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第二十九話【【あなただけ】】中
しおりを挟む「あれ、使っていいよな?」
「使うって…」
「せっかくだから吊りしようかなと思って」
「あれ、そういう意図で使うものじゃないんだけど…」
「お前が暴れなきゃ大丈夫だって、耐久性もあると思うし」
「そうかもしれないけど…」
冬真の視線の先にあるのは、階段を取り外したことで目につきにくくなっていたロフトだった。ロフトの上には母さんの荷物が置かれているから、一応階段を外して隠してあったのに、いつ気づいたのか。
「ってかあそこ何があるんだ?」
「母さんの荷物だけど…いつ気づいたんだよ」
「初めてきたときから目つけてた」
今のところ誰にも気づかれていないと思っていたのに、俺の心情だけでなくこういうところまで見ている冬真は意外と目ざといのかもしれない。部屋をみていると全然そんな風には見えないけど…。
「実は梯子も見つけてるんだよな」
そういうと、冬真は上機嫌でソファーの後ろへと手を伸ばし、布で隠されていた梯子を取り出した。本当に、異様なほどに目ざとい。
それをひっかけ、登っていくと手すりの強度を確認し、ロープをひっかけ下へと下ろした。
「やる気満々だったのかよ」
「力也映えそうだし」
そうしておいてまた梯子を下りてきた冬真は、さてとという感じで改めて俺に向き合った。
「力也、セーフワードは?」
「…マイルド」
「よし、じゃあ。力也Strip」(脱げ)
途端に、支配力を帯びたグレアを発した冬真にゾクリと軽い鳥肌が立つ、服へ手をかけると豪快に脱ぎ捨てた。さっきも店でみていたはずなのに、俺の体をみた冬真はニヤッと満足そうな笑みを浮かべた。
続けて、ズボンへと手をかけ脱げば、俺の性器がすでに下着の中で窮屈そうにテントを張っているのがあらわになった。
「準備万端ってか、もう染みてんじゃん。これいつから?」
形が浮き出たそこを指先でなぞられる、たったそれだけでも体がビクッと震え、似合いもしない甘ったるい声が漏れる。
「んっ…わかんない。シャワーんときはまだ大丈夫だった」
「じゃあ、店でか。あんなに恥ずかしがってたのに、濡れちゃったとか、やらしいな」
そういうとピッタリとした下着を引っ張られる。ギリギリ飛び出さないぐらいの角度で引っ張られ、食い込んできたキツさが快感へと変わる。
「食事しながら何考えてたんだ?ここを触ってほしかった?それともこうしていじめてほしかった?力也、Say」【言え】
「ちがう…キスしてほしかっただけ…」
「じゃあ、キスでこんなになっちゃったのかよ」
改めて言われるとキスだけで気持ちよくなってしまったことを自覚してしまい、恥ずかしさがこみ上げ俺は視線をそらした。しかし、ご主人さまモードの冬真にそれが効くわけもなく、反らした顎がガシっと掴まれ前を向かされた。
「俺が聞いてんだろ?」
「…キスだけで、気持ちよくなってこんなになっちゃいました」
「Good Boy」【よくできました】
コマンドを使うこともなく、俺から望む答えを引き出した冬真は満足そうに笑い、ご褒美とでも言うように強引にキスをした。
舌を絡ませ、歯茎を舌先でなぞられて、体が震える。至近距離で見つめてくる瞳は支配欲と愛情を同時に含み、俺は目を 閉じることもかなわない。
“見ろ”とその瞳が言っていた。俺をなによりも大事に思っている自分をみろと、その瞳は言っていた。
その瞳だけで、体の力が抜ける。深いキスの息苦しさと、口内を探る感覚、喉を通る唾液、安心感と性欲とが入り混じる。
次第に幸福感へと変わり、ぼんやりと冬真の舌が好き勝手に動くのに任せていると、不意にもう片方の手が俺の下着をずり降ろした。
「んっ!!」
唇を離す瞬間、唇を噛まれ、体がビクッと震えた。そんな俺の反応にニヤリと悪い笑みを浮かべた冬真は下へと目線を移した。
