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第八十四話【パーティと催し】前

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 一通り仲間達とはしゃいだ力也はプールサイドのデッキチェアに座り、飲み物を片手に仲間たちとの会話を楽しんでいた。
 SランクDomのパートナーとして先輩の仲間達は、新入りである力也も優しく迎えてくれ色々な話も聞かせてくれた。

「ここに来る前は冬真緊張してたんですよ。最年少になるからって」
「あははっ、20代じゃね。緊張するよね」
「俺ももっと年上の方が多いのかなって思ってました」

 Domの参加者達は見ていないが、ここにいるSub達は30代から50代ぐらいに見える。
Sランクに愛され甘やかされているからか、多くが実際よりも若い雰囲気の無邪気さを持ち合わせていた。

「今日ここに来てるのは、いま活動しているメンバーだからね。もっと上の人達は数人しか来ていないよ」
「そうなんですね」

 力也の質問に答えてくれたのはライブ会場でも会ったことのあるCollar店の店長のパートナーの女性だ。

「そうそう、君のご主人様が緊張してたように、上の方々の前だと私たちのご主人様も緊張しちゃうからね。世代交代してもちゃんと責任感を持って活動できるようにって、参加を控えてくれているんだよ」
「来ない人は記録映像だけとか、リモート参加とかしてるみたいだよ」

 ここに来なくとも、今はリモートなどを使い十分に得られるので、参加していない人々はそうして情報を得たり、Subたちの様子をみたり楽しんでいる。

「あ、じゃああそこにあるカメラもその為ですか?」

 力也が指さしたのはレンズがプールに向けられているわかりやすい監視カメラだ。プールに向けて二つ、休憩所に一つと合計三台のカメラがSub達の様子を映している。

「うん、その為もあるし、今会議してるご主人様が見るためでもあるんだって」
「会議中なのに?」
「そう、会議中でもすぐ目に入らないと逆に集中力が激減するらしいよ」
「えー」

 勉強中にテレビをつけているような物のような気がして、力也は理解できないかのように首を傾げる。会議中に遊んでいるSubたちの姿をみるなど、集中しているようには見えない。

「私たちもよくわからないけど、この方が効率いいんだって」

 真面目に会議をしているのに、楽しそうに遊んでいる姿をみるのも不満が溜まりそうだが、それはいいらしい。

「こっちばっかり見てたら怒られるらしいけど」
「理不尽」

 なら会議中は映さなければいいのに、もしかして耐久力を試されているのだろうか?

(Sub好きしかいないのに、耐えられるのかな?)

 そう考えながら、カメラをみればその先の冬真の視線を感じるような気がする。

「これって声も届いてるんですか?」
「どうだろう? 聞こえてるのかな?」

 慣れすぎていてそこまでは気にしていなかったのだろう、わからないと言った様子の答えを聞いて力也はカメラの方に体を向けた。

「試してみましょうか」
「え?」

 何をするのかと思っている彼女の前で、力也は両手を上にあげカメラに向かって大きく手を振った。

「冬真―! 見てる?」

 両手を振り、カメラの向こうのご主人様に向かい大声を上げる力也の様子に、一瞬驚くも彼女は吹き出した。

「いいね、面白い。英美里! 見てる!?」

 力也の隣で立ち上がり同じように手を振り始めた彼女の様子を見て他の、Subたちもカメラに向かい口々にパートナーの名前を呼び手を振り始めた。

 無論これに一番驚いたのは会議中のDom達だ。いきなり自分の名前が聞こえたかと思うと、モニターでは多くのSub達がこちらに向かい手を振っている。
 一瞬なにか問題でも起きたのかと、慌ただしくなりモニターに全員の視線が集中するもよく見ればSub達は楽しそうにはしゃいだ様子で笑みを浮かべている。

「さっそくやらかしたな」
「なにこれ、こんなの初めてなんだけど」
「やばい可愛い」

 今までにない展開に、すぐに誰の発案かわかったらしい神月が冬真の方を見た。神月だけでなく他のDom達もわかっている、何せ最初に呼ばれたのが冬真の名だ。

「まったく、結衣まで参加してるじゃないか」
「うちのもあんなにはしゃいで・・・・・・」

 やっているうちに楽しくなってきたのだろう、色々な事を叫び始めるSubたちにDom達は苦笑を浮かべた。

「プール楽しいよ!」
「真面目に会議してる!?」
「がんばれー!」

 その中には会議の応援なども含まれているが、その声が今会議を完全に中断していることに彼らは気づいていないのだろうか。

「おい、誰か連絡しろ、しっかり聞こえてるからいい子にしてろって」
「冬真、お前がしろよ。最初にやらかしたのお前のSubだろ」
「こっち、マイクあるからこれ使え」
「はい」

 まったくと苦笑を浮かべながら、言われ冬真は監視カメラにつながるマイクを手に取った。楽しそうな様子に浮かぶ笑みや、周りから聞こえてくる笑い声に流されないようにしつつ、マイクのスイッチを入れる。

