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番外編【【初めてのクリスマス】】前
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普段宗教などに興味がない人も盛り上がるのがクリスマスだ。幼い子供はサンタクロースからのプレゼントを心待ちに、大人にならば愛しい人と過ごすのを楽しみにする人や、自分へのご褒美だと言いちょっとした贅沢を楽しんだりもする。
この国ではただの祭りのような物だが、特別な日とされている。
とはいえ、無論全員が全員そうではなく、クリスマスなど関係なく仕事をしている人も、クリスマスを楽しめない状況の人もいる。
力也もその内の一人だった。
幼い頃は、家には余裕がなく、クリスマスといえども目立ったプレゼントなどなく、日用品ばかりだった。豪華な食事やケーキもなく、母が割引シールの貼られたデザートを買ってきてくれるのが嬉しかった。
母と粗末ながらも楽しいクリスマス、そんなクリスマスも母の当時のご主人様が来れば変更になった。小学校に上がる前はクリスマスイブには来なかった母のご主人様が、小学生に上がり少しして来始めたことから、彼には他にクリスマスを過ごしていた人がいたのは想像がついた。
大方、クリスマスを共に過ごす必要がなくなったから、母のところへ来たのだろうが、それでも母は大喜びだった。
かといって目的はクリスマスを祝うことではなく、クリスマスを理由にした特殊なPlayだ。母もそれはわかっていたのだろう、ご主人様が来た時は力也をどこかへ行かせようとした。
母のご主人様は力也がいるから特殊なPlayはやめてほしいと言って、聞いてくれる相手ではなかったのだ。むしろ力也がいることで恥ずかしがる母を楽しむ傾向があった。
そんなときは力也はそっと窓からでて隣にあった空き部屋に忍び込んだ。
古い、アパートは窓の鍵が緩んでいて力一杯揺らせば、鍵が外れ入ることができた。暖房器具も明かりも何もない中、力也は壁越しに聞こえてくる声を聞きながらPlayが終わるのを待った。
古いアパートの薄い壁では母の声もご主人様の声も、聞こえてきていたが、恐怖も嫌悪感もわかなかったのは既に力也にSubとしての片鱗があったからだろう。
そんな力也が唯一クリスマスらしいクリスマスを過ごしたのが定食屋に居候させて貰っていた時期だ。あの年頃でプレゼントやご馳走にうかれるのもおかしいかも知れないが、男の子は沢山食べるべきだという店主夫婦の信念で、忙しい仕事を終えればご馳走とケーキを腹一杯楽しむことができた。
それだけではなく、母と同じで日用品だったが、プレゼントもくれた。そんなクリスマスもスタントマンとして働き始めたら関係なくなり、自分でケーキを買って食べるか、孝仁にケーキを貰うだけになった。
ということで、力也にとってクリスマスは特別な日という感覚が薄かった。
「力也はクリスマスプレゼント何欲しい? ケーキは? お前なら四号ぐらい余裕だよな、五号行っとく? さすがにでかいか」
なので、いまこうして二人きりのクリスマスだからと浮かれている冬真の様子をみても、なんでこんなに浮かれているのかがわからない。
「五号って高くない?」
ケーキ屋のチラシを見せられていた力也は、五号のケーキの値段を見て顔をしかめた。
「クリスマスケーキだしこんなもんだろ」
「コンビニの安いのでいいよ」
「・・・・・・え?」
すごく驚かれてしまい、力也の方がむしろ困惑した。確かにケーキは嬉しいが、そこまで奮発する物でもないだろう。
「コンビニのじゃ足りないだろ」
「高いし」
「・・・・・・あ、そうだ!こんな時こそ、コ●トコだよな!」
いいことを思いついたというように、気分を上げ直したらしい冬真は、前回作った会員カードを取り出した。
「チキンも有名だって言ってたたし、ケーキも多分あるし、ツリーとか飾りもきっと売ってるよな」
