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第三十話【パートナー講習会】前

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一日中、緊縛をされ沢山のDomたちと会ってから数日後、冬真と力也はあるホテルに来ていた。そこは一般的に名前は知られているものの、泊ることは困難な所謂高級ホテルだった。一泊だけでも、マンションの一か月分の家賃になる部屋ばかりのこのホテルは駅からも近く一等地に立っている。
 むろん、二人の金銭感覚ではこのホテルに泊まるなど不可能で、撮影に使われる時と打ち上げパーティぐらいしか入ることはないだろうと思っていたホテルだった。
 なにを隠そう、前回【怪盗と探偵と忍者】の打ち上げパーティが開かれ、力也が冬真に写真を送ったのもこのホテルだ。

「あーあ、俺もあの時来たかったな」
「残念だったな」
「次回もここかな?」
「多分、そうじゃない?」
「ならいいか。今日もなんか食べ物ぐらいでるといいんだけど…」
「さすがに無理だろ」

 そういいながら、二人が確認しているスマホの画面には【ダイナミクスパートナー講習集会】の文字があった。今日このホテルの会議室でダイナミクス持ち用のパートナー講習会が開かれるのだ。
 神月監督に受けることを勧められた講習会に、今から二人で参加するところだ。

「ってかDom学科の元生徒会長が講師とか、すごそうなんだけど…」
「あーまあ、すごいのは否定しねぇけど」

 神月監督に言われ、いつ開かれるのか調べたところ丁度二人の休みが重なる日に講習会があったのはいいが、その講師が冬真が学生だった時に生徒会長をしていた先輩だった。
 講師が【王華学校】の関係者なのは、わかっていたけど予想外に近い人物で冬真は少し嫌そうな顔をしている。

「そんなにいや?」
「そこまでじゃねぇんだけど…。実際Domの生徒だった俺の顔なんか覚えてないと思うし…」
「…Subなら覚えてるってこと?」

 かく言う、冬真も顔をはっきり覚えているわけではなく、印象とグレアをおぼえているだけだ。

「もちろん。ってか俺も学校のSubの生徒全員覚えてるし、多分今でもわかるし」
「いや断言されても…」
「言っとくけど、特別とかじゃなくて、人数も少なかったし、癒しだったってことで…」
「あーなんか前にも言ってたよな」

 ヤキモチを焼いたりなどしない力也からすれば、慌ててフォローを入れられてもそれに気づくことがない。そもそも、力也は多頭飼い、所謂Dom一人に複数のSubでも気にしない。むろん、距離を置かれてしまえば寂しくは感じるだろうが、そこはDomの自由だと思っている。

「そーいうとこ、クールっていうか…。まあ、お前が気にしないならいいけど…」

 独占欲が愛情と比例するDomからすれば信じられないことだが、それをDomとSubの違いとして認識している冬真からすれば咎める気にもならず軽くため息をついた。

 地下にある講習会場に向かおうと、エレベーターに乗り込んだ二人は中にいた人物に驚いた。同じように驚いた顔をしていた人物は、愛波と伊澄だった。

「愛波!?」
「力也さん、とーまさんまで?」
「なんでここにいるんだ?」
「あの…その…神月監督に言われて…」
「パートナー講習会を受けに行くところです」

 オロオロしながら、説明しようとした愛波のセリフを切るようにそういった伊澄に冬真はやっと目線を向けた。

「で、お前も一緒ってわけか。ってか久しぶりじゃん。監督にくんなって言われたって聞いたけど?」
「その説はご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 あのゴタゴタの後、改めて謝罪に訪れた伊澄だったがその場で監督二人に当分の間出入り禁止だと言い渡された。愛波は問題ないが、現場に連れてくるなら伊澄以外のマネージャーにするようにと言われ、事務所側もそれを承諾した。
 その為、久しぶりに会ったことになるのだが、冬真は明らかに敵意をもっているかのような口調で応じた。

