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第五十七話【忘れられた記憶】後
しおりを挟むたまたま休みが重なっていたある日、予定を聞かれた力也がなにもないと答えると、冬真が学校にいこうと言ってきた。
どこの学校かと思えば、冬真が通っていた王華学校の話だった。
急にどうしたのかと思えばクレイムしたことを知らせに行くのだと説明してくれた。強制ではないが、先生たちから卒業時に“やましいことがなければ知らせるはずだ”と圧力をかけられたらしい。
強制されれば逆に連れてこない可能性のあるDomの性質をよく理解した上での言葉に流石としか言えない。
Domは必ず連れて来いと脅せば、連れてくるようなそんな素直な性格ではない。そもそもDomの中にはSubは自分以外と会う必要も話す必要もないと考えて、閉じ込めてしまうものもいるのだ。しかもそれを悪いことだとは思っていない。
そんなDom相手に連れて来いと言っておいてもなんの拘束力もない。故に自尊心をくすぐりつつ幸せな生活を教えるように誘導している。
もっとも、冬真のように学校で教えたことを理解しすぎている生徒は、それもわかっているのだが、わかったうえでこうしてみせにくる。
電車で行こうと言われ電車に乗り、目的地の駅で降りた時からなんとなく変な感じはしていた。毛が逆立つような感覚や所謂デジャヴと言われるような感覚は、次第に強くなり不思議な音や声も聞こえだした。
それらは冬真が話しかけてくるたびに消えていたのだが、川についたとき思い出した。
先輩たちに弄ばれ、その時に先輩の先輩である高校生たちからもちょっかいをかけられていた中学の頃、ここまで浴衣でローターまで入れられ連れてこられた。そして祭りなどそっちのけで河原で輪姦されたそれがこの場所だと。
正直、あれもPlayだと言われればそうなのだろうと思ってはいたが、既にそれは力也にとって受け入れられないNGになっていたし、あの時力也はサブドロップを経験していた。
その所為か記憶が飛んでいるし、はっきりとは思い出せない事ばかりだったが、とりあえず怒るだろうなと思いながら話した。
予想通りすごく怒ってくれたが、力也にとってはその辛い思い出より、いまの幸せのほうが勝っていた。だから全て塗り替えてもらおうと甘えておねだりした。
みごと、デートの約束もできたし嬉しい言葉ももらえたから既に力也はその頃の事を、どっかに投げ捨てていた。そこには冬真との楽しい記憶を入れるのだから、それは邪魔なだけだった。
「はい、到着! ここが王華学校です!」
塀に囲まれたいたって普通の学校を前に冬真は、案内係のようにそう言った。目隠しほどの高さの塀は高すぎることも厳重すぎることもないいたって普通の壁だ。
門も別に厳重というほどではなく、今の時間帯は近くにある用務員室から用務員さんが開けてくれることになっている。
「意外と普通だな」
「見た目から普通じゃない学校とか嫌だろ。ってか普通じゃないってどんなのだよ」
力也も、普通じゃない見た目と言ってもなにも思いつかなかったから、それもそうだなと納得した。別に刑務所でも秘密組織でもないのだから普通でいいのだ。
とはいえ、力也が気づいてないだけで、この塀にはいくつものカメラが仕込んであり怪しい人物が近づいたり、校内でSubに危険が及びそうな場合直ぐに、教師が駆け付けるシステムになっている。
ブザーで用務員さんを呼び、中に入れてもらうとまず見えたのは広めの運動場が一つ、そして渡り廊下で繋がった校舎が二つと渡り廊下の後ろにある体育館のような建物だった。
「こっちがDomの校舎で、向こうがSubの校舎で、奥にあるのが体育館とPlayルーム」
言われてみれば、片方の校舎からは明らかに多くのDomの気配が漂っていた。
「今って授業中?」
「多分そう」
「先生たちに連絡してる?」
「してねぇけど?」
そう確認すれば、それがどうしたのかというように返されてしまった。またも何も連絡もせずに自分の都合で来ているらしい。
ちょっと寄っただけというスタンスで来る人には良くあることだが、相手の都合も考えて動こうとする力也はよくわからない感覚だ。
縛られたい人と縛られるのが嫌な人の違いともいえるのかもしれない。
「忙しかったらどうすんだよ」
「大丈夫、もう少しで昼休みになると思うし」
そんな適当なことをいいながら、冬真は来客用の入り口に向い、歩いた。
来客用の入り口につくと、スリッパにはき替え力也を連れ、中に入る。少し進むと職員室と書かれた札が目に入る。そこに入るのかと思えば、冬真はそこを素通りし更に少し歩いた。
「どこいくんだ?」
「Subルーム」
「Subルーム?」
不思議そうにしている力也と一緒に、突き当りの部屋についた冬真は、そのドアをノックした。
「はーい!」
「すみません、卒業生の鍵山冬真です。職員室に行くのでSubを預けていきたいんですが」
そう言えば、パタパタという音が聞こえ、中から冬真と同じ歳ぐらいの女性が顔を覗かせた。女性の首にはCollarとタグが光り、それがなくとも醸し出す雰囲気から一目でSubだとわかる。
「力也、ここでちょっと待ってろ。職員室Domだらけだから」
預けられると聞いて驚いた様子になった力也へ、そう説明した冬真はそれでもまだ戸惑ったままの背中を押して中に入れた。
「なんかあったら、連絡しろ。後で先生連れてくるから」
そう言われてしまえば、勝手がわからない力也はそれ以上尋ねることはできずに、大人しく頷いた。
Subルームの中に入れば、中には数人のSubがいた。年齢もバラバラで、男性だけでなく女性もいる。Subたちは人をダメにするクッションとソファーの上でくつろいだり、本を読んだり、ゲームをしたりとみんな思い思いに過ごしているようだった。
部屋の中には小さな冷蔵庫と水回りもあり、長時間いても問題なく、軽食ぐらいなら食べられそうだった。
「ここは、職員のパートナーや、お客さんのSubが待つ部屋なんですよ」
「そうなんですね」
どうやら職員のパートナー達が、仕事が終わるまで待っている場所らしい。どおりで居心地よくくつろげるようになっているはずだ。
Subに飢えているDomの生徒に会わないように、守られるように職員室の隣にあるのだろう。
不自由がないように、部屋の前には専用でトイレも設置されている。テレビもあり、眠れるスペースもある至れり尽くせりの状態だが、全体的にパステルカラーなのが気になる。ぬいぐるみやおもちゃなども合わせ、子供部屋のような雰囲気が漂っている。
しかし、よく見れば赤ん坊を抱いた女性や、まだまだ目が離せない小さな子供たちもいた。
託児所のような場所でもあるらしい、家で一人子育てをするのではなくここでみんなで見たり、仕事の間預けたりもしているのかもしれない。
「好きに過ごしてくださいね。なんか聞きたいことがあれば言ってください」
「ありがとうございます」
そう言われとりあえずソファーに腰掛けた力也は、数分後思いついたようにトレーニングをはじめ、その結果好奇心旺盛な子供たちに囲まれることになった。
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