ほくほくと嬉しそうな顔で、クリスマスの買い物の計画を立てる様子に何をそんなに浮かれているのかはわからなくても力也も釣られ笑った。
「あ、でもツリーは却下だから」
それでも一応釘は刺しておこうと思った力也のその言葉で、冬真はまた不満そうな声をあげた。
そうして計画を立てた物の、テレビで見たクリスマスの混みように力也があっさりと諦めた。当日でなくともクリスマス期間は入るまでに1時間はかかると聞き、その日夜力也のマンションにきた瞬間真剣な表情で“話がある”と切り出しだされ、冬真は息が止まったと言っていた。
「いや、あの時は焦った」
「むしろ俺の方がびっくりしたんだけど。いきなり無表情になったし」
「だって、あれは絶対なんか悪い内容だと思うだろ」
「だからってあんな焦るか?」
「丁度、ダブっちゃって」
丁度当て馬になった挙げ句に冷たく切り捨てられるという、悲しい役をやった後だった所為でそうなったらしいがそれにしてもあり得ないだろうと思う。
冬真がそんな状態になった所為で、力也はショックを受けるほどコ●トコに行きたかったのかと思い、さらに混乱し、結局真意が伝わるまで無駄な時間をとってしまった。
「いま思い出すとコントだけどな」
「あんなに話しが通じないなんて、以心伝心にはまだ遠いな。力也が言いたいことは察せられるようになりたいのに」
「冬真Domの理想は高いよな。Subには求めないのに」
「当たり前だろ。ご主人様なんだから」
その当たり前がよくわからないのだが、それを言っても仕方がないので、とりあえず頑張れと無責任な応援を送りつつ力也は棚に並ぶクリスマス商品を見た。
今日二人がコ●トコの代わりにきたのは商品の数が多く、食品も扱っている大型のド●キホーテだ。入るまでに1時間以上もかかるコ●トコを断念し、代わりに安く色々な物が手に入るだろう場所として選んだ結果だ。
むろん、同じような考えの人は多く、店自体が人気な事もあり、混んではいる。それでものんびりと見て回る余裕はある。
「力也、サンタコスする?」
「しない」
クリスマス用品が並ぶ棚を見ていると、急にワクワクとした様子で冬真がサンタクロースのコスプレ衣装を取り出し聞いてきた。
あっさりと返せば、不思議そうな顔へ変わる。
「なんで」
「なんでってする必要ないだろ。子供がいるわけでもないし」
プレゼントを子供に配るというならば着たほうがいいだろうが、そんな予定はない。
「力也が着たのを見たかったのに」
「似合わないし」
「似合うかもしれないだろ」
「それが似合うのはじいさんだけだと思う」
どう考えても似合うとは思えずそう返せば、冬真もそれはわかっていたのか頷いた。ならばなぜ押し通そうとしたのかがわからない。
「施設に行くとき着てくとかどうだ? 子供もいるだろ?」
「いるけど、施設の中でもイベントやるから被るだろ」
クリスマスには職員がお菓子や玩具を配ると言っていたので、その時に職員がサンタクロースの服を着ていたら、サンタクロースの大量発生が起りそうだ。
「そっか、じゃあお菓子買ってくばるだけか」
そもそも、冬真は施設の中に入れないのに、なにをそんなに楽しみにしていたのだろうか。
「母さん! 母さんのプレゼントは?」
「冬真に任せる」
「お前と同じで甘いの好きだよな。ケーキとかでいいか」
「いいと思う」
とはいえ、せっかくならおしゃれな物がいいだろう。ここではおしゃれな物はなさそうなので他で買うことに決め、とりあえず施設で配る分のお菓子を探す。
「何人分ぐらい必要なんだ?」
「え・・・・・・っと」
人数を思い出しながら告げれば、冬真は手頃な大袋の菓子を籠に入れた。
「一応言っとくけど、菓子寄付しても施設にいるSubには会えないからな」
「わかってるって、プレゼントしたいだけだから大丈夫」
直接会えるわけでもないのに、それでも構わないらしく、笑い返された。そうして菓子を籠に入れると次は食品が並ぶコーナーに向かおうとしたところ、途中で目にとまったらしいカーテンを冬真がくぐった。
「今日は食べ物買いに来たんだろ?」
