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第六話【諦め】中
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今日の現場は崖の上だった。忍者役の孝仁さんが追い詰められて、崖から飛び降りる重要なシーンだ。
「力也君、大丈夫?」
「はい」
高所恐怖症の孝仁さんは崖に一歩も近づきたくないというように、少し離れたところから声をかけてくる。
「孝仁さんこそ、ここ立てるんすか」
「背中むけてればなんとか」
そういうわりには寄ってこないから、風が気持ちいい崖の上から仕方なく傍へ行く
「最終確認します?」
「うん、じゃあ僕があそこに追い詰められて」
「そこで俺が“もう逃げ場はない!正体を現せ!”っていうから」
「僕は“そう見えるよね。でも…逃げ場ならあるんだよ!”って言ってさらに崖に近づく。そこで力也君と交代ね」
「はい、孝仁さんの位置から崖に向かって走って飛び込めばいいんすよね」
探偵役の将人さんも交えて三人で、最終的な打ち合わせをする。
監督からは直々に、思い切りいってほしいとか、姿勢は綺麗にとか注文を受けているから見せ方もこだわった方がいいだろう。
「で、俺が飛び込む瞬間手を伸ばすからそれを振り切って」
「え、そんなの台本にあったけ」
「さっき監督にできたらやってほしいって言われて」
「それって俺と孝仁さんの時どっちっすか?」
「孝仁から力也に変わる時」
「そこか」
「了解です」
うまくカメラに顔が映らないようにしなくちゃと三人で、その場で一通りの流れをやってみる。二人とも慣れたもので急な演技変更にもなんなく合わせてくる。
「俺たちはいいとして、問題は力也だよな」
「足引きずらないようにします」
「そうじゃなくて」
「崖から落ちるなんて怖いでしょ!一発でOKにしなくちゃ!」
「見せ方とか俺たちに合わせるとか考えなくていいから、安全に落ちることだけ考えて」
ワイヤーもあるし下は岩場でもないから心配はいらないけど、心配してくれるのは純粋にうれしい。
「ありがとうございます。頑張ります」
「さすが力也君頼りになる!」
「イケメン!」
冗談半分にもてはやされ、苦笑で返す。二人とはほかの現場でも一緒になったことがあるから、こういうやり取りにも慣れた物だ。
「にしても、このクール力也君に頼りすぎじゃない?」
「頼ってんのは孝仁だろ」
「だって、アクションシーン確実に増えてるよね」
「確かにそれはあるよな」
「力也君がなんでもOK出すから」
「すみません」
「力也君が悪いわけじゃなくて」
「Subだから期待されるとやる気出すのは知ってるけど、無理なら言えよ」
「大丈夫です。ギリギリとか好きなんで」
「「それがわかんないんだよ」」
同時に言われ、苦笑を返す。絶叫系が嫌いな人には一生分からない感覚だという自覚はある。無茶ぶりをされた時のドキドキ感、それをしているときの高揚、終わってからねぎらわれるときの満足感、それらが好きだ。Subだからと思われているけど、これがSubとしての本能かどうかは自信がない。
こういう気持ちは他人と比べられる物でもない。
「撮影始めます」
「はーい」
「はい」
「今行きます」
その時、スタッフに声をかけられそちらに向かう二人の後に俺も続いた。
NGなしで撮影を終え、達成感ともに帰り支度をしていると孝仁さんと将人さんが二人してこちらに来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ!ねぇ、力也君この後暇?」
「今からコイツと食べに行くんだけど、一緒にいかねぇ?」
「力也君がいてくれたほうが楽しいし」
この2人とは歳が近く、演技中の距離も近いからこういうこともよくある。他にも怪盗役の方や他のスタントマンも参加したりもするけど、今日はいないから三人だけみたいだ。
「はい、喜んで」
「やった!じゃあ、行こう行こう!」
ガシっと腕を掴まれ、ぐいぐいと将人さんのマネージャーさんの車へと押し込まれた。
顔なじみのマネージャーさんは心得ているかのように行きつけのお店まで運んでくれた。
「こんばんは、席空いてる?」
少し変装した将人さんがそう尋ねると店員がざわめき始めた。
行きつけの店だからそんなに驚かれることもないのにと不思議そうにしていると、店長さんが出てきた。
「いらっしゃいませ、ようこそ。すみません、空いているには空いているのですが…角部屋はいまご利用になられているお客さまがいらっしゃいまして…」
馴染みの店長さんはいつになく、戸惑ったような申し訳なさそうな声をしていた。
「珍しいな。どうする?」
「角部屋無理ならその隣でもいいよ」
「ということだ。隣は空いてるか?」
「空いておりますが…、その角部屋をご利用になられているお客様がダイナミクスPlay中のようで…」
「「「あー!」」」
困り切った様子の店長さんの言いたいことがやっとわかり、思わず三人で声をあげてしまう。
「隣どおしだと壁の隙間から見えてしまうことも…」
そういうのを目にするのを好まない人々もいるし、芸能人だということで気遣ってくれたらしい。
「俺はいいけど、お前ら大丈夫か?」
「僕も大丈夫だけど、力也君が」
「2人が大丈夫なら、俺も大丈夫っすよ」
「ホント?僕たちに気を遣わなくてもいいよ」
「俺の鈍感力知ってるしょ。問題ないっすよ」
「力也君、いざとなれば僕が守るからね!」
「力也が無理な相手にお前勝てんの?」
「逃がすぐらいなら多分…」
「ありがとうございます。二人とも、大丈夫だから」
