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第六十六話【サブチャン】前
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ダイナミクスを持つ生徒たちを専門とした王華学校の関係者のDomたちにはいくつかの、特別な娯楽がある。
Subのアイドル、Subを集めた写真集、Subのラジオ、その多くがパートナーのDomによる自慢なのだが、それを気にしなければ可愛いSubたちを堪能できる。
冬真も例に漏れず、現役生徒の時からSubのアイドルを見ていたし、ラジオも聞いていた。同室の彰や葵や晴樹、有利たちと一緒に見ていた。因みに寮は基本四人部屋なのだが、割り切れなかったために冬真たちは五人部屋だった。
二段ベッド二つに折りたたみのパイプベッドが入り、ちょっと狭かったし、なんだかんだ喧嘩もしたが楽しい思い出だと思っている。
頭から血を滴らせ、幾人もの仲間と共に廃屋に倒れていた冬真は、カットという声と共にガバッと起き上がった。ボロボロの服と血の気のない体、口のなからは変な味がする、ついでに顔と体からも変な感じがする。とはいえ、そもそものできあがりを鏡で確認していないのでわからない。
席に戻った冬真は大きく息を吐いた。少ししか演技をしてないのに、いつもより異様に疲れた。
「まだ残っていたか!死ね! 妹の敵!」
拳銃を向けられ、冬真は表情筋がうまく動かない顔をそちらへ向けた。
「もう死んでます」
「んだよ、ノリ悪いな」
「そりゃ、悪くもなりますよ」
普段よりもずっとテンションの低い冬真の様子に、将人は呆れたように隣の椅子へ座った。冬真と違い、将人はドロに汚れ顔色が悪く見せられているが、特殊メイクはされていない。
「ほら」
「ほらじゃないっす」
何気なく、その辺に置かれていた作り物の傷だらけの手を渡せば、凄く嫌そうな顔と共に、その辺に戻された。
「本当に苦手なんだな」
「今日は寝れる気がしません」
「力也の部屋に泊めて貰えばいんじゃないのか?」
「残念ながらアイツ、夜撮りあるみたいなんで」
「じゃあ無理だな」
撮影内容までは聞いてないが、一応空いているか聞いたところ撮影があると言われた。なにかあるのかと聞き返されてしまったが、そこはさすがに情けないのでごまかしておいた。
「ホラーの撮影ごとに泊まりに行ってたらかっこつかないじゃないっすか」
「今更だろ」
「それはそうなんすけど!」
例えどんなに力也に適わないとわかっていても、少しでもかっこつけたいのが男としての行持だ。ベタベタに甘やかしてもらいに行くのは楽しいが、毎度頼っていては必ず呆れられる。
年齢的にも上の力也相手だ、頼れないところをみせたい訳でもない。
「じゃあ、ホラーNGにしろよ」
「将人さんたちと違って仕事選べないんで!」
言わなくてもわかるだろう質問をされ、わかっているだろうというように答えた。選べるほど、オファーはこないし、そもそも冬真の立場でNGが許される訳がない。
許されるとしたら、体を張ったスタントに近いものだろうがそっちは力也の領域だ。
「まぁ力也は喜ぶんじゃないのか? こういう役」
「一緒に見ようと誘われたらそれはそれで・・・・・・」
「撮ったんだから怖くねぇだろ」
「これ以外のはどうすんですか!?」
今回撮っているのは、夏のホラー特集の作品の一つで、冬真が出ているもの以外にもいくつかの短編がある。
「そこは頑張れ」
「うっ・・・・・・これメインじゃないっすよね」
「違うな」
「ですよね」
いくつかある短編集だが、冬真の参加しているこれが、一番収録時間が長いというわけではないと思っていたが、予想通りだったらしい。
「この際他のもでたらよかったな」
「残念ながらそっちは埋まってたんで」
将人は孝仁とは違い天才型ではないし、努力をしたと自分で言っていたのに何故そんな簡単に出演できると思っているのか。顔を見ればわかる気がするが、そこで納得するとむなしくも感じる。とはいえ、将人の演技力とは比べものにならないこともわかっている。
「これって映るの何番目か知ってます?」
「最初だったとして、これだけ見て止める気か?」
「ですよね」
