エキゾチックアニマル【本編完結】

霧京

文字の大きさ
上 下
155 / 331

第五十六話【楽園】前

しおりを挟む
 ダイナミクスの専門学校、王華学校には一般的には馴染みがない専門的な常識がある。その多くが、Domとして生きていくために大事な物で、それは多くが大変な物でもある。
 そんなDomの生徒たちの癒しはSubの生徒との触れ合いや、Subの先生との交流にある。厳しい学校生活をそれを糧におくっている。
 そう、王華学校のDomたちにとってSubは時にアイドルで天使なのだ。

「やべぇ、天国」

 神月に頼まれていた地下アイドルのライブについてきた冬真は、楽屋で締まりのない笑みを浮かべ力也たちSubたちを見ている。

「みんな可愛いわよ~」

 今日の為に集まったSubは神月のSubの青年と結衣、Collarを買った店の女性のSubの女性、他に地下アイドルとして活躍している王華学校のDomのパートナーたちが三人。
 更に、力也が連れてきた六人、その中の三人はバックダンサーとして踊れるメンバーだ。残り三人は会場の手伝い要因として連れてきていた。
 他にも、会場スタッフとしてDomにつれてこられたSubたちもいるが、それぞれ役割が違うため既に動いている。

「にしても、他にも連れてきていいかっていうから、一人か二人だと思ったら結局六人も連れてくるとはな」
「俺もこんなに連れてくるって思わなくて待ち合わせ場所でびっくりしたんですよ」

 練習の時はダンスメンバーだった為、三人だと思っていたら会場のスタッフ要因も呼んでいると言われ、喜んで許可した神月だが自分が声をかけるよりも簡単に集まってしまったことは、嬉しい誤算だった。

「アイツ顔広いんで」
「確かに……にしても、モテモテだな」
「さすが力也っすね」

 ライブに向け準備しているこの楽屋で、Subたちは一塊になって集まっていた。力也を中心に何を盛り上がるわけでもなく、集まっている。
 力也が連れてきたSubだけならわかるが、パートナーがこの場にいるSubまで集まっている状態には疑問が残る。

「ほんとすごいわね。うちの子わりと人見知りするのよ。とくに男性には」
「俺もまだダメだからな」

 人見知りのSubは珍しくはないが、地下アイドルをしているのにそれはどうなのだろうか。とは思うが、それでもやらせているのだからなんとかなっているのだろう。
 神月はDomのSランクと言うのも関係しているのかもしれないが、それにしても力也には警戒心がまったく見られないのは不思議だ。

「まあ、可愛いからいいってことで」
「力也!こっち、こっち見ろ」

 スマホを構え騒げば、自分でも不思議に思っているのか困惑した表情を浮かべた力也が冬真を見た。いつもとは違い、眉が下がり気味の状態でSubたちに囲まれる写真をスマホに収める。

「あら、いいわね。せっかくだから私も」

 そう言うと、写真を撮ってもいいと理解したのだろう他のDomたちも次々に自分のパートナーの名前を呼び、カメラを見させた。

「さて、Subちゃん達、お仕度するからこっち集まって」

 そう呼べば、既に支度を終えたアイドルメンバーを残し、力也たちは彼女の傍へ集まった。
 アイドルメンバーはステージ用にヒラヒラとしたフリルの多い可愛らしい服に、それぞれ違う動物の耳と尻尾をつけている。可愛さと愛らしさを前面に出しながらも、それぞれの個性を壊さないDomたちのこだわりがわかりやすい。
因みに力也たちダンスメンバーは、白シャツに、黒いベストジャケットのシンプルな服装をしている。
会場スタッフはそれに、腰にエプロンを巻いたバーテンダーのような服装をしている。
全員に共通しているのは首元がよく見えるように広く開いているところだ。

「お化粧するから並んで座って」
「はい」

 段差に腰掛けた力也たちに次々と化粧を施し髪型を整える。楽しくて仕方がないと言うように、ニコニコとしながらメイクしていく、彼女のおかげで魅力が増していく。

「やべぇ、俺の力也マジカッコいい!」
「顔は出しちゃっていいのよね」
「はい、見せびらかすんで」

 例えみるのがDomばかりだろうが、今回のライブにきているのは王華学校の関係者ばかりだ。既にクレイム済みのSubに手を出すようなマナーがなっていない人はいない。
 互いにDom同士牽制してあっているが故と言うのもあるが、Subのプライバシーも尊重され最大限に守られている。
 だからこそ、気合をいれて冬真は見せびらかしたいと思っている。

そんな、この会場についてからテンションが上がりっぱなしの冬真の様子に、力也はため息をついた。

(冬真、すっかり頼んだこと忘れてんじゃ)

 今回力也が連れてきたSubたちの中の四人には実は問題があった。過去にDomとのトラブルがあって以来、Domに警戒心を抱いているのだ。
 所謂、Dom不信に陥っている四人はご主人様が欲しいのに恐怖心のほうが強くなにもできないでいる。そんな四人を今日連れてきたのは恐怖心を薄れさせるとともに、いい相手を探す目的もある。

