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第八十話【【グランピング】】前

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 DomはSubに知らない世界を教えてくれると聞く、知らないことを教え上へと引っ張り上げたり新しい快楽を教えたりする。ただそのほとんどが多くの場合Domの趣味に沿っているのが一般的で、Subの趣味を考えた物ではない。
 しかし、冬真が教えるのは新しい快楽もあるが、力也が好むような楽しい事も多い。そしてなによりも多く教えてくれるのは幸せだ。ちょっとした内容でも冬真は幸せを感じそれを教えてくれる。それが力也にとっても大事な事だ。

「で、水源がなかったら、朝露を集める方法もあるんだけど、集めるにはある程度歩かなきゃなんないんだ。こう、足にタオルとか巻いて草の中をウロウロすると濡れるから、それを集めて」
「それって結局喉渇かないか?」
「そうなんだよ。意外とビニール張っておくだけでも水がたまったりするけど。水は貴重だし」
「そうか・・・・・・でも、施設には水道通ってんだよ」

 丁度三日ぐらい休みが取れた二人はいま、借りてきたレンタカーで菊川に貰ったグランピング施設に向かっているところだ。
 昨夜、いまだグランピングがどんな物かはっきりとわかっていない力也は、自前のキャンプ道具いや、サバイバルセットを用意して今朝冬真に突っ込みを入れられていた。

「ロウソクは?」
「そもそも電気通ってるから」
「キャンプなのに?」
「多分お前が思ってるほど、山の中じゃないから」

 写真もホームページもみせて説明したのに、まだ理解できていないらしい様子に、現地についたらどんな反応をするのだろうかと楽しみになる。

「じゃあテレビは?」
「スマホなら見れるかもしれないけど、見たいのか?」
「冬真の出る奴今日だよな?」
「あれ、俺が馬鹿を披露するだけだからみなくていい」
「え?」

 体を張ったクイズ番組に出させてもらったものの、何度か間違えた覚えのある冬真の突っ込みに力也は意味がわからず聞き返した。

「ってか、一応録画してあるから後でみればいいし」
「冬真と一緒に見ようかなって」
「力也・・・・・・」
「収録の後なんか変なテンションだったから、逆におもしろそうだし」
「力也!」

 可愛いことを言っているなと喜んだ冬真だが、続く言葉に打ち落とされた。絶対何かハプニングを期待して言っている。

「そんなにクイズ難しかった?」
「そう言われると、余計見られたくなくなる」

 後々冷静に考えればわかった問題もあった為、間違えたことが恥ずかしくてしかたがない。見た力也に馬鹿だと思われそうな気もする。

「どうしても嫌って言うなら見るのやめるけど」
「いい、いっそ笑い飛ばして」
「わかった」

 見たかったのだろう、即座に楽しみだと言うような声を上げた力也に、そこは元気よく返事を返すとこじゃないと冬真は苦笑した。

「よし、ここのスーパーに寄るか」

 キャンプ場も近づき、近くにあったスーパーとホームセンターが隣接する施設に冬真は車を止めた。

「え・・・・・・っと買う物は、お肉と野菜と、米と・・・・・・。あ、でもその前にホームセンターだよな」
「力也、一応言っとくけどバーベキューセット借りる手はずついてるから」
「え?」
「食材もついてくるって言ってたから」
「え!?」

 なにも用意していないのだからと、何かを買いに行こうとしていた力也を止めれば、驚いた顔をされた。

「薪は?」
「いらない」
「バーベキューコンロ」
「だからいらないんだって」

 申し込むのを隣で聞いていたのに何故か通じていないことに頭を抱えつつ、今回買うのは足りなさそうな食材だけだと、力也の頭を撫でた。
 キャンプ経験など、ほとんどないはずの冬真の方が慣れているようにみえるのは完全に気のせいだろう。

 食材を買い、山の中に入っていき、しばらくするとキャンプ場が見えてきた。広い広場に、いくつかの丸いテントが並び、その中心に管理棟と、宿泊用のログハウスがある。
 駐車場に車を止め、管理棟に行き声をかければ菊川がパートナーと一緒に出てきた。

「いらっしゃいませ、鍵山くん、力也さん」
「こんにちは、お世話になります」
「二日間よろしくお願いします」

 挨拶を交わすと、菊川はキャンプ場の説明を始めた。必要な道具は管理棟にあること、トイレは管理棟とキャンプ場の隅にもあること、さらには管理棟には大きめの風呂もついているらしい。

「他に気になるところがあったらいつでも連絡ください」
「ありがとう」
「これ、サービスの花火」
「ありがとう、えっと」
「水樹だよ、力也さん」

 花火を差し出してきた菊川のパートナーの名前を聞いていなかったことを思い出し、戸惑う力也に水樹はにっこりとゆっくりとした柔らかい笑みを浮かべた。

「水樹、ありがとう。冬真と一緒に楽しませてもらうな」
「うん」

 笑みを浮かべ合う、Subたちの様子に、癒やされつつ、冬真は菊川に少し話があると声をかけた。

「わかりました。水樹、力也さんを案内してもらえますか?」
「うん、いいけど」
「冬真?」
「ちょっと菊川先輩と話があるから、先行っててもらえるか?」
「わかった」