ホラー好きの力也を確実にがっかりさせることになる。もちろん、言えば止めてはくれるだろうが、その後をどうしたらいいのかわからない。
どちらかと言えばお化け役の方で映っている癖に、怖がっている姿を見た力也はどう思うのだろうか。力也だから本気で呆れることも、笑うこともないだろう、そう思うほどには恐怖感のほうが勝る。
「もういいっす」
「覚悟決めたか?」
「考えても仕方ないんで、気晴らしします」
そういうと、冬真はスマホを開いた。写真フォルダーを開き、埋め尽くさんばかりにある力也の写真を堪能し始める。
「うっわ、隠し撮りばっかじゃねぇか」
他の人が見ても問題ないだろう写真を見ていたのに、のぞき込んだ将人からはドン引いた声がでた。
「やだな、ちゃんと隠し撮りじゃないのもありますって」
「連写も十分やべぇよ」」
「将人さんだって2.5次元でしたっけ画像とか持ってるんでしょ?」
「お前のとは違い俺は純粋なんだ。一緒にすんな」
将人が持っているのは、公式か本人がSNSなどにあげていたものだけで、ファンなら持っているだろうものだけだ。そもそも、将人は冬真とは違い、仕事とプライベートは分ける派だ。
「ってかお前見てるとDomが自分勝手な変態に思えてくんだけど」
「え、今頃気づいたんすか」
「否定しろよ!」
肯定していい内容ではないのに、肯定され思わず突っ込めば周囲の視線が集まってしまった。何でもないと合図を送れば、周囲の視線は元に戻っていった。
「よかったっすね。撮影中じゃなくて」
「お前の所為だろ」
同じ事務所同士仲がいいと思われているようだが、将人はそれも否定したくなった。仲がいいか悪いかと言われれば、悪いわけではないが、仲良しとも言われたくない。
特にこの業界はちょっとしたことでもすぐに広がる。変に気を使われて呼ばれ、そのたびに漫才をやりたくない。
「ところでチェックってまだっすか」
「そろそろじゃねぇか」
そんなことを話しながら、声をかけられるのを待っていると、冬真のスマホにL●NEの受信マークが付いた。
「あれ?」
「どうした?」
「なんかダチからなんすけど、すぐにサブチャン開けって」
「サブチャン?」
「はい、Subが配信してるチャンネルで・・・・・・」
【サブチャン】は、色々なSubたちが自ら配信している内容で、先日力也が呼ばれた地下アイドルの子たちもよく配信しているものだ。
顔出ししている人も多く、Subの自主性に任せている事も多いので、会員制になっている。そう説明しながら、冬真はグループL●NEを開けば次々に友人たちからも今すぐに【サブチャン】開けとメッセージが入る。
一体何だと言うのか、そう思いつつ、開いてみれば今生配信している物がトップに表示されていた。
「これのことか?」
そう言いながら開いた冬真だが、映った映像に一瞬思考が停止する。
画面に映っているSubは先日のライブでアイドルとして参加していた神月のSubの一人、マコともう一人冬真にとってはもっとも予想外の人物が映っていた。
『りっくんにはこの前のライブではバックダンサーとして、参加していただきとても助かりました』
『どういたしまして?』
紹介していた神月のSubの一人にそう言われ、戸惑いの表情を浮かべているのは力也だった。この【サブチャン】は配信するSubが知り合いのSubをゲストとして参加させることがあるのは知っていたが、まさか力也が出るとは。
「え?なん、力也?」
同じ神月のSubとして結衣が出ることは想像していたが、まさか力也がゲストとして呼ばれるなど思っていなかった冬真は軽くパニックを起こしていた。
『あの時参加していたフリーのSubの子たちは、ちゃんといいDom捕まえられましたか?』
『はい、四人ともいい人に出会えたみたいで参加してよかったって言ってました』
冬真のおかしな反応に、何事かとのぞきこんだ将人まで、画面を見て止まってしまった。
「おい、これ力也だよな」
「力也です」
そう言いながら、冬真は頭を抱えた。無論、この事について冬真は何も聞いていない。
何でも連絡しろというほど、束縛をしていないが、これは言ってくれてもいいのではと思う。なにより、友人たちが教えてくれなければ見逃していた可能性が高い。
『ならよかったです。ところで、りっくん今日はご主人様には言ってきました?』
『なんで?』
