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第七十三話【新婚!?】前
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クレイム式を終えて数日、当たり前のように冬真が力也の部屋に住み始めた。当初は事故物件だと嫌がっていたのに、いつの間にか不動産会社の承諾も得ていたのは驚くしかない。
三人で暮らすのはまだ先だが、それまで家賃と生活費を抑えたいという冬真に力也が折れたのだ。結局、入らなそうな荷物はトランクルームに預け、必要そうな物だけもってきたらしい。
「家電とかは売るか後輩にあげるかしようかなってとこ」
「学校に持ってけばなんとかしてくれそうだよね」
「って言ってもDomの使ってた物よりSubの使ってた物の方がもらい手あるけどな。高く売れるし」
「・・・・・・それは普通に変態っぽい」
使用済みと言っていいのかわからない家電に、そんな付加価値がつくとは思いたくない。
Subの使用済みと知って喜ぶと聞き一気に変態臭くなった想像に、力也は軽く引いた。
「違うって、そう言うんじゃなくて・・・・・・いや、全くないとも言い切れないけど。ほら、Subの品物買ったらSubが助かるだろ?そういう話で」
「あー、チャリティー募金みたいな感じなのか」
「そうそう、実際オリジナル作品とか食べ物持ってくるSubいるけど、大人気だし」
「もう何でもありだな」
王華学校にとってのSubがもうなんだかわからない。写真だけでなくオリジナル作品や食べ物も人気と言うことは、いい商売先になってそうだなと思う。
まあ、本人達がそれでいいならいいが、いままで厄介なDomたちに悩まされてきたのがアホらしくなってくる。
今度から苦労していそうなSubは全員王華学校に突っ込ませればいいんじゃないかと思う。
「王華学校ってSubにだけ都合いいよな」
「だよな!」
「褒めてないんだけど」
ニコニコと同意してきた冬真に、半眼で返せば、意味がわかってなさそうに首を傾げられた。おかしいと感じてないどころか、それがいいところだと思っているようだ。
「いいじゃん。Subが喜んでくれて、笑顔になって、ありがとうってお礼言って自信つけて帰ってくんだから」
「うん、もうそっちがそれでいいならいいけど」
この前のライブでもうまくいったし、それでいいならいっそ楽だろう。多くのSubは押しが弱く、自信がない、それが改善されるのならなによりだ。
「ってことは、俺の物とか家電売ったほうがいいのか」
「却下」
速攻で却下されてしまい、先ほどの話はそういう意味ではなかったらしいとわかる。
「金になるんだろ?」
無論、人から貰った物は売るつもりはないが、自分で用意した物は必要なければ売ってもいいと思うのだが。
「そりゃ、力也の名前だしたら絶対売れるけど、俺が嫌」
「引っ越し資金の足しになるのに」
「ダメ、お前の物は俺の物だから売らせない」
「それこういうときに使うのか」
冬真と話していると、知っている場合と違う場で使われることが多くある。意味は同じ筈なのに面白いなと思ってしまう。
「別にいいじゃん、たいしたもんじゃないし」
「変態だって言っただろ」
「言ったけど。ってあれもしかして俺が手渡しとかしたらもっとお金になるのか?」
「ダメ!」
叱りつける声と共に、膨れ上がるグレアにゾクゾクとした感覚を覚える。
「怒った」
そう呟けば、わざとだとわかったのだろう。冬真はため息を吐き、困ったような笑みを浮かべた。
「悪い子」
「ごめん?」
苦手な筈のその叱られ方も、冬真が口にするなら嫌ではなく、むしろ聞きたいとさえ思ってしまう。
「売るのは俺のだけ、お前のは売らせない。売るなら俺が買う」
「それなんの意味があるんだよ」
訳がわからないなと笑えば、軽く頭を叩かれた。こんなじゃれ合いも楽しくて仕方ない。
「で、今日は仕事だよな」
「ああ、久しぶりにダイブ」
「ダイブって、お前怖くねぇのかよ」
「なにが?」
むしろワクワクしている力也の様子に、一瞬マジかと思うも、冬真はため息をついた。普通怖くなってしまうと思ったのに、力也には関係ないらしい。
「気をつけろよ?」
「はーい」
返事はいつもいいなと苦笑しつつ、冬真は頭を撫でた。心配は心配だが、楽しそうな力也を止める気にはならない。
「そうだ。氷室さんが海外とか長期とかいってもいいか聞いてこいって」
「撮影?」
