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第四十七話【【過去を癒して】】中

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 しかし、言われたことで頭にその状況が頭に浮かぶ、冬真の友人のDomたち複数で囲まれて、冬真の前で他の人からのコマンドを受け、代わる代わる……。

 どこからか声が聞こえる。侮蔑を込めた複数の笑い声が、足が痛い、目の前が暗くなる。
 むせ返るような臭い、血の臭い、楽しそうな笑い声、そして人格を否定する怒声。
 息が、声が出ない。

「力也?」
「はっ……はっ……」

 急に震えだした体と、早くなる呼吸音に冬真が心配そうに声をかけた。
 力也は冬真のその声で、体が震えているのに気づいた。なぜこうなっているのか、わからない、一番安心できる場所にいるはずなのに、震えが止まらない。

(やばい!)

 この状況に焦っているのは力也だけではなかった。Playの経験が豊富な冬真も、この状況は経験がない。フラッシュバックも、サブドロップも、陥っているSubを見たことはあっても自分がそうさせてしまったと思うと、冷静になることができない。

(なんで?なんで?)

 それでも、それを表に出してしまえば力也を更に追い詰めることになる。

「力也、落ち着いて深呼吸」

 普段ならこういう時、抱きしめ落ち着けるものなのに、今力也は冬真の腕の中でこの状況に陥っている。それがなによりも心に痛い。安心できる場所だと思っていてくれるはずなのに、それでも足りないのか。
 それほどまでに追い詰めてしまったのだろうか。冬真は抱きしめる力を強めながら、何が原因なのかと考えた。

(何を考えた?何を思い浮かべた)

 思いつくのは一つしかない、複数Playだ。複数のDomにいいように使われる。それが冬真よりも、力也のほうが無理だったのだ。

「くっそ、なんで話題にだした!」

 自分の迂闊さに怒りさえ覚える。あれはさっきまでの甘い戯れの延長で出す話題ではなかった。もっと慎重に口にしなければならない内容だったのだ。
 数時間前はあんな偉そうなこと言っていた癖に、すぐにこれだ。

(ごめん、力也……)

 それでも後悔している場合ではなかった。どうにかしなければと、必死に考える。

(なんで、どうして……)

 必死に震えを落ち着かせようとする力也だが、それが逆に混乱を引き起こしていた。冬真の腕の中にいるのに不安になるなんておかしいと思っているのにどうにもできない。
 その瞬間だった。ぎゅっと抱きしめていたはずの冬真の手が緩んだ。

(え?)

 抱きしめていたはずの腕が力也の体を離れ、背中に感じていた体温も遠のく。

(なっ……)
「やっ!」
「力也、大丈夫!大丈夫だから、一度顔こっち向けて」
「やあっ!」
「力也UP!」【立て!】

 体の向きを変えようとしただけなのに、更にパニックに陥った力也の様子に、冬真はグレアと共にコマンドを使った。ビクッと震え、反射的に立ち上がった力也は自然と冬真の方を向いた。

「力也Come」【おいで】

 けして目を離さず優しい愛情をこめたグレアと共に言われ、力也はその腕の中にもう一度収まった。

「Good Boy力也、俺の力也、落ち着いて」【よくできました】

 抱きしめ、落ち着けるようにポンポンと背中を叩かれていると、次第に体の震えが収まってきた。発するグレアは力也を包み込み、愛していると伝えていた。

(届け、届け……頼む、頼むよ力也……)

 まるでそこだけ隔離されているかのように、力也を包みこみ、安心感に満たされる。いつもくれる物よりもずっと強く、更に暖かい不思議な感覚に心も体も落ち着きを取り戻す。

「落ち着いてきたな。よかった」

 安心感を含んだ笑顔が目の前にあり、力也は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「温かい」
「変な事言ってごめんな」

 その言葉に“冬真の所為じゃないじゃない”と反論する前に、冬真は更につづけた。不用意に傷つけられたのは力也なのに、その口から謝罪の言葉など聞きたくない。

「お詫びにいまから沢山甘やかすから、許して」

 懇願を含むグレアと共に、口づけられ、あっと言う間に舌を絡められた。離さないと言うように、頭をしっかりと捕まえ、絡められた舌は口の中でもキスをするように何度も何度も合わさる。
 口内を動く冬真の舌へ力也は夢中で、自らの舌を触れさせた。キスをしている最中なのに、離したくない。
 いつもよりも、たっぷりと時間をかけ、互いに息苦しくなる頃、ゆっくりと冬真は口を離した。それでももう一度としがみついてきた力也に、苦笑し、何度も気が済むまでキスを繰り返す。
 そうしながら、頭を抱え込みベッドへと二人で横向きに倒れる。その衝撃で驚き、我にかえったかのような力也に笑い、耳元で囁くように命じた。