「ほんとだ。でてる」
指さされ、視線を下へと移せば、すっかり立ち上がった俺の性器から先走りが滲み、それが先を伝い垂れていくところだった。
「力也と同じで素直でかわいい」
「俺かわいくねぇし、素直でもねぇと思うけど」
「俺がかわいくて素直だって言ってんだからそうなの。お前の魅力に気づけなかった節穴のDomなんかより俺の言うことを優先しろよ」
Play中に散々言われてきたことを否定されてもそう簡単に切り替えることはできない。それでも、今のご主人様に言われたのだからと思って、頭の中で繰り返してみる。
(ってか俺がかわいいとか素直とかじゃなく、冬真が変わってるんじゃ?好みのタイプがずれてるってだけで…)
「なんか、失礼なこと考えてるだろ」
好きな動物もなんか変わっていたし、見方も違う。物好きなのかもしれないと思っていたら冬真にジロッと睨まれた。
「バレた?」
「お前わりと顔にでんだよ。言っとくけど、俺だけじゃなくちゃんとお前を見てればみんな思うことだからな?」
念を押すように言われてしまうと、それ以上否定する気にもなれず、俺は頷いた。
「なんかまだ納得してない気がするけど、まあいいか。俺相手だから余計かわいくて素直だって思っておく」
「あー、それはあるかも。冬真、相手だとすごい気分が楽だから…」
「そーいうとこがかわいいって言ってんだよ。ったく…こうなったら思い知らせるしかないな」
そういった冬真はニヤッとDomらしい笑みを浮かべると、手を離し、支配力を帯びた強いグレアを発した。
「力也、手をだせ」
「はい」
両手を差し出せば、冬真は俺の手にいつかと同じ革の拘束具を付けた。前回やカフェのときとは違いしっかりと少しきつめに止めるとそれへ上から降ろしていたロープを繋ぎ、引き上げる。
簡単そうにみえて、意外と難しい吊りは俺も初体験だからちょっとワクワクとしていると、ロープに引っ張られ手が徐々にあがっていく。
「これ、持ってろ」
引っ張っていた片方のロープを渡され、自分で持つのかと思いながらもとりあえずしっかりとつかんでおく。力加えたら壊れそうだから気を付けないと、と思っていると冬真が俺の前へとかがんだ。
途中まで脱がされていた下着を引っ張り脱がしていく。
「次、片足上げろ」
「はーい」
今度は片足をロープで縛り、上へと上げていく。徐々に足は上がっていき、性器も後ろの穴も丸見えになっていく。
「お前、やわらかそうなんだよな…。いけるとこまで行くから痛いって思ったら言えよ?」
「俺、足頭の高さまでいくけど?」
「マジかよ。なら余裕だな」
その答えを聞いた冬真は一気に上まで引き上げた。Y字バランスといわれる体制まで引き上げると下ろすことができないようにしっかりと縛る。抵抗できなくなった俺の姿に満足そうな笑みを浮かべ、部屋の隅に置かれていた姿見を持ってきた。
「とりあえず、今日はこんな感じで。いかがですか?」
まるで、服屋の店員が服を進めるときみたいな言い方で、俺が自分の姿をしっかり見ることができる位置へと姿見を持ってきた。
「うっわ、丸見え」
鏡に映る俺は大きく足を上げ、立ち上がる性器からはテラテラと光る精液が流れ、薄い下の毛がべったりと張り付いている。後ろの穴はまるで誘うようにヒクヒクと収縮を繰り返していた。今日一日つけられたままのロープはまるで、体の一部のようになじんでいた。
冬真が抱擁だと言っていたロープに、縛られた俺の瞳は自分じゃないみたいに力の入っていない瞳で、欲にまみれて見えた。
自由を奪われ、身動きできない状態なのに、ただひたすら求め、誘っている。その姿は体中の感覚が現実だと訴えているのに、どこか現実のようには見えなかった。カシャ! 目も反らせずにいるとシャッター音が不意に聞こえ、視線を向ければ冬真がスマホをこちらに向けていた。
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