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第四十九話【声の大きな人】後
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しっかりおかわりまでした力也は、最後にもう一度二人を抱きしめ別れた。また遊びに来て欲しいという二人に頷き、今度こそ会いに来ると約束をした。
もっとちょっかいを出してくるかと思われた桐生は、意外とあっさり帰り、二人きりになると冬真はいつも通りヘルメットを渡した。
「ほら」
受け取った力也はそれを頭に被りながら冬真に、今日一緒に来てくれたお礼を口にした。
「冬真、ありがとう」
「どういたしまして。よかったな、会えて」
優しい言葉に頷く。この店が閉店すると聞いた時行かなくてはと思った。
お世話になった二人にお礼を言わなくてはと思ったのに、店まで行くことを考えると気分が乗らず困った末に力也は冬真に連絡したのだ。
いきなりの話に直ぐにスケジュールを確認し、快く了承してくれた冬真がいなくとも、店には来ることはできただろうが、こんなに幸せを感じることはなかっただろう。
冬真がいてくれるだけで、通りたくない道も何にも感じることがなかった。バイクだったから当然だろうと言われそうだが、足が止まることもなかった。
いつも通り、冬真の背中にしがみついていただけで、あっという間にどの景色も流れるように過ぎていった。
「帰り道わかる?」
「わかる、わかる
そう言う冬真の背中に来た時と同じようにしっかり抱き着き、もう慣れてしまった体温と風を感じる。
「ってか、この辺入り組んでるよな」
「下町だからな。行き止まりもあるし」
実際店に来るまでに冬真は一度迷っている。スマホで調べてきたから任せろと言ったわりに、道を間違え、久しぶりでいまいちわからないという力也と二人首を傾げた。
「開発されて、ショッピングモールが立つんだよな?」
「そう、温泉とかドックランもついたとこができるんだって」
「温泉か~、できたら行こうな」
「え?」
せっかくの誘いに微妙な反応を返され、冬真は一時停止で止まり、後ろを向くとチラッと顔を見た。
「嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃないけど、入れないんじゃ?」
そのセリフでなんのことを言っているかわかり、苦笑する。嫌なのかと思ってしまったが、勘違いだったらしい。
「その頃には入れるようになってるから、ピアスも温泉はいってもいい奴にすればいいし、とってもいいし」
確かに穴が落ち着くまで入浴も、プールも禁止と言ったが、ここにショッピングモールができる頃にはすっかり落ち着いているだろう。温泉では錆びる心配もあるが、錆びないタイプの物に変えてもなんなら、とっても構わない。
「でもな~。冬真悪戯しそうだしな~」
「お前、そっちが本当の理由だろ!?」
尚も渋る力也の言葉に、即座に突っ込めば、笑い返された。本気で疑っているわけじゃないとは思うが、完全に信じているわけでもなさそうだ。
「失礼な奴だな。俺はちゃんとその辺わきまえてんのに」
二人きりならまだしも、あきらかに人の目があるところで悪戯なんてしない。と大きな声では言えないが、ちゃんとマナーは守る。むろん、自分の為じゃなく力也の為だが。
「そこまで言うなら付き合ってやるよ」
「うわっ、偉そう!」
軽快なやり取りをしながら、入り組んだ道を抜け、大きな通りに出た。スピードをあげる瞬間力也の腕の力が強まったのを感じた。
スピードを出したからかとも思うが、行きも同じように力が強くなったのを覚えている。
昔、この辺りでなにかがあったのだろう。
(聞けねぇよな)
聞きたい気持ちはもちろんある。それでも、間違いなくトラウマを刺激してしまうだろうと思うと、聞きたくないとも思う。聞きたくないではなく、言わせたくない。
聞けばきっと力也は話そうとするだろう。嫌がってくれるならまだいい、力也はおそらく困ったように苦笑し、まるで笑い話のように話すのだろう。
相手に嫌な想いをさせないために、自分が受けた痛みを自ら軽い物にする。知りたいだけで、無理をさせたいわけじゃない。
