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第八十三話【Sランクパーティ】中

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 別荘につくとほとんどの参加者が既に到着していた。参加者の多くが早くからつき、Sランク同士の交流を楽しんでいたらしい。
 二人がつくと、神月と結衣が出迎えてくれた。

「遅かったな」
「すみません、途中で事故の渋滞に巻き込まれて」
「そうか、まぁ間に合ってよかった」

 いつもの大きめのゆったりした服ではなく、レースの多い、ブラウスを着た結衣はほんのり化粧を施された美しくも柔らかい笑顔を力也に向けた。

「いらっしゃいませ」
「気合いはいってんな、結衣。マコさん達は中か?」
「それが、私以外の仲間は急遽お留守番になりました」
「留守番?」
「はい、ツガイである明美さんの妊娠が判明したのでそのサポートです」

 明美は現在一児の母である神月のツガイだ。本来は今日のパーティの手伝いをする予定だったが、出発前に調子がおかしいと言うことで調べたところ妊娠が判明した。
 その為、育児と家事、妊娠生活のサポートとして、ツガイの夫だけでなく、マコやもう一人のSubも残った。
 因みにこれが多頭飼いの利点だ。なにかあった時は、主人であるDomだけでなく他のSubがサポートできる。病気や妊娠、育児、介護など体力も気力も使うときは特に多頭飼いの方が楽と答えるSubも多い。無論王華学校のDom達は進んで手伝うが、それでも気にするSubもいるし、何よりケアの時間の確保が難しい、その為立場が同じ仲間がいた方がいいとされている。

「本人は二人で大丈夫だと言っていたが、前回つわりがひどかったから、どうしても気になってしまってな」
「気持ちはわかります」

それでも手伝いに三人も残すのは、やり過ぎな気がするが、男の身では大変さはわからず、とにかく人数だけでも確保した神月の考えは間違っていないだろう。
これでもしつわりで一日中寝ていたとしても、育児も家事も問題はない。

「なので、今日は傑様についてきたのは私だけなんです」
「そうなんだ。傑さんおめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ありがとう。そういうわけで今回は慣れている奴が少ないんだ。その代わりにSランクじゃないDomとそのSubも手伝いとして引っ張ってきた。問題はないとは思うがそれだけ頭に入れといてくれ」
「わかりました」

 元々自分の身の回りの事はいいとして、Subの身の回りの事はしたがるDomばかりだ。多少の人員の変化では問題はないが、今回増えたのはSランクに慣れていない、SubとAランクのDomだ。相手がAランクだからと言って、偉ぶるSランクではないが、態度によってはマウントをとることもある。
 Domだけならいいが、慣れていないSubの手前もある手加減してほしいと神月は全員に伝えていた。

「この後は、Domは報告会を兼ねた会議、Subは自由時間になっている。冬真はSランクの服装で参加して欲しい」
「わかりました」
「Sランクの服装ってそんなのあるんだ」
「服装って言っても、制服とかじゃなくてどっちかってと作業着みたいのなんだけどな」

 後で見せてもらえるのだろうと力也は楽しみにしながら、力也は神月に向き直った。

「自由時間ってなにしてればいいんですか?」
「自由時間は自由時間だが、一応Sub同士の交流時間となっている。プールも開放しているし、庭や休憩所で遊ぶのも自由だ。ただ、交流時間だからできれば、多くのSubと交流して欲しい」
「わかりました。結衣も連れて行っていいですか?」
「ああ、実は俺から頼もうと思ってたんだ。ありがとう、頼むな」

 人見知りしがちな結衣ではなかなか、打ち解けるのも難しいだろう。今後もこういうことがあるから甘やかす訳にはいかないが、パーティ前に精神的に疲れてしまうと催しに参加するどころではなくなってしまう。
 催しでは間違いなく、結衣の精神に負担をかけるのはわかっているので、自由時間に疲れさせたくない。
 だから、力也と一緒にいることで自然に他のSubと交流できるならそれが一番だと神月は思っていた。
 おそらく力也ならば、気づけば多くのSubに囲まれているだろうし、その傍にいれば結衣も集まってくる他のSubと仲良くなることもできるだろう。きっかけが力也であっても、気が合う仲間が見つかればそれでいい。