俺がSubだと知っている二人は隣の席から聞こえるだろうコマンドとグレアに俺が巻き込まれることを心配してくれた。
やさしい二人に笑い返し、部屋に案内してもらう。
「力也君、大丈夫?」
「はい」
高所恐怖症の孝仁さんは崖に一歩も近づきたくないというように、少し離れたところから声をかけてくる。
「孝仁さんこそ、ここ立てるんすか」
「背中むけてればなんとか」
そういうわりには寄ってこないから、風が気持ちいい崖の上から仕方なく傍へ行く
「最終確認します?」
「うん、じゃあ僕があそこに追い詰められて」
「そこで俺が“もう逃げ場はない!正体を現せ!”っていうから」
「僕は“そう見えるよね。でも…逃げ場ならあるんだよ!”って言ってさらに崖に近づく。そこで力也君と交代ね」
「はい、孝仁さんの位置から崖に向かって走って飛び込めばいいんすよね」
探偵役の将人さんも交えて三人で、最終的な打ち合わせをする。
監督からは直々に、思い切りいってほしいとか、姿勢は綺麗にとか注文を受けているから見せ方もこだわった方がいいだろう。
「で、俺が飛び込む瞬間手を伸ばすからそれを振り切って」
「え、そんなの台本にあったけ」
「さっき監督にできたらやってほしいって言われて」
「それって俺と孝仁さんの時どっちっすか?」
「孝仁から力也に変わる時」
「そこか」
「了解です」
うまくカメラに顔が映らないようにしなくちゃと三人で、その場で一通りの流れをやってみる。二人とも慣れたもので急な演技変更にもなんなく合わせてくる。
「俺たちはいいとして、問題は力也だよな」
「足引きずらないようにします」
「そうじゃなくて」
「崖から落ちるなんて怖いでしょ!一発でOKにしなくちゃ!」
「見せ方とか俺たちに合わせるとか考えなくていいから、安全に落ちることだけ考えて」
ワイヤーもあるし下は岩場でもないから心配はいらないけど、心配してくれるのは純粋にうれしい。
「ありがとうございます。頑張ります」
「さすが力也君頼りになる!」
「イケメン!」
冗談半分にもてはやされ、苦笑で返す。二人とはほかの現場でも一緒になったことがあるから、こういうやり取りにも慣れた物だ。
「にしても、このクール力也君に頼りすぎじゃない?」
「頼ってんのは孝仁だろ」
「だって、アクションシーン確実に増えてるよね」
「確かにそれはあるよな」
「力也君がなんでもOK出すから」
「すみません」
「力也君が悪いわけじゃなくて」
「Subだから期待されるとやる気出すのは知ってるけど、無理なら言えよ」
「大丈夫です。ギリギリとか好きなんで」
「「それがわかんないんだよ」」
同時に言われ、苦笑を返す。絶叫系が嫌いな人には一生分からない感覚だという自覚はある。無茶ぶりをされた時のドキドキ感、それをしているときの高揚、終わってからねぎらわれるときの満足感、それらが好きだ。Subだからと思われているけど、これがSubとしての本能かどうかは自信がない。
こういう気持ちは他人と比べられる物でもない。
「撮影始めます」
「はーい」
「はい」
「今行きます」
その時、スタッフに声をかけられそちらに向かう二人の後に俺も続いた。
NGなしで撮影を終え、達成感ともに帰り支度をしていると孝仁さんと将人さんが二人してこちらに来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ!ねぇ、力也君この後暇?」
「今からコイツと食べに行くんだけど、一緒にいかねぇ?」
「力也君がいてくれたほうが楽しいし」
この2人とは歳が近く、演技中の距離も近いからこういうこともよくある。他にも怪盗役の方や他のスタントマンも参加したりもするけど、今日はいないから三人だけみたいだ。
「はい、喜んで」
「やった!じゃあ、行こう行こう!」
ガシっと腕を掴まれ、ぐいぐいと将人さんのマネージャーさんの車へと押し込まれた。
顔なじみのマネージャーさんは心得ているかのように行きつけのお店まで運んでくれた。
「こんばんは、席空いてる?」
少し変装した将人さんがそう尋ねると店員がざわめき始めた。
行きつけの店だからそんなに驚かれることもないのにと不思議そうにしていると、店長さんが出てきた。
「いらっしゃいませ、ようこそ。すみません、空いているには空いているのですが…角部屋はいまご利用になられているお客さまがいらっしゃいまして…」
馴染みの店長さんはいつになく、戸惑ったような申し訳なさそうな声をしていた。
「珍しいな。どうする?」
「角部屋無理ならその隣でもいいよ」
「ということだ。隣は空いてるか?」
「空いておりますが…、その角部屋をご利用になられているお客様がダイナミクスPlay中のようで…」
「「「あー!」」」
困り切った様子の店長さんの言いたいことがやっとわかり、思わず三人で声をあげてしまう。
「隣どおしだと壁の隙間から見えてしまうことも…」
そういうのを目にするのを好まない人々もいるし、芸能人だということで気遣ってくれたらしい。
「俺はいいけど、お前ら大丈夫か?」
「僕も大丈夫だけど、力也君が」
「2人が大丈夫なら、俺も大丈夫っすよ」
「ホント?僕たちに気を遣わなくてもいいよ」
「俺の鈍感力知ってるしょ。問題ないっすよ」
「力也君、いざとなれば僕が守るからね!」
「力也が無理な相手にお前勝てんの?」
「逃がすぐらいなら多分…」
「ありがとうございます。二人とも、大丈夫だから」
俺がSubだと知っている二人は隣の席から聞こえるだろうコマンドとグレアに俺が巻き込まれることを心配してくれた。
やさしい二人に笑い返し、部屋に案内してもらう。
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