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第四十話【互いに許しを】後
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氷室に手渡された食料を手にマンションの部屋に入った二人は、とりあえずソファーに座ると渡された袋の中身を広げた。車の中では落ち込んでいた冬真だったが、部屋につくと立ち直ったのか、既にいつも通りだ。
「で、力也もう気持ち悪いの治ったんだろ?食べれそうか?」
「むしろ腹減ってきた」
冬真と一緒になり、途端に空腹を訴える腹に単純だと苦笑しつつそう答えた。
「よっし、いい傾向だ。じゃあ、食えるな」
「そうだね」
そういうと中身を一つずつ出していた冬真の手が止まった。
「どうかした?」
「すげぇいいもの見つけたから……そうだよな、こういう時にはこれだよな」
ニヤッと笑みを浮かべる冬真の様子に、なんのことだろうと手元を見ればそこには、蜂蜜の小さな瓶があった。
「なんなら、もっとあったほうがいいんだけどな」
「うちにもあるけど?」
「じゃあ、それも」
冬真は甘党じゃないし、今日の食事にそんなに蜂蜜を使う食べ物などないのにと不思議に感じながら力也はそれを取ってきた。
「よし、じゃあ力也あーん」
「いや、自分で食べれるから」
「俺が出す物以外食べたくないわけじゃなくて?」
「それはない」
そうきっぱりと返せば、冬真は残念そうにしながら差し出していたものを自分の口に運んだ。
「そこまではいってなかったか」
そのまま食べ続ける様子に、あきらめてくれたかと思いながら自分の分に手を付けた力也だったが思い出したように疑問を口にした。
「そう言えば冬真はこれについて知ってたんだよな。なんで一言言ってくれなかったんだよ」
こうなる可能性があると最初から知っていれば、あんなに悩むこともなかったのにと若干恨めしそうに聞くと冬真は居心地悪そうに頬を指でかいた。
「高ランクのDomが低ランクのSubにグレアを当て続けた場合になるって聞いてたから油断してて」
「そうなのか? じゃあなんで俺がなったんだろ?」
そう、二人はランクの差がなく、更に力也は冬真のグレアに抵抗力がある。本来はなるはずのない症状だった。
不思議そうに首を傾げた力也だったが、冬真の様子に心当たりがあるのだと気づいた。
「冬真~、心当たりあるんだろ」
「いや、お前がこの前サブスペ入った時、俺飯食わせてただろ?」
サブスペースに入っていた為、食べた記憶もないが食べされられていたことは知っていた為、頷くとバツが悪そうに冬真は続けた。
「その時俺、ずっとグレア当ててたから」
「……はぁ!? え、ずっと!?」
「ずっと、じゃねぇけど……結構長く?」
その自白に力也は頭を抱えたくなった。サブスペースに入ってしまえば相手のグレアに抵抗すこともできず一方的に受け取るだけになってしまう。そうなってしまえば、いくら力也であってもどうしようもない。
「俺がなかなか戻ってこなかったのってそれが原因じゃねぇの?」
「ないとは言い切れねぇけど……」
今度こそ力也は本当に頭を抱えた。いくらサブスペースが嬉しいからと言って、なぜそんなことをしたのかがわからない。
冬真からすれば、愛しくて、愛しくて抑えきれず、愛情を込めたグレアを当てていたにすぎない。確かに調子に乗っていたことは認めるが。
「悪かった。こんな副作用出るなんて思ってなくて……」
呆れた様子の力也に、向き合うと冬真は頭を下げた。甘やかすつもりだったのに、結局貶めるようなPlayになり、しかも後々苦しめてしまったとなればもう謝罪しかできない。
「……結構大変だったし、すごく不安だった」
ため息をつくと頭を下げたままの冬真に、力也は文句を言うかのようにそう言い、一息ついた。