キョトンとして聞き返す力也は、おそらくこれがなにかよくわかっていない。それが証拠に、先ほどから力也の視線が止まらずに動き回っている。
「おい、力也これがなんだかわかってないようにみえるんだけど」
「アイツ配信とか見なそうなんで」
力也が状況を理解できていないのは、この配信を見ている他のDomたちにも伝わったのだろう、画面には“わかってないwwかわいい”、“大丈夫かこれ”などのコメントが流れていく。
『りっくん、一応聞くけどネット配信ってなにかわかってるよね?』
その反応に、マコも不安になったのか、先ほどまでのよそ行きの話し方をやめ、少し年下の力也を心配そうに見た。
『わかってますよ。ファンサービスでしょ?』
『おしい!』
『違うんすか?』
『因みに、ファンって誰?』
『マコさんのですよね』
やはり力也は完全に勘違いしていた。確かにこの【サブチャン】はDomに対してのSubたちによるファンサービスのような物で、この配信のメインもマコだろうが、画面には初めて出る力也に向けたコメントが流れ続けている。
「おい。あの時バク転してた子だよね! かっこよかったよ! とか書かれてんじゃねぇか」
「こっちなんか名指しですよ。りっさん、俺も見てます! 今日もかっこいいです! ってこれ俺のダチだと思います」
この馴れ馴れしいコメントは一人しか思い浮かばない、相手の性格から【サブチャン】の常連なのは想像つくが、先ほどからそれらしいコメントが多い。
「全体的にテンションたけぇな」
「わりとこんなもんすよ」
「ってかこれ、事務所的に大丈夫なのか? 氷室さんは知ってんのか?」
「間違いなく知らないと思いますよ」
会員制なので、無論会員費もあり、投げ銭システムもある。またプレゼントを贈る方法もあるらしい。つまりは人によってはこれだけで、なかなの収入になるSubもいる。そう考えれば、事務所に所属する力也がでるのはかなり微妙な線になる。
「とりあえず氷室さんに連絡した方がいいっすかね?」
「そうだな、氷室さんともう一人孝仁にも連絡しておけ。この手のこと教えなかったらアイツ怒るぞ」
「わかりました」
そうやって冬真と将人が慌てているとは知らずに、力也はマコに配信画面を指さされ、不思議そうに至近距離でのぞき込んだ。
Subのアイドル、Subを集めた写真集、Subのラジオ、その多くがパートナーのDomによる自慢なのだが、それを気にしなければ可愛いSubたちを堪能できる。
冬真も例に漏れず、現役生徒の時からSubのアイドルを見ていたし、ラジオも聞いていた。同室の彰や葵や晴樹、有利たちと一緒に見ていた。因みに寮は基本四人部屋なのだが、割り切れなかったために冬真たちは五人部屋だった。
二段ベッド二つに折りたたみのパイプベッドが入り、ちょっと狭かったし、なんだかんだ喧嘩もしたが楽しい思い出だと思っている。
頭から血を滴らせ、幾人もの仲間と共に廃屋に倒れていた冬真は、カットという声と共にガバッと起き上がった。ボロボロの服と血の気のない体、口のなからは変な味がする、ついでに顔と体からも変な感じがする。とはいえ、そもそものできあがりを鏡で確認していないのでわからない。
席に戻った冬真は大きく息を吐いた。少ししか演技をしてないのに、いつもより異様に疲れた。
「まだ残っていたか!死ね! 妹の敵!」
拳銃を向けられ、冬真は表情筋がうまく動かない顔をそちらへ向けた。
「もう死んでます」
「んだよ、ノリ悪いな」
「そりゃ、悪くもなりますよ」
普段よりもずっとテンションの低い冬真の様子に、将人は呆れたように隣の椅子へ座った。冬真と違い、将人はドロに汚れ顔色が悪く見せられているが、特殊メイクはされていない。
「ほら」
「ほらじゃないっす」
何気なく、その辺に置かれていた作り物の傷だらけの手を渡せば、凄く嫌そうな顔と共に、その辺に戻された。
「本当に苦手なんだな」
「今日は寝れる気がしません」
「力也の部屋に泊めて貰えばいんじゃないのか?」
「残念ながらアイツ、夜撮りあるみたいなんで」
「じゃあ無理だな」
撮影内容までは聞いてないが、一応空いているか聞いたところ撮影があると言われた。なにかあるのかと聞き返されてしまったが、そこはさすがに情けないのでごまかしておいた。
