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第十一話【返済と見舞い】前

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撮影がひと段落して、力也は久しぶりの連休に入った。
力也とは逆にハードスケジュールに入った冬真は、きっともう起きているだろう。
昨日のPlayもそこまで激しいものではなかったし、多分今日の仕事に支障はないはずだ。そもそもあれぐらいのPlayで疲れていたら【DPV】のAV男優などできないはずだ。
そう思いつつ、昨日固定されていた手と足を確認する。

「痣なし」

 昨日の時点ではうっすらと赤い痕が残っていたが今は跡形もなく消えている。今日はできたらプールに行きたいと思っていただけに安心した。

「あ、こっちもか?」

 昨日会った事を思い出し足を椅子の上へと上げ、開いた状態で腿の内側を見る。

「こっちは残ってるか」

 リンパ線の近くにしっかりと残されたキスマークは薄れたものの、まだ消えてはいなかった。

「まあ、いいか」

 確かに残ってはいるが、どうせ日焼けもしているし気づく奴なんかいないだろう。
 もっと沢山なら、ハーフパンツスタイルの水着を選んだが、これぐらいなら問題ない。
 行儀悪く、片足を椅子の上に乗せたまま、朝食用にと買ってあったパンを食べながらエネルギーゼリーを飲む。
 冷蔵庫の中をみて思ったけど、今日の予定に買い物も追加した方がいい。
 昔一時期だけ、相手をしてくれたDomからは適当すぎると不評だったけど、自分で食べる分には関係ないからそれなりに役に立っている。

「えっと、米と野菜と肉と…」

 何を作るかなど考えず、業務用スーパーで安い物を仕入れようと適当にスマホにメモる。
 そうしておいて、いつも通りの服装に着替え、スポーツジムで使う物をリュックに詰めてアパートをでた。
今日の予定の中で一番大事な用事をとりあえず先に済ませてしまおうと、軽い準備運動がてらジョギングで銀行までいく。
 振り込まれたギャラを確認し、一部を残し残りを送金する。

「そろそろ終わりにしたいな」

 つぶやきながら銀行を出て、スマホを取り出し電話を掛ける。

「滝上です。今回の分、今送金しました」
「おお、ごくろうさん。後で確認させる」
「お願いしまーす」
「ああ、そっちはどうだ?少しは改善したか?」
「いや、相変わらずっすよ」
「そうか、まあ長期戦なのはわかっていたことだからな。じゃあ今後も、頑張れよ」
「はーい、頑張りまーす」

 荒っぽい音程ながら、落ち着いた声の相手に砕けた返事を返し通話を閉じた。
 親しいとは到底言えないが、長い付き合いになってしまっている相手だ。今更遠慮などない。
 定期連絡を入れてしまえば、後は連絡も来ない。それで正しいと分かっているが、いまだに少しだけ引っかかっている物はある。あの時、少しだけタイミングがずれていたら…もしかしたら、とそう思ってしまう。

「仕方ないよな」

 もうすんだことで、考えてもどうしようもないことだ。気持ちを切り替え、ジョギングを再開し目的のプールがあるトレーニングジムへと向かう。

「あ、修二さん!」

 水着に着替え、プールに向かえば見知った後ろ姿を見つけた。

「おう、力也も来たのか」
「おはようございます」

 スタントマンとしてもスタントブルとしても先輩の修二は、【怪盗と探偵と忍者】の怪盗役の翔壱の弟にあたる。

「はよっ」

 丁度準備運動をしていた修二の後ろに座り、柔軟を手伝う。

「そういや、聞いたぞ。お前あの冬真って奴狙ってんだろ?」
「あー、将人さんと孝仁さんどっちです?」
「両方」
「あの二人は…」
「口止めしとかないお前が悪い」

 確かに口止めしなかったかもしれないけど、態々言わなくてもと思ってしまう。

「大丈夫、翔壱には黙っとくから」
「できますか?」
「ああ」

 絶対秘密にしなくてはならないと言うほど、理解力のないメンバーではないが、どこで影響がでるかわからない。それに少々事情もある。

「にしても、しばらく会えないだろ?大丈夫か?」
「それ本人にも聞かれました。大丈夫じゃないように見えます?」
「見えねぇから聞いてんだ」
「ハハハッ」

 本気で気にしている様子に、心配性だなと笑い返す。心配する必要なんかなにもないのに。

「よし、交代」
「はーい、お願いします」

 抑えていた修二の背中から手を離し、代わりにその場に座り柔軟を始める。

「お前身体柔らかいよな」
「そうっすか?」
「これなら色々できんじゃねぇ?」
「修二さんおっさんみたい」
「元からおっさんだって」
「修二さんはまだ若いっすよ」

 この業界に入ってからずっと面倒を見てもらっていただけあり、話しやすい。それに、修二は力也と同じSubとして尊敬できる人だと思っている。

「俺としてはもうさっさと爺さんになりたいんだけどな」
「ダメですよ。待たなきゃ」
「わかってる」

 何度も聞いてきたセリフだ。力也はどう返事を返すべきかわかっていた。
 柔軟を終えれば後は互いに好きに、トレーニングを開始する。

「俺はその辺で泳いでるけど…」
「俺は飛び込みしてくるんで」
「お前好きだな」
「ここじゃないとできないっすから」

 そう言って力也が向かったのは、このスポーツジムの売りでもある本格的な高飛び込みの練習ができるプールだった。競技用で使えるほどの深さと高さを兼ね備えたそこは普通の人では入ることができない場所でほとんどが高飛び込みの選手や元選手だ。見知った顔の人々と軽い挨拶を交わすと、階段を昇る。
 マンションの四階にも匹敵する10mの高さの飛び込み台の上に立ち、まずは前向きに一回飛び込む。空中で膝を抱え回転し、バシャッと軽い音を立てプールの中へ。

(やっぱ気持ちいい)

 のんびりプールに浮かび、高さをみたいところだけどそんなことしていたら次の人の邪魔になってしまう。すぐに上がり、また階段を昇る。
 今度は、高飛び込みの先端の方まで歩いていきその場で両手をついた。逆立ちをして、そのまま足を後ろへと倒す。一回転、二回転、そうして両手をそろえプールへと飛び込んだ。
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