「はい、完成。みてみて力也ちゃんすてきよ」
「すげぇ、マジやべぇ」

 褒めているのか褒めていないのかもわからない感想をいう冬真は、解放された力也にひたすらスマホを構え、額を押さえる。

「おー、似合ってんな」
「力也さん、かっこいいです」

 神月と結衣にまで言われ、力也はなんとも言えない表情のまま、とりあえずお礼を言った。

「ありがとうございます。冬真、いつまで写真撮ってんだよ」
「だってマジ似合ってるし」

 鍛えられた体躯がよくわかる動きやすそうなぴったりとしたズボンと、ベストがある物の少し濡れれば肌が透けそうな白い服はカッコいいだけでなく色気もある。

「これ買い取りとか」
「いいわよ。協力のお礼にあげるわよ」
「マジっすか!?ありがとうございます!」

 止める間もなく、衣装の引き取りの交渉までしたことに呆れる。コスプレも興味があるのは知っていたが、まったく隠す気がないというか、いつもよりも箍が外れているようにみえるのは学生時代に戻っているからだろうか。

「やったな、今度これ着て……」

 だからと言ってすぐに交渉にはいるのはどうなのだろうかと思えば、堂々というべきではない使用目的を口にされ、力也は思わずジトリとした目線を送った。

「冬真、それ以上ダメ」
「誰も気にしてねぇって」
「女性もいるんだから」
「あら、私は全然いいわよ」

 むしろどんどん話して欲しいと言うように、楽しそうな表情を送られるも力也はSubたちを見て首を振った。

「Domはいいんです。Domは」
「あら、言われちゃったわね」

 そう女性だろうが、Domは多少きわどい話でも、もりあがるだけだから問題はないともいえる。問題はそれに巻き込まれるSubたちの方だ。
Play内容も含め、ただの惚気ではあるが、悪意がないともいえずわざと恥ずかしがるようなことを選び言って楽しむ傾向がある。

「可愛い、可愛い、Subちゃんを可愛がるお話なら大歓迎なのに」
「普段どんなふうに愛されてるのか、気になるのは仕方ないよな」
「うちの子なんか、見られるのが好きだから、ハプニングバーがお気に入りなんだ」
「あら、今度私もいこうかしら」
「いいな、俺もSub連れていくか」
「だってさ、よかったな!」

 神月達と話していた男性に、呼びかけられたアイドルメンバーの中の一人は、顔を赤くして目を反らした。

「あら、恥ずかしがっちゃって可愛い」
「こらダメだろ?ちゃんと、恥ずかしい姿を見に来てください。待ってますって言わなきゃ」

 呼びかけた男性は彼の元へ行くと羽交い絞めにするようにして、神月達のほうを向かせた。顔を反らそうとするのを押さえるように、顎を掴みDomたちの方を向かせる。

「ほら、できるだろ?」
「……僕の恥ずかしい姿を見に来てください。待っています」

 羞恥心に震え真っ赤になった彼は、そうたどたどしい言葉で言った。

「よくできました」

 その言葉にニヤリと悪い笑みを浮かべたDomたちに、脅える彼をパートナーは抱きしめ甘やかすように褒めた。

「な、平気そうだろ?」

 そのやり取りを仲良しだなとニコニコと楽し気に見ていた冬真が、そう言いながら力也を見れば、そこには連れてきたSubたち全員に抱き着かれている力也がいた。

「どこをどう見ればそうなるんだよ!!」

 高ランクのそのやり取りはDom不信に陥っているSubたちにとってはどうみても、刺激が強すぎた。Dom不信に陥ってないSubまでも力也に張り付いているのだから、完全に脅えている。

「これでもダメか……」

 このぐらいなら問題ないと思っていたのだろう、驚き“マジか”とつぶやく冬真の様子に四人のSubたちは不安とあきらめにも似た表情を浮かべた。

「力也さん、やっぱり無理なんじゃ……」
「Dom不審なんか相手にされるわけねぇよ」
「すみません。お、俺帰ります」
「いこう」

 Dom不信に陥っていても、否定されるのは辛いのだろう、拒否される前に自分からこの場を出ようとするSubたちを力也は呼び止めた。

「待って! ご主人様欲しいんだろ!? 酷い目に合ってもあきらめきれないんだろ!?」

 その声に、戯れていたDomやSubたちも含め全員の視線が力也たちに注目した。それに更に緊張し、狼狽え脅えるSubたちの前で力也は冬真へ近づく。

「冬真、協力するって言ったよな?」
「ああ」
「じゃあ、不安にさせるようなこと言うなよ」
「悪かった」

 怒ったようにそう詰め寄られ、冬真は素直に頭を下げた。
 この状況でもあくまで、強気の力也の態度にこの場にいるほとんどが驚くも、続いた神月の笑い声に空気が元に戻った。

「はははっ、力也にはかなわねぇな」
「傑さんも、ちゃんと俺先に話したでしょう?」
「悪かったよ。どうもたのしくてな」

 どうやら冬真や神月だけでなくこの場にいるDom全員の気分が高揚しているらしい。Subが沢山いるこの状況が、楽しくて仕方ないのだろう。

「悪化させないでください」
「わかったって」
「ちょっといいかしら、Dom不信ってどういうことか聞いてもいい?」

 力也たち三人のやり取りに、質問するように片手を上げた女性へ力也は視線を向けた。Subたちを背中に隠すようにしながらも、周りのDomたちへゆっくり視線を送る。

「詳しいことは話せませんが、彼らはDomが欲しいのにDomを信じられないんです。その所為で今もパートナーになってくれる人が見つからないんです。なので、できればそれでもかまわないと言ってくれる人を探すためにここに連れてきました」

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...