「力也、Strip」【脱げ】

 そう言えば、体を起こし力也は豪快に上着を脱ぎすて、すぐにズボンも下着も脱ぎ捨てた。相変わらず色気が感じられない様子に笑う冬真の目が、先日つけたピアスへと注がれた。

「どうこれ痛くない?」
「痛くない」
「消毒はちゃんとしてるか?」
「してるけど、もういいと思う」

 言わないと適当に終わらせそうだからと念を押されていた消毒も、もうしみない。ちょっと触った時も、痛みはなかった。

「お前のそれあんま信用できないんだよ」

 つける前にしたように、じっと間近で見るとそっとピアスに触れた。鍛えられた胸筋の中央、先ほどからの刺激で硬くとがる場所にシルバーのピアスがある。力也の黒めの肌にシルバーのピアスはよく映えていた。
 体中に残る傷跡とは違い、違和感も痛々しさもなく、そこに当たり前のように収まっているのに、不思議な存在感があるピアスはライトの下光っていた。
試しに冬真は少し動かして、力也の顔をみる。

「んっ……」

 ヒクつくような声と共に、こわばる体と、顰められる顔から確かに、傷は落ち着いているとわかる。これなら、多少いじっても問題はなさそうだと、そっとそこへ唇を近づけ口に含む。

「はぁっ……あっ……」

 AV撮影でよく聞くような作った喘ぎ声ではなく、自然に漏れる吐息のような声とピアスが歯に当たるカチャカチャと言う音が響く。軽く歯でピアスを噛み、引いてみた。

「あっ!」

 耐えるように顰められた顔と発せられた艶っぽい声に、すぐに歯を離し労わる様に舐めると冬真は口を離した。

「本当に落ち着いてるみたいだな」
「だからそう言ってるじゃん」

 思わず左胸をかばうようにしながら、力也は冬真を睨んだ。先ほどまで纏っていた弱者のような空気はそこにはない。

「悪い、悪い、俺こう見えて完璧主義だから、心配で」
「完璧主義?」
「そう、お前を大事にするってことだけはな」
「なにそれ」

 笑う力也を抱きしめ、両手を背中から尻へとすっと滑らせた。少し反応した力也の左右の尻たぶを開き、割れ目を指で撫でる。何も言わずとも撫でやすいように足を開いた力也を軽い笑い声で褒める。

「だから、ここも大事にしたい。できるなら指でもなく、玩具でもなくて、舐めて柔らかくしたい」
「えっ?」
「痛くないように、傷つかないように舐めて、舌を差し込んで、ほぐしてトロトロにして」

 耳元で囁かれる内容に、実際されているかのように力也の体がピクッピクッと動く。
いままでされたことのない内容は、想像するだけで恥ずかしく、体が熱くなる。それでも、そんな場所を冬真に舐められることには抵抗感がある。

「ダメっ……」
「なんで? そのほうが力也がつらくないだろ?」
「だってそんなとこ、汚いだろ」
「何言ってんだよ。汚いなんて思ってたら、舐めたいなんていわねぇって」

 当たり前のことを言ったのに、面白いことを言ったかのように笑い飛ばされてしまい、次の瞬間秘部の中に指を差し込まれ、跳ねるような声が漏れた。

「いつも気持ちよくさせてもらってるし、いたわりたいだけ」
「んっ……ふっ……」

 人差し指をゆっくり抜いたり差したりしながら、耳を舐める。甘すぎる愛撫に、震える体に気を良くして、耳の中まで舐めると嬌声が跳ねた。

「力也の全部を愛したいし、大事にしたい。怒りも痛みも俺にぶつけていいから、俺に任せて、お前のご主人様に」

 声はどこまでも優しく、甘く、力也の耳を犯し、内部を愛撫する指は二本に増えた。
 ジュボジュボと音を立てながら、次第に激しさを増す指に翻弄されながら力也は頷いた。
 指先で突くみたいに、前立腺をいじられ、その度に体が震えた。

「俺が愛する。過去に負わされた傷も、嫌な記憶も全部、俺の物だ。俺が褒めるから……、一杯頑張って偉かった。Very Good Boy」【大変よくできました】

 愛情だけを詰め込んだグレアを浴びせられ、次の瞬間力也は大きく跳ね達していた。
 体に残るすべての傷にキスをしたい、体だけじゃなく心に残る傷にも全部キスを贈りたい。傷の一つ一つが力也が頑張って生きてきた証だ。
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