「ホラーの撮影ごとに泊まりに行ってたらかっこつかないじゃないっすか」
「今更だろ」
「それはそうなんすけど!」
例えどんなに力也に適わないとわかっていても、少しでもかっこつけたいのが男としての行持だ。ベタベタに甘やかしてもらいに行くのは楽しいが、毎度頼っていては必ず呆れられる。
年齢的にも上の力也相手だ、頼れないところをみせたい訳でもない。
「じゃあ、ホラーNGにしろよ」
「将人さんたちと違って仕事選べないんで!」
言わなくてもわかるだろう質問をされ、わかっているだろうというように答えた。選べるほど、オファーはこないし、そもそも冬真の立場でNGが許される訳がない。
許されるとしたら、体を張ったスタントに近いものだろうがそっちは力也の領域だ。
「まぁ力也は喜ぶんじゃないのか? こういう役」
「一緒に見ようと誘われたらそれはそれで・・・・・・」
「撮ったんだから怖くねぇだろ」
「これ以外のはどうすんですか!?」
今回撮っているのは、夏のホラー特集の作品の一つで、冬真が出ているもの以外にもいくつかの短編がある。
「そこは頑張れ」
「うっ・・・・・・これメインじゃないっすよね」
「違うな」
「ですよね」
いくつかある短編集だが、冬真の参加しているこれが、一番収録時間が長いというわけではないと思っていたが、予想通りだったらしい。
「この際他のもでたらよかったな」
「残念ながらそっちは埋まってたんで」
将人は孝仁とは違い天才型ではないし、努力をしたと自分で言っていたのに何故そんな簡単に出演できると思っているのか。顔を見ればわかる気がするが、そこで納得するとむなしくも感じる。とはいえ、将人の演技力とは比べものにならないこともわかっている。
「これって映るの何番目か知ってます?」
「最初だったとして、これだけ見て止める気か?」
「ですよね」
ホラー好きの力也を確実にがっかりさせることになる。もちろん、言えば止めてはくれるだろうが、その後をどうしたらいいのかわからない。
どちらかと言えばお化け役の方で映っている癖に、怖がっている姿を見た力也はどう思うのだろうか。力也だから本気で呆れることも、笑うこともないだろう、そう思うほどには恐怖感のほうが勝る。
「もういいっす」
「覚悟決めたか?」
「考えても仕方ないんで、気晴らしします」
そういうと、冬真はスマホを開いた。写真フォルダーを開き、埋め尽くさんばかりにある力也の写真を堪能し始める。
「うっわ、隠し撮りばっかじゃねぇか」
他の人が見ても問題ないだろう写真を見ていたのに、のぞき込んだ将人からはドン引いた声がでた。
「やだな、ちゃんと隠し撮りじゃないのもありますって」
「連写も十分やべぇよ」」
「将人さんだって2.5次元でしたっけ画像とか持ってるんでしょ?」
「お前のとは違い俺は純粋なんだ。一緒にすんな」
将人が持っているのは、公式か本人がSNSなどにあげていたものだけで、ファンなら持っているだろうものだけだ。そもそも、将人は冬真とは違い、仕事とプライベートは分ける派だ。
「ってかお前見てるとDomが自分勝手な変態に思えてくんだけど」
「え、今頃気づいたんすか」
「否定しろよ!」
肯定していい内容ではないのに、肯定され思わず突っ込めば周囲の視線が集まってしまった。何でもないと合図を送れば、周囲の視線は元に戻っていった。
「よかったっすね。撮影中じゃなくて」
「お前の所為だろ」
同じ事務所同士仲がいいと思われているようだが、将人はそれも否定したくなった。仲がいいか悪いかと言われれば、悪いわけではないが、仲良しとも言われたくない。
特にこの業界はちょっとしたことでもすぐに広がる。変に気を使われて呼ばれ、そのたびに漫才をやりたくない。
「ところでチェックってまだっすか」
「そろそろじゃねぇか」
そんなことを話しながら、声をかけられるのを待っていると、冬真のスマホにL●NEの受信マークが付いた。
「あれ?」
「どうした?」
「なんかダチからなんすけど、すぐにサブチャン開けって」
「サブチャン?」
「はい、Subが配信してるチャンネルで・・・・・・」
【サブチャン】は、色々なSubたちが自ら配信している内容で、先日力也が呼ばれた地下アイドルの子たちもよく配信しているものだ。