「こらっ力也! このいたずらっこ!」

 怒っている口調ながらも、まったく迫力がないその声に、モニターの向こうでは歓声が上がった。

「冬真だ! 冬真、聞こえてる!? 見えてる!?」
「ちゃんと聞こえてるし見えてるから、迎えに行くまでいいこで待ってろ。お前の可愛い悪戯で会議中断しちゃっただろ!」
「ごめんなさーい!」
「他の皆さんも、誘惑やめてください。我慢できなくなるんで」

 冬真のその言葉に、他のSubからも口々に笑い声混じりの謝罪が聞こえた。誰もがこれで本気で怒られる事はないと確信しているのだろう、謝りながらもはしゃいだ声が上がる。

「ということで、会議はまだかかるから。いたずらしないでいい子で待っているように」

 最期に冬真からマイクを受け取り、神月がそう締めくくりマイクを切った。モニターのスピーカーからは“はーい”と素直な返事が返ってきた。
 その返事に笑みが浮かぶのを抑えつつ、一時中断された会議は再開された。

 カメラの向こうにいるご主人様達に悪戯をして怒られてから、しばらくしてプールにいたSub達は聞こえてきた声と足音に階段のほうを見た。

「お待たせ」

 そんな声と共に、現れたDom達が口々に自分のパートナーの名前を呼び、駆け寄るSubを褒め、近づいてこないSubには自ら近づいた。

「力也、お待たせ」
「お疲れ様」

 何故わかったのか起きっぱなしにしていた、力也のバスローブを手に声をかけた冬真は近づいてきた力也の頭をタオルでゴシゴシと拭く。

「お前な、さっきのなんだよ」
「ちょっと試してみたくなって、ちゃんと聞こえた?」
「聞こえた、聞こえた。おかげで一気に和んだだろ」

 お仕置きというように強めにガシガシと頭を拭かれ、どこか楽しそうに力也は“ごめん”と笑った。

「随分楽しそうだったな」
「ああ、楽しかった!」
「そうか、よかったな」

 バスローブを着せると、もう一度撫でると近づいてきた神月へ顔を向けた。

「この後、1時間休憩時間を置いてからパーティになる。Domはそのままでもいいが、Subは着替えてきてくれ」
「はい」

 そう言われ、力也を抱きしめるようにしながら二人も部屋に戻った。

「シャワー浴びてくる」
「あ、力也洗浄しとけよ」
「え?」

 普通に体を洗ってこようとした力也はその言葉に、不思議そうな顔を浮かべた。

「一人じゃ洗えない? 仕方ないな」

 聞き返しただけなのに、ニコニコと笑みを浮かべ服を脱ぎだした冬真に、冷たい目線を向ける。

「そんなこと言ってないだろ」
「遠慮するなよ。時間もあるし綺麗にしてやるって」
「遠慮してねぇし! 絶対余計時間かかるだろ!」

 いつまでもここにいると、無理やりついてきそうだと思い、力也はまだ服を脱ごうとしている冬真を置いてバスルームに入った。
 水着を脱ぎ捨て、シャワーを浴びると、いつも通りシャワーヘッドをとり手早く中を綺麗にしていく。
 催しについてはプールサイドで少し聞いたが、かなりきわどい内容もあるらしい。どれに参加させるかはDomが決めると言うことだが、冬真がどれを選んでいるかはまだ聞いていない。

(綺麗にしとけってことは、エロいの出るのかな)

 人前でと言うのはあまり得意ではないが、冬真がいけると判断したのなら、きっと大丈夫なのだろう。力也が耐えきれないと思うほどの事を、いくら紹介の意味があったとしてもやるわけがない。
 とはいえ気になることは気になる。

「冬真―、俺がでるのって決まった?」
「決まってるけど、聞く?」
「聞く」

 中を綺麗にすると出てきた力也は、冬真に手招きされその場にお座りした。ドライヤーと構えた冬真に、髪の毛を任せつつ話を聞く。

「ご主人様捜索と特技披露、本当は格闘とか出したかったんだけど今回参加人数が少ないんだよな」
「一覧とかねぇの?」
「あーある。これな」

 この後のスケジュールを出された力也は、それを確認した。紙には催しの内容こそ書かれていないが、賞品が書かれていた。

「賞品でるんだ」
「ああ、頑張ったSubにご褒美だって」
「参加賞まであるのに、これSubだけ?」
「そりゃな」

 参加賞は各地の名産品や、商品券だったが、上に行くにつれ高額な賞品になっていく。その中の一つが力也の目にとまった。

「・・・・・・えっと、これ本気?」
「本気、本気。なんか欲しいのあった?」
「そりゃ・・・・・・。冬真、俺頑張る」
「頑張れ」

 急にやる気になった力也に、こうなると強そうだと思いながら冬真は笑い返した。

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