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第九十話【生まれてきた意味】中 最終話
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星空を見上げれば、貴方が傍にいるように感じる。常の廊下で貴方の気配を感じながら、星空を見上げていた。
星空について力仁に話した事もある。船乗りのようだと言われたが、あいにく星空について詳しくはない。それを正直に話せば、おかしそうに笑われた。
笑いながら教えてくれたあの短い時間、実は星空を見上げているように見せかけて力仁を見ていたと白状すれば貴方は怒ってくれただろうか。
せっかく説明しているのだから真面目に聞けと怒っただろうか、それとも困ったように笑うだけだろうか。
どのような反応だとしても、見てみたいと思う。堪えるような、苦しさをごまかす笑みではなく感情そのままの表情を見たい。
役に立ちたい、苦痛を取り除きたい、近づきたい、触れたい、こんな気持ちをなんというかは口に出すことはできない。
ただ、慕っている。心の底から、全てをかけてお慕いしている。
今頃どうしているだろうか? 食事はしっかり召し上がっているだろうか? 夜は眠れているだろうか? 無茶をしていないだろうか?
戦場にいるのは自分なのに、心配で仕方がない。再び会えるその時、貴方が喜んでくれるように、最善を尽くそうと思う。
戦が始まれば、戦況は悪くなかった。敵は多かったが、それでもこちらも負けていなかった。戦場までの距離が短かったこちらよりも、移動が長かった敵は疲れているのか次第に押され気味になっていった。
これならば勝利できるだろうと思い、冬也も必死に少しでも多く手柄を立てた。
結果、敵が途中で退散したことでこちらは勝利した。
手柄もそれなりにたてられ、これならばきっと喜んでもらえるだろう。そう思いながら、帰還している途中、早馬がこちらに向かってきた。
そして城が襲撃を受けたことを知った。
「貸せ!」
咄嗟に、冬也は敵から奪い取った馬の手綱を掴み、乗った。心臓が狂いそうなほどの大きな音を立てるのを聞きながら、城に向かい馬を走らせた。
予想通り、古井戸を発見した敵達は抜け道を見つけ力仁達を追いかけてきていた。次々と通路に入ってくる敵に、多勢に無勢であっても力仁はひるまなかった。
狭い通路では一気に来ることはない、確実に倒して少しでも時間を稼ぐ。
その思いと共に、懸命に刀を振るう。それでも敵は次々に攻めてくる。
(減らない)
警護もできるように鍛えてはいたが、実戦経験が多いわけではなく、通路の中少ない酸素で息が苦しくなる。そんな状況で食欲不振と睡眠不足も影響し、どんどん体力はなくなっていく。
既に力仁は限界が近いことを悟っていた。わざと暴れ、土でできた通路に衝撃を与える。ガラガラと通路から石が落ちてくる中、力仁は笑みを浮かべた。
「このやろう!」
「早く殺せ!」
自分に向けられる鋭い殺気を感じながら、力仁は刀を構えた。
孝真様、申し訳ございません。私は嘘をつきました。かならず後を追うと言ったが、追えそうにありません。
教育係として信頼してくださっていたのに、嘘をついてしまったこと、許してほしいとは申しません。
ただ、無事にお逃げください。ご自分の命をなによりも大事になさってください。
例え今は奪われようとも、必ず殿が帰ってきて取り返してくださいます。だからけして悲観はなさらずに、お心を強くお持ちください。
きっと貴方は素晴らしい城主となられます。多くの者から尊敬され、慕われるそんな素晴らしい方に。
かけがえのない貴方の命の重要性、これが私が最後にお教えできることです。
殿、これでようございますか? 私は殿の命令に従えましたでしょうか? 教育係として孝真様に仕え、命をかけて守ると言う命令、誇らしくございました。
私が言うのもなんですが、孝真様は素晴らしい跡継ぎになられるでしょう。
殿の望みに添えたのであれば私は本望でございます。今まで私をおそばにおいていただきありがとうございます。
殿に仕えることができ、私は幸せでございました。どうか、殿歩む道がこれからも幸多くありますように。
冬也、貴方はきっと怒るでしょうね。手柄を立てて戻ってくると言っていたのに、私が待っていないなど、理解できないでしょうね。
貴方が私の役に立つために手柄を立てると言ってくれたこと、とても嬉しく思っています。立場による距離はありましたが、貴方と過ごした日々は私にとって楽しい物でした。
まるで宝物のように私に触れた貴方の手の暖かさはけして忘れません。
貴方は気づかれていないと思っているでしょうが、ふとした時に私は貴方の視線を感じていました。見て見ぬふりをしていましたが、私以外に仕えるならば気をつけてください。
あのように熱心にみつめてしまえば不敬と見なされます。と、そんなことを今更言っても仕方ありませんね。
もっと早く教えれば良かった。変化に怯えないで、もっと貴方に多くを教えれば良かった。
貴方のこれからに役に立つ知識を、技術を教えていれば良かった。私以外の者に仕えることになろうとも重宝されるように。
ふがいない主人ですみません。手柄を立て戻ってくる貴方を迎えられずすみません。
寂しいと口にすることもできない意気地なしですみません。心配ばかりかけてしまいすみません。
貴方を下男にしたこと、貴方と出会えたこと、それは私にとっての幸運でした。
最後に心残りは、貴方とともに外へ出る事ができなかったことでしょう。
きっと楽しかったでしょうに・・・・・・。
冬也、どうか達者で・・・・・・。
いままでよく仕えてくれ、本当にありがとうございました。
星空について力仁に話した事もある。船乗りのようだと言われたが、あいにく星空について詳しくはない。それを正直に話せば、おかしそうに笑われた。
笑いながら教えてくれたあの短い時間、実は星空を見上げているように見せかけて力仁を見ていたと白状すれば貴方は怒ってくれただろうか。
せっかく説明しているのだから真面目に聞けと怒っただろうか、それとも困ったように笑うだけだろうか。
どのような反応だとしても、見てみたいと思う。堪えるような、苦しさをごまかす笑みではなく感情そのままの表情を見たい。
役に立ちたい、苦痛を取り除きたい、近づきたい、触れたい、こんな気持ちをなんというかは口に出すことはできない。
ただ、慕っている。心の底から、全てをかけてお慕いしている。
今頃どうしているだろうか? 食事はしっかり召し上がっているだろうか? 夜は眠れているだろうか? 無茶をしていないだろうか?
