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番外 過去【Subとは】

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 主人に尽くす、主人の望みを聞く、主人に従う、主人を第一に考えること。
 命をかけて、ついていくこと。常に主人の意向を考えること。主人にゆだねるということ。
 痛みを恐れないこと、苦しみから目を反らさないこと。
 自分を優先しないこと。

「力也、しばらく公園で遊んでこれる?」
「一人で?」
「お友達がいるならお友達とでもいいけど、引き留めちゃだめだよ?」
「わかった」

 いつも優しい母が、浮かれている。体に合わない大きめの服を羽織り、普段は着ない短いスカートをはいて、頬は恋する少女のように赤い。
 首には猫のような赤い首輪、中央には小さな鈴、母が動くたびに鈴はチリンチリンと小さな音を立てる。
 それは母にとっての宝物、母にとっての生きる意味、なくてはならない物。
 それをはめた母は人ではなくなる。母でも、女性でもなくただの物になる。

「いってきます」

 それを見てはいけないと、子供ながらにわかっていた。これから来る人は、子供の目を気にしない。それどころか、子供の目の前で母を辱めることを楽しむ。
 だから、早く出かけなくてはならない。

「迎えに来れる?」
「うん、必ず行くから待ってて」

 靴を履き、ハンカチとティッシュを持ち、部屋をでる。早く公園に向おうとしていた時、一人の男が歩いてくるのが見えた。

「よう!坊主」

 気さくに手を上げてくる男の名を知らない。歳も、どこに住んでいるかも、家族がいるのかも、なにも知らない。それでも男は母のご主人様だ。

「いらっしゃいませ」
「お、いい挨拶だ」

 子供ながらに姿勢を正し、そう口にした様子に男は満足そうに笑い、押し付けるように頭に手を置いた。

「母さんは用意できてるか?」
「はい」

 用意と言うのがどんなことを指すのかは知らない。しかし、母の首には首輪があった。それが用意ができている証拠だ。

「そうか、じゃあいくか」

 いびつな笑みを浮かべた男は、そう言うとその腕を掴んで部屋に向おうとした。

「え!?ちょっ!」
「楽しみだな」

 無理やり部屋のほうへと連れて行こうとするその手を、振り払った。

「てめぇ」

 刃物のような瞳を向けられ、怖いほどの怒りを感じる。ダメだ、逆らってはいけない、それは悪いことだ。自分がとても悪いことをしているかのように思えてきた。その時だった。

「ご主人様!力也はお友達と約束があるので!」

 母が部屋から顔を出し、男に呼びかけた。怯えるような表情を浮かべる母を見た男の様子は変わらず、それでももう一度その手を掴もうとした。

「●●●!」

 それがなんという言葉だったかはもう覚えてはいない。ただその言葉を聞いた瞬間、男の手は止まった。忌々しそうな舌打ちと共に、追い払われ、その場を慌てて立ち去る。
 あれはきっと魔法の言葉だ。
 それを口にすれば、助かる。いざというときにしか口にしてはいけない言葉、許しを与えられる言葉。覚えておこう、口にできるように。
 今はもう思い出せない、忘れてはならなかった。大事な言葉。

Subとは
Domに従うこと
Domに尽くすこと
Domに全てを捧げること
Domに愛されること
Subとして生まれたことを誇ること。
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