そう思っていると、信号が赤になった。バイクを止めたその瞬間、まるで持たれるかのように力也が体重を預けてきたのに気づく。
「……力也」
「うん?」
「……疲れたか?」
「疲れてねぇよ」
力也も自覚があったのだろ、あえて違う問いを口にすれば安心したかのように返事を返した。
「そっか、じゃあ寄り道もできるな」
「寄り道?どこに?」
「ついてのお楽しみってことで」
「え~」
堪えている訳でも、我慢している訳でもない口調に、軽く息を吐き再びバイクを発進させた。風を切り走る背中に“ありがとう”という呟きが聞こえた気がした。
寄り道するからと言って連れてこられたのは、一見の店だった。黒を基調としたおしゃれな外見に、ガラスのショーケースが並んでいる。
「冬真ここって」
「ボディピアス専門店」
冬真が選んだのは、所謂アクセサリー屋でも、高級店でもなく、完全な専門店だった。
確かにニップルピアスなどは専門店じゃないと取り扱ってない場合が多いが、それでも一瞬躊躇してしまうのは店全体からDomの気配がするからだろう。
気配と言ってもグレアが出ている訳じゃない、Subの本能が告げているのだ。
「力也、Come」【おいで】
優しいコマンドと共に手を差し出され、その手を握った。敏いご主人様に苦笑が浮かぶ、自分はけして弱くはないはずなのに、守られていると感じる。
いざとなれば、冬真をかばって戦えるというのにおかしな話だ。
「いらっしゃい!」
「……なんでいるんだよ!?」
店に入った瞬間、奥から顔を出した相手を見た冬真は本気で嫌そうにうめくように怒鳴った。そんな冬真とは違い、力也は“ああ、自分の感は確かだ”とのんきなことを思った。
店の中にいたのは、冬真が気を付けるように言っていたDomの友人有利と、そのパートナーの港だった。
「なんか、店長が帰らせたがってる気がしたから粘ってた」
「店長!」
「悪かった」
店長と呼ばれた男は、本当に悪いと思っているのかわからないような口調で返した。
「有利と港だっけ?」
「力也、呼ぶな」
「そうです、覚えていてくれたんですね。嬉しいですよ」
確認するように尋ねる声を止めようとした冬真だが、有利の反応に間に合わず、舌打ちとともに力也の手を乱暴に引いた。隠すように前に立つと、気分を落ち着ける。
「また、港に怒られるぞ」
そう言いながら、少し離れたところで呆れたような表情をしている港へと視線を送る。冬真の視線に気づいた港は、軽く頷き有利に近づこうとした。
「怒られないよ。俺は、力也さんのことを心配してるだけだし。大体、俺にピアッシングについて聞いたくせに、どうなったか教えないっておかしいでしょ?」
一言だった“怒られない”という一言で、港は次の行動に移すことができなくなり、所在なさげな表情を浮かべると元の場所へと戻った。もっともと言うしかない理由だった。
「せっかく教えたんだから、痛くなかったか気になるじゃん?」
「痛くなかった。処置も完璧だった」
体格の差で隠しきれていない、冬真の後ろから顔を出すと力也はそう返した。
「満足したか?」
「うーん、まだ実際に見ないと」
そう言った瞬間、港が走って近づいてくるとその頭を叩いた。
「調子に乗んな」
「イテッ、そんな変なこと言ってないのに」
「お前より、そいつのほうがずっとうまそうだ」
「ひどいな港。確かに冬真はダイコンは優秀だったけど」
「ダイコン?」
聞きなれない言葉に、説明を求め冬真に視線を送るとおよそ友人に向けるものではない目つきを浮かべながらも説明してくれた。
ダイコンとは王華学校で教えているダイナミクスの教科で、正式名称はダイナミクスコミュニケーション、略すとDCなのだが、生徒たちはダイコンと呼んでいる。
「へぇ、冬真成績よかったんだな」
「ダイコンの授業だけはな」
「俺なんかいつもダイコンだけ追試だったんですよ」
見た目的なもので言えば、むしろ逆だろうと思えるが、本質を知っていれば納得できた。
「もう穴も大分安定してきたし、化膿もしてない。だから心配も好奇心もいらない」
そう言い切られ、これ以上は粘れないと思ったのだろう、有利は残念そうな顔をした。