戦場にいるのは自分なのに、心配で仕方がない。再び会えるその時、貴方が喜んでくれるように、最善を尽くそうと思う。
戦が始まれば、戦況は悪くなかった。敵は多かったが、それでもこちらも負けていなかった。戦場までの距離が短かったこちらよりも、移動が長かった敵は疲れているのか次第に押され気味になっていった。
これならば勝利できるだろうと思い、冬也も必死に少しでも多く手柄を立てた。
結果、敵が途中で退散したことでこちらは勝利した。
手柄もそれなりにたてられ、これならばきっと喜んでもらえるだろう。そう思いながら、帰還している途中、早馬がこちらに向かってきた。
そして城が襲撃を受けたことを知った。
「貸せ!」
咄嗟に、冬也は敵から奪い取った馬の手綱を掴み、乗った。心臓が狂いそうなほどの大きな音を立てるのを聞きながら、城に向かい馬を走らせた。
予想通り、古井戸を発見した敵達は抜け道を見つけ力仁達を追いかけてきていた。次々と通路に入ってくる敵に、多勢に無勢であっても力仁はひるまなかった。
狭い通路では一気に来ることはない、確実に倒して少しでも時間を稼ぐ。
その思いと共に、懸命に刀を振るう。それでも敵は次々に攻めてくる。
(減らない)
警護もできるように鍛えてはいたが、実戦経験が多いわけではなく、通路の中少ない酸素で息が苦しくなる。そんな状況で食欲不振と睡眠不足も影響し、どんどん体力はなくなっていく。
既に力仁は限界が近いことを悟っていた。わざと暴れ、土でできた通路に衝撃を与える。ガラガラと通路から石が落ちてくる中、力仁は笑みを浮かべた。
「このやろう!」
「早く殺せ!」
自分に向けられる鋭い殺気を感じながら、力仁は刀を構えた。
孝真様、申し訳ございません。私は嘘をつきました。かならず後を追うと言ったが、追えそうにありません。
教育係として信頼してくださっていたのに、嘘をついてしまったこと、許してほしいとは申しません。
ただ、無事にお逃げください。ご自分の命をなによりも大事になさってください。
例え今は奪われようとも、必ず殿が帰ってきて取り返してくださいます。だからけして悲観はなさらずに、お心を強くお持ちください。
きっと貴方は素晴らしい城主となられます。多くの者から尊敬され、慕われるそんな素晴らしい方に。
かけがえのない貴方の命の重要性、これが私が最後にお教えできることです。
殿、これでようございますか? 私は殿の命令に従えましたでしょうか? 教育係として孝真様に仕え、命をかけて守ると言う命令、誇らしくございました。
私が言うのもなんですが、孝真様は素晴らしい跡継ぎになられるでしょう。
殿の望みに添えたのであれば私は本望でございます。今まで私をおそばにおいていただきありがとうございます。
殿に仕えることができ、私は幸せでございました。どうか、殿歩む道がこれからも幸多くありますように。
冬也、貴方はきっと怒るでしょうね。手柄を立てて戻ってくると言っていたのに、私が待っていないなど、理解できないでしょうね。
貴方が私の役に立つために手柄を立てると言ってくれたこと、とても嬉しく思っています。立場による距離はありましたが、貴方と過ごした日々は私にとって楽しい物でした。
まるで宝物のように私に触れた貴方の手の暖かさはけして忘れません。
貴方は気づかれていないと思っているでしょうが、ふとした時に私は貴方の視線を感じていました。見て見ぬふりをしていましたが、私以外に仕えるならば気をつけてください。
あのように熱心にみつめてしまえば不敬と見なされます。と、そんなことを今更言っても仕方ありませんね。
もっと早く教えれば良かった。変化に怯えないで、もっと貴方に多くを教えれば良かった。
貴方のこれからに役に立つ知識を、技術を教えていれば良かった。私以外の者に仕えることになろうとも重宝されるように。
ふがいない主人ですみません。手柄を立て戻ってくる貴方を迎えられずすみません。
寂しいと口にすることもできない意気地なしですみません。心配ばかりかけてしまいすみません。
貴方を下男にしたこと、貴方と出会えたこと、それは私にとっての幸運でした。
最後に心残りは、貴方とともに外へ出る事ができなかったことでしょう。
きっと楽しかったでしょうに・・・・・・。
冬也、どうか達者で・・・・・・。
いままでよく仕えてくれ、本当にありがとうございました。
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