 力也はそう言うと、キャンプ場とテントを案内してくれるらしい、水樹に続き管理棟をでていった。

 「ここが炊事棟、隣はバーベキュー所。川では魚も捕れるからそれを釣って食べる人もいるし、ちょっと離れるけど、近くに釣りができる施設もあります」
「冬真がバーベキューの予約をしたって言ってたんだけど」
「食材は管理棟で渡すので、取りに来てください」
「わかった」

 そう説明すると、今度は丸いドーム型のテントのある方へ歩き出した。見渡せるように見えながら、ちゃんとプライベートが確保されているのか、テントとテントの間には大きめの木が植えられている。

「管理棟には大型の冷凍庫と冷蔵庫もあるので、預けたい物とかあるなら預かります。テントにも冷蔵庫はついてます」
「冷蔵庫? テントに?」
「狭いですけど、トイレとお風呂もありますよ」
「テントに!?」
「ここはダイナミクス向けになってるので」

カルチャーショックに驚いていた力也だが、その言葉に少し納得した。確かにダイナミクス向けなら共同では不都合だらけだ。時間帯をずらすとしても、絶対守らない人もでてくるだろう。

「今の時期はいりませんが、冷暖房もついてます」
「ほんとなんにもいらないそうだな」
「ウォーターサーバーもあります」
「冬真が止めるわけだ」

 出かける前に止められた通り、何も持ってくる必要はなかったらしい、余計な物をもってこなくてよかったと思う。きっと使うと思って持ってきたガスバーナーでさえ、今は使うかどうかもわからない。

「今日って他にもお客さんいるのか?」
「はい、テントを二組、コテージを一組のお客さんがご利用されてます。使ってるテントが少ないので、一つずつ開けてあります。なので、気にせずに楽しんでください」
「ああ、冬真もそのつもりみたいだしな」

 楽しむが何を示しているのか理解し、苦笑を返す。人に見られるのは嫌がる冬真も、これなら楽しもうとするだろう。とはいえ、完全に隔離されているわけではないから、人目はあるが。

「ここがお二人のテントです」
「へぇ、ここか」

 ドーム型のテントとその傍にちいさな木でできた建物がある場所へ案内され、力也はとりあえずその場に荷物を置いた。

「さっき通ってきた道を下ってくと、アスレチックがあります。あと、これがテントの鍵です。貴重品は金庫を使ってください」
「至れり尽くせりだな。ありがとう」
「力也さんたちなら何とでもなると思いますけど、今日は王華学校以外のペアも来ているので気をつけてください」
「わかった。気をつけるよ」

 どこかぼんやりした雰囲気ながら詳しく説明してくれたことに感謝しつつ、頷けば水樹がスマホを取り出した。

「なんかあった時用に連絡先を」
「あ、ああ」

 同じくスマホを取り出し、連絡先の交換を済ますと、水樹は笑みを浮かべた。

「じゃあ、ごゆっくり」
「ああ、ありがとう」

 水樹を見送り、さてどうしようかと考える。テントの中が気になるが、冬真と二人でみたいという気持ちもある。アスレチックも気になるし、早く話を終えてこっちに来て欲しい。

(まだ話してるかな)

 テントの敷地内から、顔をだし冬真を探す。なんなら迎えに行こうかなと思いながら、キョロキョロとしているとたまたま外へ出ていたらしい二人の宿泊客と目が合う。
 なんとなくぺこりとお辞儀をすれば、同じように返された。どうやらグループで来ているらしく、Domの男は力也をみるとテントの方へ向かいなにかを話していた。

(冬真まだか)

 暇そうにしていると、先ほどテントに声をかけていたDomに続いてもう一人Domが出てきて、力也に手を振った。

(王華学校関係かな?)

 【サブチャン】で顔を知られている為、なんとなく手を振り返せば今度は手招きされた。思わず首を傾げるが、男達は相変わらず手招きしていた。

(どうしよう)

 王華学校の関係者というなら行ってもいいと思うが、相手の笑い方になんとなく気が進まない。どうしようかと考えていると、聞き慣れた声が聞こえた。

「力也!」
「冬真」

 走ってきた冬真に、男達から視線を移し、力也も走り寄る。

「話終わった?」
「終わったよ、お待たせ」

 そう言いながら、冬真は力也の見ていた方へ視線を送った。ご主人様が来たことで場が悪くなったと思ったのか、男達はSubを連れすぐにテントへ戻ってしまっていた。

「知り合い?」
「ううん? 全然知らない」
「学校の卒業生かなと思ったんだけど」
「違うと思う」

 チラリと見ただけだが、なんとなく王華学校の空気が感じられず、冬真はその言葉を否定すると早く行こうと言うように力也の背を押した。

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