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第八十四話【パーティと催し】中

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 1時間の休憩を置き、リビングダイニングに行くとそこには広いパーティ会場になっていた。おいしそうな料理といくつかの椅子が用意されたその会場には、露出が多めの服を着たSubと冬真と同じSランクの服装をしたDom達が集まっていた。

「おー、こう見ると壮観だな」
「力也、リボン」
「これがなんでも来いリボンか」
「待って、何そのネーミング」

 入り口に置かれていた青いリボンを手に取り、初めて聞く呼び方に笑いながら左の肩に近い腕へ巻き付ける。
 クレイム式で着た衣装を着込んだ力也はこの後の催し物のこともあるからか、やけに気合いを入れている。
 結局どの賞品に目をつけたのかは教えられてはいないが、頑張ると意気込んでいたからにはおそらく上位賞品だろう。

(旅行券かな)

 ご主人様と行く沖縄旅行だの北海道旅行だのがあったから、おそらくそれが目当てなのだろう。予想通り緊張とは無縁の力也の様子に敵わないなと苦笑する。

 乾杯の音頭がとられると、参加者達はそれぞれ動き出した。料理が気になるものの、ご主人様である冬真から離れない方がいいのだろうと思い、力也は冬真の隣で会場を見渡した。
 キョロキョロと見渡せば設置された椅子にSubが座り、その横でDom同士が交流を楽しんでいる。
 よく見れば、椅子に座っているのは点在するSubに座っているのは赤いリボンを巻いたSubばかりで、Domは座っていない。Sub用なのかと思い探せば少し奥の方のテーブルではDomも一緒に座っていた。だが、明らかに上の立場だとわかる二人に、特別席なのだと納得がいく。

(椅子は多分Sub用)

 更に見渡せば、Domと離れ一人で行動したり、Sub同士で行動したりしている人達もいる。先ほどプールでしゃべっていた女性は、Subの「女性同士バイキングコーナーで楽しそうにしている。見た感じ椅子とテーブルも確保しているらしい。

(挨拶終われば自由かな)

 それでも、初めてのパーティなのだから、パートナーと一緒に参加者たちに挨拶をしなくてはならないのだと、力也は思っていた。

「力也、料理食べに行かなくていいのか?」
「え?」
「うまそうなの沢山あるだろ?」
「いや、挨拶が終わるまでちゃんと待てできるから」

 そんなに食いしん坊だと思われていたのかと、ショックを受けながら反論すると冬真は不思議そうな顔をした。

「ああ、それ気にしてたのか。挨拶は確かにあるけど、Subが傍にいなきゃいけないってことないし、時間かかるし食べてきていいよ」
「え?」
「俺が一人じゃ、挨拶できないみたいになるし、力也は力也で声かけてきたDomあしらってくれればいいから」

 無論、一人で行動するのは心配なSubは赤いリボンをつけ、常にご主人様の隣にいるが、それ以外のSubたちは自由に行動している。特に青いリボンをつけたSubは時に仲の良いSubに話しかけ、バイキングに誘ったり、他のDomの相手をするご主人様の隣にいるSubと会話したりしている。
 中には先ほどのプールではしゃぎすぎたのか眠たそうにしている人もいるのだから、完全に野放し状態だ。

「俺が心配なんじゃなきゃ、バイキング行ってこいよ。沢山食べれなくなっちゃうよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて! 行ってくる!」

 会場に来た時から、料理に目を奪われていた力也は、冬真の許可がでると嬉しそうにバイキングコーナーへ向かっていった。

(ほら、もう緊張とか忘れてる)

 会場に入った時は、Sランクの多さに一瞬身を固くした力也だったが、冬真が予想したよりも早くこの状況に慣れていた。賞品目当てで気合いを入れているのはわかるが、それでこんなにも早く慣れてしまう物なのかと若干驚いた。

「冬真」
「傑さん、結衣」

 声をかけられ振り返れば、そこに結衣を連れた神月がいた。力也とはまた違う、レースの斜めのキャミソールのような服と、黒いショートパンツをはいた結衣はどこかお人形のような雰囲気と天使のような雰囲気を醸し出していた。

「力也は料理食べに行ったか」
「はい、俺についててくれようとしたみたいだけど、大丈夫だからって言ったらすぐに」
「ハハハッ、よかったのか行かせて」
「俺だってちゃんと一人で挨拶できるんで大丈夫です」

 いくら緊張するとは言え、詰め寄られるわけでも、マウントをとられる訳でもないのだから一人で挨拶回りをすることはできる。Sランクの先輩とは言え、気をつかいすぎる必要がないというのも大きい。
 ここにくることになったときはもっと気を引き締めなくてはいけないのだと思ったが、神月から聞いた話では気を遣うのはもちろんだが、明確に上下を示す必要はないということだった。無論、中にはそんなこと言っていられないレベルまで達している人はいるが、そこ以外は必要以上にかしこまる必要はないらしい。