「仕方ない、その言葉を信じて帰るよ。またね、冬真。力也さんもまた」
“いくよ、港”とニコニコと善人そうな笑みを浮かべ港を伴い帰っていった。
「なんだったんだ?」
「塩でもまいたほうがいいんじゃねぇのか」
「残念ながら常客なんだよ」
店長と呼ばれていた男は、軽く首を振ると冬真たちの前に立った。如何にも営業用の笑みを浮かべる。
「そんなことより、改めましてようこそピアス専門店エターナルへ。店長のセンリだ。店長って呼んでほしい」
その声に力也は一瞬首を傾げた。どこかで聞いたことがある気がする。
「力也、俺の元同業者だ」
「元同業者?」
「そう、お前のコレクションの中にもいただろ?」
「え?」
そう言われ、店長の顔をもう一度みた力也の様子が徐々に変わっていく。
「これ言ったほうがわかるかな?Good Girl」【よくできました】
Subにとって重要なものであるコマンドを聞き、力也の顔色が変わる。その言葉は冬真と出会う前に聞いたことがあったものだ。
「え、なんで?」
「DPVを辞めたあと、ピアス専門店を始めたんだ」
「そう、なんだ」
一度わかってしまえば、聞きなれたその口調に自然と興味を惹かれる。彼の【DPV】を覚えている。もっぱら女性のSub相手だったが、弾むような声が面白くて楽しくなった。
そんな相手を前に、力也は冬真を見た。
「じゃあ、見せてくれよ」
「了解、とりあえずニップルピアスから」
彼はそう言うと、ショーケースの上にピアスが沢山乗ったトレーを出した。
「結構あんな、力也見てみろよ」
すぐさま傍に寄った冬真に楽しそうな口調で呼ばれ、力也はショーケースに近づいた。
いくつものピアスが乗るトレーを覗き込み、手に取るその楽しそうな笑顔を見る。
(冬真……嫌じゃねぇのか)
なんでここを選んだのかまたわからなくなる。知り合いがやっている専門店、それだけで選ぶ理由は確かにつく。
でも、訳が分からない。DPVとは言え、Playをしていたようなものだ。そんな相手に合わす意味がわからない。
Domと普通の会話をするのとも全く違うのに、普通絶対嫌がるだろう内容を、気にしない理由もわからない。
さっきはあんなに警戒していたのに、もう気にしていないようだった。冬真の大丈夫の規準がわからない。
ただ二人の声が聞こえるこの空間は、まるで【DPV】の中のようだった。
もっとちょっかいを出してくるかと思われた桐生は、意外とあっさり帰り、二人きりになると冬真はいつも通りヘルメットを渡した。
「ほら」
受け取った力也はそれを頭に被りながら冬真に、今日一緒に来てくれたお礼を口にした。
「冬真、ありがとう」
「どういたしまして。よかったな、会えて」
優しい言葉に頷く。この店が閉店すると聞いた時行かなくてはと思った。
お世話になった二人にお礼を言わなくてはと思ったのに、店まで行くことを考えると気分が乗らず困った末に力也は冬真に連絡したのだ。
いきなりの話に直ぐにスケジュールを確認し、快く了承してくれた冬真がいなくとも、店には来ることはできただろうが、こんなに幸せを感じることはなかっただろう。
冬真がいてくれるだけで、通りたくない道も何にも感じることがなかった。バイクだったから当然だろうと言われそうだが、足が止まることもなかった。
いつも通り、冬真の背中にしがみついていただけで、あっという間にどの景色も流れるように過ぎていった。
「帰り道わかる?」
「わかる、わかる
そう言う冬真の背中に来た時と同じようにしっかり抱き着き、もう慣れてしまった体温と風を感じる。
「ってか、この辺入り組んでるよな」
「下町だからな。行き止まりもあるし」
実際店に来るまでに冬真は一度迷っている。スマホで調べてきたから任せろと言ったわりに、道を間違え、久しぶりでいまいちわからないという力也と二人首を傾げた。
「開発されて、ショッピングモールが立つんだよな?」
「そう、温泉とかドックランもついたとこができるんだって」
「温泉か~、できたら行こうな」
「え?」
せっかくの誘いに微妙な反応を返され、冬真は一時停止で止まり、後ろを向くとチラッと顔を見た。
「嫌なのか?」
「嫌ってわけじゃないけど、入れないんじゃ?」