「結衣、二人を部屋に案内しろ。支度が終わったら二人はリビングへ来てくれ。」
「かしこまりました。ではお二人ともこちらです」

 二人が結衣に案内された部屋は、前回力也と冬真が泊まった部屋と同じ部屋だった。

「力也プール入る?」
「せっかくだし入りたいけど、水着が・・・・・・」
「あるから大丈夫」
「・・・・・・なんで」

 鞄の中から力也の水着を出した冬真に、半眼になり突っ込む。プールがあるのは知っていたが、パーティだけで泳げるなどと思っていなかった。

「ご主人様としてお前の準備だけは万端しときたくて」
「自分の準備を万端にしろよ」

 朝出かける前に、自分の荷物をみてウロウロしていたのは何だったのか。最初からプールにはいれるかもしれないと言ってくれれば、自分で用意したのに。

「ここで着替えていいのかな」
「ここ以外にないと思うし、いいだろ」
「じゃあ、これでいいか」

 そう言うと力也は服を脱ぎ、水着に着替えるとバスローブを羽織った。
思わず悪戯をしたくなる姿をチラチラとみつつ冬真も、荷物の中から持って着ていたSランクの服を出し着替えていると、着替え終わった力也が逆に見ていた。

「それがSランクの服? 作業着じゃないじゃん」
「見た目はそうでも、かっこつける為じゃないんだよ」

 そういう冬真の服装は黒いシャツに、ワインレッドのネクタイ、ズボンも黒。すらりとした体格に似合ってはいるが、どちらかと言うと夜の町にいる黒服だなと力也は思った。
さらにそれだけでなく、手袋と、家の中だと言うのにサングラスを取り出し胸のポケットに入れた。

「なんか、職質受けそう」
「一言目それかよ」

 かっこいいと言ってくれるのを期待していたのに、全く違う言葉が返ってきた冬真は苦笑しながらサングラスをかけた。

「怪しい?」
「怪しい、怪しい」

 ケタケタと笑う力也に、顔を近づけ口を塞ぐようにキスをする。すぐに応じてきたその頭を手袋を取り撫で、口を離す。

「かっこよくねぇ?」
「かっこいいかな」
「疑問形かよ」

 苦笑をしながら、先ほどまで履いていた靴を脱ぎ、同じく持って来ていた靴に履き替える。

「くつも?」
「そうそう、これで一応完成」

 どうだ? と言うように見せられ一歩近寄れば、違和感に気づいた。サングラスをかけたままの冬真の顔を見て、下へ視線を落としていく。

「厚底靴?」
「そう、これも決まり」
「大きく見せるためとか?」
「いや、靴先を汚さないため」

全体的に底が厚めに作られた黒い靴は汚れ一つなくピカピカに磨かれていた。
高ランク感を出すための、演出なのかなと思っている力也は知らない。これが、全てSubに接す時のことを考えての物だとは。
 靴底が厚くなっているのは、地面から離すことでSubが触れた時に汚れがつかないように。手袋は大事なSubに触る手を守るため、サングラスはグレアが出やすい目を隠すことで影響が及ばないように。
 黒い服装は威圧感を与えるためではなく、先ほど力也が思った通り黒子や黒服などの裏方の意味を込めてだ。
 つまりは、作業着とはSub達の為にDomに制裁を与える時用の服という意味だ。

「そう言えば作業着だっけ」
「そうそう」

 真の目的は知らずとも、そう確認する力也に苦笑で返せば、じっと見つめ返され周りを一周された。

「うん、似合ってる」
「ありがとう」

 職質だの、怪しいだの言われた後では微妙な気分だが、褒められているようなので冬真はそう返した。
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