(まぁ、Subの前だし)

 いくら一番の新入りで年下といえども、自分のご主人様が軽く扱われていい気がするはずがない。王華学校の上下関係の厳しさをわかっていても、それはまた別の話だ。特に冬真のようにSランクのSubを持つ場合、Subのランクも考慮されてしまう。
 主人を軽く扱う事はSubを軽く扱う事につながる。

(結局これも力也の影響ってのがなんとも言えないけど)

 せめて挨拶だけは一人でこなせなければ、力也の隣で胸を張れない。冬真は、手にしていたシャンパンを一気に飲み干すと気合いを入れ直した。

「結衣もご主人様捜索にでるんですよね」
「ああ、特技も考えたんだがあいにく、際立っているものがないからな」
「すみません、何もできなくて・・・・・・」
「俺はそこも可愛いと思っている」

 取り柄がないことに落ち込む、結衣を神月は撫でると軽くキスをした。途端に赤く染まる顔を満足そうに眺めもう一度頭を撫でる。

「お前のいいところがこの場で披露するのに向かないだけで、俺は十分満足している」

 優しい愛情を込めたグレアで結衣を包み込み、神月はその肩を自分によりかからせた。

「力也はどれに出るんだ?」
「特技披露には出す予定です。できたら他にも、体を使うのに出したいんですが・・・・・・」
「体を使うとなると性的な内容もあるからな」

 性的な物とは言え、大人数で辱めることや責め立てるような物、Subの人権を否定するようなものはもちろんない。
 しかし、性的な物を好むDomや性的な物を得意とするSubに合わせ、それなりの物がある。例えば、ローションの床を這って進むとか、ローターを使用しての鬼ごっこなどがそれだ。

「はい、力也は賞品目当てで頑張ろうとするかもしれませんけど、俺が嫌なんで」
「しかし、あの体を魅せるようなのが欲しくはあるよな」
「そうですね。なんかありますかね」
「展示はどうだ?」

 話を聞いて神月が提案したのは、少し性的な意味も入った内容の物だった。

「お前の腕も必要になるが、傍についていられるし、見所も十分ある」
「展示ですか、確かにあれなら俺が傍についてられるから怖くはないかもしれません」
「触るにはお前の許可がいるし、途中で中止することも隠すこともできる」

 昔のトラウマから、輪姦される事や見世物にされることが苦手な力也でも、冬真の考えが理解できれば大丈夫な事もわかっている。
 更に言えばせっかく力也がやる気になっているのだから、冬真も協力したい。これならDomの腕も十分試される。
 どうしようかと思いながらチラリと力也を見れば、力也は食べ物が沢山乗った皿を片手に二人のDomの相手をしていた。
 見ているとDomから、触っていいか聞かれたのか、腹筋を触らせていた。
 その表情には、嫌悪感や恐れなどの様子は見えずあっさりとした物だった。

「展示にだします」
「そうか、道具はこちらで色々な物を用意してある。慣れない物で不安かも知れないが、危険はないはずだ」
「わかりました」

 こうして力也の参加する三つが決まった頃、力也は料理を食べながら近づいてきたDomの相手をしていた。

「すごい筋肉だね。どうやって鍛えているのかな?」
「トレーナーにプログラム組んで貰って、ジムで鍛えたりしてます」

 青色リボンをつけ、一人でいる所為か、先ほどから何人ものDomに話しかけられる。新しく入ったSランクのSubと言う珍しさで集まってきているが、そこは王華学校のDom、力也が食事に夢中になっているのがわかると長時間邪魔するようなことはしない。

「そうなんだね。トレーニングは毎日しているのかな?」
「ほとんど毎日ですね。サボると撮影の時に動きが悪くなったりするんで」
「偉いね」

 腹筋を撫でられ、わざと力を入れれば歓声を上げすぐに手を離してくれた。それだけで満足したのか、お礼と邪魔したことに対する謝罪をするとDom達は去って行った。
 他には話しかけてこなさそうなので、沢山とった料理を食べながら、冬真を見れば、冬真は神月達から離れ他のDomと話していた。

(なんか見てるけど)

 相手のDomが力也の事をチラチラ見ているのを感じつつ、おいしい料理を次々に口に運ぶ。噂話でもされているのだろう、冬真もこちらを見ている。

(気になるな)

 悪口など言われてはいないだろうとは思っていても、気にはなる。なんとなくペコリと頭を下げれば、二人からにこりと優しい笑みを向けられた。
 腹の探りあいだの、マウントの取り合いだと言っていたが、どうやら普通に進んでいるらしい。
 よかったと思いつつ、力也はおいしい料理を時間まで堪能することにした。
 しかし、この後に控えている催しに影響が出ないように気をつけながら食べた力也だったが、冬真がもう一つ出場を決めた事を聞き、食べ過ぎたかもしれないと後で後悔することになる。

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