そのセリフでなんのことを言っているかわかり、苦笑する。嫌なのかと思ってしまったが、勘違いだったらしい。
「その頃には入れるようになってるから、ピアスも温泉はいってもいい奴にすればいいし、とってもいいし」
確かに穴が落ち着くまで入浴も、プールも禁止と言ったが、ここにショッピングモールができる頃にはすっかり落ち着いているだろう。温泉では錆びる心配もあるが、錆びないタイプの物に変えてもなんなら、とっても構わない。
「でもな~。冬真悪戯しそうだしな~」
「お前、そっちが本当の理由だろ!?」
尚も渋る力也の言葉に、即座に突っ込めば、笑い返された。本気で疑っているわけじゃないとは思うが、完全に信じているわけでもなさそうだ。
「失礼な奴だな。俺はちゃんとその辺わきまえてんのに」
二人きりならまだしも、あきらかに人の目があるところで悪戯なんてしない。と大きな声では言えないが、ちゃんとマナーは守る。むろん、自分の為じゃなく力也の為だが。
「そこまで言うなら付き合ってやるよ」
「うわっ、偉そう!」
軽快なやり取りをしながら、入り組んだ道を抜け、大きな通りに出た。スピードをあげる瞬間力也の腕の力が強まったのを感じた。
スピードを出したからかとも思うが、行きも同じように力が強くなったのを覚えている。
昔、この辺りでなにかがあったのだろう。
(聞けねぇよな)
聞きたい気持ちはもちろんある。それでも、間違いなくトラウマを刺激してしまうだろうと思うと、聞きたくないとも思う。聞きたくないではなく、言わせたくない。
聞けばきっと力也は話そうとするだろう。嫌がってくれるならまだいい、力也はおそらく困ったように苦笑し、まるで笑い話のように話すのだろう。
相手に嫌な想いをさせないために、自分が受けた痛みを自ら軽い物にする。知りたいだけで、無理をさせたいわけじゃない。
そう思っていると、信号が赤になった。バイクを止めたその瞬間、まるで持たれるかのように力也が体重を預けてきたのに気づく。
「……力也」
「うん?」
「……疲れたか?」
「疲れてねぇよ」
力也も自覚があったのだろ、あえて違う問いを口にすれば安心したかのように返事を返した。
「そっか、じゃあ寄り道もできるな」
「寄り道?どこに?」
「ついてのお楽しみってことで」
「え~」
堪えている訳でも、我慢している訳でもない口調に、軽く息を吐き再びバイクを発進させた。風を切り走る背中に“ありがとう”という呟きが聞こえた気がした。
寄り道するからと言って連れてこられたのは、一見の店だった。黒を基調としたおしゃれな外見に、ガラスのショーケースが並んでいる。
「冬真ここって」
「ボディピアス専門店」
冬真が選んだのは、所謂アクセサリー屋でも、高級店でもなく、完全な専門店だった。
確かにニップルピアスなどは専門店じゃないと取り扱ってない場合が多いが、それでも一瞬躊躇してしまうのは店全体からDomの気配がするからだろう。
気配と言ってもグレアが出ている訳じゃない、Subの本能が告げているのだ。
「力也、Come」【おいで】
優しいコマンドと共に手を差し出され、その手を握った。敏いご主人様に苦笑が浮かぶ、自分はけして弱くはないはずなのに、守られていると感じる。
いざとなれば、冬真をかばって戦えるというのにおかしな話だ。
「いらっしゃい!」
「……なんでいるんだよ!?」
店に入った瞬間、奥から顔を出した相手を見た冬真は本気で嫌そうにうめくように怒鳴った。そんな冬真とは違い、力也は“ああ、自分の感は確かだ”とのんきなことを思った。
店の中にいたのは、冬真が気を付けるように言っていたDomの友人有利と、そのパートナーの港だった。
「なんか、店長が帰らせたがってる気がしたから粘ってた」
「店長!」
「悪かった」
店長と呼ばれた男は、本当に悪いと思っているのかわからないような口調で返した。
「有利と港だっけ?」
「力也、呼ぶな」
「そうです、覚えていてくれたんですね。嬉しいですよ」
確認するように尋ねる声を止めようとした冬真だが、有利の反応に間に合わず、舌打ちとともに力也の手を乱暴に引いた。隠すように前に立つと、気分を落ち着ける。
「また、港に怒られるぞ」
そう言いながら、少し離れたところで呆れたような表情をしている港へと視線を送る。冬真の視線に気づいた港は、軽く頷き有利に近づこうとした。
