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番外 過去【聞き分けのない子】

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 手を離したくない。目を離したくない。誰になにを言われようとも、離したくない。
 子供らしく我儘に、聞き分けなく、執着する。
自分が手を離したらなくなってしまうかもしれない。壊れてしまうかもしれない。
実際ずっと大事にしていたはずの玩具は気づけば、姿を変えていたり新しくなっていたりした。自分がつけた汚れも消え、臭いも変わり、色も変わる。それがすごく嫌だった。
だから誰にもとられないようになるべく手放さないようにした。隠すようにした。
 なにもおかしくはない。自分にとって当たり前のことだった。

「冬真今度は何を拾ってきたの?」
「スズメ、怪我してたから」
「お母さんに見せてくれる?」
「いや」

母はいつもと同じ困った顔を浮かべる。本当は見せてあげたい。でもダメだ。
だって母に見せたら、奪われてしまう。前にも鳥を拾ってきたとき見せたら、親に返すと言って奪われた。
親鳥はいなかったのに、誰に返すと言うのだろう?どこかで見ている?
 ならなぜ自分が連れ去ったときにこないのだろうか?

「僕が助ける。僕が守る」
「あ、また困らせてる」

 呆れたような声にドキッとした。三歳年上の姉は、口喧嘩が聞こえてきたのか部屋から顔を出し怒った顔をした。

「ほんと、冬真はお母さん困らせるの好きだね」
「そんなことないもん」

 言い返せば、姉はパタパタと冬真の前まで走ってくると必死で小鳥を後ろに隠したままの冬真の前に立った。

「困らせてるじゃん!できもしないのにできるっていって!」
「できるもん!」
「できない!」
「できるもん!!」

 強く叫んだ瞬間、一瞬姉がたじろいだ。しかし、姉はすぐに立て直し、キリっと睨み返した。

「小鳥さんが死んじゃってもいいの!?」
「いやだ!」
「ならお母さんに渡して!」

 その激昂に押され、涙を流しながらも後ろ手に隠していた小鳥を母へと差し出した。

「ありがとう。じゃあ、お母さんが小鳥さんのお母さんに探しに行くね」
「小鳥さん助かる?」
「うん、冬真が助かりますようにってお祈りしてればきっと助かるよ」

 そう言い、母はハンカチに小鳥をくるむと外へと出ていった。

「小鳥さん!元気でね」

 しかし母が連れて行った頃には、引き離している間に母鳥が諦めてしまい、結局小鳥は動物病院に保護された。
 そのことを冬真はずっと後になってから知った。救うどころか助けるつもりで奪ってしまったのだと気づくのは更にもっと後になってからだった。
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