「そう、一応聞いとけって」
冬真は行動制限などの束縛は少ないが、前回怪我したこともあり、嫌がられるかもしれない。さすがに、自業自得だとわかっているので、ダメだと言われれば力也もしかたないと諦める。
「お前が行きたいって言うならいいけど・・・・・・」
「いいけど?」
「必ず無事で帰って来いよ」
「ありがとう!」
できることなら一緒について行きたいが、仕事ではそうはいかない。ダメだということは簡単だが、行きたいのに行けなくて我慢している力也を見たいわけでもない。
我慢する力也は可愛くて好きだけど、それとこれとは違う。そうわかっているから、許すしかない。
懐き感謝を表すように、体を寄せる力也の頭を冬真は撫でた。
「今日冬真は?」
「バラエティ番組に呼ばれてる」
「バラエティ?」
「なんか汚れるから覚悟しとけって言われたから汚れてくる」
「頑張って?」
なにに出演させられるのかはわからないが、大変そうだなと思いながら応援すれば、嬉しそうに体をこすりつけられた。
「ってことで、今日はお迎え行けない」
「なんだ。大丈夫ってか今日寄り道するし」
少し残念そうにしているなと思えば、それが理由だったらしい。終わりの時間は教えてあったけど、着替えをしていたら間に合わないと言うことだろう。
「寄り道?」
「結衣が前のお店に顔出したいっていうから付き添い」
「変な客の相手すんなよ?」
「なんか傑さんが手を回したみたいだから変な客はいないと思うけど」
結衣を紹介したことで、あの店の詳細を知った神月はすぐに手を回し、厄介な客が来ることのない働きやすい空間に整えたらしい。
「潰したとかじゃないんだな」
「色々あって、お金稼ぎたい人とか一人のDomに絞りたくない人とかいるからもいるし、なんだかんだ流れてくるSubもいるから残しといた方がいいって」
「あー、そういうことか。金入るって聞いて来るSubとかいるもんな」
Subが自分の性を売りにして稼ぐ店は、自分のSubを差し出してお金を得ようとするDomや、お金が必要なSubが来る場所として残しておいた方がいい場合もある。
「だから、時給高めに設定して誘い出すって。罠だよな」
「あるあるってか、王華学校がよくやる手だよ」
「揺るぎないよな」
力也は気づいてないが、質の悪い客をおびき出して対策する意味もある。多頭飼い派の神月からすれば厄介なDomなど、いくらいなくなろうが関係ない、その為に卒業生のDomも派遣されている。
「じゃあ、まあ大丈夫か」
「ちょっと寄るだけだから夜には帰ってくるし」
「ああ、一応Collarはしとけよ」
「はーい」
できることなら外したくないぐらい、当たり前のことなのに念押しされ笑い返した。
「欲求不満のDomなんか犯罪者予備軍だからな」
「はいはい、ちゃんと気をつけます」
「なんかあったら俺でもすぐに連絡しろよ」
「結衣がいるし無茶なんてしないって」
巻き込まれ体質の疑惑がある力也の言葉では、いまいち信用できないが。正直力也のランクならば、客になるようなDomは無視することができる。神月の手が回っているならば、厄介そうな客は最初から断れるだろう。なにより前回のお仕置きで大分懲りているはずだ。
「だと思うけど・・・・・・今日って孝仁さんに会う?」
「会わねぇけど?」
「なら一応」
念には念を入れて自分のグレアで力也の体を包み込む。これで、余計なDomが近寄ってくることもないだろう。
「これでよし」
「過保護。ってかこれって夜まで持つのか?」
「持たないけど、残り香ぐらいは残るし、抑止力にはなると思う」
Collarにタグ、更にグレアの残り香があれば、手を出してこようとする者はいないだろう、おそらく結衣もなにか対策をされるはずだ。
そんな話をしていると、力也のスマホが震えた。
「あ、氷室さんきたみたい。もう、行くな」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってきます」
出かけの挨拶と共に、当たり前のように自然に唇を奪われ、玄関まで見送られた。
「新婚さんみたいだな」
思わず口からでた言葉に、自分で赤面して首を振る。したのはクレイムであって結婚ではないのに、自分も随分浮かれていると思う。
当たり前のように家にいるし、いつも通りスキンシップも多い、指輪まであるのに浮かれるなという方が無理だろう。しかも、いま力也は冬真のグレアに包まれている状態だ。嬉しくて幸せでたまらない。こんなことを考えているとわかったら笑われてしまうだろうか。