「……冬真のグレアまで受け付けなかったらって考えたら、怖かったし辛かった。だから、今度から気を付けること」
そう言って笑った力也に抱き着くように抱きしめた。もっと怒ってもいいのにと思うのに、仕方ないと笑って許す力也が愛おしい。
「お詫びに今日はたっぷり甘くするから」
「え? お仕置きじゃなく?」
スリスリと頭をこすり付けながら言えば、力也が驚いたような声と共に聞き返した。
「お仕置き? なんか力也悪いことしたっけ?」
「え……もう忘れた?」
戸惑う力也の様子に、なにか起こらなきゃならない要素があっただろうかとしばし考え、思い出し抱きしめていた体を離した。
「そうだ! お前な、いくらいつもは大丈夫だって言っても、体調によってってことがあるんだから気を付けないとダメだろ」
「うん、ごめんなさい」
「それに、調子悪いなら俺や氷室さんに言えよ。俺は大したことできねぇから後回しでもいいけど、氷室さんには言え。マネージャーなんだろ?」
「今度からしっかり言います」
飼い主に怒られる犬のようにしょぼんとした力也に、そこまで怒ると冬真は言葉を止めた。
「あと他にもあったっけ?」
気が抜けるとはこのことだろう。間が抜けた質問に、力也がなんとも言えない表情になった。
「……弥生君のこととか、冬真が見たくないのを見せちゃったこととか……この前、せっかく来てくれたのに俺が帰ってこなかったこととか……」
言っているうちにどんどん申し訳なさと悲しさが混じり、小さな声になっていく力也の言葉に冬真は頷いた。
「あー、それもだな。弥生を目覚めさせちゃったのはまずかったよな。本当なら検査でわかるまで眠らせときたかったし、煽らないように気をつけろよ。まあ、普段のお前ならそもそも対象にはならないはずなんだけどな」
弥生を目覚めさせてしまったのもSub性に寄りすぎていたがためだろう。隙ができていたから、付け込まれたのだ。DomはSubの隙をけして見落としたりしない。
隙を見つければ最後、ここぞとばかりにそこをいい意味でも悪い意味でも刺激してくる。
SubはDomにとって獲物なのだから。
「あと二つは、お前の所為じゃないだろ。俺も怒ってないし」
そう言うとしょぼくれている力也の顔を冬真は覗きこみ、鼻を指で摘まむと遊ぶように動かし離した。
「それとも全部お仕置きしなきゃダメか? 俺が甘くしたくても?」
顔色を窺うように、懇願を含むグレアを向けられ力也は言葉を失った。お仕置きされるだろうと思っていたから言ったのであって、冬真がしたくないなら強制することなどできない。
「冬真の好きにしていい」
「よかった」
なんて強引にやさしさを押し付けてくるのだろう。力也が断れない理由を見極め、上からではなく、下から手を差し伸べながらも冬真は自分の我を通した。
ポンポンと頭を軽く弾ませるように叩かれ、安心した表情へとなった力也に頷いた。
「よし、そうと決めたら早く食べて風呂だな」
「うん」
「俺が洗ってやるから」
「え?」
食事を再開しながら宣言した冬真の言葉に力也は思わず聞き返した。そんな力也に冬真は満面の笑みを浮かべた。
「体調悪いんだから、一人でするの大変だろ?」
労わるようなことを言いながら、そのワクワクと楽しそうな色を隠しもしない冬真に力也は目を見開いた。
「……冬真って確か役者だよね?」
「なにを今更」
「まったく演技できてないけど!? 下心丸見えってか演技力どこ行ったんだよ!?」
遠慮なく突っ込んだ力也の言葉に、“手加減するから”とまったく信用できない笑顔で冬真は続けたのだった。
そもそも、不調なのだからPlayは軽めにして、睡眠時間をしっかりとるべきなのだが、今の二人の頭にはそんなこと思いつかなかった。
今の二人にとって今は蜜月のようなもので、何日でもずっと一緒にいたいと思える時期だった。ましてや、この前など機会があったにもかかわらず会えなかったのだ。
