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第二十七話【束縛と抱擁】前

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今が大分涼しい季節でよかったと今日は心から思えた。見せて歩けと言われたならお仕置きだから、力也は多少寒くても我慢しただろう。
 だが、冬真は仕事のことを考え、見えないような服を指定してきた。いつも着ている服より厚い服だから、力也にとっては見えなくて助かるが、その代わりちょっと暑い。
 とは言え、服を着ていなくとも、その体はいつもより熱を帯び、熱かっただろうが。

「あの、修二さんちょっといいっすか?」
「どうした?」
「見てほしい物があって…」

 そういって、人目のつかないところへ修二を連れてきた力也は他に人がいないのを確認して上着をめくった。

「今日俺、こんな感じなんで」
「お仕置きか?」
「はい、そんな感じです」

 そういった力也のその体には、よく緊縛でつかう荒縄とは違う、色鮮やかなロープが張り巡らされていた。
 常識的に考えれば、仕事だというのにありえない状況だったが、ダイナミクスを持つものにとってそれほどのものではなく、修二も顔色を変えることはなかった。

「これ、ダイナミックロープか」
「俺の部屋それしかなくて…」

 縛るものはないかと聞かれ、力也が出してきたのは登山などで使うロープの一つダイナミックと呼ばれる主に体を支える命綱としての物だった。強度は十分なそれを冬真は受け取り、いくつかの結びめをつくり手際よく力也を縛り上げた。

「もし、仕事に影響するなら修二さんに取ってもらえって冬真が…」
「一応関節は外してあるな」

 修二はロープと肌の間へ指を差し込んだ。そうして、少し滑らせ隙間を確認する。さすがということしかできないほど、冬真の施した束縛の証は力也の自由を奪うことなく身体を締め付けている。痛くはないが、けしてその存在を忘れることはできない絶妙なものだった。

「力也、手上げてみろ」

 そういわれて、力也はその手をあげて軽く回した。腕は違和感はあるが、普段通り動く。

「足はどのぐらい動く?」

 足を高くあげ、足踏みしても、広めに開いても問題はない。試しに屈伸しても、耐えきれるほどの動きにくさだ。一通りの動きをみた修二は頷いた。

「よし、行けるな」
「はい」

 Subとしても、スタントマンとしても先輩の修二がそういうなら、問題なくいけるだろう。
 ちょっと、いや、かなり気になるけど…。それでも、演技に集中してしまえば大丈夫だろうとこの時は思えた。

 それが時間がたつほどに、存在感を増してくる。そもそも、力也にとって別にこれが初めての緊縛ではない。過去、相手をしてくれた中には縛るのが好きな人もいた。
 跡がつくぐらいキツク縛って、赤どころか紫になったこともあった。力也にとって緊縛は痛く、自由に動けない、長時間するには向かない物という印象だった。
 なのに、冬真のした緊縛は痛くなく、動きを阻害もしない。どうしたって擦れて傷がつくものなのに、擦れやすい場所は擦れすぎないようにぴったりと這わせ、それでいて血液の流れを阻止してはいなかった。
 【DPV】でみていたから、冬真が緊縛ができるとわかっていたが、こんなに素人と違うとは思ってなかった。
 冬真は縛る途中に緊縛は抱擁だと言っていた。その言葉通り、まるで冬真に抱きしめられているかのように力也は感じていた。
動いている最中はそれほどではないが、ひとたび立ち止まると、締め付けられている感覚が戻ってくる。
 
(知らなかった。緊縛にも性格ってでるんだ)

 新発見だったが、本当に“らしい”としか言えない拘束だった。力也の生き方を動きを阻害したいわけではないが、存在を忘れないでいてほしいと訴えてくるようなそれに、欲を含んだ熱だけでなく、暖かさを感じる。

(こんなの、他のできなくなる)

 これを知ってしまえば、他の緊縛などただ苦痛だと思ってしまうだろう。その場になればやられたくないとまで思ってしまうかもしれない。
 そういえば、冬真はきっと作戦通りと喜ぶだけだろう。責任をとれと迫っても、満面の笑顔を浮かべるだろう。力也はまんまと策略にハマっていた。冬真が望むがまま。

 その日の撮影が一通り終わり、力也はロケバスのシャワー室へ入った。体中が熱を持ち、すでに限界に近かった。胸の突起には縄があたり、はっきりとその姿がわかるほど立ち上がっていた。
 それはロープに触れてはいない、性器も同じで、立ち上がりドクドクと熱を持っているのを感じる。秘部には、結び目が触れ、少し動くとロープに引っ張られ中へと食い込む、その刺激は煽るだけでいっそ物足りない。

「ほんと冬真らしい」

 冬真は、今日の注意事項を伝えるときに言っていた。“自慰をしてもいいけど、回数はちゃんと報告するように”と、こういう時は禁止させるだろうと思っていただけに、好きにしていいといわれるのは意外だった。
 なのに、さらにそのあとに言われた。“けど、俺今夜楽しみにしてるから”ニコッと休日前の子供のように笑いながら言った言葉が頭に引っかかっている。
 本当なら、ここで一回抜いておきたい。仕事が終わったら迎えにくると言っていたから、もうここにつくはずだ。ああ言っていたんだから、ここで抜いても怒らないだろう。
 正直、この状態でバイクに乗って揺らされるのはキツイ。
 許可はでているのだからと、自らの性器に手を伸ばし、軽く触れるそれだけで、痺れるような快感が体を襲う。

「はぁっ…」

 ビクッと体が震え、達するまでは至らなかったが先端に先走りがあふれる。

(気持ちい…)

 こっちがこれでこれなら、後ろへと手を伸ばし結び目を押せば体が、快感に震えた。このまま、指でもなんでも突っ込み激しくかき混ぜたらどれほど気持ちがいいだろう。
 そう思った力也だったがさらにいじろうとしてその手を止め、軽く頭を振った。そしてその手を外し、その代わりにシャワーのハンドルを一気に冷水のほうへと倒した。
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