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第四十二話【特別と普通】後

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 撮影が終わり、時刻を確認すると当初のあがりの時刻よりも随分すぎていた。既に力也は仕事を終えている時間だ。
 不意に部屋にいったらどういう反応をするだろうかと考える。間違いなく嫌がられることはなく、喜んで迎えてくれるはずだ。
 行こうかと思い、そちらへバイクを向かわせようとしたところで、明日は服装の指定があったことを思い出した。

(帰るか)

 力也が持っているだろうものなら借りればいいが、あいにくと持っていそうな
物でもない。

(アイツのスーツ見たことねぇし)

 流石に一着ぐらい持っているだろうとは思うが、多分サイズが違う。とは言え、冬真も沢山持っているわけではないのだが。

(えーと、確か……スーツに、派手めのアクセサリーだよな)

 若手ホスト役と言っていたから、高価な物でなくともいいだろう。とはいえ却下された場合を考えいくつか持って行かなくてはならない。
 力也の家にはアクセサリーなどないだろうから、自分の部屋に帰るしかない。力也に言えば、“このぐらいで”と笑われそうなぐらい消沈しながら、自分の部屋に向かう。

 部屋につき時間を確認する。この時間帯ならシャワー中だろうか、それとももうシャワーを浴び終わりゆっくりしているころかもしれない。
 いや、トレーニング中の可能性もある。力也の行動を把握しているつもりでも24時間一緒にいたことがないからわからない。
 
(なにしてんのかな)

 そんなことを考えてながら、スマホをいじっていると、つい指が検索画面にいく。
【ペット用見守りカメラ】と打てば、いくつかの商品がすぐに出てきた。

(お、意外と安い)

 気になった物の、ページを開き値段をみると、しっかりと説明を読む。

(会話もできんだ。へぇ、いいじゃん)

 幾つかある類似品も次々開け、値段と性能を見ていく。ペットや子供、防犯などに使うと書いてあるが、この場合どちらかと言えば監視カメラに近い。

(悪くないデザインだし)

 むろんこれは、ちゃんとカメラとわかりやすい物だが、Domの中には監視カメラや盗聴器、GPSまで使いSubを監視する人もいる。その為、それ用のページに行けば、犯罪紛い並みにわかりにくい物もある。
 中には体に埋め込めるタイプのGPSと言うのもあるが、その場合は病院でつけてもらわなくてはならない。それも、冬真の行っていた王華学校の関係の病院だが。
 つまりはGPSを入れに行けば、知らぬ間にDom自身の情報も握られてしまう。逃げたSubを捕まえるどころか、かくまった挙句に、Domに然るべき罰をというのが真の目的だ。

(つけるならやっぱり居間だよな)

 こんなことを思っているが、冬真はそこまで本気ではない。力也に言えば、恐らく嫌がりはせずに受け入れてくれるだろうが、だからと言ってやる気はない。
 力也のことだ。カメラがあろうと気にせずに着替えも、トレーニングもやるだろうが。
 結局見るだけで満足し、買うつもりはなく検索を閉じた。

(そんなことより)

 力也に電話をかけようと思い、L●INEを開き通話へと切り返ればすぐにつながった。

「お疲れ」
「お疲れ、今何してた?」
「シャワー浴びたとこ。どうかした?」

 予想通り、シャワーを浴びていたらしい力也の声に、“大当たり”と笑みを浮かべる。

「そっちいこうかと思ったんだけど、明日持って行かないといけないのがあるから、あきらめたんだよ」

 絶対笑われると思いながら、そう白状すると意外な答えが返ってきた。

「そうなんだ。残念」
「来てほしかったか?」
「ちょっと見て欲しいのがあって」

 “なんだ”と聞き返す前に、テレビ通話へ誘われ、切り替えればそこに上半身裸のままの力也の姿が映った。テレビ通話だから、顔だけだと思ったのにとんだ不意打ちに、驚く。
 画面の向こうの力也は完全に湯上りなのか、体は赤みを帯び、その肌には水滴がまだ残っている。

「……おい!」

 なんの説明もなしに、平然とした様子で上半身を晒してきたことに突っ込めば、その顔が戸惑う表情へと変わる。

「ごめん、外だった?」
「いや、家だけどな!そういう状況なら先に言えよ」

 そのずれた反応に、戸惑いたいのはこっちだと心で突っ込みつつ、ため息をつく。SubらしくPlay中は恥ずかしがることもあるが、基本的にこういうところは大胆と言うか、無頓着だ。さっきまでカメラを取り付けて盗み見ようかと思っていたのを見透かされたかのようなタイミングだった。

「ダメだった? 画面消す?」
「消さなくていい! むしろ消さないで!」

 聞きたいことがなにかは知らないが、わざわざテレビ通話にしたのだから、意味があるのだろうとは思う。が、それ以上にせっかくだから見ていたい。

「で、どうしたんだよ」
「んー? 首のは消えたんだけど」

 上に顔を向け、首元を見せられマジマジと見れば確かに、付けたはずの赤い痕が消えている。元々すぐになくなるだろうとは思っていたから、それについては不思議はない。
 消えにくいほど、しっかりとした痕を付けたわけでも、傷をつけたわけでもない。
 力也のつけたキスマークなどもっと前に消えたし。