どうしても緩む顔を必死で抑えつつ、マンションの近くに止まっていた氷室の車に乗り込んだ。
三人で暮らすのはまだ先だが、それまで家賃と生活費を抑えたいという冬真に力也が折れたのだ。結局、入らなそうな荷物はトランクルームに預け、必要そうな物だけもってきたらしい。
「家電とかは売るか後輩にあげるかしようかなってとこ」
「学校に持ってけばなんとかしてくれそうだよね」
「って言ってもDomの使ってた物よりSubの使ってた物の方がもらい手あるけどな。高く売れるし」
「・・・・・・それは普通に変態っぽい」
使用済みと言っていいのかわからない家電に、そんな付加価値がつくとは思いたくない。
Subの使用済みと知って喜ぶと聞き一気に変態臭くなった想像に、力也は軽く引いた。
「違うって、そう言うんじゃなくて・・・・・・いや、全くないとも言い切れないけど。ほら、Subの品物買ったらSubが助かるだろ?そういう話で」
「あー、チャリティー募金みたいな感じなのか」
「そうそう、実際オリジナル作品とか食べ物持ってくるSubいるけど、大人気だし」
「もう何でもありだな」
王華学校にとってのSubがもうなんだかわからない。写真だけでなくオリジナル作品や食べ物も人気と言うことは、いい商売先になってそうだなと思う。
まあ、本人達がそれでいいならいいが、いままで厄介なDomたちに悩まされてきたのがアホらしくなってくる。
今度から苦労していそうなSubは全員王華学校に突っ込ませればいいんじゃないかと思う。
「王華学校ってSubにだけ都合いいよな」
「だよな!」
「褒めてないんだけど」
ニコニコと同意してきた冬真に、半眼で返せば、意味がわかってなさそうに首を傾げられた。おかしいと感じてないどころか、それがいいところだと思っているようだ。
「いいじゃん。Subが喜んでくれて、笑顔になって、ありがとうってお礼言って自信つけて帰ってくんだから」
「うん、もうそっちがそれでいいならいいけど」
この前のライブでもうまくいったし、それでいいならいっそ楽だろう。多くのSubは押しが弱く、自信がない、それが改善されるのならなによりだ。
「ってことは、俺の物とか家電売ったほうがいいのか」
「却下」
速攻で却下されてしまい、先ほどの話はそういう意味ではなかったらしいとわかる。
「金になるんだろ?」
無論、人から貰った物は売るつもりはないが、自分で用意した物は必要なければ売ってもいいと思うのだが。
「そりゃ、力也の名前だしたら絶対売れるけど、俺が嫌」
「引っ越し資金の足しになるのに」
「ダメ、お前の物は俺の物だから売らせない」
「それこういうときに使うのか」
冬真と話していると、知っている場合と違う場で使われることが多くある。意味は同じ筈なのに面白いなと思ってしまう。
「別にいいじゃん、たいしたもんじゃないし」
「変態だって言っただろ」
「言ったけど。ってあれもしかして俺が手渡しとかしたらもっとお金になるのか?」
「ダメ!」
叱りつける声と共に、膨れ上がるグレアにゾクゾクとした感覚を覚える。
「怒った」
そう呟けば、わざとだとわかったのだろう。冬真はため息を吐き、困ったような笑みを浮かべた。
「悪い子」
「ごめん?」
苦手な筈のその叱られ方も、冬真が口にするなら嫌ではなく、むしろ聞きたいとさえ思ってしまう。
「売るのは俺のだけ、お前のは売らせない。売るなら俺が買う」
「それなんの意味があるんだよ」
訳がわからないなと笑えば、軽く頭を叩かれた。こんなじゃれ合いも楽しくて仕方ない。
「で、今日は仕事だよな」
「ああ、久しぶりにダイブ」
「ダイブって、お前怖くねぇのかよ」
「なにが?」
むしろワクワクしている力也の様子に、一瞬マジかと思うも、冬真はため息をついた。普通怖くなってしまうと思ったのに、力也には関係ないらしい。
「気をつけろよ?」
「はーい」
返事はいつもいいなと苦笑しつつ、冬真は頭を撫でた。心配は心配だが、楽しそうな力也を止める気にはならない。
「そうだ。氷室さんが海外とか長期とかいってもいいか聞いてこいって」
「撮影?」
「そう、一応聞いとけって」
冬真は行動制限などの束縛は少ないが、前回怪我したこともあり、嫌がられるかもしれない。さすがに、自業自得だとわかっているので、ダメだと言われれば力也もしかたないと諦める。
「お前が行きたいって言うならいいけど・・・・・・」