「冬真」
「とーまさん、本当にすみませんでした!」

 深く頭を下げた伊澄にまだ腹を据えかねている様子の冬真をなだめようとした力也が声をかけたが、その次の瞬間愛波がそう深く頭を下げて謝った。

「…お前まだマミに謝らせてんのかよ。全然わかってねぇじゃねぇか」
「冬真!」

 怒気を荒げた冬真が伊澄へと向き直った瞬間、二人の間へと力也が割って入った。前回の二の舞にならないようにグレアは出していない冬真を落ち着けようと声をかける。

「落ち着いて冬真!」
「ご、ごめんなさ…」
「愛波、黙ってください!」
「ヒッ!」
「てめぇ!」

 謝罪を止めようと声を荒げた伊澄に、愛波の体がビクッと震えガタガタとし始めた。
あの抑圧を愛波はいまだ引きずっていた。あれから日にちがたち大分落ち着いてきたが、もともとの性格もあり、ちょっとしたことでおびえるのは治ってはいなかった。

「冬真、Stop!」【止まって!】

 思わずあげたそのコマンドのような言葉に、冬真は止まった。その瞬間、エレベーターが止まり、背中を押すように力也は冬真をエレベーターの外へと出した。

「愛波のエスコートは任せます」
「わかりました。…愛波、行きましょう」
「はい」

 ビクビクとしながらも、伊澄に促されエレベーターを降りた愛波は不安そうにあたりを見回している。力也は、見つけた受付に冬真を押し出すと受付を任せた。

「愛波、ちょっとこっちへ来て」
「え?」
「伊澄さん、愛波借ります」

そういうと後ろへと並んでいた愛波の手を握り、戸惑う愛波を冬真と伊澄から引き離し、声を潜めた。

「ごめんな。冬真、まだ怒ってるみたいで…」
「い、いえ…そもそも僕が…」
「あ、でもそれは違うから。冬真が怒ってるのは伊澄さんに対してだから愛波は謝んなくていいんだよ」
「で、でも…」
「謝りたくなるのはわかるけど…。むしろ、この状況だと逆効果になっちゃうから」
「逆効果…」
「うん、難しいよな。だからゆっくりでいいから、とりあえず深呼吸する癖付けてこう。焦んなくていいからな?」
「ありがとうございます」

 その言葉に、安心したのか笑顔へと変えた愛波の様子にうなずいていると、冬真が力也のことを呼んだ。

「力也いくぞ」
「まって、相談があるんだけど」

 そういうと、愛波を伊澄の傍へと戻し今度は冬真のほうへと走り寄り声を潜めた。

「愛波がまだ不安定だから傍にいてもいいかな?」
「傍にってどうすんだ?」
「俺と愛波で並ぶから冬真と伊澄さんはその両隣ってことで」
「わかった」

 冬真の了承を得た力也は、二人で受付を済ませたばかりの伊澄と愛波の傍へといった。

 エレベーターのなかでひと悶着したものの、四人は気分を入れ替え席についた。先ほど言ったように冬真、力也、愛波、伊澄の順番で座ると力也はあたりを見回した。
 少しずつ距離を置かれ、男女入り交り何組のも参加者がいる。ぱっと見でどちらがどちらかわかるパートナーたちもいれば、わかりにくいパートナーたちもいる。
 なかには一対一ではなく、一対二などになっているところもあった。

「ここにいる方々は皆さん、ダイナミクス持ちなんですよね?」
「ああ、愛波もすぐわかるだろ?」
「僕見ただけじゃあんまりよくわからなくて…」
「え、マミわからないのか?」

 二人の会話を聞いていてダイナミクス持ちなら必ず、どちらかわかるものだと思っていた冬真は驚いて聞き返した。

「は、はい…。少しみてるとわかるんですけど…」

急に声をかけられ、少しビクッとした愛波はそう答えた。

「あー、グレア出されないとわからないってのも聞いたことあるな。結衣もあんまわからないっていってた」
「結衣って力也の友達だろ?ランクの関係とかか?」

 確かに、結衣も愛波もSubとしてのランクが低めで強く出ることはおろか、前に立つことも自分の意思で動くことさえも苦手としている。
 それが関係しているのかと尋ねる冬真に、力也は少し考えながらも自分の考えを返した。

「うーん、それもあるかもしれないけどどっちかっていうと人付き合いが広いかどうかかな?DomにもSubにも色々なタイプがいるだろ?いろいろなタイプを見てないとはっきりとわからないってことかなって」
「それって危険じゃないのか?」
「まあね。結衣はわからないから余計緊張しちゃうって言ってた」
「そうだったんですね」

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