「だろうな」
「残念?」
「それはお前だろ」

 残念には残念だが、どちらかと言えば力也のつけた痕があっさり消えたことのほうがショックだった。メイクさん相手に、聞かれたら何と言おうかと思いながら、鏡で確認したら消えていた時の気分はなんとも言えないものだった。

「バレた」
「またつけてやるから」

 冗談めいた言い方で笑い返されるが、本当のことだろうと思いそう言えば嬉しそうな声で“はーい”と返された。

(そんときはまた俺もつけてもらうけど)

 なんならよく聞くような背中に爪痕も憧れがあるが、それは断られるのはわかっている。無理やりやらせたら、またセーフワードを言わせてしまうかもしれない。
 力也がセーフワードの“マイルド”を発したのは今までに二回ほどだが、どちらも冬真を気遣ってのものだった。爪ぐらいは立ててくれるだろうが、それ以上は確実に断られる。

(まあ、もっと嫌がりそうなの計画してるんだけど)
「で、聞きたいのってそれじゃないんだろ?」
「うん、首は消えたんだけど、こっちがまだなんかちょっと残ってて」

 その言葉と共に、カメラの画面が下へと移動し、次の瞬間力也のいつもより赤くピンと立っている乳首がアップになった。思わず、ひと呼吸おきため息をつく。

「だから不意打ちやめろって」
「悪い。で、これ軟膏とか塗ったほうがいいと思う?」

 診察するような気軽さで見せた力也に、続けて言おうとした揶揄する言葉を飲み込み、冬真はそれをじっと見た。
 記憶になる状態より赤くなっている。少し擦っただけだが、皮膚が敏感な部分だから傷ついているかもしれない。どうやら電話して正解だったらしい、電話をしなければ力也はまあいいかと流してしまったかもしれない。
 できることなら画面越しじゃなくて触って、傷の有無などを調べたいがそうもいかず、もう少し近づけるように指示をだす。

「薬はやめとけ」
「放置でいい?」
「保湿クリームとかあればそれを縫って、擦らないように気を付けてろ」

 逆効果になることをしそうになっていた力也を制しし、医者のように言い渡せば“わかった”と素直な返事が返ってきた。やりようによっては擦れるだけで、感じるほどになってしまうかもしれない。力也が好むぴったりとした服では、浮き上がって目立ってしまう。

(誰が見せるかそんなの)

 その手の輩が寄ってきそうな状態を想像し、心中で毒づく。浮き上がった乳首を服の上から可愛がるのも、楽しそうだが、それを想像するのも実行するのも自分一人でいい。
 かっこよく可愛い力也を見せびらかしたいのもあるが、それよりもエロイ目を向けられ、欲望のはけ口のようにみられることが耐えきれない。
 
「そのうち治ると思うけど、結構痛むか?」
「気になるだけ」
「……どのぐらい痛いんだ?」

 聞いてきたのだから、それなりに痛いんだろうと思ったのに、返ってきた返事に、仕方なく言い方を変え尋ね直す。

「日焼けの後ぐらい?」
「痛いんじゃねぇか」

 わかりやすい例えが返ってきたことで、状況が分かる。熱も持っているのかもしれない。

「熱かったら少し冷やして、間違えてもいじんなよ」
「言われなくてもいじらねぇよ」

 拗ねたような答えを返され、悪戯心が湧く。少しからかってもいいだろう。

「本当か?保湿クリームつけてるときに、俺にいじられた事とか思い出して一人でいじっちゃうんじゃないのか?」
「冬真!」
「ちょっと塗ればいいだけなのに、たっぷりつけてるうちに気持ちよくなって、指で転がしたりすんじゃねぇの?」
「しないってば!」

 予想通り、詰め寄るように否定する様子に更に言葉で責めてみる。

「俺にいじられてると直ぐ気持ちよくなっちゃうのに?」
「それはそうだけど!」
「それとも実は俺に見せつけるつもりだったとか?」
「違う!」

 フーフーと威嚇するように、睨む力也の瞳は羞恥心に染まっていた。そろそろやめないと本当にその気になってしまいそうだ。

「冗談だって、落ち着けよ」
「冬真の所為だろ!」
「ごめん。でも、いじるのはダメだからな?」

 そうもう一度、くぎを差せば、まだこちらを不機嫌そうに睨みながらも頷いた。

「ピアス開けんだから、頼むから、大事にしろよ」
「わかった」

 下手に傷など残っていて、余計な痛みを与えた挙句化膿などさせてしまったら後悔してもしきれない。道具もしっかり用意し、手順もアフターケアもしっかりと覚えたのだから、何の問題もなくつけてあげたい。
 できれば見るたびに特別な幸せを感じられるように。


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