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プロローグ

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世の中には男と女、二つの性が存在する。
しかし、最近の研究によりその性の中にも更にダイナミックスという物が存在することがわかった。
DomとSubと呼ばれるそれは、支配欲と隷属欲という相反する本能を持つ。
どちらの性でもないUsual、そしてどちらにもなれるスイッチがいる。

この四つは一見見分けがつかないが、少なくとも俺はDomの人がなんとなくわかる。
何故かというと俺がSudだからだ。

「あ、これよさそうだ」

マンションの部屋で、パソコンを前に探すのはSub用のAVビデオ【DPV】だ。
AVビデオ屋なんてアナログなとこに行っても好みのものを見つけ出すのは至難の業で、題名だけで飛びつくと外れに当たることもわりとある。
それでなくとも、ビデオ屋でたまたまいたDomにコマンドを使われそうになったこともあった所為であまり気が進まない。

(いくら俺が、ハラハラするのが好きだからってああいうのはちょっと・・・)

Sudというと命令してくれれば誰でもいいんだろと勘違いされることもあるけど、こっちにだって好みってものがある。
好みのタイプじゃなきゃ、いくら強い力を持ったDomでも俺はお断りだ。
まあ、それはお互い様だろうとは思うけど・・・・。

『Kneel』【おすわり】

床にペタンと両膝をつけて座り、パソコンの画面を見上げる。
この体制になるとパソコンの画面が見えづらかったから、購入した新しいデスクは斜めになって見下ろされている感覚をよりリアルに体験できる。
画面の中では、Sub男優の子がDom男優の足を舐めている。

(ああ、うまそうだな)

自然にそう思い、口の中によだれが溢れる。
Sudによっても好みがあるらしい、目とか手とか、俺にとって重要なのは声だ。
コマンドを使われるんだ。なるべくなら耳通りのいい好みの声がいい。

『Crawl』【両手をつけ】

四つん這いになり、見上げた画面ではSud男優がDom男優に尻を向けている。
映像と同じ状態をとると画面は見えなくなるが、俺は自然と同じ体制になっていた。

低すぎず、高すぎず、それでいてはっきりしたその声は突き刺すように俺を支配する。
ビリビリと震える体は熱を持ち、息が荒くなっていく。
画面が見えない為、何をしているのかは見えないが生々しい音が辺りに響き渡る。
その音に促されるように俺も自らの秘部に手を伸ばし、中に指を差し込む。

『まだイクな』

荒々しい声がSudとしての本能を刺激する。

(ああ、気持ちがいい)

支配される快感に身を任せ、やがて訪れる許しと同時に俺も精を吐き出した。

「これ当たりだ」

そもそも、Sud向けDPVは普通のAVと仕様が違う。
普通のAVは攻める側の視点の物が多く、攻められる側の物はないに等しい。
コロコロ視点が変わる物もあるが、それでも行為の最中は大体攻める側だ。まあ普通なら、それでいいんだろう。
攻める側があんまりしゃべらなくても、顔も出なくても、攻められる側にカメラを向けてれば充分だ。
それがSud向けになると逆になる。
Sud向けは、攻める側が重要になってくる。
コマンドがあるから、声は重要だし、目線で拘束されるのが好きなら容姿も重要だろう。
わかりやすくいうとある程度、容姿声共に整った男優、しかもDomが望ましい。
そうなるとなかなか多くはない、自然と数も少なくなる。

「この男優さん、結構いいよな」

なんとなく選んだだけだったけど、よく見れば何度かお世話になったDom男優だった。
少し優男風だけど、切れのいい声は耳通りがよく、コマンドを受けるたびビリビリと来て気持ちがよかった。
名前はなんだったかと確認しようとして、パッケージを見ればそこにあったのは最後の作品という文字。

「マジかよ」

その文字を見た俺はその場にパタンと倒れた。

「せっかく好みの男優さんだったのに」

数少ないSud向けの中でも上位に入っていたはずのDom男優さんは、何故かこの作品を最後にやめてしまうらしい。

「パートナーできちゃったか」

恐らくSudのパートナーができたんだろう。
正式なパートナーができると大概この業界から足を洗う。
パートナーが嫌がるから、パートナーしか相手にしたくなくなった。
理由はそのどちらかだろうが、なんにせよ、もう新作をみることはないということだ。
 
「まあ、仕方ないよな」

こんな仕事をしていたんだ。Sud男優とくっついたのかもしれない。
例え、撮影だとわかっていても彼相手ならSudスペースに入ったのかもしれない。

「いいな…」

Sudとして目覚めてから15年持て余しているこの本能を満たしてくれるDomに、俺は会うことができるのだろうか?
会うことが出来ても、パートナーとして選ばれるかどうかは別だけど…。
それでも……。

「ご主人様が欲しい…」

支配されたい、隷属したい、縛られたい、囚われたい、何も考えられなくなるような快感を……たった一人の絶対の主人を得たい。

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