「怒られないよ。俺は、力也さんのことを心配してるだけだし。大体、俺にピアッシングについて聞いたくせに、どうなったか教えないっておかしいでしょ?」
一言だった“怒られない”という一言で、港は次の行動に移すことができなくなり、所在なさげな表情を浮かべると元の場所へと戻った。もっともと言うしかない理由だった。
「せっかく教えたんだから、痛くなかったか気になるじゃん?」
「痛くなかった。処置も完璧だった」
体格の差で隠しきれていない、冬真の後ろから顔を出すと力也はそう返した。
「満足したか?」
「うーん、まだ実際に見ないと」
そう言った瞬間、港が走って近づいてくるとその頭を叩いた。
「調子に乗んな」
「イテッ、そんな変なこと言ってないのに」
「お前より、そいつのほうがずっとうまそうだ」
「ひどいな港。確かに冬真はダイコンは優秀だったけど」
「ダイコン?」
聞きなれない言葉に、説明を求め冬真に視線を送るとおよそ友人に向けるものではない目つきを浮かべながらも説明してくれた。
ダイコンとは王華学校で教えているダイナミクスの教科で、正式名称はダイナミクスコミュニケーション、略すとDCなのだが、生徒たちはダイコンと呼んでいる。
「へぇ、冬真成績よかったんだな」
「ダイコンの授業だけはな」
「俺なんかいつもダイコンだけ追試だったんですよ」
見た目的なもので言えば、むしろ逆だろうと思えるが、本質を知っていれば納得できた。
「もう穴も大分安定してきたし、化膿もしてない。だから心配も好奇心もいらない」
そう言い切られ、これ以上は粘れないと思ったのだろう、有利は残念そうな顔をした。
「仕方ない、その言葉を信じて帰るよ。またね、冬真。力也さんもまた」
“いくよ、港”とニコニコと善人そうな笑みを浮かべ港を伴い帰っていった。
「なんだったんだ?」
「塩でもまいたほうがいいんじゃねぇのか」
「残念ながら常客なんだよ」
店長と呼ばれていた男は、軽く首を振ると冬真たちの前に立った。如何にも営業用の笑みを浮かべる。
「そんなことより、改めましてようこそピアス専門店エターナルへ。店長のセンリだ。店長って呼んでほしい」
その声に力也は一瞬首を傾げた。どこかで聞いたことがある気がする。
「力也、俺の元同業者だ」
「元同業者?」
「そう、お前のコレクションの中にもいただろ?」
「え?」
そう言われ、店長の顔をもう一度みた力也の様子が徐々に変わっていく。
「これ言ったほうがわかるかな?Good Girl」【よくできました】
Subにとって重要なものであるコマンドを聞き、力也の顔色が変わる。その言葉は冬真と出会う前に聞いたことがあったものだ。
「え、なんで?」
「DPVを辞めたあと、ピアス専門店を始めたんだ」
「そう、なんだ」
一度わかってしまえば、聞きなれたその口調に自然と興味を惹かれる。彼の【DPV】を覚えている。もっぱら女性のSub相手だったが、弾むような声が面白くて楽しくなった。
そんな相手を前に、力也は冬真を見た。
「じゃあ、見せてくれよ」
「了解、とりあえずニップルピアスから」
彼はそう言うと、ショーケースの上にピアスが沢山乗ったトレーを出した。
「結構あんな、力也見てみろよ」
すぐさま傍に寄った冬真に楽しそうな口調で呼ばれ、力也はショーケースに近づいた。
いくつものピアスが乗るトレーを覗き込み、手に取るその楽しそうな笑顔を見る。
(冬真……嫌じゃねぇのか)
なんでここを選んだのかまたわからなくなる。知り合いがやっている専門店、それだけで選ぶ理由は確かにつく。
でも、訳が分からない。DPVとは言え、Playをしていたようなものだ。そんな相手に合わす意味がわからない。
Domと普通の会話をするのとも全く違うのに、普通絶対嫌がるだろう内容を、気にしない理由もわからない。
さっきはあんなに警戒していたのに、もう気にしていないようだった。冬真の大丈夫の規準がわからない。
ただ二人の声が聞こえるこの空間は、まるで【DPV】の中のようだった。
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