更に寂しさはつのっている。
互いにそんな感じで、なんの建前も演技も意味をなさない。
好きにやればいい、互いに己の本能のまま、心のままに。想いをぶつけ合うだけだ。
「で、力也もう気持ち悪いの治ったんだろ?食べれそうか?」
「むしろ腹減ってきた」
冬真と一緒になり、途端に空腹を訴える腹に単純だと苦笑しつつそう答えた。
「よっし、いい傾向だ。じゃあ、食えるな」
「そうだね」
そういうと中身を一つずつ出していた冬真の手が止まった。
「どうかした?」
「すげぇいいもの見つけたから……そうだよな、こういう時にはこれだよな」
ニヤッと笑みを浮かべる冬真の様子に、なんのことだろうと手元を見ればそこには、蜂蜜の小さな瓶があった。
「なんなら、もっとあったほうがいいんだけどな」
「うちにもあるけど?」
「じゃあ、それも」
冬真は甘党じゃないし、今日の食事にそんなに蜂蜜を使う食べ物などないのにと不思議に感じながら力也はそれを取ってきた。
「よし、じゃあ力也あーん」
「いや、自分で食べれるから」
「俺が出す物以外食べたくないわけじゃなくて?」
「それはない」
そうきっぱりと返せば、冬真は残念そうにしながら差し出していたものを自分の口に運んだ。
「そこまではいってなかったか」
そのまま食べ続ける様子に、あきらめてくれたかと思いながら自分の分に手を付けた力也だったが思い出したように疑問を口にした。
「そう言えば冬真はこれについて知ってたんだよな。なんで一言言ってくれなかったんだよ」
こうなる可能性があると最初から知っていれば、あんなに悩むこともなかったのにと若干恨めしそうに聞くと冬真は居心地悪そうに頬を指でかいた。
「高ランクのDomが低ランクのSubにグレアを当て続けた場合になるって聞いてたから油断してて」
「そうなのか? じゃあなんで俺がなったんだろ?」
そう、二人はランクの差がなく、更に力也は冬真のグレアに抵抗力がある。本来はなるはずのない症状だった。
不思議そうに首を傾げた力也だったが、冬真の様子に心当たりがあるのだと気づいた。
「冬真~、心当たりあるんだろ」
「いや、お前がこの前サブスペ入った時、俺飯食わせてただろ?」
サブスペースに入っていた為、食べた記憶もないが食べされられていたことは知っていた為、頷くとバツが悪そうに冬真は続けた。
「その時俺、ずっとグレア当ててたから」
「……はぁ!? え、ずっと!?」
「ずっと、じゃねぇけど……結構長く?」
その自白に力也は頭を抱えたくなった。サブスペースに入ってしまえば相手のグレアに抵抗すこともできず一方的に受け取るだけになってしまう。そうなってしまえば、いくら力也であってもどうしようもない。
「俺がなかなか戻ってこなかったのってそれが原因じゃねぇの?」
「ないとは言い切れねぇけど……」
今度こそ力也は本当に頭を抱えた。いくらサブスペースが嬉しいからと言って、なぜそんなことをしたのかがわからない。
冬真からすれば、愛しくて、愛しくて抑えきれず、愛情を込めたグレアを当てていたにすぎない。確かに調子に乗っていたことは認めるが。
「悪かった。こんな副作用出るなんて思ってなくて……」
呆れた様子の力也に、向き合うと冬真は頭を下げた。甘やかすつもりだったのに、結局貶めるようなPlayになり、しかも後々苦しめてしまったとなればもう謝罪しかできない。
「……結構大変だったし、すごく不安だった」
ため息をつくと頭を下げたままの冬真に、力也は文句を言うかのようにそう言い、一息ついた。
「……冬真のグレアまで受け付けなかったらって考えたら、怖かったし辛かった。だから、今度から気を付けること」
そう言って笑った力也に抱き着くように抱きしめた。もっと怒ってもいいのにと思うのに、仕方ないと笑って許す力也が愛おしい。
「お詫びに今日はたっぷり甘くするから」
「え? お仕置きじゃなく?」