R18と書かれたのれんを、くぐるのを躊躇っていると、冬真はのれんの下からニヤッと笑みを浮かべ手招きした。
「力也、Come」【こい】
逆らいがたいコマンドで呼ばれ、力也はため息をつき、のれんをくぐった。
この国ではただの祭りのような物だが、特別な日とされている。
とはいえ、無論全員が全員そうではなく、クリスマスなど関係なく仕事をしている人も、クリスマスを楽しめない状況の人もいる。
力也もその内の一人だった。
幼い頃は、家には余裕がなく、クリスマスといえども目立ったプレゼントなどなく、日用品ばかりだった。豪華な食事やケーキもなく、母が割引シールの貼られたデザートを買ってきてくれるのが嬉しかった。
母と粗末ながらも楽しいクリスマス、そんなクリスマスも母の当時のご主人様が来れば変更になった。小学校に上がる前はクリスマスイブには来なかった母のご主人様が、小学生に上がり少しして来始めたことから、彼には他にクリスマスを過ごしていた人がいたのは想像がついた。
大方、クリスマスを共に過ごす必要がなくなったから、母のところへ来たのだろうが、それでも母は大喜びだった。
かといって目的はクリスマスを祝うことではなく、クリスマスを理由にした特殊なPlayだ。母もそれはわかっていたのだろう、ご主人様が来た時は力也をどこかへ行かせようとした。
母のご主人様は力也がいるから特殊なPlayはやめてほしいと言って、聞いてくれる相手ではなかったのだ。むしろ力也がいることで恥ずかしがる母を楽しむ傾向があった。
そんなときは力也はそっと窓からでて隣にあった空き部屋に忍び込んだ。
古い、アパートは窓の鍵が緩んでいて力一杯揺らせば、鍵が外れ入ることができた。暖房器具も明かりも何もない中、力也は壁越しに聞こえてくる声を聞きながらPlayが終わるのを待った。
古いアパートの薄い壁では母の声もご主人様の声も、聞こえてきていたが、恐怖も嫌悪感もわかなかったのは既に力也にSubとしての片鱗があったからだろう。
そんな力也が唯一クリスマスらしいクリスマスを過ごしたのが定食屋に居候させて貰っていた時期だ。あの年頃でプレゼントやご馳走にうかれるのもおかしいかも知れないが、男の子は沢山食べるべきだという店主夫婦の信念で、忙しい仕事を終えればご馳走とケーキを腹一杯楽しむことができた。
それだけではなく、母と同じで日用品だったが、プレゼントもくれた。そんなクリスマスもスタントマンとして働き始めたら関係なくなり、自分でケーキを買って食べるか、孝仁にケーキを貰うだけになった。
ということで、力也にとってクリスマスは特別な日という感覚が薄かった。
「力也はクリスマスプレゼント何欲しい? ケーキは? お前なら四号ぐらい余裕だよな、五号行っとく? さすがにでかいか」
なので、いまこうして二人きりのクリスマスだからと浮かれている冬真の様子をみても、なんでこんなに浮かれているのかがわからない。
「五号って高くない?」
ケーキ屋のチラシを見せられていた力也は、五号のケーキの値段を見て顔をしかめた。
「クリスマスケーキだしこんなもんだろ」
「コンビニの安いのでいいよ」
「・・・・・・え?」
すごく驚かれてしまい、力也の方がむしろ困惑した。確かにケーキは嬉しいが、そこまで奮発する物でもないだろう。
「コンビニのじゃ足りないだろ」
「高いし」
「・・・・・・あ、そうだ!こんな時こそ、コ●トコだよな!」
いいことを思いついたというように、気分を上げ直したらしい冬真は、前回作った会員カードを取り出した。
「チキンも有名だって言ってたたし、ケーキも多分あるし、ツリーとか飾りもきっと売ってるよな」
ほくほくと嬉しそうな顔で、クリスマスの買い物の計画を立てる様子に何をそんなに浮かれているのかはわからなくても力也も釣られ笑った。
「あ、でもツリーは却下だから」
それでも一応釘は刺しておこうと思った力也のその言葉で、冬真はまた不満そうな声をあげた。