「いいけど?」
「必ず無事で帰って来いよ」
「ありがとう!」
できることなら一緒について行きたいが、仕事ではそうはいかない。ダメだということは簡単だが、行きたいのに行けなくて我慢している力也を見たいわけでもない。
我慢する力也は可愛くて好きだけど、それとこれとは違う。そうわかっているから、許すしかない。
懐き感謝を表すように、体を寄せる力也の頭を冬真は撫でた。
「今日冬真は?」
「バラエティ番組に呼ばれてる」
「バラエティ?」
「なんか汚れるから覚悟しとけって言われたから汚れてくる」
「頑張って?」
なにに出演させられるのかはわからないが、大変そうだなと思いながら応援すれば、嬉しそうに体をこすりつけられた。
「ってことで、今日はお迎え行けない」
「なんだ。大丈夫ってか今日寄り道するし」
少し残念そうにしているなと思えば、それが理由だったらしい。終わりの時間は教えてあったけど、着替えをしていたら間に合わないと言うことだろう。
「寄り道?」
「結衣が前のお店に顔出したいっていうから付き添い」
「変な客の相手すんなよ?」
「なんか傑さんが手を回したみたいだから変な客はいないと思うけど」
結衣を紹介したことで、あの店の詳細を知った神月はすぐに手を回し、厄介な客が来ることのない働きやすい空間に整えたらしい。
「潰したとかじゃないんだな」
「色々あって、お金稼ぎたい人とか一人のDomに絞りたくない人とかいるからもいるし、なんだかんだ流れてくるSubもいるから残しといた方がいいって」
「あー、そういうことか。金入るって聞いて来るSubとかいるもんな」
Subが自分の性を売りにして稼ぐ店は、自分のSubを差し出してお金を得ようとするDomや、お金が必要なSubが来る場所として残しておいた方がいい場合もある。
「だから、時給高めに設定して誘い出すって。罠だよな」
「あるあるってか、王華学校がよくやる手だよ」
「揺るぎないよな」
力也は気づいてないが、質の悪い客をおびき出して対策する意味もある。多頭飼い派の神月からすれば厄介なDomなど、いくらいなくなろうが関係ない、その為に卒業生のDomも派遣されている。
「じゃあ、まあ大丈夫か」
「ちょっと寄るだけだから夜には帰ってくるし」
「ああ、一応Collarはしとけよ」
「はーい」
できることなら外したくないぐらい、当たり前のことなのに念押しされ笑い返した。
「欲求不満のDomなんか犯罪者予備軍だからな」
「はいはい、ちゃんと気をつけます」
「なんかあったら俺でもすぐに連絡しろよ」
「結衣がいるし無茶なんてしないって」
巻き込まれ体質の疑惑がある力也の言葉では、いまいち信用できないが。正直力也のランクならば、客になるようなDomは無視することができる。神月の手が回っているならば、厄介そうな客は最初から断れるだろう。なにより前回のお仕置きで大分懲りているはずだ。
「だと思うけど・・・・・・今日って孝仁さんに会う?」
「会わねぇけど?」
「なら一応」
念には念を入れて自分のグレアで力也の体を包み込む。これで、余計なDomが近寄ってくることもないだろう。
「これでよし」
「過保護。ってかこれって夜まで持つのか?」
「持たないけど、残り香ぐらいは残るし、抑止力にはなると思う」
Collarにタグ、更にグレアの残り香があれば、手を出してこようとする者はいないだろう、おそらく結衣もなにか対策をされるはずだ。
そんな話をしていると、力也のスマホが震えた。
「あ、氷室さんきたみたい。もう、行くな」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってきます」
出かけの挨拶と共に、当たり前のように自然に唇を奪われ、玄関まで見送られた。
「新婚さんみたいだな」
思わず口からでた言葉に、自分で赤面して首を振る。したのはクレイムであって結婚ではないのに、自分も随分浮かれていると思う。
当たり前のように家にいるし、いつも通りスキンシップも多い、指輪まであるのに浮かれるなという方が無理だろう。しかも、いま力也は冬真のグレアに包まれている状態だ。嬉しくて幸せでたまらない。こんなことを考えているとわかったら笑われてしまうだろうか。
どうしても緩む顔を必死で抑えつつ、マンションの近くに止まっていた氷室の車に乗り込んだ。
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