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第六十六話【サブチャン】中

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 それはいきなりだった。神月に言われ、ライブのバックダンサーをした時に連絡先を交換した神月のSubの一人、マコから連絡があった。
 なんでも【サブチャン】とか言う物に出てほしいと言われた。その【サブチャン】がよくわからなくて聞き返したらSubがでるネット配信と教えて貰った。
 ネット配信と言えば、孝仁もファンサービスとして個人で撮っていると言っていた。動物と遊ぶとこや、趣味の話など撮ると言っていた。どういう仕組みかいまいちわからないが、マコや結衣の話し相手でもすればいいのだろう。
 そう思って力也は安請け合いをしてしまったのだ。

「おじゃまします」
「いらっしゃい、あがって」

 神月の家についた力也は、マコに言われて部屋の中に入った。結衣が出てこないので、どうしたのかと思い不思議そうにしているとマコが先に口を開いた。

「結衣なら傑とでかけてるよ」
「そうなんですか」
「なんか田植え体験ができるとこがあるからって」
「マコさんは行かなくてよかったんすか?」
「カエルいそうじゃん」
「カエル・・・・・・」

 予想外の言葉に思わず繰り返してしまったが、確かに田んぼではいる可能性が非常に高い。カエルや虫などが苦手な人にとっては行きたいとは思えない環境かもしれない。
 マコは結衣と同じように美人系ではある物の、どちらかといえばクールな雰囲気をしている。そんな彼のわかりやすい理由に笑い返しながら、案内されるままソファーに座った。

「そういえば、クレイム式するんだよね」
「はい、マコさんも来てくれるんですよね」
「うん、結衣と傑と僕で参列するよ」

 通常こういう場合DomとSubはセットで参加する。今回も、そのつもりで招待しているが、神月だけは多頭飼いの為、全員呼び更に子供までとなると七人にもなる。そのため、今回は神月と相談しSubの数を二人までにして貰っていた。

「よろしくお願いします」
「久しぶりだし楽しみにしてる」

 そう言って差し出した飲み物を貰うと、力也は幸せそうに頷いた。実のところ、マコと二人きりで会うのはこれが初めてなのだが、年が近いこともあり二人は打ち解けていた。

「マコさんもクレイム式したんすか?」
「したよ。もう色々大変だったんだから」
「大変?」
「そうそう、傑が水責めとかいうのしたがって」

 ここでまさかの内容に、力也は驚いた目線を向けた。

「それ冬真もやりたがってました」
「そっちもか」
「それでやったんですか?」
「やったよ。よくわかってなったからOK出しちゃった俺が悪いんだけど、真冬に氷水って信じられる!? びっくりしたよ!」

 真冬に氷水は間違いなく辛いと、力也は同意するように頷いた。くわしく聞いて見れば、氷水をかけられた後、外でマコへの誓いを叫んだらしい。想像だけでも絶対やめてほしい。

「まぁ、傑もあれで懲りたみたいだけど」
「王華学校ってちょっと極端すぎません?」
「今更」

 よく冬真は、力也に何をするかわからないとか心配だとか言うが、王華学校のノリを引きずっている点では似たような物だ。

「で、そっちはやるの?」
「やらないっすよ。無理っていっときました」
「まぁ、君の場合暴れたら大変そうだしね」
「そんな、本気で暴れないっすよ。素人相手だってわかってるし」

 実際その状況にならないとわからないが、多少暴れるかもしれないが、知り合いの相手に本気になれる訳がない。

「素人ってまさか、段持ち?」
「一応、少しだけ」

 確かに持ってはいるが、仕事で有利だと聞いて取っていた為、誇れるほど上の段ではない。
 試合も組み手の経験値として出たが、それ以降出ていないためたいした成績は納めてはいない。

「凄い」
「凄くないっすよ。仕事用に取っただけなんで、運転免許みたいなもんすよ」
「いや、凄いって」

 感心したようにマコは頷くと、時計を見てそろそろだと言い、パソコンを開いた。手際よく配信の準備を整える。

「俺は何すればいいんすか?」
「力也くんはお話相手してくれればいいから」
「わかりました」

 そうして流されるままに、ネット配信に力也は初めて参加することになった。

「はい、皆さんこんにちわ! 【Treasure】のマコです!」

 マコはそう自己紹介するとパソコンのカメラに向かい、ネット配信を始めた。
力也はその隣で不思議そうな表情を浮かべ、その視線はマコとパソコンの間を行ったり来たりしている。

「今日はスペシャルゲストとして、友人のりっくんにも来て貰いました!りっくん、りっくん?」
「はい?」
「挨拶、挨拶して」

 まるでステージにいたときのように話し出したマコを見ていた力也だが、肘で突かれ、言われるままにとりあえず先ほどのマコの台詞を真似ようと口を開いた。

「こんにちは、俺はスタントマンをしてるたきが・・・・・・」
「りっくん! 彼はりっくんだから! 皆さんよろしくお願いします!」

 本名を名乗ろうとした力也の挨拶にかぶせるように、マコはそう紹介した。そもそも、マコも本名は誠というが、このような活動をするときはとしてマコで通している。

「りっくんにはこの前のライブコンサートではバックダンサーとして、参加していただきとても助かりました」
「どういたしまして?」

 そうして話を続けていたが、力也がご主人様である冬真に話していないと聞き、引っかかりを覚えた。今日のことは事前に神月に説明し、力也に頼んだから冬真にも連絡が行っていると思い込んでいた。