顔出ししている人も多く、Subの自主性に任せている事も多いので、会員制になっている。そう説明しながら、冬真はグループL●NEを開けば次々に友人たちからも今すぐに【サブチャン】開けとメッセージが入る。
一体何だと言うのか、そう思いつつ、開いてみれば今生配信している物がトップに表示されていた。
「これのことか?」
そう言いながら開いた冬真だが、映った映像に一瞬思考が停止する。
画面に映っているSubは先日のライブでアイドルとして参加していた神月のSubの一人、マコともう一人冬真にとってはもっとも予想外の人物が映っていた。
『りっくんにはこの前のライブではバックダンサーとして、参加していただきとても助かりました』
『どういたしまして?』
紹介していた神月のSubの一人にそう言われ、戸惑いの表情を浮かべているのは力也だった。この【サブチャン】は配信するSubが知り合いのSubをゲストとして参加させることがあるのは知っていたが、まさか力也が出るとは。
「え?なん、力也?」
同じ神月のSubとして結衣が出ることは想像していたが、まさか力也がゲストとして呼ばれるなど思っていなかった冬真は軽くパニックを起こしていた。
『あの時参加していたフリーのSubの子たちは、ちゃんといいDom捕まえられましたか?』
『はい、四人ともいい人に出会えたみたいで参加してよかったって言ってました』
冬真のおかしな反応に、何事かとのぞきこんだ将人まで、画面を見て止まってしまった。
「おい、これ力也だよな」
「力也です」
そう言いながら、冬真は頭を抱えた。無論、この事について冬真は何も聞いていない。
何でも連絡しろというほど、束縛をしていないが、これは言ってくれてもいいのではと思う。なにより、友人たちが教えてくれなければ見逃していた可能性が高い。
『ならよかったです。ところで、りっくん今日はご主人様には言ってきました?』
『なんで?』
キョトンとして聞き返す力也は、おそらくこれがなにかよくわかっていない。それが証拠に、先ほどから力也の視線が止まらずに動き回っている。
「おい、力也これがなんだかわかってないようにみえるんだけど」
「アイツ配信とか見なそうなんで」
力也が状況を理解できていないのは、この配信を見ている他のDomたちにも伝わったのだろう、画面には“わかってないwwかわいい”、“大丈夫かこれ”などのコメントが流れていく。
『りっくん、一応聞くけどネット配信ってなにかわかってるよね?』
その反応に、マコも不安になったのか、先ほどまでのよそ行きの話し方をやめ、少し年下の力也を心配そうに見た。
『わかってますよ。ファンサービスでしょ?』
『おしい!』
『違うんすか?』
『因みに、ファンって誰?』
『マコさんのですよね』
やはり力也は完全に勘違いしていた。確かにこの【サブチャン】はDomに対してのSubたちによるファンサービスのような物で、この配信のメインもマコだろうが、画面には初めて出る力也に向けたコメントが流れ続けている。
「おい。あの時バク転してた子だよね! かっこよかったよ! とか書かれてんじゃねぇか」
「こっちなんか名指しですよ。りっさん、俺も見てます! 今日もかっこいいです! ってこれ俺のダチだと思います」
この馴れ馴れしいコメントは一人しか思い浮かばない、相手の性格から【サブチャン】の常連なのは想像つくが、先ほどからそれらしいコメントが多い。
「全体的にテンションたけぇな」
「わりとこんなもんすよ」
「ってかこれ、事務所的に大丈夫なのか? 氷室さんは知ってんのか?」
「間違いなく知らないと思いますよ」
会員制なので、無論会員費もあり、投げ銭システムもある。またプレゼントを贈る方法もあるらしい。つまりは人によってはこれだけで、なかなの収入になるSubもいる。そう考えれば、事務所に所属する力也がでるのはかなり微妙な線になる。
「とりあえず氷室さんに連絡した方がいいっすかね?」
「そうだな、氷室さんともう一人孝仁にも連絡しておけ。この手のこと教えなかったらアイツ怒るぞ」
「わかりました」
そうやって冬真と将人が慌てているとは知らずに、力也はマコに配信画面を指さされ、不思議そうに至近距離でのぞき込んだ。
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