そうして計画を立てた物の、テレビで見たクリスマスの混みように力也があっさりと諦めた。当日でなくともクリスマス期間は入るまでに1時間はかかると聞き、その日夜力也のマンションにきた瞬間真剣な表情で“話がある”と切り出しだされ、冬真は息が止まったと言っていた。
「いや、あの時は焦った」
「むしろ俺の方がびっくりしたんだけど。いきなり無表情になったし」
「だって、あれは絶対なんか悪い内容だと思うだろ」
「だからってあんな焦るか?」
「丁度、ダブっちゃって」
丁度当て馬になった挙げ句に冷たく切り捨てられるという、悲しい役をやった後だった所為でそうなったらしいがそれにしてもあり得ないだろうと思う。
冬真がそんな状態になった所為で、力也はショックを受けるほどコ●トコに行きたかったのかと思い、さらに混乱し、結局真意が伝わるまで無駄な時間をとってしまった。
「いま思い出すとコントだけどな」
「あんなに話しが通じないなんて、以心伝心にはまだ遠いな。力也が言いたいことは察せられるようになりたいのに」
「冬真Domの理想は高いよな。Subには求めないのに」
「当たり前だろ。ご主人様なんだから」
その当たり前がよくわからないのだが、それを言っても仕方がないので、とりあえず頑張れと無責任な応援を送りつつ力也は棚に並ぶクリスマス商品を見た。
今日二人がコ●トコの代わりにきたのは商品の数が多く、食品も扱っている大型のド●キホーテだ。入るまでに1時間以上もかかるコ●トコを断念し、代わりに安く色々な物が手に入るだろう場所として選んだ結果だ。
むろん、同じような考えの人は多く、店自体が人気な事もあり、混んではいる。それでものんびりと見て回る余裕はある。
「力也、サンタコスする?」
「しない」
クリスマス用品が並ぶ棚を見ていると、急にワクワクとした様子で冬真がサンタクロースのコスプレ衣装を取り出し聞いてきた。
あっさりと返せば、不思議そうな顔へ変わる。
「なんで」
「なんでってする必要ないだろ。子供がいるわけでもないし」
プレゼントを子供に配るというならば着たほうがいいだろうが、そんな予定はない。
「力也が着たのを見たかったのに」
「似合わないし」
「似合うかもしれないだろ」
「それが似合うのはじいさんだけだと思う」
どう考えても似合うとは思えずそう返せば、冬真もそれはわかっていたのか頷いた。ならばなぜ押し通そうとしたのかがわからない。
「施設に行くとき着てくとかどうだ? 子供もいるだろ?」
「いるけど、施設の中でもイベントやるから被るだろ」
クリスマスには職員がお菓子や玩具を配ると言っていたので、その時に職員がサンタクロースの服を着ていたら、サンタクロースの大量発生が起りそうだ。
「そっか、じゃあお菓子買ってくばるだけか」
そもそも、冬真は施設の中に入れないのに、なにをそんなに楽しみにしていたのだろうか。
「母さん! 母さんのプレゼントは?」
「冬真に任せる」
「お前と同じで甘いの好きだよな。ケーキとかでいいか」
「いいと思う」
とはいえ、せっかくならおしゃれな物がいいだろう。ここではおしゃれな物はなさそうなので他で買うことに決め、とりあえず施設で配る分のお菓子を探す。
「何人分ぐらい必要なんだ?」
「え・・・・・・っと」
人数を思い出しながら告げれば、冬真は手頃な大袋の菓子を籠に入れた。
「一応言っとくけど、菓子寄付しても施設にいるSubには会えないからな」
「わかってるって、プレゼントしたいだけだから大丈夫」
直接会えるわけでもないのに、それでも構わないらしく、笑い返された。そうして菓子を籠に入れると次は食品が並ぶコーナーに向かおうとしたところ、途中で目にとまったらしいカーテンを冬真がくぐった。
「今日は食べ物買いに来たんだろ?」
R18と書かれたのれんを、くぐるのを躊躇っていると、冬真はのれんの下からニヤッと笑みを浮かべ手招きした。
「力也、Come」【こい】
逆らいがたいコマンドで呼ばれ、力也はため息をつき、のれんをくぐった。
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