「りっくん、一応聞くけどネット配信ってなにかわかってるよね?」

 その反応に、マコも不安になったのか、先ほどまでのよそ行きの話し方をやめ、少し年下の力也を心配そうに見た。

「わかってますよ。ファンサービスでしょ?」

 見たこともやったこともないけど、ちゃんとわかっている。そんなに人数がみている訳でもないけど、チェックしてくれる人はしてくれるから、気が向いたときにあげていると孝仁は言っていた。

「おしい!」
「違うんすか?」
「因みに、ファンって誰?」
「マコさんのですよね」

 他に誰がいるというのだろうか不思議に思いながら聞き返せば、マコはパソコンの場面に上書きするように先ほどから流れる言葉を指さした。

「ほらこれ、りっくんあてだよ」
「俺宛?」

 何が自分宛なのかわからず、指さされた言葉を見ようとするも、それはすぐに流れて言ってしまった。

「すんません、どれっすか?」
「だからこれとか。ほらこれも、これも、知り合いじゃない?」

 どうやらいくつも流れているらしく、もっと近くでよく見てみようと力也は腰を浮かせパソコンをのぞき込んだ。

「近い、近いってたくさん流れてます」
「だろうね」
「あ、これですかね。りっちゃん、りっちゃん、りっちゃんって連呼してる」
「ちょっ、それやばいやつだから離れて」

 それらしいのを見つけて尋ねたら、ソファーに戻るように促されてしまった。やばいってどういう意味だろうかと考えながら、ソファーに座る。

「りっくんがいまいちわかってないみたいだから説明するけど、これをみているのはDom達ばかりで主に王華学校の関係者が、Subを見に来ているんだ。だから、俺だけじゃなくりっくんも注目されてるんだよ」
「へぇ、そうなんすね」
「ってか、りっくん実は有名人?」
「え?」

 力也本人は気づいていないが、先ほどから流れるコメントの中には冬真の友人や、先日のステージで目をつけていた客、更に先日会った王華学校の教師も混ざっていた。
 いつものしっかりした様子とは違い、本気でよくわかっていない力也に心配しつつも声援を送っている。

「あ、そっか」

 不意に気づいたかのように、力也は軽く腰を浮かせるとマコと離れるように横へと移動した。

「ちょ、ちょっとりっくん?」
「俺じゃまっすよね」

 マコの配信なのに、ゲストである自分が注目されては面白くないだろうと画面に映らない場所まで移動しようとパソコンの画面が見えないソファーの端まで移動する。しかし、力也は気づいていないが、そこはまだカメラの範囲内だ。
 予想通り、画面には“映ってるww”、“いやまだ見えてるからww”といった突っ込みの嵐になる。

「邪魔じゃない、邪魔じゃないからもどって」

 手招きされれば、いつもの癖か力也は素直に戻ってきた。画面に“可愛い”“撫でたい”“いいこ”などのコメントが並ぶ中、マコは苦笑を浮かべる。
 
「実はりっくん天然?」
「たまに言われます」

 言われてはいるが、結局のところ自覚がなさそうな様子に、苦笑し先ほどの説明へと話を戻す。

「えーっと、それで、りっくんご主人様に言ってないみたいだけど大丈夫?」
「なにがっすか?」
「独占欲が強い人だと、怒るかもしれないから」

 そういわれ、やっと多くのDomが見ていると言う意味が理解できたが、冬真が怒るかどうかがわからない。独占欲はああ見えて強いのだと思うときもあるが、バックダンサーとして参加したときも怒らなかったから問題ないとも思える。
 でも、警戒しろとも言われているからダメなのかもしれない。

「うーん、いまからで間に合いますか?」
「どうだろうとりあえず不安なら言ってみたら?」

 不安ならと言われ、力也は一端出したスマホをポケットにしまった。不安かといわれると不安ではない。

「不安じゃないんでやめときます」
「いいんだ」

 あっさりと流した力也の言葉に、マコは驚いたように呟いた。あの控え室で見たときは頼りがいのあるように見えたのに、どうもマイペースが目立つ。
 とはいえ、王華学校のDomの傾向をしっているマコも、それほど怒られるとは思えず、心配しなくてもいいかと思い直す。

「あ、ってかもしかしたらこれ見てるかも。りっくんのご主人様見てる!? 見てたらコメントちょうだい!」
「え、いや、それは・・・・・・」

 確か今日のこの時間帯は撮影だと言っていたと、止めようした力也だが、直後静かになった画面に“みてる”と一言だけコメントが流れたのを見つけ固まった。
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