てたように俺の顔を覗き込む、その瞳に一瞬背筋がぞわっとした。相手はどちらかと言えば人の良さそうな空気を放つ男で、ヤバい見た目はどこにもない、それなのに寒気がした。
 しかし、痛みで一瞬消えていた吐き気が襲ってきた瞬間、俺はそんなことを考える暇も無くトイレに飛び込んだ。
 
「うげぇー・・・・・・うっ・・・・・・」

 我ながら聞いているだけで気持ち悪くなりそうなほど、豪快な音を立て嘔吐した。何度もむせながら中身を出し終わり、フラフラとしながらトイレを出てうがいをした。
 
「はい、ハンカチ」
「ああ」

 うがいを終えて濡れた口元を服で拭っていたら、不意にハンカチを差し出され、思わずそれを受け取ってしまった。

「すっきりした?」
「・・・・・・」

 使ってから差し出してきた方を見れば、先ほど顔に思い切りドアをぶち当てた男が、廊下から顔を出していた。
 ニコニコと貼り付けたような笑みに胡散臭さを感じた。コイツから早く離れなくてはと何故か思った。
 押しつけるようにハンカチを返し、そのまま立ち去ろうとすると不意に腕を掴まれた。

「ねぇ、君パートナーは? フリー?」
「はぁ?」

 その時になって俺はやっとソイツがDomだと気づいた。しかも、パートナーの有無について聞いてきたと言うことは明らかに興味を持たれている。

「触んな!」

 いくらDomだとしても、相手は喧嘩慣れもしてなさそうな奴だ。強く出ればすぐに諦めるだろう。そう思い、にらみ付ければ男は驚いたような目をすると手を離した。
 そのすきに逃げるように席へと戻る。

「お、おかえり」
「大丈夫か?」
「大丈夫ッス」

 先輩達に笑いながら尋ねられ、椅子へ座り直すと、喉が渇いていたので目の前にあった飲み物を口にした。

「あ・・・・・・」

 先輩達が、止め損ねたような声を出すのを聞きつつ飲んだのはおいしいジュースだった。

「これうまいッスね」
「あーあ」

 そう言えば、先輩とその知り合いの人は顔を見合わせた。何か確かめるように俺の顔を見ると、二人で頷きあった。

「港、具合大丈夫か?」
「なにがッスか?」
「それも酒なんだよ」
「え?」

 言われて思わずジュースだと思っていたそれをじっと見た後、もう一度口にふくむが酒の味など感じなかった。先ほどみたいな気持ち悪さは襲ってこない。

「大丈夫みたいッス」
「よかった。ビールがダメだったのかもな」
「なるほど、よかったな」

 せっかく成人したのに酒を楽しめないのは残念だろうと、思ってくれたらしく二人は笑いながらまたジュースのような物を出してくれた。

「うまい。酒ってうまいッスね」
「カクテルなら大丈夫だな」

 気持ち悪いどころか、楽しくなってきた。

「そうだ先輩、さっき変な奴にあったんスよ。なんか俺の顔じっと見てくるんスよ! あれ絶対変態ッスよ!」
「おい、おい狙われてんじゃねぇの?」
「気持ち悪い! 冗談じゃないッスよ!」
「どんな奴だったんだよ!」
「どんなって、なーんかヘラヘラしてて、締まりがねぇってか、場違いみてぇな?」

 やけに楽しくてゲラゲラと笑い合っていたら、段々眠くなってきた。

「そろそろ帰るか」
「そうッスね」

 フラフラとした足取りで立ち上がり、店を出た。

「帰れるか?」
「帰れるッスよ! ごちそうさまでしたー!」

 そう言って歩き出したところまでは覚えている。やけに眠かったが、十分帰れるつもりでいたのに、気づけば俺はどこかわからない場所にいた。

「え?」
「おはよう、やっと起きた?」

 にっこりと寒気がするほどの笑顔を向けるソイツは、さっきトイレであった変態だった。自棄に暗い部屋の天井には、紫色のライトが光っていた。その明かりが男の顔に当たり余計不気味に見える。
 慌てて起き上がろうとしたのに何故か、腕が動かず揺らせば、ガチャガチャと音が
なった。

「な、なんだよこれ!?」
「拘束NG? せっかく似合っているのに」

 この状態では見えないがどうやら両手が鎖で拘束されているらしい、逃げようと暴れるのに全然取れない。

「はぁ!? 何言ってんだよ!」
「俺拘束好きなんだけど、どうしても嫌だって言うなら聞いてあげるよ。初めてだしね」
「初めてってなにがだよ!」

 こっちが怒鳴っているのに、全然気にしているように見えない。その薄気味悪さに、冷や汗が止まらない。

「あれ? 君Play初めてなんだよね? 自分で言ってたじゃん」
「はぁ!?」
「まさか覚えてないの? 初めてだけどいいって言ってくれたのに。それとも嘘ついたの? だとしたら悪い子だね」

 そう言いながらも崩れない笑みと同時に刺さるような圧に恐怖を感じる。早く謝れ、謝らなくちゃダメだと警告のような思いが浮かぶ。

「ご、ごめっ・・・・・・」

 自然に口から飛び出した謝罪は、顎を男に掴まれたことで最後まで言えなかった。

「うん? 謝るって事はやっぱり嘘だったの? 悪い子だね。初めてって言えば優しくして貰えると思った? それなら最初からそう言わなきゃ、わからないでしょ?」
「そ、そうじゃ・・・・・・」
「優しくしなくていいってこと? それなら大歓迎だよ。永遠に忘れられない思い出にしてあげるよ」

 キザな台詞が似合うくせに、ときめきも感じないとはこういうときだろう。俺の体を駆け抜けた恐怖は、口から無理矢理飛び出た。
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