スリスリと頭をこすり付けながら言えば、力也が驚いたような声と共に聞き返した。
「お仕置き? なんか力也悪いことしたっけ?」
「え……もう忘れた?」
戸惑う力也の様子に、なにか起こらなきゃならない要素があっただろうかとしばし考え、思い出し抱きしめていた体を離した。
「そうだ! お前な、いくらいつもは大丈夫だって言っても、体調によってってことがあるんだから気を付けないとダメだろ」
「うん、ごめんなさい」
「それに、調子悪いなら俺や氷室さんに言えよ。俺は大したことできねぇから後回しでもいいけど、氷室さんには言え。マネージャーなんだろ?」
「今度からしっかり言います」
飼い主に怒られる犬のようにしょぼんとした力也に、そこまで怒ると冬真は言葉を止めた。
「あと他にもあったっけ?」
気が抜けるとはこのことだろう。間が抜けた質問に、力也がなんとも言えない表情になった。
「……弥生君のこととか、冬真が見たくないのを見せちゃったこととか……この前、せっかく来てくれたのに俺が帰ってこなかったこととか……」
言っているうちにどんどん申し訳なさと悲しさが混じり、小さな声になっていく力也の言葉に冬真は頷いた。
「あー、それもだな。弥生を目覚めさせちゃったのはまずかったよな。本当なら検査でわかるまで眠らせときたかったし、煽らないように気をつけろよ。まあ、普段のお前ならそもそも対象にはならないはずなんだけどな」
弥生を目覚めさせてしまったのもSub性に寄りすぎていたがためだろう。隙ができていたから、付け込まれたのだ。DomはSubの隙をけして見落としたりしない。
隙を見つければ最後、ここぞとばかりにそこをいい意味でも悪い意味でも刺激してくる。
SubはDomにとって獲物なのだから。
「あと二つは、お前の所為じゃないだろ。俺も怒ってないし」
そう言うとしょぼくれている力也の顔を冬真は覗きこみ、鼻を指で摘まむと遊ぶように動かし離した。
「それとも全部お仕置きしなきゃダメか? 俺が甘くしたくても?」
顔色を窺うように、懇願を含むグレアを向けられ力也は言葉を失った。お仕置きされるだろうと思っていたから言ったのであって、冬真がしたくないなら強制することなどできない。
「冬真の好きにしていい」
「よかった」
なんて強引にやさしさを押し付けてくるのだろう。力也が断れない理由を見極め、上からではなく、下から手を差し伸べながらも冬真は自分の我を通した。
ポンポンと頭を軽く弾ませるように叩かれ、安心した表情へとなった力也に頷いた。
「よし、そうと決めたら早く食べて風呂だな」
「うん」
「俺が洗ってやるから」
「え?」
食事を再開しながら宣言した冬真の言葉に力也は思わず聞き返した。そんな力也に冬真は満面の笑みを浮かべた。
「体調悪いんだから、一人でするの大変だろ?」
労わるようなことを言いながら、そのワクワクと楽しそうな色を隠しもしない冬真に力也は目を見開いた。
「……冬真って確か役者だよね?」
「なにを今更」
「まったく演技できてないけど!? 下心丸見えってか演技力どこ行ったんだよ!?」
遠慮なく突っ込んだ力也の言葉に、“手加減するから”とまったく信用できない笑顔で冬真は続けたのだった。
そもそも、不調なのだからPlayは軽めにして、睡眠時間をしっかりとるべきなのだが、今の二人の頭にはそんなこと思いつかなかった。
今の二人にとって今は蜜月のようなもので、何日でもずっと一緒にいたいと思える時期だった。ましてや、この前など機会があったにもかかわらず会えなかったのだ。
更に寂しさはつのっている。
互いにそんな感じで、なんの建前も演技も意味をなさない。
好きにやればいい、互いに己の本能のまま、心のままに。想いをぶつけ合うだけだ。
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